BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

★BLロック王子小説20-4「ディスティニー・アンダーグラウンド

2019-06-17 16:46:47 | ★ディスティニー20章
「東京神奈川どっちなの♪ そんな町田で始まった~、美形バンドで楽しいロック、あなたの恋人ディスグラで~す♪…」
 バンドイメージを壊しそうなくらいコミカルな学生ノリの歌だが、直人にあおられた客席はみな手拍子で盛り上がってくれた…
 そこからはいつもの激しさと美しさで会場一体となって駆け抜けたが…

 その夜、ホテルの自室で麻也は困っていた…(これどうしよう…)
 諒がMCでミスをしてしまったばっかりに、麻也も二次会まで抜けられないムードになってしまった。
 それで実際に出席して体は疲れているのに。
 もう何だろうこの体の奥に湧き上がってくるものは…ってわかってるけど…こういうときこそ諒がセマってきてくれたらいいんだけど…
 諒も来客を見送って身内だけになった時からどっと疲れた顔になってしまっていた。
(諒が寝てから自分で何とかするしかないかな…)
 煌びやかなステージで皆に求められていた自分が、と思うと何だか虚しい気がしないでもなかったが、とにかく麻也は諒をこれ以上疲れさせたくなかったのだ。
「麻也さん、明日は移動だけだから薬のめるんでしょ?」
「あ…うん…」
 ベッドのところにやってきた諒は、薬のケースと水のボトルを差し出してくれた。
(でも今これのむと諒より早く眠っちゃうだろうしなあ…でも最近はそうでもないか…)
 麻也がためらっていると、諒もベッドの上に…
 そして長い腕を麻也の首に回すと、耳元に囁いてきた。
「…本日のメニューは、ミルクがけと一本締めのどちらかがお選びいただけます…」
いつものような忍び笑いはない。諒が疲れている証拠だと麻也は思い、
「…お気持ちだけで充分です。諒も疲れてるじゃん。早く寝よ。」
「いやいや、王子…」

★BLロック王子小説20-3「ディスティニー・アンダーグラウンド

2019-06-17 15:28:47 | ★ディスティニー20章
 若さでどうにかこなしているスケジュールだというのに、麻也の体調不良が長引いているせいで、特に諒に疲れの色が濃くなっていた。 
 これまでなかったことに、ライブの MCでとんでもないミスをしてしまったくらい…

 大きなステージの真ん中で、美しいボーカリスト・諒は元気いっぱいに、
「帰ってきたよ神奈川ーっ!」
 …ここは千葉県・市川市なのに…
 帰ってきたよ、は再演地ならどこでも言うが…
 客席は諒に興奮してあげてしまった歓声や悲鳴や間違いに気づいたのであろう声でざわざわ…急いで真樹が叫んだ。
「千葉県市川市の皆さん、ごめんなさぁーい!!」
それを聞いて諒は真っ青になり、マイクを通して真樹に尋ねた。
「俺、今何て…」
「神奈川、って言ったの。」
答えたのは麻也だった。麻也ちゃーんかわいい~、と黄色い声がかかり、せっかくのロックの激しいムードが緩くなっていく。
しかし、諒は両膝を開いてセンターに座り込み、二階席も見上げて、
「ごめん、どこよりも愛してるよ市川ーっ!」
と叫んだ…客席が歓喜に揺れる…
「市川の皆さん、本当にごめんなさい。」
さっきのテンションはどこへやら、諒が真面目に謝ると、
ちょっと雰囲気が静かになってしまい、いつもと違って疲れている諒は珍しく立ち往生しそうな気配だった。
それを止めたのは真樹だった。
「えー、お詫びにね、諒が特別にアカペラで歌います。」
女性ファンたちの可愛い歓声が広がったが…次の瞬間爆笑に変わった。諒がうろたえている中、真樹が勝手に曲紹介をしたから…
「俺たちが2年で卒業した大学で所属してたサークル、ロック同好会音頭です!」
諒も素で大笑いしてしまったので、観客はすごく喜んだ。
それで麻也も参加してみた。
「俺、大学違ったからわかんない弾けない…」
「アカペラ、って言ってんじゃん兄貴。」
あ、そうだった、と思わず笑うと、麻也たんかわいい~とまた声がかかる。
爆笑している直人を尻目に、落ち着きを取り戻した諒も笑いながら、大学の時に自作した音頭をコミカルに歌い始めた。

★BLロック王子小説20-2「ディスティニー・アンダーグラウンド

2019-06-17 15:10:13 | ★ディスティニー20章
  …諒の肩に頭を預けているうちに、麻也はいつしか眠ってしまったらしく…
「兄貴と俺は刑事モノみたいな室内がいいのっ!」
「えー、麻也さんは屋外でもいいって言ってたよ…」
真樹と直人の言い争いで目が覚めた…
「サバイバルゲームですか。いいですねえ…僕達も…」
マネージャー陣も参戦だ。
 忙しくて全く実現しない、オフの日のサバイバルゲーム。
 疲れた一行にははこれくらいしか話題がないのだろう。
 すると諒が、
「でも、屋外だと麻也さんの顔に、小枝とかで傷がついたらと思うと…」
と、身を乗り出したので、麻也はソファの背もたれに頭をぶつけ、完全に目を覚ましてしまった。
「…ごめん、麻也さん、目をさましちゃった? 」
「…ぶー…」
麻也がふくれてみせると、諒は優しく笑って、
「もうすぐサービスエリアでお茶だよ。」
と、諒は麻也の肩をそっと抱いてくれる。
しかし、自分でも驚いたことに、病気のせいか、麻也はなんとなく諒のぬくもりに苛立った。
それで気分を変えるように、
「…ねえ…ザッハトルテとか、あると思う? 」
「あるかもよ…少なくてもチョコケーキくらいはあるんじゃない?」
とはいうものの、麻也はいつも以上のだるさも感じ始めた。風邪でもひいたのかもしれない…
「兄貴、だるかったらおんぶでもしようか?」
 バスが止まって、真樹が振り返るなりそう言ったからにはかなり具合が悪く見えるのだろう。
「うーん、担架でもあればねえ…」
と言ったら、みんなが凍り付いてしまったので麻也は後悔した。不安がらせるなんて…
しかし、直人がこんな場面でも笑いに変える。
「ひゃひゃひゃ…なんか、ミイラ男運ぶみたいになりそう…」
すると麻也はまたふくれっ面で、
「…せめてツタンカーメンくらい言ってよっ!」
「それくらい元気で安心したよっ!」
「ツタンカーメンにチョコプリン入りまーす!」 
リズム隊に冷やかされながら、麻也は諒に抱えられてバスから降りた。