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中国の劣悪なネット環境 海外企業悩ます速度や検閲 上海支局長・河崎真澄

2016-10-09 15:57:20 | 日記

 9月に中国・杭州市で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会合のメディアセンターで、通常の中国国内のインターネット環境では厳しく遮断される動画投稿サイト「ユーチューブ」や交流サイト「フェイスブック」などが、外国人記者に限って自由にアクセスできるよう解除された。G20参加首脳や政府関係者の宿泊先でも、本人認証があれば規制サイトの閲覧ができた。

 G20での“おもてなし”とされた一時的な措置だが、実は伏線があった。米通商代表部(USTR)が今年3月に発表した「外国の貿易障壁に関する年次報告書」で、中国当局によるネット検閲強化で外国企業は深刻な障害を受けていると厳しく批判したからだ。これに対し中国当局は「情報セキュリティーを守ることが利用者の信頼性を高め、外国企業に公平な市場環境を作っている」などと強弁し、火種になっていた。

 G20の場でこの問題が再燃しないよう、ネット規制への批判もかわす狙いで、特定の相手だけに解除したものとみられる。もちろん、USTRが危惧した「外国企業が受ける深刻な障害」に何ら好転の兆しはない。

 世界で最も厳格な検閲システム「グレート・ファイアウオール」と呼ばれるチェック機能で、中国共産党政権の一党支配に異を唱えるサイトや、反政府活動の情報交換の場になりそうだと中国当局が判断した情報サービスは、ことごとく遮断する。中国の検閲方針に従わなかった米グーグルの検索サイトや、同社のGメールサービスも規制する恣意的な政策だ。対中進出した外国企業は、この規制との戦いがビジネス上で大きな足かせとなっている。

 ほかに、ネット環境を脅かす、見えにくい問題もある。

 東京都千代田区に本社を置くIT(情報技術)サービス大手、インターネットイニシアティブ(IIJ)の上海法人の山口貴司副社長は「中国国内のネット通信スピードの遅さ」を問題視する。山口氏によると、昨年のデータで1秒あたりのネット平均接続速度が日本は15メガビットで世界7位だったのに対し、中国は日本の4分の1以下の3・7メガビットで43位。検閲の影響で、送ったメールが相手に届かないケースも少なくないという。

 

 山口氏は、通信スピードの遅さの原因として(1)海底ケーブルの陸揚げ局と検閲(2)需要と供給の問題(3)通信会社の南北問題-を挙げる。

 日本や欧米など海外と通信回線を結ぶ海底ケーブルの陸揚げ局は、広大な中国本土の中でも山東省青島市と上海市郊外の崇明島、広東省スワトー市のわずか3カ所。香港経由など陸路で結ぶ回線もあるが、いずれも海外とのネット通信が常に集中し、速度が低下する最大の原因となる。検閲のため余分なルートを経由することもネックだろう。

 ネット通信環境に抜本的な改善がみられない上、需要と供給の落差が一段と深刻化している。中国のネット利用者は携帯電話経由も含め、昨年の段階で6億8800万人に達した。10年間で実に6・2倍もネット人口が増えたが、回線の供給が追いつかないのが実情だ。それに加え、国有通信大手で北京を中心とする「中国聯通」と上海を中心とする「中国電信」の2社の“縄張り”が中国本土の回線をほぼ南北で二分する構図となり、両社をまたぐ通信がスムーズにはいかない。 

 ネット環境の良否は企業活動を大きく左右する。名目の国内総生産(GDP)で世界第2位を誇る中国で通信速度がかくも遅いことは、ビジネス環境の国際化や今後の経済成長で致命傷ともなる。山口氏は「中国において(自動車の設計図など)大量のファイルの海外とのやりとりに支障が出たり、アクセスできない海外のサイトにしかない最新情報が得られず、他国との技術競争で後れをとったりする点」を懸念する。

 今年1月に施行された「反テロ法」ではIT業者に対し、データ通信の暗号情報をすべて公安当局と国家安全当局に報告するよう義務づけた。金融機関が本社と支店間でやりとりする機密性の高い取引情報もすべて、当局側に筒抜けだ。このほかにも、中国が発信源と特定されているサイバー攻撃の数々、ウイルス感染の被害、中国企業が管理していた千万単位の顧客情報の漏洩問題など、リスクは枚挙にいとまながい。

 昨年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で、李克強首相は産業の高度化を目指す「『インターネットプラス』行動計画」を打ち出したが、ベースとなるネット通信環境はかくも劣悪。外国企業は頭を抱えるばかりだ。

2016.10.9 日経 【日曜経済講座】

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