ジェフの目はすやすやと眠る赤子に釘付けになった。
顔色は青白く死人のようだが唇はつやつやしていた。
女だな、彼は直感した。かすかに麝香の香りが辺りに漂っていた。
赤ん坊のあやしげな美しさに引きつけられてゆりかごに近づくと彼を睨みつける三匹の子犬を見つけた。毛並みのよいゴールデン・レトリーバーが一匹、あとの二匹は黄色と黒色のラブラドール・レトリーバーだ。彼らこそ魔犬ケルベロスの息子キルベロス、カルベロス、ルルベロスが変化を遂げた姿だった。人なつっこいはずのレトリーバー種の子犬たちが唸りを上げている。
「おい、ちびちゃんたち。何もしないったら」
ジェフが声をかけても三匹は眠れる森の美女を守る衛兵のように今にも飛びかからんばかりになっている。
彼が思わず逃げ出しそうになった時、蒼水晶のような目を持つ赤ん坊がニコリとした。プレイボーイとしてならした彼がドキリとするほどすごみのある笑いだった。
将来はさぞかし男共を泣かすだろうなと彼は確信した。ただし、王女様というより魔女という雰囲気だが。
赤ん坊の微笑みに気がついたのか、子犬たちは唸るのをやめて親しげな声を出し始めた。まるで王女のお許しが出たからにはお前も仲間と認めてやろうと言うかのように。
ゆりかごの側でジェフは考えた。
俺がこの子を育てるのか。まあ、いいか。あの帝王だか、低脳だか知らないが、赤ん坊の名前を何と言っていた。マクミラだと? こけおどし好きのマジシャン野郎め。言うことさえ聞けば褒美は望むがままだ?
いいだろう。「お気に召すまま」ってわけだ。ふん、もし救えるものならヌーヴェルヴァーグ製薬をなんとかして見ろと思った時だ。
リーン、リーン!
するどい音がしてジェフは飛び上がった。
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