気の向くままに

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「潔き敗者」にはなれない

2016-10-21 14:31:02 | 日記

 米国史上初めてテレビ討論が行われた1960年の米大統領選は、大接戦となった。開票日の深夜になって、共和党のニクソン候補はようやく事実上の敗北宣言を行う。

 ▼ところが一夜明けると情勢は一変、民主党のケネディ候補との差はほんのわずかになっていた。しかもテキサス州などから不正投票の報告が届く。「票の数え直しを要求しよう」。党の幹部からの電話を受けた数分後に、ニクソン氏は決断を下し、正式に敗北を認めた。

 ▼数え直しに時間がかかれば、対外関係に破滅的な影響が出ることを恐れた、と回顧録で振り返っている。「グッドルーザー(潔(いさぎよ)い敗者)」として歴史に記録されたかった、とも。

 ▼共和党のドナルド・トランプ候補は、支持率で民主党のヒラリー・クリントン候補に、引き離されつつある。もっともトランプ氏の辞書に、グッドルーザーの一語はなさそうだ。「大規模な不正が起きつつある」。投票の3週間も前に、早くも選挙の正当性に疑問を突きつけている。「泣き言はやめろ」。あきれはてたオバマ大統領の批判も、どこ吹く風である。昨日行われた3回目のテレビ討論でも、その姿勢は変わらなかった。

 ▼トランプ氏の強みは、「コアな支持層」だという。どんな暴言を吐こうが、税金の未納が明らかになろうが、女性へのわいせつ行為の疑惑があろうが、トランプ氏を見放さない。もし、選挙本番で敗れたとしても、本人がその結果を認めなければ、支持者はあくまでついていく。

 ▼2000年の大統領選挙では、投票から5週間も候補者同士が法廷闘争を続ける、異例の事態となった。トランプ氏とその仲間たちが巻き起こす混乱は、16年前とは比較にならない深い傷痕を米国に残すだろう。

2016.10.21 産経抄