アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

赤穂事件 主税を叱れ

2023-01-08 10:41:25 | 漫画
       赤穂事件 山鹿流



斎藤 宮内 (筆頭家老150石)
「「士は怒りにまかせ行動すべからず。憤怒の心は身を亡ぼす」
(『山鹿語類』、巻五)

山吉 盛侍 (吉良義央の家臣30石)
「浅野長矩は武士にあらず」
「野蛮なる罪人に御座る」

吉良上野介
「ほォォ・・」
「左様」
「あ奴は、罪人じゃ」
「儂は、長矩のアホに殺されかけた」
「あァーあ・・」
「何もかも台無しじゃ・・」
「今頃になって長矩を許せとの申し出じゃ」
「乱心ならば長矩は蟄居または流罪、
大学長広の家督継承すべしとの事」
「過去の事例を鑑み
助命されるべきとの事」
「即日切腹は間違いだとの申し入れ・・」
「儂の立場は無くなった」

斎藤 宮内
「長矩は怒りに任せ
主人を殺そうとしたのですぞ」
「即日切腹は英断で御座る」
「無抵抗の主を殺そうとして
切り掛かったりですぞ!」

山吉 盛侍
「赤穂は野蛮な蛮人じゃ」
「処罰されて滅びるが良い!」

吉良上野介
「じゃけどなァー」
「江戸市民が噂しとるぞ」
「赤穂藩士が儂の屋敷に踏み込んで来て
儂の首を刎ねるそうじゃぞ・・」
「儂は、首が飛ぶのは嫌じゃ・・」

斎藤 宮内
「我ら、山鹿流儀
屋敷を円陣として防御を固め
表と裏門を厳重に強化すれば
簡単には押し入る事は出来ません」

山吉 盛侍
「武は不祥の器なり。
国家人民のことにかからざれば用いるべからず。
天下国家を思わず、
我一人我が家のみの為に使う兵、
民これにより死して国滅ぶ」
(『孫氏諺義』第十四)

吉良上野介
「あのなァ」
「赤穂は武闘派じゃぞ
刀を振り回して襲って来るのじゃぞ」
「武を用いるなと申すか?」

斎藤 宮内
「左様に御座る」

山吉 盛侍
「主殿が無抵抗であったが故に
我らには咎めは御座いませんでした」
「これからも、武を用いることなく
山鹿流儀にて精進致すべきと・・」

吉良上野介
「はァー・・」
「儂は、誰にも守ってもらえんのか・・」

斎藤 宮内
「山鹿 素行の教えをお忘れか」
「この天と地は丸く
大地に限りは御座らん」
「武を用いて襲い掛かる敵には
立ち向かわずに逃げるのです」
「大地は方形に非ず」
「大地は丸いのですぞ!」

山吉 盛侍
「ご安心くだされ」
「某は、主殿を守りますぞ」
「腕には覚えが御座る」
「自身の高名誉の儀之有りと雖も、
公儀御為に対し然るべからざる儀は、
武を以て為すを許容致すべからざる事」
(『武教全書』巻四)
君臣論

吉良上野介
「公儀の為に儂を守ると申すか・・」

斎藤 宮内
「浅野長矩は公儀に逆らい
武を用いたので御座る」

山吉 盛侍
「長矩は山鹿流儀を汚したので御座る」

吉良上野介
「あァ」
「そうじゃ」
「あのなァ」
「浅野 長矩 の弟の 浅野 大学 も
山鹿流を極めておる
大学を唆してじゃなァ
公儀に従うように申し付けろ
吉良家は、山鹿流儀に則り
武は用いない
大学殿も山鹿流儀に従って欲しいと申せ」
「赤穂も武を用いることなく
公儀に従順であれと申し伝えろ」

斎藤 宮内
「大学殿は我らと同じ山鹿流儀
きっと分かってもらえますぞ」

山吉 盛侍
「いやいや」
「浅野 長矩も山鹿流儀であったぞ」
「安心は出来ん」


 
      赤穂事件 偽りの書状と戒めの書状



隆光(江戸時代中期の新義真言宗の僧)
「桂昌院様の、お怒りを
鎮めて欲しいとの事で御座いますが
直ぐには無理で御座います」

将軍綱吉
「無理か・・・」

隆光
「心配為さらぬとも
時が解決してくれると思います」

将軍綱吉
「何で儂は苦しんでおるのじゃ・・」

隆光
「何を苦しむので御座いましょうか」
「将軍様は、全てを手に入れておられますぞ
苦しみなど有る訳が御座いません」

将軍綱吉
「気休めはよせ」
「正直に申してくれ」
「儂の苦しみの理由は何じゃ!」

隆光
「では、申し上げます」
「将軍様の苦しみは 仁 の心が
乱れているからで御座います」
「財産を作れば、仁の徳から背いてしまう。
仁の徳を行えば、財産はできないので御座います」

将軍綱吉
「儂はな、母君に官位を授けたかったのじゃ
母君を喜ばせたかったのじゃ」
「だからな、官位を買う為に金が必要になったのじゃ」
「親孝行は 仁 ではないのか」

隆光
「仁とは他人に対する親愛の情、優しさ」
「孝行は立派な仁で御座います」

将軍綱吉
「仁を施しておるのに
儂は苦しんでおる」
「何故じゃ!」

隆光
「人間にとってもっとも普遍的で包括的、
根源的な慈しみを意味するものとして
 孝 悌 忠 なども仁で御座います」

将軍綱吉
「母を慈しむのは仁じゃぞ!」

隆光
「多くの者を慈しむ事が必用かと・・」

将軍綱吉
「だから、生類憐みの令を出しておるのだ!」
「全ての命を慈しむのじゃ!」

隆光
「その慈しみの心が天に通じ
苦しき心は開放される筈で御座います」

将軍綱吉
「ははは・・」
「少し楽になったわい」
「やはり、其方の呪術は効き目がある」
「元気に為って来たぞ」

隆光
「この僧は何もしておりません」
「上様の優しい心が天に通じたのだと思います」

将軍綱吉
「儂は、犬将軍と呼ばれておるそうじゃ」

隆光
「左様に御座いますか・・」

将軍綱吉
「生類憐みの令は仁の教え」
「命あるものを慈しむのは仁である」
「仁を実行する事は幕府の誉れ」
「徳の有る政じゃぞ」

隆光
「ありがたき教えを頂き
感謝申し上げます」
「僧も少しばかりのお手伝いが出来ましたようで
嬉しゅう御座います」

将軍綱吉
「そうか」
「犬将軍は仁を極めたぞ」
「仁の心が幕府の礎じゃぞ!」

隆光
「立派な志に御座います」

将軍綱吉
「其方にも褒美を遣わせてやる」
「生類憐みの令は其方の教えとするぞ」

隆光
「ありがたき幸せに御座います」

将軍綱吉
「んんゥ」
「また少し変な感じじゃ・・」
「不安が蘇ってきたぞ・・」

隆光
「少し気分転換を為されては如何でしょうか?」

将軍綱吉
「んんゥ」
「しかしなァ」
「今は柳沢には会いたくないのじゃ」
「赤穂城を奪った事で
色々面倒が起ってる」
「早く、資金調達して
母君を喜ばせたいのじゃ」

隆光
「赤穂が抵抗して反旗を翻した場合
如何対処為さいますか?」

将軍綱吉
「えェ」
「謀反か?」

隆光
「上様は、お忘れのようですが
謀反は紙一重で御座います」
「故光圀が所持しておりました
偽りの書状と戒めの書状
誰かの手に渡っておりますぞ」

将軍綱吉
「あああァア」
「思い出した・・」
「儂の不安はそれじゃ・・」
「それは何処にある?」

隆光
「お任せ下さいませ」
「全ては、この隆光が呪術にて解決致します」
「ご安心召され」

         赤穂事件 領地内部工作



大石主税
「町に放った犬を回収したぞ!」

原惣右衛門
「何じゃ」
「時間稼ぎにも為らんのか」
「無駄な努力であったな」

大石主税
「いや、領民に感謝された」
「町人共は、町を我が物顔で徘徊する犬に困っておった
それを、我らが回収したのじゃぞ」
「町人共は、我らに感謝しておる」

原惣右衛門
「無駄な事じゃ・・・」
「まッ」
「好きなようにすればよい」

大石主税
「犬を放った効果が出て来たのだぞ」
「領民が生類憐みの令に嫌悪感を抱き
我らに期待を寄せて来た」

原惣右衛門
「領民が、我らに期待しておるのか?」
「我らに何を期待する?」

大石主税
「決まっておるではないか
領民は、幕府の干渉に嫌気がさしたのだ
領民は、我らが幕府と戦う事を期待しておるのだ!」

原惣右衛門
「まッ」
「大学様次第じゃな・・」

大石主税
「大学様は吉良と同門」
「山鹿流儀ですぞ」
「今頃、吉良に誑かされて
腑抜けになっておる」

原惣右衛門
「おいおい」
「これから主になろうお方を
腑抜け扱いか」
「もう、いい加減にしておけよ」

大石主税
「儂が代わりに城主となる」

原惣右衛門
「威勢ばかりでは統治は出来ん
太傅も許さん」

大石主税
「実はな、犬を回収しておったら
領民が、主税に集まって来て協力をしてくれた」
「それから、忽ちのうちに大勢の協力者が集まり
皆々が、幕府打倒を叫んでおった」

原惣右衛門
「おいおい」
「これから、幕府に許しを乞うのじゃぞ」
「幕府打倒は為らぬぞ!」

大石主税
「幕府は仇ではないのか!」
「其方にも、弱気の虫が湧いておるのか」

原惣右衛門
「大学様の返事次第じゃ」

大石主税
「山鹿流機は逃げるが基本」
「背を向けて隠れるとも恥とは呼ばぬ礼儀」
「腑抜けの礼儀だ」
「大学様は山鹿流儀です」

原惣右衛門
「まッ」
「流石に、もう山鹿流もあるまい」
「吉良と同門では
我ら赤穂の名が廃る」

大石主税
「主税が立ち上がれば
領民は見方となるぞ」
「そうなれば、腕の立つ者を
赤穂に仕官させる」
「赤穂は、主税を領主として
幕府軍と戦うのじゃ」
「我らは籠城して徹底抗戦する」
「そして、領民は背後から幕府軍に迫る」
「挟み撃ちじゃぞ」

原惣右衛門
「ほォー」
「しかし、其方が領主か?」
「そうなれば、儂は其方の家来か?」
「そりゃ無理じゃ」
「誰も納得せんぞ」

大石主税
「納得しない者は
城から追い出せ!」

原惣右衛門
「無茶を申すな
お前は、無謀すぎる」
「滅茶な遊びじゃ」

大石主税
「主税は本気じゃぞ」
「領民を束ねて大きな勢力にする」
「先ずは、赤穂城を確保することから始める」
「幕府軍を蹴散らせ
我らの力を見せつけるのだ」
「尻尾を巻いて逃げ出した幕府軍は
領民から白い目で見られる」
「さぞかし、町内では居心地も悪かろう」

原惣右衛門
「味方になる領民は、どれ程おるのじゃ」

大石主税
「主税の下に若い衆が数名おる」

原惣右衛門
「数名?」
「相手は数千人じゃぞ」

大石主税
「今は、少ないが
皆々は大きな不満を持っている」
「幕府には勝てないと思い込んでいるから
同士は少ないのだぞ」
「我らの力を確認できれば
同士は挙ってくるぞ」
「諦めてはならぬ!」

原惣右衛門
「んんゥ」
「ちょっと待っておれ」
「太傅が同意せねば
如何にも為らぬぞ」

大石主税
「父君は、大学様で復興を望んでおるが
幕府は動じる事は無い」
「嘆願が通じる相手で無い事は
今までの経緯で明らかではないか」
「早く、籠城を完成させねば
手遅れになるぞ」

原惣右衛門
「よしよし」
「ちと、太傅に相談してみよう」

大石主税
「相談では駄目じゃぞ」
「説得するのじゃ!」

原惣右衛門
「んんゥ・・そうじゃな・・」
「では、説得して参ろう」


        赤穂事件 片岡源五右衛門の決意



片岡源五右衛門
「内匠頭様の無念を晴らすまでは
切腹を御控え下され」

大石内蔵助
「大学様を立てて赤穂を復興する事が祈願で御座る」

片岡源五右衛門
「開城して、我ら一同が切腹しても
赤穂の復興は御座いません」
「御考えを見直して下され」

大石内蔵助
「同意出来ぬ者は城から立ち去れ」

片岡源五右衛門
「主は吉良に虐められておりました」
「某は、主殿から遺言を受けたのです」

大石内蔵助
「内容の無い遺言であるな」

片岡源五右衛門
「遺言は、
口頭で残すようにとの
言い付けで御座った」

大石内蔵助
「済まぬが、
口頭で残された遺言を信じる事はできぬ」
「其方の考え一つで
遺言が決まるのであれば
其方が、主と代わらぬではないか」
「誰も納得はせんぞ」

片岡源五右衛門
「遺言の内容が知れたら
それこそ幕府から咎められてしまいます」
「主は、浅野赤穂を守る為に
果し合いを演じたので御座います」

大石内蔵助
「それは、其方の作り話じゃ」
「忘れろ」

片岡源五右衛門
「実際、吉良は無傷で御座った」

大石内蔵助
「いいや」
「吉良は死にかけたのじゃ」
「主は吉良を討ち損じたのじゃぞ」

片岡源五右衛門
「それでも、
喧嘩両成敗で御座る」
「吉良は咎めなし
内匠頭様は切腹」
「吉良家は安泰で
浅野赤穂は改易」
「更には、忠臣赤穂藩士が揃って切腹とは
如何考えても、納得できかねる」

大石内蔵助
「我ら同士は、幕府に許しを乞う必要があるのじゃ」
「開城して我ら一同が城の前に集まり
抗議の切腹をする」
「我らは、大学様を赤穂にお迎えして
復興を願い入れる」
「我ら全員の命を引き換えにして
浅野赤穂を復興させるのじゃ」

片岡源五右衛門
「仇討ちは諦めろと申すか!」

大石内蔵助
「嫌ならば城から出ていけ!」

片岡源五右衛門
「んんんゥ!」
「いいですか!」
「幕府は、計画的に赤穂を改易にしたのですぞ!」
「我らが束に為って抗議しても
我らが死に絶えたとしても
幕府は痛くも痒くもないのですぞ」
「城の前で全員そろって切腹しても
幕府は何も感じはしませんぞ」
「むしろ、左様な抗議は逆効果で御座る」
「幕府の逆鱗に触れますぞ!」

大石内蔵助
「何度の同じことを申すな」
「何度申したところで同じ事」
「我らの方針に従わぬ者は
直ちに城から立ち去ってくれ」
「これが我らの決意じゃ」
「よいな」

片岡源五右衛門
「切腹は致しましょう」
「ただ、主の仇は取りますぞ!」
「儂一人になったとしても
必ずや主の無念を晴らしてみせますぞ!」

大石内蔵助
「んんゥ」
「致し方ない」

片岡源五右衛門
「では、切腹を解止めてくれますか?」

大石内蔵助
「いいや」
「其方は特別に赦そうと申しておる」
「我らの方針は変わらぬ」

片岡源五右衛門
「承知した」
「某は、吉良を打ち取った後で
潔く後を追います」

大石内蔵助
「んんゥ」
「其方は、許すが、特別じゃぞ」
「じゃがな、他の者に申すではないぞ」
「他の者が動揺しては為らぬ」
「方針が揺らいでも為らぬ」

片岡源五右衛門
「承知した」

大石内蔵助
「んんゥ、其方は、良き忠臣じゃ」



  
          赤穂事件 武士道



寺坂吉右衛門 (赤穂藩足軽)
「城堀での魚釣りを許しております」
「領民は大層に息抜きが出来ておるものと」

大石主税
「おおォ」
「民共の評判は如何じゃ!」

寺坂吉右衛門
「良好に御座います」

大石主税
「幕府に対抗する者共を集めるぞ!」
「我らは籠城して徹底抗戦する」
「背後から有志が挟み撃ちじゃぞ」
「大勢の有志を募るのじゃ」

寺坂吉右衛門
「御意」
「各々、武器を用意しておりますから
幕府軍を取り囲み挟撃する訓練を致します」

大石主税
「我らは、鉄砲の整備をするぞ」

寺坂吉右衛門
「鉄砲の管理は
大石太傅の許可が必要で御座います」

大石主税
「んんゥ」
「では、後回しじゃ」
「弓矢を大量に準備しろ!」
「有志足軽勢を徴集して
幕府軍を迎え撃つ訓練じゃ!」

寺坂吉右衛門
「御意」

大石主税
「幕府は、我らの主を罠にかけ
屈辱的な処遇で殺したのじゃ!」
「我らは、犬将軍を主の仇として決起する事を誓う」

寺坂吉右衛門
「御意」

大石主税
「武士道とは何ぞや」
「正直である事」
「正しく一直線である事」
「嘘がない事」
「幕府は、我らの主に罠を仕掛けて切腹させ
赤穂の財産を奪い取る事を計画実行したのじゃ」
「幕府には正当なる武士道はない」
「その計画の主犯は
犬将軍綱吉ぢゃ!」
其方、其方の武士道は何ぞや」

寺坂吉右衛門
「主として仰ぐお方に仕え
主の為に命を捧げる事で御座います」
「悪を挫き、邪気を追い払い
衆生を慈しむ事に御座る」

大石主税
「んんゥ」
「主の無念を晴らすのじゃ!」
「幕府軍を蹴散らせ!」
「犬将軍には正直さは無い」
「叡智はも慈悲も無い」
「有るのは身勝手な偏見だけじゃ」
「犬将軍は害悪じゃ!」
「お主は、この目的の為に
非情となれるか!」

寺坂吉右衛門
「武者は犬であろうが
畜生ともいへ、勝つことが正義にて候」
「卑怯の謗りを受けてでも戦いに勝つ事こそ
我が厳格冷静なる武士道に御座います」

大石主税
「よし」
「主税が城主となれば
其方を足軽大将とするぞ」
「気張って務めよ!」

寺坂吉右衛門
「誠心誠意で御尽くし致します」

大石主税
「では、手始めに
大筒を奪ってまいれ!」
「城に大筒があれば
幕府は、我らに対抗する手立てはなくなる」
「幕府は、長期戦には耐えられん」
「大筒が必用じゃ」

寺坂吉右衛門
「承知しました」

大石主税
「領民からの同士も集めておけよ」

寺坂吉右衛門
「お任せ下さい」

大石主税
「堀で釣った魚は
自由に持ち帰り、
食せばよい」
「鳥や、卵も食せばよい」
「生類憐みの令は偏った仁じゃ」

寺坂吉右衛門
「御意」

大石主税
「庶民は苦しんでおる
しかしな、赤穂はまだましなのじゃぞ」
「地方諸国では飢饉が起きておる」
「多くの百姓が飢えておる」
「赤穂は、豊かじゃ」
「豊か故に
その資産を奪う為に
幕府は罠を仕掛けたのじゃ」
「全ては犬将軍の企てぢゃ!」

寺坂吉右衛門
「御意」
「犬将軍は主様の仇に御座る」

大石主税
「これぞ武士道ぢゃ!」

         赤穂事件 資産没収



大野九郎兵衛知房 (末席家老650石 経済官僚)
「惣右衛門殿は、ご存知ない事と存じ上げるが
赤穂の財産は全て放出されておりますぞ」

原惣右衛門
「分配金が有る筈じゃ」

大野九郎兵衛知房
「何度も申し上げるが
藩券の買い取りで
全ての資産は返金に使われたのじゃ」
「分配金は用意出来ん」

原惣右衛門
「藩蔵には金銀が残っておるぞ」

大野九郎兵衛知房
「あれは、儂の資産じゃ」
「儂は、赤穂の発展に貢献するため
藩蔵に資金を貯めて
何時でも使えるように用意しておった」
「あれは、儂の赤穂藩への投資金じゃぞ」

原惣右衛門
「では、その金銀を我ら藩士に分配して下され!」

大野九郎兵衛知房
「それは構わぬが」
「皆に平等に分配するのは、お門違いじゃ」
「その金銀の分配方法は、儂が決める」

原惣右衛門
「大石太傅は
微禄の者に手厚く配分すべきと申しておる」

大野九郎兵衛知房
「あのな、儂の資産を分配するのに
太傅が干渉するのはお門違いじゃ」
「平等に分配するのであれば
太傅の自腹で為さいませ」

原惣右衛門
「そもそも、
藩蔵を、己の金庫に使ったのが悪いのじゃぞ」
「太傅に従い
微禄の者に手厚く配分すべきじゃ!」

大野九郎兵衛知房
「んんゥ」
「だから、申しておる」
「儂は、藩の発展の為にじゃな
己の資産を投じておったのじゃぞ」
「何で、己の金銀を分配せねば為らん」
「其方は、乞食か!」
「それとも、追剥か!」

原惣右衛門
「はあァア」
「舐めた口を利ききやがるぜ」
「てめーに、乞食扱いされる覚えはねェーや」

大野九郎兵衛知房
「何ですか」
「左様な乱暴な口を利く」
「江戸の者は、乱暴者ですか」
「年寄りを左様に脅すのは、
お止め為され」

原惣右衛門
「赤穂の一大事じゃねぇーかよ」
「何が己の資産じゃケチケチすんな」
「乱暴は生れ付きじゃ」
「強欲じじい!」

大野九郎兵衛知房
「儂は赤穂の発展に努めてきたのじゃ」
「赤穂は豊かになり
赤穂領民は大きな恵みを受けた」
「そして、その恩恵を我らも享受しておった」
「儂はな、節約に務め
赤穂浅野様の為に私財をなげうってきたのじゃ」
「そうしてな、
少しづつ貯めたきた大切な金銀なのじゃぞ」
「分配方法は儂に決めさせておくれ」

原惣右衛門
「お前には、忠義が無い」
「何故、籠城して戦おうとせん!」
「この、臆病じじいが!」

大野九郎兵衛知房
「んんゥ」
「将軍様がお決めに為った事」
「つつしんで従う事は
お上に対しての忠義に御座る」
「開城恭順なされよ」

原惣右衛門
「お主には、武士としての誇りはないのか!」
「赤穂藩士が強く結束して
幕府の過ちを咎める事こそが正義じゃ」
「武士の誉れじゃ!」

大野九郎兵衛知房
「もう、手遅れじゃぞ」
「もう、裁決が変更される望みはない」
「開城恭順すれば
無血開城となり
多くの者の命が救われる」
「籠城して戦っても
幕府には勝てんぞ」
「負ければ皆が獄門入りじゃ」
「親子、親戚、縁者が大勢死ぬのじゃぞ」

原惣右衛門
「仇討ちは忠義の誉れ」
「喧嘩両成敗の筈が
吉良にはお咎めなしじゃぞ」
「其方は、悔しくないのか!」

大野九郎兵衛知房
「某も、赤穂浅野様の家臣で御座います」
「一方的に咎めを受けるのは
納得参りません」
「しかし、もう内匠頭様は切腹為された」
「赤穂は改易となったのですぞ」
「お上に逆らっても
逆賊の汚名が残るだけに御座います」

原惣右衛門
「幕府への抗議は逆賊か!」
「では、逆賊となって
主の無念を晴らすのじゃ」
「吉良を打ち取る気概を持て!」

大野九郎兵衛知房
「斯様なじじいに何を申す」
「儂は、もう老い先短い」
「もう、安らかに暮らしていたい」
「争い事は御免じゃ」

原惣右衛門
「では、この城から出て行ってくれ」

大野九郎兵衛知房
「開城恭順を確認できれば
城から出ていき
城受取大名に降伏致します」

原惣右衛門
「赤穂の再興を諦めろと申すか!」

大野九郎兵衛知房
「赤穂は、とうに改易で御座る」

原惣右衛門
「諦めんぞ!」
「赤穂は大学様を立てて再興される」
「幕府に申し入れ
懇願するのじゃ!」

大野九郎兵衛知房
「あのなァ」
「籠城して懇願はおかしいぞ」
「開城恭順して懇願する方がよい」
「よく考えてみろ」

原惣右衛門
「我らの力を見せつけて
幕府を脅迫する」
「幕府には戦は出来ん」

大野九郎兵衛知房
「何を申すかと思えば・・
幕府に脅しなど通じるものか・・」

原惣右衛門
「よし」
「手始めに、お前を脅迫してやる」
「力でねじ伏せてやる」

大野九郎兵衛知房
「・・・・」
「話し合いは無駄のようじゃな」

原惣右衛門
「お前は、不忠者じゃ」
「切り捨ててやる」

大野九郎兵衛知房
「馬鹿は、お止めなされ」

原惣右衛門
「切り捨てる前に
お前の資産を全て差し出せ」

 
     赤穂事件  大悪党 大野群右衛門



大野群右衛門
「これはこれは」
「一体如何致しましたか」
「日頃、質素倹約を
旨とされておられる
父君では御座いませんか」

大野九郎兵衛
「飾り気なく、つましく暮らす事
ものを節約して生活する事」
「贅沢など堕落の道じゃ」

大野群右衛門
「豪華な御馳走・・」
「斯様な贅沢をするのは
初めてで御座いますな」

大野九郎兵衛
「儂は破産した」
「其方にも、財産を残しておきたかったが
全てを奪われてしまった」
「せめてもの償いじゃ」

大野群右衛門
「左様で御座いますか・・」
「気に為さる必要は御座いません」
「なんとかなります」

大野九郎兵衛
「城蔵の分配金を貰っておけよ」

大野群右衛門
「いいえ」
「左様な事に口出しすれば
我らの命も危うくなります」
「静かに此処を立ち去る方が良いかと・・」

大野九郎兵衛
「幼子を残して立ち去るのか・・」

大野群右衛門
「心配は要りません」
「女房がおります」
「我らは、陰で支える方が安全で御座いましょう」

大野九郎兵衛
「あの者共は敵討ちなどと申して
お上に盾突こうとしておる」
「周りの皆々に踊らされて
引っ込みが付かなくなっておる」
「振り上げた刀を引っ込めるのは
今しかないのじゃがな
収まりが付かんようじゃ」

大野群右衛門
「逃げる事を卑怯と思っておる」

大野九郎兵衛
「んんゥ」
「故主の内匠頭様と大学様は山鹿流儀」
「お上に逆らって
領民を苦しめる事を望んではおられん」
「我らも、山鹿流儀じゃぞ」

大野群右衛門
「しかし、むしろ良かったでは御座いませんか」
「我らは破産したのですから
此処に残る意味も御座いません」
「我らの力は、
他の地で試そうでは御座いませんか!」

大野九郎兵衛
「左様」
「死に向かっておる者共と
運命を共にしては為らぬ」
「我らの力は
別の地で発揮される」

大野群右衛門
「死して名を残すか
生きて名を汚すか・・」

大野九郎兵衛
「名などに意味はない」
「ただの呼び名に過ぎぬ」
「名を残しても
多くの命が奪われ
幕府の非情が際立つだけの事」
「悪あがきじゃ」

大野群右衛門
「しかし、何処に逃げても
不忠儀の烙印が付き纏う事になります」

大野九郎兵衛
「儂は、この名を捨てる」
「別の名を名乗り
他の地で、質素に暮らす」

大野群右衛門
「暫く、おとなしくしておる事です」
「いずれ、父君の力を必要とする
諸侯が現れます」
「仕官して、上り詰める事も出来ましょう」

大野九郎兵衛
「いやいや」
「もうよい」
「もう十分じゃ」

大野群右衛門
「では、群右衛門に御享受願いたい」
「父君の知識を学び
諸侯に仕官して成り上がります」

大野九郎兵衛
「んんゥ」
「何でもやってみるがよい」
「儂の知識や人脈は役に立つだろう」

大野群右衛門
「では、軍資金が必用で御座るな」

大野九郎兵衛
「いやいや」
「無理をするな」
「あの者共は、常軌を逸しておる」
「もはや、盗賊と変わらぬぞ」

大野群右衛門
「いえいえ」
「心配ご無用」
「無一文では生きてはおれんよ」
「きっと、取り戻して参ります」

大野九郎兵衛
「左様か・・」
「くれぐれも、無理をするなよ」
「危険が迫れば
直ぐに逃げるのだぞ」
「よいな」

大野群右衛門
「承知しました」
「明日、一緒に逃げましょう」

大野九郎兵衛
「よし、任せた」

大野群右衛門
「我らには、明日の希望が御座る」
「あの者共には死が待っておる」

大野九郎兵衛
「んんゥ」
「生き抜く事じゃ」
「生きておれば
良い事もあるぞ」
「名を捨てて生きる道を探すのじゃ」

大野群右衛門
「生きておれば
幼子も陰で支える事ができます」

大野九郎兵衛
「左様」

    
    赤穂事件  岡島常樹 原元辰 の暴走



大野 群右衛門
「筆頭殿!」
「原惣右衛門殿の弟、岡島常樹殿が
蔵に蓄えられておりました金銀を奪い逃げました」

大石内蔵助
「んんゥ」
「それは、
岡島の部下の小役人共が
この混乱に乗じて奪って逃亡したのじゃ」
「原惣右衛門、岡島常樹を疑ってはならぬ」

大野 群右衛門
「札座奉行(岡島常樹)は藩券を踏み倒しております」

大石内蔵助
「備前商人の藩券は踏み倒すように申し付けた」

大野 群右衛門
「何故で御座る?」

大石内蔵助
「備前商人は
元締めに藩券を納める事を拒否したのじゃ」

大野 群右衛門
「では」
「何方にしても
備前商人は泣きを見る事になりますなァ」

大石内蔵助
「儂に逆らうな!」
「お主の父は、主より禄を食っておったが
恩を忘れ、忠義を為さらぬ」
「今まで禄を食んでおったのじゃぞ」
「忠義無き者の俸禄は
忠義ある者に譲り渡してもらう」

大野 群右衛門
「横暴で御座る」

大石内蔵助
「儂の方針に逆らう者は
城から出ていけ」

大野 群右衛門
「岡島の部下の小役人共を
我らの小人共で捕まえておりますぞ」

大石内蔵助
「んんゥ」
「交換条件か!」

大野 群右衛門
「いえいえ」
「父上にも分配金を頂きたいので御座る」

大石内蔵助
「不忠儀の者に分配金は出せん!」

大野 群右衛門
「そもそも、
残っております蔵金は
父上の自己資産で御座る」
「返して頂きたい」

大石内蔵助
「知らん!」

大野 群右衛門
「何故、御上に逆らい
抵抗為さる?」
改易された水谷勝美の弟水谷勝時は
3000石の旗本として名跡存続を許されておりますぞ」

大石内蔵助
「んんゥ
水谷殿の松山城の管理をしておった頃を思い出す」

大野 群右衛門
「森 衆利殿 の美作国津山藩赤穂藩森家も
備中西江原藩2万石を与えられ、
子孫は同藩主として存続しておりますぞ」

大石内蔵助
「んんゥ・・・」
「我らは立場が違う」

大野 群右衛門
「いいえ」
「御上に逆らい
籠城して戦っては為りません」

大石内蔵助
「儂は、御上に逆らうとは申しておらんぞ」
「城の前に藩士が集まり
皆々で抗議の切腹をする事を決めたのじゃ」
「その決定に従わぬ者は
城から出て行って欲しい」

大野 群右衛門
「左様な事を為されば
御上の許しがあると御思いか!」

大石内蔵助
「主のために切腹する」
「これが武士じゃぞ」
「忠義の為じゃ
忠義の為ならば
御上に従順である必要はない」
「我らの忠義を認めてもらう事が目的じゃ」

大野 群右衛門
「無駄死にぢゃ!」

大石内蔵助
「死にたくなければ
城から出ていけ!」

大野 群右衛門
「分配金は頂きますぞ!」

大石内蔵助
「不忠者には分配金は渡さん!」

大野 群右衛門
「では、勝手に持って行きます」

大石内蔵助
「追手を出すぞ」

大野 群右衛門
「逃げます」

大石内蔵助
「・・・・」

      赤穂事件 侫姦の者 伊藤五右衛門



伊藤五右衛門 (家老に次ぐ番頭の地位にあり、430石)
「浅野因幡守は連座を懼れ無血開城を
本家広島藩は大石の籠城阻止を求めて来た」

大野九郎兵衛
「んんゥ」
「しかし、もう遅い・・」

大野群右衛門
「我ら親子は
早々に逃げる計画で御座る」
「一緒に逃げませぬか?」

伊藤五右衛門
「其方、大石が抗議の切腹を信じておるのか!」
「あれは、単なる脅し」
「脅しに屈する者は配分金も貰えず
不忠者として追放される」

大野九郎兵衛
「配分金は既に貰っておる」
「追手がかかっておる故
急いで逃げる必要が御座る」

大野群右衛門
「金は分捕った」

伊藤五右衛門
「おおォ」
「流石、九郎兵衛殿」
「では、因幡本家殿に参られよ」

大野九郎兵衛
「んんゥ」
「屋敷に女駕籠を手配したおるから
それより、船に乗り
因幡本家殿を頼ろう」

大野群右衛門
「本家は連座を懼れております
大石の計画は頓挫致します」

伊藤五右衛門
「今頃、其方の屋敷に追手か押しかけておるぞ」

大野九郎兵衛
「足軽頭原元辰と札座奉行岡島常樹の兄弟が
我らの命を狙っております」

大野群右衛門
「いずれ、此処にも押しかけて参りますぞ」

伊藤五右衛門
「よし」
「では」
「頃合いを見計らって脱出すれば良い」

大野九郎兵衛
「一緒に参られよ」

大野群右衛門
「ささっ」

伊藤五右衛門
「いや」
「儂が逃げる訳には参らん」
「此処で、あの兄弟の足止めをする故
裏口から逃げ為され」

大野九郎兵衛
「忝い(かたじけない)」

大野群右衛門
「ささっ」
「父上、ぼやぼやしておりましたら
捕まりますぞ」
「五右衛門も一緒に参りましょう」

伊藤五右衛門
「儂の心配は要らぬ」
「早く逃げ為され」

大野九郎兵衛
「忝い」

大野群右衛門
「父上、早く」

伊藤五右衛門
「後より伊藤東涯のもとで落ち合おう」

大野九郎兵衛
「承知した」

大野群右衛門
「父上!急ぎましょう!」

伊藤五右衛門
「後の事は任せておけ」



       赤穂事件 資金工作



伊藤五右衛門
「御子息主税殿が萩原兵助殿を襲撃しました」

大石内蔵助
「主税の仕業ではない」

伊藤五右衛門
「萩原兵助殿は襲撃を恐れ
我々に不信感を抱き
反撃しておりますぞ」

大石内蔵助
「それよりも、大野九郎兵衛じゃ」
「あ奴は、分配金を奪って逃げた」
「示しがつかん」

伊藤五右衛門
「逃げた者を追っても
如何にもなりません」
「今は、萩原兵助殿の事を
解決するのが先決に御座る」

大石内蔵助
「お主は、大野九郎兵衛を逃がしたのか!」

伊藤五右衛門
「何を仰せで御座います」
「某は、このように
筆頭殿に従っておりますぞ」

大石内蔵助
「んんゥ」
「赤穂藩士は不忠者の集まりか!」

伊藤五右衛門
「不忠者は追放するのが得策で御座る」
「忠臣が残れば良いでは御座いませんか!」

大石内蔵助
「資金不足なんじゃ・・」

伊藤五右衛門
「兵糧も武器も蓄えが御座いますぞ」
「籠城して抵抗するのに
資金など不要で御座る」

大石内蔵助
「馬鹿を申せ!」
「金が尽きれば
忠臣といえども離れてゆくぞ」
「幕府へ許しを乞うにも金が必用になる」
「大金が入れば幕府に働きかけて
浅野赤穂を救う事が出来る」

伊藤五右衛門
「筆頭殿は十分に資産をお持ちじゃ」

大石内蔵助
「何を申す!」
「金は多ければ多いほど良い」
「槍奉行(萩原兵助)を懲らしめて
あ奴の資産を奪い取る!」

伊藤五右衛門
「奉行は反撃しておりますぞ」
「和解為さいませ」

大石内蔵助
「いいや」
「和解などすれば示しがつかん」
「奉行の資産を没収して赤穂から追放する」

伊藤五右衛門
「主税殿は幕府打倒を叫んでおりますぞ」
「犬将軍が仇と呼んでおりますぞ」

大石内蔵助
「・・・・・・」
「それは、何かの間違い・・」
「吉良が仇じゃ」
「主の無念を晴らす事が
忠臣の証じゃぞ」

伊藤五右衛門
「では、籠城して戦う事は無いと仰せか?」

大石内蔵助
「全ては、大学様の決意次第じゃ!」

伊藤五右衛門
「城受取大名の軍勢が町に入りましたぞ」

大石内蔵助
「分かっておる」

伊藤五右衛門
「大名脇坂殿が城見分を要請しておりますぞ」

大石内蔵助
「分かっておる」

 
         赤穂事件 萩原兵助の怒り



萩原兵助 (150石取りの槍奉行)
「何で儂の屋敷が襲撃されんと為らんのか」
「儂が何をした」

伊藤五右衛門 (末席家老大野知房の弟(一説に甥)430石)
「萩原家は赤穂藩内でも有数の資産家で御座るから
資産を奪おうとする輩の犯行で御座ろう」

萩原兵助
「はぁぁァア」
「大石の息子が指揮しておったぞ」
「大石は儂よりも金を蓄えておる」

伊藤五右衛門
「其方が、筆頭(大石)に従わず
抗議の切腹を拒否為さる故で御座る」

萩原兵助
「はぁアア」
「儂は、金に困っておる藩士共に
金を貸しておるのじゃぞ」
「あ奴ら、金を借りた時には
涙を流して喜んでおった」
「その舌の根も乾かぬうちに
儂の屋敷に踏み込んで
狼藉の限りじゃ」

伊藤五右衛門
「筆頭にも金を工面しておるのか?」

萩原兵助
「大石の手下に違いない」

伊藤五右衛門
「んんゥ」
「では、如何しても抵抗為さると仰せかな?」

萩原兵助
「あァア」
「儂に何の罪がある!」

伊藤五右衛門
「筆頭は赤穂の復興 いや
もう再興と言うべきか・・」
「再興を望んでおられる」
「もはや、其方の資産など
たかだか知れておる」

萩原兵助
「我が家は破産するぞ!」

伊藤五右衛門
「赤穂は改易じゃ」
「其方も赤穂の禄を食んでおったのじゃろーが」
「萩原家の資産を
赤穂の為に使ったら如何じゃ!」

萩原兵助
「あのなァ」
「それは、変じゃぞ」
「我が家の資産を奪う権利があるのか!」

伊藤五右衛門
「浅野赤穂は全ての資産を放棄しましたぞ」

萩原兵助
「大石は例外か!」

伊藤五右衛門
「例外など御座らん」
「これから、赤穂の再興のために
多額の資金が必要となる
荻原家も資金供与すべきではないのかな」

萩原兵助
「あのなァ」
「儂から金を借りておった者は
借りた金も返さずに
更に金をふんだくろうとしたのじゃぞ」
「ああ、そうですかと言って
金を差し出すとでも御思いか!」

伊藤五右衛門
「しかし、赤穂の窮地じゃ」
「嫌な思いも御座ろうが
ここは、椀飯振舞なさいませ」

萩原兵助
「大野九郎兵衛は逃げたそうじゃのォ」
「其方が手引きしたのか」

伊藤五右衛門
「・・・・」
「左様」

萩原兵助
「裏切り行為じゃのォ」

伊藤五右衛門
「んんゥ」
「正直に申せば
儂も一緒に逃げたかった」

萩原兵助
「なァ」
「儂と協力せんか」
「御上に逆らっても勝ち目はないぞ」

伊藤五右衛門
「如何したものか・・」

萩原兵助
「なァ」
「儂は破産したくない」
「助けてくれ」

伊藤五右衛門
「んんゥ」
「ではな」
「手土産を用意しろ」

萩原兵助
「何を?」

伊藤五右衛門
「其方の屋敷に保管されている
大筒じゃ」
「主税は、その大筒を狙っておったのじゃ」

萩原兵助
「大筒を主税に渡せば良いのか?」

伊藤五右衛門
「いや、逆じゃ」
「もはや、籠城して徹底抗戦する事は
不可能な事態に追い込まれている」
「従って、最善策は
幕府側に手土産を渡す事ぢゃぞ!」

萩原兵助
「んんゥ」
「大石が怒るぞ」
「儂は、殺されるぞ」

伊藤五右衛門
「幕府側は大筒を欲しがっておる
大筒を手に入れる為には
金は惜しまん筈」
「ただで渡すことはないぞ
大金を巻き上げてやれ!」




萩原兵助
「では、儂と協力してくれ」
「儂を守ってくれ」

伊藤五右衛門
「承知した」


 
      赤穂事件 今井左次兵衛と原田貞右衛門




脇坂 安照 (故大老堀田正俊の兄安政の嫡子 城受取大名)
「兵部や軍大目付は
赤穂と戦になれば
我らには勝ち目は無いと申しておる」
「戦略を考えろ!」

脇坂玄蕃 (脇坂玄蕃安直 1500石脇坂家家老)
「あァのォ・・・」
「町の者共が我らに白い目を向けておりまして・・」

脇坂 安照
「気の所為じゃ」
「奴らが幕府に歯向かう事はない」
「そんな事よりも、大筒ぢゃ」
「大筒を手に入れるように申し付けておったが
如何為った」

脇坂玄蕃
「今井左次兵衛と原田貞右衛門が
大筒を手配できると申しております」

脇坂 安照
「よし、金に糸目はつけん」
「手に入れろ!」

脇坂玄蕃
「それが・・・」
「大筒は赤穂の奉行が手にしておりまして・・」

脇坂 安照
「何じゃと」
「手配できると申したではないか!」
「出来んのか!」

脇坂玄蕃
「いいえ・・・」
「実は、金が足りません・・・」

脇坂 安照
「金には糸目はつけん!」

脇坂玄蕃
「大筒二門で二百両を用意しましたが
その者は千両を要求しております」

脇坂 安照
「では、千両払えばよい」

脇坂玄蕃
「資金が御座いません」

脇坂 安照
「二百両は前金じゃ」
「後で八百両払うと申せ!」

脇坂玄蕃
「それが・・・」
「後払いは受け付けぬとの事で・・」

脇坂 安照
「あァア
千両ほどの金も用意できんのか!」
「情けない」

脇坂玄蕃
「では、諦めても宜しいか・・」

脇坂 安照
「駄目ぢゃ」
「売らぬのであれば
奪い取れ!」

脇坂玄蕃
「城受取の立場で御座る」
「奪い取る事は出来ません」
「奪えば、我らが咎めを受けます」

脇坂 安照
「如何すればよい」
「今井左次兵衛と原田貞右衛門は何と申しておる」

脇坂玄蕃
「赤穂城の受け取りで
兵糧やら鉄砲を売った資金を
誤魔化せばよいと・・・」

脇坂 安照
「はァア」
「そんな事ができるか!」
「戯けが!」

脇坂玄蕃
「いえいえ」
「赤穂の奉行を騙すのです」
「金が確実に入る公算があれば
後払いにも応じる筈だと・・」

脇坂 安照
「おおおォオ」
「騙すのか!」
「それならば良い」

脇坂玄蕃
「では、前払い二百両で
人質を渡して
大筒を手に入れます」

脇坂 安照
「何?」
「人質と申したか?」
「何じゃそれは?」

脇坂玄蕃
「はい、その者が申すには
基本としては後払いには応じないが
確固たる公算があり
人質を差し出すのであれば
後払いに応じる事も考えてやると
そのように申しておるそうで・・」

脇坂 安照
「はァア」
「その奉行は狸か!」
「儂をからかっておるのか!」

脇坂玄蕃
「しかし、千両が払えませんので
我らが妥協するのは
致し方御座いません」

脇坂 安照
「分かった」
「では、今井左次兵衛の母親と娘を差し出せ」

脇坂玄蕃
「その者が申すには
後払いがない場合には
人質は見せしめに殺すとの事で御座いますが・・」

脇坂 安照
「殺せばよい」

脇坂玄蕃
「・・・・・」
「今井左次兵衛が歯向かってきたら
如何致しますか?」

脇坂 安照
「始末する」

脇坂玄蕃
「今井左次兵衛と原田貞右衛門が
歯向かえば如何しますか?」

脇坂 安照
「まとめて、始末する」

脇坂玄蕃
「承知致しました」

脇坂 安照
「あァア」
「気分が悪い」
「赤穂めが猪口才な」

脇坂玄蕃
「では、早速・・」

          赤穂事件 美し過ぎる人質



萩原兵助
「八百両は後払いになっちまった」

伊藤五右衛門
「なんだって、こんな人質を拾ってきたんだ」

萩原兵助
「だってなァ」
「こんな美人の人質を差し出されたら
断れんかったのよ」

伊藤五右衛門
「今から断れ!」

萩原兵助
「あっ あのな」
「もう大筒は売っちまった・・」

伊藤五右衛門
「こんな女、足手纏いじゃぞ」

萩原兵助
「あっはは」
「そうかなァ・・」
「あっはは」

伊藤五右衛門
「んんゥ」
「如何したものか?」
「千両もあれば
大石を口説けると思うたが」
「二百両ばかしか・・」

萩原兵助
「もう、諦めて逃げよう」

伊藤五右衛門
「逃げたければ逃げれば良い」
「しかしな、その女を如何する?」

萩原兵助
「決まっておる」
「八百両と引き換えじゃ!」

伊藤五右衛門
「今払えんものは
後から払えるものか!」
「大筒を渡す前に
受け取る必要があったのじゃぞ」

萩原兵助
「あのなァ」
「よく見よ」
「このおなごは
八百両の価値があるとは思わんか」

伊藤五右衛門
「ない」
「捨てる価値もない」

萩原兵助
「儂は、かかあを追い出して
この女と所帯を持つぞ」

伊藤五右衛門
「後で泣きを見るぞ」

萩原兵助
「よいよい」
「儂は、泣いても良い」
「こんな、かかあが儂は欲しい」

伊藤五右衛門
「大筒を渡したからには
大石に殺されるぞ」

萩原兵助
「お前が計画した事じゃぞ」
「儂と協力すると申したではないか!」

伊藤五右衛門
「儂は、そんな女よりも
千両が欲しかった」
「大石を口説くには千両が必用じゃ」

萩原兵助
「なあ」
「逃げよう」

伊藤五右衛門
「ではな」
「代わりに、その女を大石にやろう」

萩原兵助
「はぁア」
「嫌じゃ」

伊藤五右衛門
「お主、大石に殺されるぞ」



 
          赤穂事件 主税を叱れ



大石内蔵助
「そのおなごは何じゃ?」

伊藤五右衛門
「それよりも、主税殿に御座る」
「主税殿を戒めなされ!」

大石内蔵助
「・・・・・」

伊藤五右衛門
「主税殿が萩原兵助を討とうとして
屋敷を襲っておりますぞ!」

大石内蔵助
「萩原兵助は、大砲2門を
城受け取りの正使龍野藩主脇坂安照に売り飛ばした」
「奴の売国行為じゃ」

伊藤五右衛門
「浅野本家は連座を恐れ
大学様は無血開城を望まれた」
「もう、籠城は不可能で御座る」

大石内蔵助
「大筒は必要じゃぞ!」

伊藤五右衛門
「いいえ」
「城に大筒を持ち込めば
幕府の取り決め違反行為で御座る
城に大筒が有る事が、見分で見つかれば
武器の報告義務違反となります」
「我らは大きな罪を犯す事になります」

大石内蔵助
「だから、奉行の萩原兵助に管理させておったのじゃ」
「それを敵方に売り飛ばしたのじゃぞ!」
「主税が怒るのも無理はない」

伊藤五右衛門
「もう、売ってしまった事
諦めなされ」
「大筒もない」
「大学様も幕府に逆らうなと申された」
「本家の助けも絶たれたのですぞ
幕府に抵抗しては為りません」

大石内蔵助
「じゃがな」
「萩原兵助は許せんぞ!」
「示しが付かん!」

伊藤五右衛門
「如何しますか?」

大石内蔵助
「処罰する」

伊藤五右衛門
「左様か・・」

大石内蔵助
「あのおなごは何故此処にいる」

伊藤五右衛門
「あれは、人質に御座る」

大石内蔵助
「何の人質じゃ?」

伊藤五右衛門
「八百両の人質に御座る」
「大筒は前金二百両を受け取り
残りの八百両は、人質と交換する事を条件に
後払いとしている」

大石内蔵助
「城を明け渡した後では
大筒には価値はないぞ」
「八百両は踏み倒される」
「このおなごは
如何するつもりじゃ」

伊藤五右衛門
「踏み倒せば人質を殺す」

大石内蔵助
「おい」
「其方、名を何と申す」


「花紫と・・」

伊藤五右衛門
「なんという名じゃ」
「花魁か?」

大石内蔵助
「花紫」
「其方の命は儂が預かった」
「其方、逃げてもよいぞ」

女紫
「逃げる事は出来ません」

伊藤五右衛門
「内蔵助殿」
「この女は人質で御座る
逃げ帰れば、大筒を返せと言われかねん」
「この女は、その使命を受けておる」
「今は、あの者達には大筒が必用なのじゃ」
「しかし、城が明け渡されれば
この女は黙っていても逃げますぞ」

大石内蔵助
「花紫」
「如何じゃ?」

花紫
「花紫は八百両の人質で御座います」
「八百両を用意出来ぬ上は
逃げ帰る事は出来ません」

伊藤五右衛門
「内蔵助殿」
「このおなごは
大筒の見返りですぞ
今は、奉行の萩原兵助の女」
「内蔵助殿のおなごでは御座らん」

大石内蔵助
「分かっておる・・」

伊藤五右衛門
「主税殿を戒め」
「奉行を許すのです」

大石内蔵助
「そうじゃの」

伊藤五右衛門
「では、無血開城を進めますぞ」

大石内蔵助
「そうじゃな」

伊藤五右衛門
「では」「左様に・・」