水と緑と空気と大地のエコシステムは、二十一世紀の声を待たずに完膚なきまでに破壊されようとしていた。オゾン層の破壊、地球温暖化、森林地帯の消滅などはほんの微熱に過ぎないほど、地球という「病人」の容態は悪化していた。警鐘を鳴らそうとする者には利益追求の権化の企業群と手先の政治屋たちによって、「狂信的な環境保護主義者」というレッテルが貼られた。
ガイアにとって最大の脅威はカチカチと音を立てる人口時限爆弾だった。
一九五〇年に二十五億人だった人類は、二〇〇〇年までに人口六十億を突破し、二〇五〇年までには九十億、あるいは百億に達すると予想されていた。わずか百年間で、それは四倍にもならんとしていた。ネズミ算ならぬ「人類算」という言葉が必要だった。
気の遠くなるような歳月をかけて自然が作り出したエネルギー資源も、人類の手にかかると自分の代で財産を使い果たすと決めた強欲ジジイのような勢いで消耗されつつあった。このままいけば石油が枯渇するまでわずか一万日、そのまま飲める水がなくなるまで一万五千日、地球温暖化によって農作物が取れなくなるまで三万六千日だった。次世代のために開発を止めようする国など一つもないし、それどころか開発と消費のスピードは急上昇しつつあった。
だが、人類同士の戦乱と搾取に比べればこうした身勝手はまだ「無知」の一言で済んだ。本当の愚かさは果てしのない殺し合いと支配の中にあった。
ヒットラーに導かれたナチスのホロコーストを例に出すまでもなく、狂気の事例には枚挙に暇がなかった。十五世紀から十九世紀初頭にヨーロッパの奴隷商人がアフリカから無理矢理連れ去った人々の数は一千二百万人以上であり、劣悪な環境の奴隷船の中で新大陸到着前に死亡した人々の数は四百万人とも五百万人以上と言われている。ソ連の独裁者スターリンは自分の意に背く農民一千万人以上を処刑または餓死させた。世界をまっぷたつに割った第二次世界大戦では死傷者は五千万人とも六千万人とも言われている。
文明と文明が出会うたびに学び合おうとするよりも相手を粉砕しようとする人類の態度は宇宙レベルで見ても希有な存在だった。なぜ人間にだけ天敵が存在しないのか。歴史を調べていく過程でマクミラが持った疑問のひとつだった。
このまま行けば人間たちはあやつら自身が作り出した「科学」という名の魔術に手痛いしっぺ返しを受けることは必定じゃ。
神々の議論の場でネプチュヌスが発した思念が思い出された。
そのあたりにヒントがあるかも知れない。
調べれば調べるほど確実に地球は滅亡に向かってひた走っており、冥主プルートゥは圧倒的に有利な立場にあると判断せざるを得なかった。
だが、とマクミラは思った。個々のバトルに勝っても最後に戦争に勝てるとは限らない。一部の人類をあなどってはならない。誰かがまぐれ当たりの代打逆転満塁ゲームエンディングホームランを打たないともかぎらない。
長い時間をかけてマクミラはついに決断した。ゲームなんだから、それにふさわしい設定をしなくては。たかがゲームされどゲームといわけだ。
ミシガン州山中にヌーヴェルヴァーグ財団に広大なテーマパークを作らせた。ただし、外部から誰かを迎えることはなく客と言えば、たまにマクミラがニューヨークから訪れるだけだった。
施設は四つの建物から成っており、通常のテーマパークが「夢と希望の象徴」なら、彼女のテーマパークは「悪夢と恐怖の象徴」だった。
第一の建物ゾンビーランドでは不老不死の研究を行うことにした。第二の建物ノーマンズランドでは軍事兵器を研究することにした。第三の建物ナイトメアランドでは精神世界の研究を行うことになった。最後の建物アポロノミカンランドでは魔術と神話の研究とアポロノミカンの探索を担当させることにした。
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