米国政府はロシアがシリアの危機に介入したときは「誤り」であるとか「戦略ミス」とみなしたのを思い出してほしい。金曜のパリでのテロ攻撃の後でロシアがイラク・シリア・イスラム国(ISIS、以下「イスラム国」)を空爆したがもはや難民危機を悪化させるものとはみなされずシリアが敵の手に落ちるのを防ぐ方策とみられている。あのような悲惨な状況では、欧州首脳が2016年7月以降も制裁を続けることを合意するのは難しい。ロシアは敵対国から友好国に変わった。
ブレトンウッド・リサーチの創立者ウラジミル・シニョレリによるとウクライナから端を発した制裁とシリア危機についてオバマ政権はあくまで別のこととみているようだ。それでも米国政府はロシアの「イスラム国」への協力がいかに欧州各国政府に好感を与えたかは無視できない。彼は、プーチンが友好関係を築くチャンスであり、ナショナリストやユーロ懐疑論者にロシア制裁を撤回する勢いと正当性を与えると言っている。
ロシア制裁は昨年ロシア政府がウクライナの分離主義者への支持をしたことから始まったが、1月に制裁が終結するとみるのは早すぎるが、すぐにもロシア制裁の取り下げ論議が始まる確率は高い。
投資家がこの地合いの変化を受けてマーケット・ベクトル・ロシア投信(RSX)は月曜3.9%高で終えた。実際、今日のロシア株はS&P 500, MSCIエマージング・マーケット・インデックス、オイル先物とも全面高だったがそれを上回った。ここ12ヶ月、ロシア投資家はオイル価格下落と制裁のダブルパンチで株価がドル建てで20%下落する大打撃を受けた。今はロシアに順風になっている。
米国の支援を受ける自由シリア軍さえもロシア空軍と「イスラム国」の潜伏場所の諜報を共有している。米政府もあえて言及しているがロシアは有能である。
少なくともシリアでのロシア戦略は今や諸手で歓迎されている。
今週末、トルコに於けるG-20会議で、オバマとプーチンがシリア問題につき協議した。両首脳は「イスラム国」については相違点より共通点が多いことがわかった。
英国首相デーヴィッド・キャメロンはロシアとアサドの溝は小さくなっているとのべた。米政府の政権交代政策は2001年以来それを推進してきたベルト地帯のシンクタンクと同様に古くさくみえる。
シリアのアサド首相の軍隊さえ巻き込んだ対「イスラム国」の戦闘の統一国際連携の可能性が、次の対ジハード戦闘の進展として台頭してきている。プーチンはチャーリー・ローズとの単独インタビューで好むと好まざるに関わらずアサドがシリアの大統領でありイスラム国と戦っているのは彼だけだと述べた。アサドは負けている。一方、「イスラム国」とイデオロギーを共有するものもいる米国が支援するグループが闘ってアサドを弱体化している。
月曜にはフランソワ・オランド大統領が国連安全保障理事会を訪問、第二次大戦以来フランスで最悪のテロ攻撃への共同対処を協議した。それに続き、オバマとプーチンの間で反対派とアサド政権との講和の交渉をすることが合意された。
西洋諸国の間ではアサド政権に建設的役割を容認することを拒絶することは破たんしている。ロシアが米国及び欧州軍と直接協力することを拒むことについても変わろうとしている。
ニコラス・サルコジ前フランス大統領は週末、シリアで二つの勢力、即ち米国及び欧州が一方で、ロシアとアサドがもう一方で「イスラム国」と戦うことはあってはならないと述べた。攻勢を取るのに話す相手が複数あることはこれが愚策であることを示している。
タカ派の米国のマイケル・マックフォール前大使でさえ、「イスラム国」打倒にロシアを含む「共同作戦」を指示すると金曜に述べている。
更にパリテロ攻撃はシリア難民に対する欧州の政策を恒久的に変えた。これをトロイの木馬とみることは安易ではあるが、最近の難民に交じってEUにジハルド主義者が入ってきている証拠は全くない。
フランスではマリーネ・ルパンのようなナショナリストや移民反対派が2016年4月の国民投票を主導した。彼女は移民受け入れの即刻停止を求めている。
ドイツの州財務大臣マルクス・ソデルは週末「パリは全てを変えた。無制限の移民は続けられない」と語った。
シェンゲン協定によるパスポートなしの旅行はもう一発のジハード爆弾によってEU22か国に於いて危機にさらされる。これは突如として欧州の安全の穴になり地域を破壊してユーロ通貨同盟にとっては新たな逆風になりうると、とりわけ欧州のよりナショナリスティックな心情に鑑みてブレットンウッズ・リサーチはみている。
これを考慮すると、欧州ではジハードに対する戦いへの味方とみなされるものは皆歓迎である。
月曜日、プーチンは西側との双務的な関係は悪化したが、共通の的が助けになったと述べた。英国の諜報は10月31日にシナイ半島でメトロジェットの旅客機が墜落した原因についてロシアの調査官が解読するのを助けた。
キャメロンはプーチンに「英国にとって脅威となるこのテロの災難を打ち負かすために協働しなくてはならないことは明らかだ」と語った。「これはロシアへの脅威であり、我々全てにとって脅威である」。
欧州のロシア観は米国のそれと乖離しつつあるかもしれないが、これは双方の経済にとってよいことである。制裁以来、ロシア経済は3.5%縮小した。フランスの乳業最大手ダノネはロシアの報復的制裁から市場シェアを守るべく国内で数百万支出している。
ロンドンのアシュモア・グループの調査部長ジャン・デンは「タイミング的にロシアを非難するのは難しい」という。「ロシアはパリのテロ攻撃の数週間前からシリアの「イスラム国」状況に関わってきた。西側では行動することの必要が非常に強くなっているので、ロシアは長いことなかった強い立場にいる。制裁を解除すればロシアと西側の利害は一致するが、私はシリアの状況によって制裁が解除されるようにはならないと思う」
ロシアの制裁はとりわけ東ウクライナの政治的解決に関連しており、欧州が制裁を解除するためには、最終的に改善がなくてはならない。ウクライナが改善しなければ、主要EU諸国でより内向な政治情勢が支配的になったとしても制裁体制は残るであろう。