ダマスクローズに大きく関わっている薔薇を3つ取り上げ、それらの祖先とR. x damascena の関係を分子レベルで調べた、以下の『』内の内容は5/14ですでに述べた事柄ですがこれから始まる解説の序章として再び取り上げておきます。
『ダマスク品種をランダムに増幅した多型DNA分析(RAPD法;PCR 法と電気泳動法を組み合わせた遺伝子分析法。)の結果、それらが共通の祖先をもつことを示す同一のプロファイルを持っていることを証明しました。( 扱ったサンプルは有性生殖の可能性はなく、その繁殖は完全に栄養繁殖に依存していました)。
fedtschenkoana, R. gallica, R. moschata の3つの薔薇がダマスクローズの形成に関与した親種と確認しました。また、psbA-trnHスペーサーシーケンスから判断して、最も古い4つのダマスク品種すべてが、R. moschata のみに由来する葉緑体を持っていることもわかりました。三つの親の特徴は、4つの最古のダマスク品種のいくつかの形態学的特徴である、ローズヒップの形状、葉の色、苔の特徴、花のがく片の苔状の成長などの形態学的特徴を説明しています。』
fedtschenkoana, R. gallica, R. moschata の3つの薔薇に加え、R. x damascena の生息範囲を地図上にプロットすることにより4者の関係を探っていこうと思います。
その前に薔薇の花の各部位の名称を頭の中に入れておかねばなりません。お付き合い下さい。 Narcea—an unknown, ancient cultivated rose variety from northern Spain から
A; (a,b) 小葉(folioles)、 (c) 耳葉, (d) 小花柄(pedicel又は小花梗)、 (e) 花托(hypanthium), (f) 萼片(sepals).
B; (a) 萼片(sepals)、 (b) 花托(hypanthium又はreceptacle)、 (c) 雄しべ(stamens ; AntherとFilamentを合わせたもの)、 (d) 包葉(bract.)
C; (a) 小葉(Folioles)、(b) 中心の葉脈、葉軸を結ぶ托葉、 (c) 托葉(stipule)、(d)葉柄から上の部分で各小葉を結ぶ耳葉.
fedtschenkoana, R. gallica, R. moschata, R. x damascena の順にその分布地と花の特徴を見ていこうと思います。R. fedtschenkoana から始めます。分類は生物多様性情報機構( Global Biodiversity Information Facility: 略してGBIF )の分類をもとにお話をさせていただきます。
現在、GBIF で R. fedtschenkoana として受理された名称には次のものがあります。すべて R. fedtschenkoana です。
=Rosa caraganifolia Sumn.
=Rosa coeruleifolia Sumn.
=Rosa epipsila Sumnev.
=Rosa lavrenkoi Sumn.
=Rosa lawrenkoi Sumnev.
=Rosa lipschitzii Sumn.
=Rosa minusculifolia Sumn.
=Rosa oligosperma Sumn.
fedtschenkoana は野生種には珍しい二期咲き(晩春から秋までの長い開花を指します)の薔薇です。R. damascene var. semperflorens. ( Autumn Damask ) がその因子を受け継いでいます。下の絵は R. fedtschenkoana 特有の花、ローズヒップ、棘のある枝と蕾です。
fedtschenkoana https://www.helpmefind.com/rose/l.php?l=21.163930
fedtschenkoana https://www.plantarium.ru/page/image/id/478935.html
fedtschenkoana の特徴;
花 一重
花の大きさ 5㎝
花柄 1本若しくは2-3本
花の色 白、淡黄色の雄しべ
香り きつい香り
花期 晩秋まで咲く二期咲
ローズヒップ 洋梨状で鮮やかな赤
棘 新しい棘は深紅色、長く細い棘
葉 灰色がかった緑
https://www.nationsonline.org/oneworld/maps.htm#MiddleEast
中央アジア内のR. fedtschenkoanaの自生地
上の地図をもう少し詳しく説明したのが下の2つの地図です。
https://www.nationsonline.org/oneworld/map/uzbekistan-political-map.htm から
ウズベキスタンでのR. fedtschenkoanaの自生地
国名は、ウズベク人の自称民族名 Oʻzbek(オズベク)と、ペルシャ語で「~の国」を意味する( -istan) の合成語です。国土の中央部は、古代よりオアシス都市が栄え、東西交易路シルクロードの中継地ともなってきたマー・ワラー・アンナフル( Mā-warā' an-Nahr(トランスオクシアナ地域で、アラビア語で「川の向うの土地」を意味する言葉。字義通りにはアムダリヤ北岸 )の地域を指します。中央アジア南部のオアシス地域の歴史的呼称です。8世紀にアラブ人によって征服され、宗教的にイスラム化し、人口の約90%がムスリム、5%がロシア正教会、その他が5%となっています。
天山山脈;Tien Shan mountains landscape, Kyrgyzstan from Issyk-Kul lake. Biggest, 2018.から
キルギスタンでのR. fedtschenkoanの自生地
国土の 40% が標高 3000m を超える山国で、東の中国との境には天山山脈が延びています。宗教はイスラム教が 75%、キリスト教正教会が 20%、その他が 5%です。敦煌で南北に分かれた「シルクロード」はカシュガル(喀什)で合流後、再び南北に分かれ、南の道はタジキスタンに、北の道はキルギスの南部を通っています。円内はR. fedtschenkoan の自生地を示します。
西隣のトルクメニスタンはカラクム砂漠が国土の 85% を占め夏は 40 - 50度、冬は 0 度以下まで下がり、寒暖の差が激しいので薔薇の生育には適していません。イスラム教スンナ派が大多数で、キリスト教正教会の信徒も一部存在しています。
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