アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

赤穂事件 一億両の借款

2023-01-14 11:50:21 | 漫画
           赤穂事件 花紫



萩原兵助
「もう浅野赤穂は改易になったのぢゃぞ」
「主は切腹したのぢゃぞ!」
「これ以上、御上に盾突く事はあるまいに」

大石内蔵助
「言いたい事はそれだけか」

萩原兵助
「はァア」
「儂から何もかも奪い取って
儂は破産ぢゃぞ」
「内蔵助殿は破産したんか!」

大石内蔵助
「其方が、
大砲2門を、龍野藩主脇坂安照に
売り飛ばしたからだ」

萩原兵助
「主税殿が儂の屋敷を襲ったのだ」
「よく考えてみなされ」
「城に大筒があれば
城受取目付に言い訳ができませんぞ」

大石内蔵助
「龍野藩主脇坂安照は
籠城する場合は敵軍となる相手であるぞ」
「お主の行為は売国行為じゃ」
「お主は家中より批判を集めておるのじゃぞ」
「・・・・」
「実はな、其方を討とうという計画もあるのだ」

萩原兵助
「内蔵助殿は抗議の切腹をすると申しておったが
何時になったら切腹為さる」

大石内蔵助
「籠城して戦おうとする忠臣もおる」
「逃げて、主の恩を忘れた不忠者もおる」
「浅野赤穂の家中は
主の為に切腹して抗議する忠義の者を残す」
「切腹は忠義の証じゃぞ」

萩原兵助
「では、直ぐにでも
切腹なされよ」

大石内蔵助
「それは出来ん」
「其方のような不忠者を残して切腹すれば
家中は不忠者だけが残ってしまう」

萩原兵助
「では、御上に盾突き
籠城して戦えばよい」

大石内蔵助
「大筒を失えば、我らは降参じゃ」

萩原兵助
「では、素直に城の明け渡しに応じなされ」

大石内蔵助
「しかしな、
大筒を失ったのは其方の責任じゃぞ」
「忠義の者共は許さんじゃろう」

萩原兵助
「儂を殺しても
何も得はあるまいに」

大石内蔵助
「儂は其方を助けようと思っておるのだ」

萩原兵助
「おおぉ」
「助けてくれるか?」

大石内蔵助
「ただし条件がある」
「花紫を儂にくれ」

萩原兵助
「何だと!」
「儂から何もかも奪ってからに
花紫まで奪うつもりか!」

大石内蔵助
「嫌なら別に構わぬぞ」

萩原兵助
「断れば如何する?」

大石内蔵助
「儂は、其方を救いたいのじゃが
家中忠義の者共は熱り立っておる」
「その者共は何をするか分からんぞ」

萩原兵助
「それは、花紫とは関係ない事ぢゃ」
「内蔵助殿が制したらよい事ぢゃ」

大石内蔵助
「いやいや」
「誤解為さるな」
「花紫は八百両の人質じゃ」
「八百両は
忠義の者に支払う分配金じゃぞ」

萩原兵助
「納得できん!」

大石内蔵助
「悪いことは申さぬ」
「花紫は手放す事じゃ」
「手放せば、其方の命を奪いはせぬ」

萩原兵助
「嫌じゃ、嫌じゃ」

大石内蔵助
「命を取るか
花紫を取るか」
「何方か一方を選びなされ」

萩原兵助
「何方を選んでも
花紫は内蔵助が手に入れる」

大石内蔵助
「誤解するな」
「花紫は八百両の人質じゃ」
「儂が手に入れるのではない」
「分配金じゃぞ」

萩原兵助
「嫌じゃ」

大石内蔵助
「選ぶのです」

 
          赤穂事件 手違い



荒木十左衛門 (城受取目付)
「扶持方証文は幕府代官に
持たせるように為されよ」

脇坂 安照 (城受取大名)
「浅野赤穂は籠城の構えで御座る故
扶持方だけでは足りませぬ」
「幕府に追加の軍資金をお願いしたい」

荒木十左衛門 
「詳しき使い道を教えて欲しい」

脇坂 安照 
「大筒二門を千両で購入致しました」

荒木十左衛門 
「浅野赤穂が籠城とあらば致し方御座らぬ」
「直ちに、担当の老中に書状を送ろう」

脇坂 安照 
「ありがとう御座いまする
感謝申し上げます」

荒木十左衛門 
「浅野赤穂が籠城したとして
大筒を持って
勝てる見込みはあるのかな?」

脇坂 安照 
「赤穂城は堅固で
鉄砲櫓が四方八方あらゆる方向から
我らを狙い撃ち出来るように
配置されております」
「城堀も深く
安易に近づく事も出来ません」

荒木十左衛門 
「大筒も城までは届かぬのではないか?」

脇坂 安照 
「御恥ずかしながら
まだ、試し打ちはしておりません」

荒木十左衛門 
「おいおい」
「その大筒は、
本当に使えるのか?」

脇坂 安照
「今井左次兵衛は
大筒を実際に使ってみたと申しておりました」
「原田貞右衛門にも確認させております」

荒木十左衛門 
「では、実際に使えるか如何か
直ぐにでも確かめねば為らぬな」
「幕府への軍資金要請は
その後じゃぞ」

脇坂 安照
「承知致しました」
「では、直ぐにでも
大筒で砲弾を赤穂城めがけて発射致します」
 
荒木十左衛門 
「いやいや」
「城に試し打ちは為らぬ」

脇坂 安照 
「脅しに御座る」

荒木十左衛門 
「脅すのであれば
順序が御座ろう」
「其方が軍勢で
城の外堀を取り囲み
かがり火を焚いて」
「牽制なされよ」

脇坂 安照
「何もせずに傍観で御座るか?」
 
荒木十左衛門 
「左様」
「もしも、赤穂が籠城すれば
大筒で脅せばよい」

脇坂 安照 
「承知した」

荒木十左衛門 
「ところで、
花紫という名のおなごが
人質になっておると聞いたが?」

脇坂 安照 
「花紫は偽名で御座る」
「それは、今井左次兵衛の妻で
名は何と申したか?」

荒木十左衛門 
「なにやら、赤穂城で騒ぎになっておるぞ」

脇坂 安照 
「さァ?」
「今井左次兵衛の妻の名は おかち?」
「おかちめんこ?」
「騒ぎになるようなおなごでは御座いません」

荒木十左衛門
「んんゥ」
「しかしなァ」
「其方の家臣が
花紫は絶世の美女だと申しておったぞ」
「何か手違いがあったのではないのか?」

          赤穂事件 火消し



原惣右衛門
「町に不審火が御座るぞ」

大石 内蔵助
「それは、町民の幕府に対する抗議じゃ」

原惣右衛門
「龍野の脇坂は火消しをせんぞ!」

大石 内蔵助
「んんゥ」
「其方が行って
火消しをしろ」

原惣右衛門
「早く、火消しをせねば為らぬが
儂が外れれば
城の守りが薄くなる」

大石 内蔵助
「城の守りは堅固
按ずる事はない」

原惣右衛門
「ああァ」
「それから、龍野の脇坂の家来で
今井左次兵衛と申す者が
人質の交換をしたいと言って来た」
「何の事じゃ?」

大石 内蔵助
「花紫の事であろう」
「花紫は八百両のカタに人質になっておる」

原惣右衛門
「いやいや」
「金と交換では御座らん」
「その花紫とかの人質を
返して欲しいと申しておった」
「代わりに、
今井左次兵衛 自らが人質になるそうじゃ」

大石 内蔵助
「その人質交換には応じる事は出来ん」
「返して欲しけば
金を払へと申し付けよ!」

原惣右衛門
「承知した」
「しかし、八百両たァ~」
「ふんだくりが過ぎやしまいか?」
「もっとまけてやったら如何でさァー」
「そんなに、払えんぞ」

大石 内蔵助
「金は多ければ多い程よい」
「幕府への工作資金と
忠義の者共への分配金
それから、藩券の整理も残っておる」

原惣右衛門
「籠城して戦うのであれば
藩券なんぞ全て踏み倒せば
よいではないか」

大石 内蔵助
「それは、出来ん」
「我らが、支持を受けておるのは
正義があるからじゃ」
「不正が発覚すれば
支持は失われる」

原惣右衛門
「しかしなァ」
「籠城して戦うにしても
金は必要じゃぞ」
「金が尽きれば降参じゃぞ」

大石 内蔵助
「其方は火消しを頼む」
「領民の支持は
我らの微かな望み」
「幕府の横暴に
諸国は耐えておるが
もう限界に近付いておるぞ」
「我らが、主への忠義を果たす事を
切っ掛けにして
幕府への抗議が起こる」
「その時、我らの籠城が正当化されるのじゃ」

原惣右衛門
「左様か」
「まァ」
「すきにすればいい」
「儂は、火消しに行って来る」

大石 内蔵助
「頼むぞ」


 
        赤穂事件 危うい大出世



大石 内蔵助 
「今、原惣右衛門を火消しに出しておる」
「よって、城には足軽頭が不在じゃ」

寺坂吉右衛門 (赤穂藩の足軽)
「拙者は、火消しには呼ばれておりません」

大石 内蔵助
「其方、
主税から、足軽大将に推薦されておるようじゃな」

寺坂吉右衛門
「如何にも」
「主税殿より直接申し付かりました」

大石 内蔵助
「今、城には、足軽頭が不在じゃ」
「従って、原惣右衛門を追い出せば
其方が足軽大将じゃぞ」

寺坂吉右衛門
「滅相も御座いませぬ」
「原惣右衛門殿を差し置き
左様な抜擢は迷惑に御座る」
「御断り致す!」

大石 内蔵助
「左様か」
「・・」
「主税が、この儂を城から追い出せば
主税がこの城の主となる」
「主税が主であれば
其方は主に従うか?」

寺坂吉右衛門
「拙者は、太傅殿を追い出す者を主とは認めませぬ!」
「これは、主税殿を蔑ろにする事でも御座らぬ」

大石 内蔵助
「んんゥ」
「実はな、備前岡山の池田綱政の家来二名が
見舞と申して無血開城を求めて来た」
「大筒は奪われ」
「大学様も開城を求めてきた」
「・・」
「もう、籠城は限界になったのだ」
「城受取大名 龍野の脇坂の軍勢と
備中足守藩藩主・木下公定率いる収城軍に
我が城は完全に包囲された」
「籠城するのであれば
儂を城から追い出して
主税を主として戦え」

寺坂吉右衛門
「命令で御座いますか?」

大石 内蔵助
「命令ではない」
「其方が選べばよい事じゃ」

寺坂吉右衛門
「では、拙者は籠城を諦め幕府に降伏致します」

大石 内蔵助
「よし」
「承知した」
「主税には
其方から申し伝へよ」

寺坂吉右衛門
「拙者、足軽の身で御座る故
主税殿に開城を勧める事は憚れます」

大石 内蔵助
「なになに」
「主税が其方を足軽大将にすると申したのじゃぞ」
「主税にとっては
其方が足軽大将じゃ」
「遠慮はいらん」

寺坂吉右衛門
「やはり、
太傅殿が直接に申し渡してくだされ」
「拙者には出来ません」

大石 内蔵助
「左様か」
「其方は、主税を如何思う?」

寺坂吉右衛門
「主税殿は
某を信頼して重要なる務めを与えて下さり
この苦境のおりにも
引き続き、
3両2分2人扶持の支給を賜っております」
「更には、足軽大将に抜擢して下さりました」
「期待に応えたいと思っております」

大石 内蔵助
「主税は怖いもの知らずで
自信に満ち、無鉄砲で、何物をも恐れない
本気で幕府と戦おうとしておる」
「儂が無血開城を宣言したら
大騒ぎするぞ」
「忠臣共が動揺する」
「・・・」
「其方は、主税を城から連れ出して
火消しの手伝いに向かってくれんか」
「その間に、城見分を許す」

寺坂吉右衛門
「開城、決定で御座るか?」

大石 内蔵助
「籠城は限界じゃ」

寺坂吉右衛門
「では、城受取大名に降伏為さいますか?」

大石 内蔵助
「いや」
「儂にも意地がある」
「城受取大名の見分は許さん」

寺坂吉右衛門
「如何為さいます?」

大石 内蔵助
「城受取大名は我らの敵じゃ」
「・・・」
「我らは、幕府に許しを乞い
大学様を立てて
赤穂の再興を懇願する必要がある」
「懇願する相手は幕府じゃぞ」
「主税が仇と呼ぶ幕府に、懇願するのじゃぞ」

寺坂吉右衛門
「はい」

大石 内蔵助
「よいか」
「城受取大名は我らの敵じゃぞ」
「我らが、懇願する相手は
幕府の目付 荒木十左衛門じゃ」
「其方は、火消しに向かい
幕府の目付 荒木十左衛門の動向を探れ」

寺坂吉右衛門
「御意」

大石 内蔵助
「目付を取り込むことが出来れば
赤穂の再興も夢ではない」

寺坂吉右衛門
「目付を味方に付けますか?」

大石 内蔵助
「おそらく、無理じゃ」
「しかしな、今は無理でも
我らの誠意を示す必要はある」
「幕府も、赤穂の忠義を蔑ろには出来ん筈」
「誠心誠意の懇願が必用なのだ」

寺坂吉右衛門
「御意」

大石 内蔵助
「よし、行け!」

寺坂吉右衛門
「はッ」

 
      赤穂事件 赤穂城の刈り取り



4月18日、荒木らが赤穂に到着すると、良雄自身も浅野家再興と吉良義央処分について3度の嘆願を行っている。こうした良雄の努力もあって荒木個人の協力は得られたようで、江戸帰還後に荒木は老中にその旨を伝えている。翌日4月19日、隣国龍野藩藩主・脇坂安照と備中足守藩藩主・木下公定率いる収城軍に赤穂城を明け渡した。
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4月15日
城(龍野城)にて、脇坂安照が御供の面々を一同に召し出し、この度、
赤穂城受け取りを(将軍綱吉から)命じられたことを直々に申し聞か
せた。そして、御墨印(=将軍綱吉が出した黒印状)の写しを、横田
十兵衛が御前にて読み皆が拝聴した。
元禄14年の脇坂家による播磨国赤穂城在番について

-播磨国龍野藩家老脇坂民部の赤穂城在番日記の分析より-
白峰 旬

4月15日
御墨印(=将軍綱吉が出した黒印状)は、(本来は)脇坂安照に渡さ
れるはずのところ、(脇坂安照が)龍野へ立ち寄り、2、3日準備を
するので(江戸から直接赤穂へ行く)木下公定に渡された。
元禄14年の脇坂家による播磨国赤穂城在番について

-播磨国龍野藩家老脇坂民部の赤穂城在番日記の分析より-
白峰 旬

4月15日の時点で脇坂安照は
御墨印の写しを確認しただけで
本状は木下公定に渡されたと記載されている。


4月18日夜
脇坂安照は床机に腰掛けて、(脇坂家の)総勢は(一晩)立ち明かした。
(赤穂城在番日記21頁)

4月19日
卯の刻(午前6時頃)に代官・石原新左衛門、岡田庄太夫が大手門前
に来て、脇坂安照に一礼して大手冠木門の内まで入ったが、目付の指
図がないうちは、(大手)門は開けないと(大手門の)番人(浅野家
家臣ヵ)が断ったので、大手門前でしばらく控えていた。
(赤穂城在番日記21頁)




4月19日
卯の刻(午前6時頃)に目付・荒木十左衛門が町宿を出て、大手前に
来て、脇坂安照に一礼して、大手門を開かせて、代官(2人)を同道
して入城した。そして、目付・荒木十左衛門より脇坂安照に対して大
手門を(家臣に)受け取らせるようにと使者があった。受け取りの(脇
坂家の)役人は、番所を受け取り武器と幕等を飾った。目付・荒木十
左衛門の指図により、脇坂安照は馬にて入城し、広庭まで来た。
(赤穂城在番日記21頁)

4月19日
城の口々を首尾よく受け取った御祝儀として、熨斗が出て、二汁五菜
の料理とお茶も出た。その後、木下公定が受け取った所々を脇坂安照
が受け取った。
※木下公定が受け取った所々を脇坂安照が受け取ったのは、脇坂安照
が在番も担当するためであろう。
御墨印(=将軍綱吉が出した黒印状)を脇坂安照、木下公定が立ち会
いのうえ、目付へ渡した。
(赤穂城在番日記22頁)

4月19日
午の刻(昼の12時頃)に目付・荒木十左衛門、榊原采女、代官・石原
新左衛門、岡田庄太夫が同道にて町宿へ帰った。
(赤穂城在番日記22頁)

御墨印本状はその日のうちに隠すように持ち去られている。
脇坂安照が確認したのは御墨印の写しであり本状ではないと思われる。

4月19日
御墨印(=将軍綱吉が出した黒印状)は小さい箱に入れ、御書院より
目付・荒木十左衛門が持参して門外にて(荒木十左衛門の)家臣に渡
した。それ以後、脇坂安照、木下公定が連名の書状(赤穂城の受け取
りが無事終了したことを報告する老中宛の注進状と思われる)を認め
て、同刻(午の刻〔昼の12時頃〕)に木下公定が退出し、二の丸を見
分した。そして、西仕切門よりまわり塩屋口門へ出て、備中足守へむ
けて発駕した。当日は、有年村まで引き取った。
(赤穂城在番日記23頁)



        赤穂事件 一億両の借款 
  


脇坂玄蕃
「心中お察し致す」

大石 内蔵助
「浅野家中、無骨者揃いでな
脇坂殿と戦に為らず安堵した」

脇坂玄蕃
「城も明け渡され
大筒も不要になり申した」
「人質になっております
花紫を返して頂けませぬか?」

大石 内蔵助
「あいにく、花紫は
萩原兵助が連れて行った」
「此処にはおらぬ」

脇坂玄蕃
「しかし、返さぬとあらば
抵抗に御座る」
「無血開城に背く事になりますぞ」

大石 内蔵助
「んんゥ」
「儂は、花紫に逃げるように申し付けた」
「しかしな、
あのおなごは気丈であった」
「八百両のカタの人質であるからと申してな」
「健気 殊勝、心がけが立派なおなごであった」

脇坂玄蕃
「如何すればよいか?」
「・・・・」
「んんゥ」
「致し方ない」
「八百両用意しよう」

大石 内蔵助
「左様か」
「しかしな、
萩原兵助は家中より追い出しておる故
難儀じゃぞ」
「萩原兵助が申しておったが
八百両が用意出来ぬ場合の条件として
人質の命と引き換えとなっておると」
「八百両を見せねば
花紫を取り戻すのは困難じゃ」
「萩原兵助は用心深い奴でな
約束だけでは無理じゃ」
「現物を用意して欲しい」

脇坂玄蕃
「赤穂城の兵糧や、鉄砲、長柄槍、一匁玉
全て商人に売り払う故」
「その収入を充てる」
「これであれば如何じゃ」

大石 内蔵助
「それは、無理じゃぞ」
「儂も、城の受け取りを幕府から任された事が御座る」
「幕府に誤魔化しは効きませんぞ」

脇坂玄蕃
「・・・・・」
「萩原兵助は何処におる?」

大石 内蔵助
「所在は知れぬ」
「分かれば、お知らせ致そう」

脇坂玄蕃
「んんんゥ・・・
八百両が用意出来ぬとは情けない事じゃ・・・」

大石 内蔵助
「赤穂城の資産は幕府のものとなったのじゃから
城受取担当の老中に請求すれば如何か?」

脇坂玄蕃
「そんな事が出来るのか?」

大石 内蔵助
「玄播殿の殿様は、請求しておる筈じゃ」

脇坂玄蕃
「そうかも知れぬが
八百両は他の使い道となる・・・」

大石 内蔵助
「大金じゃからな
人質交換に使うには大金過ぎる・・・」

脇坂玄蕃
「幕府も資金不足であると聞く」

大石 内蔵助
「資金不足故に
浅野家を改易として
資産を没収したのじゃぞ」

脇坂玄蕃
「幕府が・・・」
「赤穂城の資産はどれ程あるのか?」

大石 内蔵助
「多くの蓄えが御座る」
「しかしな、
そんなものは知れておる」
「幕府はな、
元締めより一億両の借款があるのじゃぞ」

脇坂玄蕃
「嘘を申せ!」

大石 内蔵助
「儂も、信じられんかったが
真じゃ」
「但し、その借款は諸大名に貸し出され
焦げ付いて回収不能じゃ」

脇坂玄蕃
「一億両とな?」
「そんなに金子が有るのか?」

大石 内蔵助
「なになに」
「紙切れじゃ」
「紙に書いた一億両じゃ」

脇坂玄蕃
「んんゥウ」
「冗談を申すか!」

大石 内蔵助
「いやいや」
「冗談では御座らぬ」
「我らも藩券を出しておろうが」
「元締めは米券じゃ」
「米券は現物の米と交換出来る」

脇坂玄蕃
「では、紙切れでは御座らぬ」

大石 内蔵助
「左様」
「紙切れではあるが
一億両の金子と同じ価値がある」

脇坂玄蕃
「その元締めとは何処で御座る?」

大石 内蔵助
「淀屋じゃ」
「今や淀屋の資産は一億両を上回る」

脇坂玄蕃
「しかし、
淀屋が左様に悪どく儲けておるのなら
大名を改易するのではなく
淀屋を潰せば良いのではないのか?」

大石 内蔵助
「淀屋は幕府に寺社寄付金を出しておる」
「莫大な金じゃぞ」
「それから、淀屋は簡単に潰せる相手ではない」
「淀屋を潰せば、上方の貿易が混乱をきたして
朝廷の怒りを買う事になるからな」
「幕府は、淀屋を最大限に利用しておるのぢゃ」