ふたつの意味で、とてもタイムリーな作品「ディア・ハンター」をシネマ部で鑑賞しました。
ウクライナ南部のクリミア自治区の独立を承認したロシアへの批判が、高まりを見せていること。
前回の部会で、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの「恋に落ちて」を鑑賞していたという点からです。
70年代、消費社会の幕開け。いまだ強大な力を有していたアメリカ、ペンシルヴァニアの田舎町。ロシア移民の遊び仲間のひとり、スティーブン(J・サヴェージ)の結婚式、ほかふたりのベトナム出兵の送迎会がおこなわれる。その友人メンバーは、マイケル(デニーロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スタンリー(ジョン・カザール)、リンダ(メリル・ストリープ)などなど。
前半は、製鉄所での夜勤明け、結婚式、夜明けの鹿狩りまで、ほぼ1日の出来事を映し出します。
ロシア民謡の「カチューシャ」が響き渡る、移民によるバカ騒ぎのロシア正教徒の結婚式。そして、深く山に踏み入れて鹿を1発で撃ち殺すシーンまでを、退屈なくらい延々と。
後半、一気にベトナム最前線でのシーンに切り替わり、復員、ベトナム戦争終焉までの数年を描いてある。画面に引き込まれ、緊張を強いる場面が続き、クライマックスへ。
「ディア・ハンター」The Deer Hunter(1978米)
テーマは、「人格、精神までも蝕んでしまう戦争の醜さ、悲惨さ」。
淡い恋心を抱いている女性とうまくいきそうになりながら、恋敵である友人を連れ返るために、再び戦場へ赴く男の友情。
一見して、アメリカ対ロシア、民主主義対社会主義の構図に捉えがちになりますが、あくまで「戦争の虚しさ」。
名匠、マイケル・チミノが描き出す世界観は、冷たい銃口を額に押し付けるかごとく、こころに深く主題を突き付けてきます。
"史実"としての視点から、監督はじめ製作者側が伝えたかったのは"アメリカの大儀のために戦場に赴かなくてはならないロシア移民の悲劇"。普遍的には、マイノリティの悲劇でしょう。
ニュースをTVでみているだけでは、家族の消息が不明とか、友人が戦死したなんてリアルにウクライナで生じている現状は、所詮、他人事と感じてしまいやすい。
実際に、銃を突きつけられた人間の心理を知ることはできません。
零戦の素晴らしさとか、特攻隊の潔さを描いている時点で、どこかに戦争賛美がある。戦争に何らかの価値を見出そうとした時点で、その映画は戦争賛美であるなと、あらためて感じました。
シネマ部でも、名前は知っていたが初めてご覧になった方、お二人は鑑賞後、言葉を失った感あり。
前回の「恋に落ちて」の担当者、F井さまは今回、所用で欠席されていたのですが、前回の流れから、ぜひご覧にいれたかった。
http://blog.goo.ne.jp/antenne_navi/e/8d43ff2261e16be9537dab3bc79826fc
筋には直接関係ないですが、ジョン・カザール(地元に残る友人、ゴッドファーザーでフレドを演じていた男優)が、当時、実生活ではメリル・ストリープと婚約していて、この映画の撮影後に、ジョンは癌でこの世を去ってしまった事実を付け加えさせていただきます。
私自身、30年ぶりくらいに観ましたが、新たに衝き動かされる想いがありました。
劇場版でなく、3時間超のDVDには、初めてみるシーンが点在。
M田さんと、そのあたり盛り上がりましたよ。
ご覧でない方には、一度、ぜひご覧いただきたい作品のひとつです。