「こうしたい」と「つくる」の間に 一級建築士事務所アーク・ライフのブログ

東京都町田市の一級建築士事務所アーク・ライフです。住まい手の「こうしたい」と「つくる」の間で要望を共有し一緒に考えます。

制振ダンパー、何を使えばよいか

2019-07-31 23:06:57 | 耐震性能
先日、制振ダンパーの実験を見学してから、制振ダンパーのことが頭から離れません。

木造住宅を新築する時、住まい手の方に制振ダンパーを勧めた方がよいのかどうか、勧めるなら何を勧めるべきか考えています。

というのも、現状では木造住宅の新築に制振ダンパーを採用するうえでの業界共通の基準がなく、制振ダンパーを製造している各社が、自社製品の良いところだけを宣伝しあっているような状態だからです。良心的な製品もある一方、効果が疑問視されるような製品もあるようです。

そこで数値的な比較の前に、業界の専門書にはどう書いてあるかを確認しました。
日本建築学会発行『木質構造基礎理論』には定性的な表現ではありますが、制振について書かれている部分があります。

そこには、木造で用いられる制振ダンパーが3種類+αに分類され、それぞれの特徴などが書かれています。



その概要は

(1)筋かい型
多く用いられるが、変形が少し進んでからでないと効き始めにくい

(2)シアリンク型、間柱型
変形がそれほど進まないうちに効き始められる

(3)方杖型
壁の四隅の固定具合によって効くかどうかの影響を受ける

ということのようです。
一番良いのは(2)のシアリンク型、間柱型のように見えますが、シアリンク型、間柱型はだいたい現場搬入時の梱包が大きく、値段が高そうです。
住宅の中にどれくらいの量の制振ダンパーを設けるかでも効き具合が違うので、梱包がそれほど大きくなく、コストも抑えられやすい(1)の筋かい型を採用するのも一つの手かもしれません。

(3)の方杖型は、壁の四隅の固定具合が純粋なピンで、柱や梁が方杖型のダンパーに押されても全く変形しないのであれば良いのかもしれませんが、なかなか実情はそのような理想状態ではないように思います。


それ以外の判断基準としては、実物大の壁や建物モデルに設置した実験を行い、その結果が公開されているかなどが参考になると思います。

なかなか部材毎に数値的な比較ができないのですが、参考にしていただければと思います。




梅雨が終わったところで、雨漏り調査のお話し

2019-07-30 14:39:58 | 雨漏り
やっと梅雨明けしたかと思えば次は猛暑となりました。娘の小学校でも梅雨が長引き水泳の授業がなかなかできず、梅雨明け後は熱中症の危険有りということでまたしても夏休み中のプール授業も中止と、気候に翻弄されているようです。

そんないつもより長い梅雨でしたが、5月から頂いていた雨漏り相談の解決には役に立ってくれました(?)。

20年近く前にリフォームをお手伝いさせていただいた住宅の住まい手様からお電話を頂き、その後他業者で別の箇所をリフォームしたところ雨漏りが発生、何度も対応に来てもらっているが再発し、解決していないとのこと。
雨漏りしてくるのは1階の台所の出窓、北側から雨が吹き付けた時に出窓の枠からポタポタと水が垂れてくるとのことでした。

連休明けに訪問させていただき、有償対応となること、大工さんに入ってもらって室内を部分的に解体することを説明しご了承頂いたので原因確認の調査を開始しました。

雨漏り調査は以下のような手順で進めることにしました。
壁を室内から部分的に取り外し、壁の中に入ってきた水がすぐに見えるようにした上で、台所の出窓のすぐ上から水をかけ始め、徐々に水をかける場所を上に移動させていきます。
壁を部分的に取り外した部分から水が見えたところで水かけ中止、その時に水をかけた場所を更に重点的に調べる事にします。



(1)調査1回目
雨漏りしてくる1階の台所の出窓の上、換気扇の覆いを取り外して壁のボードを開けました。
その上で外から水をかけます。かける順番は、始めは出窓のすぐ上、それから徐々に水をかける場所を上に移動させていきます。
台所の窓の直上の2階の窓の隅に水をかけたところで、壁の中に水が垂れてくるのを確認しました。



この段階で、2階の窓の隅が雨漏りの原因と推測できましたので、水かけテストの水が乾いた段階でその部分にコーキングを施こして、再度水かけテストをすることになりました。

(2)再度の雨漏り




その後、2階の窓廻りのコーキングをする前に雨が降り、台所出窓から雨が漏ってきたということで訪問。
さらに壁を取り外す範囲を大きくして雨漏りの様子を確認することになりました。

(3)調査2回目



雨漏りしてくる1階台所の出窓上、食器乾燥機を取外し、壁のボードを開けました。



同時に、2階の窓下も壁を開け、水が壁の中に入ったらすぐにわかるように準備しました。



すると、2階の窓下の壁を開けた箇所には、白蟻の食害痕もありました。
雨漏りで木材が濡れていた痕などもあり、2階窓廻りが雨漏りの原因ではないかと、住まい手様、大工さん、私達の確信が深まりました。

水かけは1階の台所の窓上から開始、徐々に水をかける場所を上に移動させました。
室内では、1階台所と、2階窓下の2か所で壁の中に水が垂れてこないかを待ち構えました。




…すると今回も、2階の窓廻りに水をかけたところで壁の中に水が垂れてきました。

(4)2階の窓廻りのコーキング実施
2回の調査と雨漏りの様子を受け、2階の窓廻りにコーキングをすることにしました。
晴天が続き、コーキング施工に問題が無くなった段階で2階の窓廻りにコーキングを施工しました。

(5)調査3回目
2回目の雨漏り調査の後、白蟻防除業者のアドバイスもあり、2階の窓廻りの壁のボードを開ける部分を増やすことになりました。



その上で水かけすると…
今回も、2階の窓廻りに水をかけたところで壁の中に水が垂れてきました。



大工さんも、「しっかりコーキングを施したのだけど…」と釈然としない様子。
2階窓廻りを良く見ると、窓の隅からひび割れが伸びているのが見つかりました。
そのひび割れをカッターでほじってみると削れること削れること、どうやらこの部分は大きなモルタルのひび割れをコーキングで埋め、その上に塗装をかけてあったようでした。



ひび割れをむき出しにしてドライヤーで乾かし、プライマー、コーキングと施工してから再度水かけすると…
見事、今回は雨漏りしませんでした。

とはいえこれは応急手当。シールが劣化したり、ひび割れたりすれば再度雨漏りすることが予想され、根本的な雨漏り改善とはいえません。それでも、今のお住まいに何年住むかということを考え、このような弱点を定期的に確認するというのも、お住まいになる方のご了解の上ではありますが、一つの対応方法かと思います。今回はこの状態である程度様子を見たうえで、弱点については外壁塗装の際にUカットシールを施して対応するということになりそうです。

その後、北側から吹付けるような雨は降っていませんが、この長い梅雨の中では雨漏りは再現していないとのことです。
一応、今回の長梅雨によるテストは合格(?)でしょうか。

長い梅雨と並行するような、長い雨漏り調査になりましたが、無事、雨漏り調査で原因を把握し、住まい手様のご事情に合わせた対応もさせていただくことが出来ました。
お困りの雨漏りについて、弊事務所を信頼して頂き、調査にご協力頂いたO様、何度も雨漏り調査に協力していただき、沢山の引き出しの中から様々な提案をして下さったM建築M棟梁様ありがとうございました。

制振ダンパーの実験を見学しました

2019-07-25 17:17:08 | 耐震性能


昨日は、株式会社ソイルぺディア様主催、埼玉県川口市のアイディールブレーン株式会社様の技術研究所で行われた制振ダンパーの実験を見学してきました。

制振ダンパーとは、木造住宅の耐震壁の他に設ける、地震の揺れを吸収する装置です。木造住宅の壁に適切に配置することで、大地震による被害を軽減する目的で使用されます。
様々なメーカーが様々な製品を出していますが、業界共通の技術基準はまだ整備されていなくて、メーカーごとにこだわりのポイントが異なっているのが現状です。設計者からすると効果はあるかもしれないが、どの程度効果があるか建て主様にはお伝えしづらい、採用まで踏込みづらい製品です。

今回の実験では、耐震パネルや構造用合板耐力壁と制振ダンパーを併用した高さ2.8m、幅0.9mの壁を横から押し引きして、制振ダンパーの効果を見るものでした。

実験はまず、耐震パネル単体の壁を押引きするところから始まりました。実験では、耐震パネルを張った壁を押引きしますが、押し引きのストロークをはじめは小さく、徐々に大きくしていって、最後は壊れる寸前のストロークで押引きします。ストロークを徐々に大きくすることで、壁がどれくらい押されたときに、どれだけの強さを発揮するかを連続的に把握することができます。

耐震パネルの壁の実験では、ある程度までは強さが大きくなっていきますが、押し引きのストロークが大きくなるとミシッ、バキッという音がして隅が欠けたり、耐震パネルを留めつけている釘からパネルが浮いたりして、徐々に強さが落ちていきます。最後はほぼ完全に釘からパネルが浮くような状態になっていました。



次に、耐震パネルと制振ダンパーを組み合わせた壁の実験です。制振ダンパーと組み合わせることで、同じストロークでも、大きな力に耐えることができるようになります。また、目視では分かりにくいですが、押し引きの動きに対して抵抗するような挙動をして、柱や梁などのミシミシ音が幾分押さえられているような感じがしました。



実際にグラフでみると、楕円に近い形の制振ダンパーの効果を発揮していることを示すグラフになっていました。



最後に、構造用合板耐力壁と制振ダンパーを組み合わせた壁の実験です。耐震パネルよりも構造用合板耐力壁が強いようで、同じストロークでもさらに大きな力に耐えています。



その分、制振ダンパーの効果は発揮しにくくなるようで、耐震パネル+制振ダンパーのグラフよりも少し細長く、くびれのあるような楕円のグラフになっていました。

そのあたりのことを実験を担当したN様に質問したところ、制振ダンパーを強い壁と組み合わせたほうが、効果は発揮しにくくなるとのことでした。実際の建物の中に制振ダンパーを設置した場合は、制振ダンパー以外の壁が多い方が、効果はその分発揮しにくくなるということで、制振の効果を発揮するためにはある程度の量のダンパーを設置する必要があるそうです。また製品によって効果を発揮しやすいもの、発揮しにくいものがあります。制振ダンパーはただ取り付ければよいというわけではなく、きちんとした裏付けと適切な配慮のもとに取り付ける必要があるものということが再確認できました。

住まいの耐震性については、地盤や基礎、構造計画がしっかりしていることが大前提です。その上で制振ダンパーを採用する事で揺れを小さくしたり、建物の損傷を押さえる事ができるのであれば採用するのも悪くないと考えます。

住まいの耐震性について悩まれている方がいらしたらお気軽にご相談ください。
そのあたりも含めてお話しできます。



構造用合板耐力壁の実験途中の様子。合板の隅から浮きはじめています。