添付のレントゲン写真をご覧になって、どこの部位を手術したものであるかが
すぐにおわかりになった方は、かなり知識をもっている方と言えると思います。
これは、上腕骨近位部骨折.....肩関節の付近を骨折した。と言うほうがわかり
やすいかもしれません。骨折線がほとんど見えませんので、骨癒合も進み、手術を
して良かったと安心している時期の撮影と言えると思います。
この部位の骨折は、骨折の種類としては、かなり治療が難しい部類にはいり、
ご覧いただくように、プレートに多数のスクリューを用いるのが一般的な治療方法
といえます。
これで骨癒合がしなかった場合は、......実は、これがたいへんなのです。
ネイルタイプに入れ替えるか、あるいはいっきに人工肩関節置換術にしてしまうか
先生としては、悩まれることになるでしょう。
もちろん、骨折した患者さんは二度目の手術ということになりますから、その負担
も大きいものになります。
骨癒合がうまく起こるか、進んでくれるか、それは一義的には初回手術時の整復
の状態と、そして、患者さんの持つ、生体としての治癒力に依存します。
プレートやスクリューは医薬品のような薬効があるわけではありませんから、
単に「支え」として、いわゆる副木(ふくぼく)としての役目をしているだけなの
です。
骨癒合が起こらなかった場合、どういうことが発生するか?
やがてこの写真にあるプレートとスクリューは「破損」することになります。
金属疲労が進んだことによる破損です。もちろん、骨折自体も治癒したわけでは
ありませんから、いつまでも痛みが継続していることになり、プレート類の破損
にまで至った場合は、ただちに再手術が行われることになります。
破損にまで至った場合の再手術もかなりたいへんな手術といえます。
何本かのスクリューは破損により、骨内に埋まっていますから、それを取り出す
作業をするわけです。簡単に取れる、というものでもなく、先生が汗される場面
といえます。
長々と骨折の話をしてしまいましたが、これが脊椎と何の関係があるのか ?
と疑問に思われたかたもおられると思います。
実は、先日、ネット検索をしていましたら、側弯症と診断された女性のコメントを
読み、なるほど、脊椎手術後のレントゲン写真というのは、心理的にこういう作用
を患者さんに与えるのか、と思ったことがあるからです。
「あんなグロテスクなものを背中にいれたくない」
確か、こういう意味合いの言葉が書かれていました。
グロテスクですか.....
添付した写真の骨折患者さんは、ご自分のレントゲン写真を見て、グロテスクと
いう思いを抱いているでしょうか ? おそらくそんな風には考えていないと思い
ます。骨折直後からの痛みが解消し、また自由に動かせるようになった。生活の
不便がなくなった。骨癒合も完成し、再手術の心配もなくなった。
そういう状態で心に描くことは、満足感、安心感、解放感ではないでしょうか。
この写真を見て、プレートスクリューに感謝するところまではいたらないまでも
「たいしたものだなあ」というような感慨は持たれるのではないでしょうか。
そして、この患者さんは一生、このプレートとスクリューを上腕骨に埋めた状態で
人生を送ることになります。抜くことはおそらくありません。なぜなら、抜くこと
で再び骨折を発生させるリスクがあるからです。
一生この金属の....チタンのプレートとスクリューを埋めたままでも、身体には
何の問題はありません。生体に安全な材料だからです。
側弯症、特に特発性側弯症は、ある意味で手術を決定するのは「患者さん自身」
の決断といえます。 骨折のように激痛があれば、いやおうなく、なんとかして
欲しいという欲求のほうが勝りますから、体内に何が入るかなどということは
考慮しているひまも気持ちの余裕もありません。
しかし、側弯症は、激痛があるわけでもなく、腰痛も若い患者さんの場合はほとんど
ないと言えるでしょう。
つまり、サイレントな病気なわけで、もしカーブ進行が、ある限界を超えることが
なければ、当然、手術などというものは考慮されることもありません。
ある限界を超えたとしても、人間は「許容力」がありますから、生活に不便も感じ
ることなく、普通の日常生活をずっと過ごすことができます。
ただし、ある日、ふと気づいたときには、すでに70度、80度を超えていた。
という事態が発生するわけです。
それでも、生活していくことは可能です。なぜなら、耐えられないような痛みが
発生しているわけでもないからです。
だから、また無為に月日だけが流れる、ということがおこりがです。
身体が斜めに傾いている、なんだか見た目が悪い、人前で背中を見せられない、
そういう外観上のコンプレックスに耐えることができるならば、おそらくそのまま
一生を送ることもできると思います。
人の体というのは、結構うまくできていますから、外観を気にすることなければ
生活も普通、働くこともできると思います。
そういう患者さんもおられると思います。
ただ、そういう患者さんは、手術をもつと早くしておけばよかった、と後悔する
こともあります。そういう時期がやがてやってくることがある。ということも
自覚しておかれるべきと思います。
手術が怖い、という気持ちは理解できます。
でも、手術後のあの多数のスクリューを埋め込まれた身体を想像すると、あれは
嫌だ。だから手術はしたくない。という感情の流れは、私には理解できません。
しかも、体内に埋めこまれているのであって、外から見えるわけでもないのに
グロテスクだから、手術はしたくない.....とは。
人の価値観は様々ですから、そういう人もいるでしょう。もちろん、それを良いとか、
悪いとか言えるすじのものではありません。
なぜなら、手術するもしないも、その人自身が決めることであり、その人の価値観
にゆだねられているからです、
ですから、先生も「絶対しなさい」というような言い方はしないでしょう。
「決めるのは、あなたです」というような説明の仕方になると思います。
私august03は、このブログを書きつづけてきた年月のなかで、数多くの発言を
ネットで見聞してきました。
そのひとつが今回の「グロテスクだから」という発言なのですが、私の個人的な
気持ちとしは、非常に悲しいものを感じます。
手術をするかどうかの意味を、することの意味、しないことの意味を、レントゲン
の見え方が気持ち悪いから。という発想で決めることに、とても残念な思いで
いっぱいです。
考え、悩むべき本質は、術後のレントゲンの見え方ではないはず。
いっそのこと、側弯症が激痛を伴う病気であったなら、側わん整体の問題も含めて
もっと早く解決するのでしょうが.......
この骨折の患者さんのように、手術がうまくいってよかった。という気持ちで
側弯症手術の術後を迎える患者さんがおおからんことを願っています。
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「医療の限界について (医師は神様ではないという事実をどう捉えますか? )」
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