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側弯症(側わん症/側湾症/そくわん)治療に関する資料と情報を発信するためのブログです

(追記 後わんの要素) 手術を受けるタイミングについて

2007-12-12 00:06:52 | 側弯症手術について
(オリジナルは2007年12月1日記載。12月11日に追記しました)

コブ角については、説明するまでもなくご理解されていると思います。
45度~50度以上のわん曲になったら手術を考慮する、ということは多くの資料
に記載されています。
今日、新しい文献 「Clinical and Radiographic Results after implant
Removal in Idiopathic Scoliosis」(米国 2007年) を読んでいましたところ、
もうひとつのカーブについても注意を払うべきことが記載されていましたので
ご紹介したいとおもいます。

 添付図がそれを示しているのですが、見ていただくとわかりますように、
見た瞬間に何か違和感を感じることができると思います。右側は正常な脊柱です。
左側がそくわん症に伴って変形した脊柱で、Kyphosis(カイフォシス) (脊柱後わん)
と呼ばれる状態を示しています。手術のタイミングを考慮する場合には、この
後彎変形の程度も同時に考える必要があります。手術では、正面から見たコブ角と
側面から見た後わんの両方を三次元的に矯正することになります。矯正後にできる
だけ正常な形態を得るためには、変形が重度であればあるほど、その獲得が難儀に
なる。ということはご理解いただけると思います。


ブログ内の関連記事

「側弯症手術のタイミングについて」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/137b907b3e7e5b9dbb099d72161b6a92


................................................................

私は、中2の側湾検査で特発性側湾症と診断され、現在、高2でコブ角が
43度あり、大学病院の先生から手術を薦められています。
(装具もず~としてます。)

疑問なんですが、私のように原因不明の側湾症の場合、原因を解明しないで、
手術をして大丈夫なのでしょうか?(後で、おかしなことにならないのかな~?)

骨が奇形しているのであれば、すぐにでも手術して治してほしいのですが......

 ..................................................

こんにちはmikaさん、状況を整理してみます。

装具期間    中学2年~高校2年
コブ角度   43度
側弯症タイプ 特発性側弯症 (カーブタイプは不明)

 回答その1 : 原因不明、ということについて

       特発性側弯症は、ヒポクラテスの時代からその病気の存在が書物
       に記録されています。でも、残念ながら、この21世紀になっても
       いま現在、その原因....なぜ脊柱が彎曲するかの原因は不明です
       このような原因不明の病気というのは、実は世界にはまだまだ
       数多く存在します。
       例えば、グーグルで「特発性 病気」で検索しますと
       特発性拡張型(うっ血型)心筋症、特発性間質性肺炎、特発性血小板
       減少性紫斑病などのように「特発性」が付与された病名を見ること
       ができます。
       この「特発性」というのは、イコール「原因不明」という場合に
       使用されている言葉なのです。

       特発性とは呼びませんが、「ガン」も原因不明の病気の代表格と
       いえるでしょう。最近の医学の進歩により、ガンへの治療薬が進歩
       してきていますが、それらの多くもガンの原因が解明できて、その
       原因を薬で治す。というものではなく、対処療法的に免疫性を高め
       たり、ガン細胞を破壊する細胞を活性化させたり、という治療方法
       がとられています。
       例えば、最近マスコミで取り上げられているC型肝炎のような場合は
       ウイルスがその原因とわかっていますから、ウイルスとの接触が
       なければC型肝炎にはなりませんし、治療としては、そのウイルスを
       ターゲットとした薬を用いることになります。

       原因がある程度わかれば、治療方法....例えば医薬品開発などの道
       も開けてくるのですが、特発性側弯症は原因不明であるために、
       治療薬というものの開発すらいまだにないのが現実です。

       このような現実のなかで、過去から現在にいたるまでこの病気の
       治療方法は、
       「治療せずに自然経過のままにまかせる」
       「装具療法」....この中には運動療法も併用と考えます
       「手術」
        この3種類となります。

 回答その2 : 骨の奇形について

       特発性側弯症と先天性側弯症は、「側弯症」という脊柱が曲がる
       という病態では同じ現象ですが、原因が異なります。
       かなり手短な説明をしてしまいますと、
       特発性側弯症では背骨の「骨」自体の奇形というものはありません
       骨自体はまったく正常な形をしているのですが、脊柱という繋がり
       が.....一本のロープをイメージして下さい。
       そのロープが 「ねじれ」を伴いながら、カーブ変形をするのが
       特発性側弯症です。
  
       これに対して先天性側弯症は、生まれたときに脊柱の一部の「骨」
       に奇形が生じていて、その部位の変形度の重篤性に応じて、早期
       手術が必要な場合や、ある程度変形の進行の様子を見ながら手術の
       タイミングを考える、という場合があります。
       
 回答その3 : すぐに手術が必要か

       これはすごく難しいご質問ですね。
       手術のタイミングを説明する前に、手術をした場合としなかった
       場合のふたつのケースを考えてみましょう。
       mikaさんのケースでは、43度変形はあるが、全身的状態としては
       まったく健康である、という思春期特発性側弯症患者さんの多く
       の場合と同じであると仮定します。

       ケース1 : 43度側弯がこれ以上進まないという予想の場合
       ケース2 : 43度側弯さらに進行して50度を超え、60度になると予想

       このふたつの予想に対しては、さらにふたつの選択肢があります

       ケース1のA : 43度側弯の状態で一生を過ごす
       ケース1のB : 手術をする

       ケース2のC : 60度側弯の状態で一生を過ごす
       ケース2のD : 手術をする

       ABCDの順に入れ替えます
  
       A : 43度側弯の状態で一生を過ごす
       B : 手術をする
       C : 60度側弯の状態で一生を過ごす
       D : 手術をする
  
       さて、ここで考えていただきたいのは、装具療法で一旦はストップ
       した側弯症も、長い年月のなかでじわじわと進行していくという
       調査結果です。全ての患者さんにおいて進行するわけではないので
       この問題も非常に悩ましいことなのですが、ここでは調査結果から
       得られた 平均0.4度/年という数値を用いてみます。

       0.4度 x 10年後 4度 (47度) 27歳
           20年後 8度 (51度) 37歳
           30年後 12度(55度) 47歳
           40年後 16度(59度) 51歳

       これはあくまでも平均値からのシュミレーションです。
       進行速度は人によってまったくまちまちです。調査では逆に角度が
       減少した患者さんも少数ですがいらっしゃいます。
       このシュミレーションから考えていただきたいのは、どこかの時点
       では「手術」することもありえるだろう、という予想です。
       側弯症の個人別症状の難しさは、人によって、その変形により併発
       する他の病気の種類や程度がかなり異なるという点です。
       呼吸器系疾患を患う人もいれば、まったく健康な人もいます。
       ひどい腰痛に悩まされる人もいれば、まったく無い人もいます。
       いわば側弯症と共存して、病気を飼い慣らして生活していける人も
       多数いる、という事実です。

       しかし、先ほどの例は43度からスタートしましたが、これがもし
       半年後に60度になっていたと仮定してシュミレーションしますと
 
       0.4度 x 10年後 4度 (64度) 27歳
           20年後 8度 (68度) 37歳
           30年後 12度(72度) 47歳
           40年後 16度(76度) 51歳
       ただし、このシュミレーションはかなり非科学的なのです。
       側弯症の医学研究では、50度にまで進行した側弯症はさらに
       スピードアップして進むことがわかっています。60度の場合は
       それよりもさらにスピードアップすることがわかっています。
       ですから、上の例では次のようなシュミレーションの確率が高く
       なります。

           1年後 5度以上 (65度以上) 18歳
           2年後 10度以上 (75度以上) 19歳
           3年後 20度以上 (85度以上) 20歳

  回答その3 : 手術のタイミングについて

       高校2年生という時期とコブ43度との関係から
       次のようなシュミレーションも考えられます。

       装具療法継続          装具継続したが進行進む  
       高校2年 43度~45度       高校2年  45度~50度
       高校3年 43度~45度      高校3年  50度~60度(手術?)
       装具終了            大学1年  60度以上 (手術!)
       43度~45度で生活を続ける 

 手術をしなかったとしても、手術をしたとしても、この病気とは一生つきあって
 いくもの、という「覚悟」のようなものを持って欲しいと思います。
 自分の人生設計を、いまこの高校生のときに想像するのは難しいかもしれません
 が、でも、大学受験をどうするか、将来どういう仕事につきたいのか、というこ
 とはなんとなく心のなかに描いているのではないでしょうか。
 仮に手術をするとした場合、冬休み、春休み、夏休みに集中します。
 それらの時期を想定するのか、それとも学期中でも一ヶ月ほど休みをとって手術
 を受けることができる学校なのか...大学受験勉強との兼ね合いを考えたときに、
 まるまる一ヶ月ほど勉強できない期間を設けるとしたら、どのタイミングがいい
 のか。
 あるいは、大学入学まではカーブが進行しても我慢を続けて入学してから手術を
 受けるか....どこまで我慢できるかは個人差がありますから、これもかなりの
 賭けですが。
 手術のタイミングとしてもっとも避けたいのは、社会人になってからの手術だと
 思います。会社に入ってからの手術による休みというのは、おそらくはせっかく
 入った会社を辞めることに繋がるでしょうし、また仮に手術を受けても、周囲の
 目を気にしながら職場にいることになると想像されます。

 理想を言えば、装具療法(プラス運動)を続けてコブ角を30度台まで減少させる
 ことなのですが。35度~40度に戻せれば、高校生という年齢を考えればすでに
 カーブ進行のピークは過ぎていますから、その角度以上の急激な進行は考えられ
 ません。後は、長い年月のなかで様子を見ていくことになります。
 でも、もしこの半年以内で50度を超えるような進行があれば、さらにスピード
 アップするはずですから、学生生活、受験勉強の兼ね合いを考えて手術のタイミ
 ングを考えることになると思います。

 もうひとつ手術の要素としては、ご自身の性格も大きく影響すると思います。
 側弯症患者さんの辛いことのひとつは、思春期の女性が多いということです。
 手術をするにせよ、しないですんだとしても、脊柱が曲がっていた/あるいは
 いまでも曲がっているというのは、心に傷を負わせることになります。
 容姿に対するコンプレックスという形で、内向的になったり、精神的な痛手を
 引きずる患者さんが特に日本の場合は多いようです。
 さらに曲がるかもしれないという可能性を非常に不安に感じる性格なのか、
 そのときはそのときでなんとかなると楽観的に考えることができる性格なのか
 容姿に対する人の目を過剰なまでに感じる性格なのか、ヒトは容姿ではなく能力
 と実力だと考える性格なのか、.......

 手術を受けるか受けないかは、単純にコブ角の大きさだけの問題ではなく、
 患者さん自身が自分という人間の生き方や、人生というものを考えたときの
 「性格」と「考え方」によって、受けるか受けないかも含めて変わってくること
 になるでしょう。
 世の中には、60度でも手術しない患者さんもいます。それでも健康ですし、結婚
 もし、こども生んで普通に生活しています。
 一方では、45度~50度で手術を受けて、人の目を気にしないですむことや、装具
 から解放されることで、その後の生活を快適と感じる患者さんもいます。
 

 どこで手術を受けるか、ということについて :

質問にはありませんが、この面についても述べさせていただきます。

 第一には、側弯症専門医師であること。
 大学とは限りません。手術の技術は、大学だから良い、一般病院だから劣る
 ということはありません。

 第二には、その先生のこれまでの手術数を聞いてみること。
 技術には厳然として、「上手い」先生という存在があります。技術が優れている
 というのは、こなした手術の数に比例するものです。5例で天才の域にたっする
 などということはテレビかなにかの世界のことです。
 5例よりは10例、10例よりは50例、50例よりは100例......
 現在の手術はチーム医療ですから、執刀医師がまだ10例の経験でも、サポート
 してくれる医師に50例、100例、200例のベテラン医師が入っていてくれるならば
 安心して手術を受けられると思います。
 ....手術数という場合、「脊椎手術」ではなく、「脊柱側弯症手術」の数を
 教えてもらって下さい。手術にはつねに不確定要素がありますが、経験を積んだ
 先生であればあるほど、安全域は高くなると考えていいわけですから。

 第三には、できるだけセカンドオピニオンをとることをお薦めします。
 手術の安全を高めるという意味と、一生のつきあいをしなければならない病気
 なのですから、「自分」の一生をこの先生になら託せる、という先生に巡りあう
 ためにも、いま診ていただいている先生以外の先生と会って、その先生の話も
 聞いてみることはとても大切なことです。

................................................................

これで回答になったかどうかわかりませんが、august03として言えることは
 これがいまの全てです。
 今月来月に直ちに手術が必要とは思えません。側弯症の唯一のありがたい点は
 緊急性の病気ではない、ということです。経過を見る時間はありますし、考える
 時間は十分に与えられています。
 mikaさんの今の生活、装具治療の効果の有無、これからさらに進行する可能性は
 高いのか、それともすでにピークは終わっているのか、仮に手術とした場合に
 学校は休めるのか、大学受験のスケジュールはどうするのか ......

 じっくりと考えて下さい、というのが結論になりますこと、ご了承いただきたい
 と思います。

 (もし医学的なことで何か不明点がありましたら、遠慮なくお問い合わせ下さい)


 




 




           









       









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2 コメント

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Unknown (mika)
2007-12-02 05:17:43
 august03さん、私の質問にすぐに答えてくださり本当にありがとうございます。

 何度も読み返して、涙がでてきました。(今、5回目)

 1月の検診まで頭を整理して、先生にもいろりろ聞いてみようと思います。ありがとうございました。

返信する
はじめまして (アンダンテ)
2007-12-15 15:27:28
側ワン症の高2の息子がいます。中3の春から装具を付けていますが、先日の定期健診で45度になっていました。この1年は40~42度くらいだったのですが。
先生からは「次は○月○日に来てください」と言われただけでした。
装具は効いているのか、手術が必要なのか、不安で一杯で今になって、色々聞きたいことが浮かんできます。
mikaさんのコメントに対するお答え、とても参考になりました。
ありがとうございました。
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