2015 年 12 月 1 日 16:45 JST<button class="eng-tab-btn" data-english-sbid="http://www.wsj.com/articles/russian-media-takes-aim-at-turkey-1448919682" data-tg-off="原文 (英語)" data-tg-on="日本語に戻る"></button>
【モスクワ】ロシアのメディアは新しい敵役を見つけた。それはトルコだ。国営テレビ各局はトルコ空軍がロシア軍機をシリア国境付近で撃墜して以降、トルコを非難し、テロの温床であり、過激派組織イスラム国(IS)の後見人だと糾弾している。
このような報道ぶりは、撃墜事件前と様変わりだ。ロシア人にとって、トルコは格安のビーチ保養地であり、野菜や衣服の供給源であり、ソチ五輪開催施設など建設プロジェクトの信頼できるパートナーだった。
しかし、先週の撃墜事件を契機に、トルコはロシアの地政学上数多い敵のリストに加えられ、ロシア国営メディアの攻撃の照準を向けられている。ロシア国営メディアは最近、「クレムリンの敵」に対して一般市民に反感をもたせるよう俊敏かつ大胆に襲いかかる。
新たな敵としてのトルコの登場は、2014年のウクライナ紛争の際にロシアのテレビに広がった「戦時のマインドセット」を部分的に再燃させた。つまり、ウクライナ紛争がプーチン大統領の支持率を過去最高に押し上げる一因となったように、今回も支持率を若干上げたのだ。
非政府系シンクタンク、モスクワ・カーネギー・センターのアンドレイ・コレスニコフ氏は「われわれは自分たちを包囲している新たな敵を見いだした」と述べ、「包囲された砦(とりで)はその結果、一層強化され、より果敢に防衛しようとし、指導者(プーチン大統領)の周囲に結集して、外の世界をますます憎むようになるだろう」と語った。
ロシア国営テレビは近年、クレムリンの敵に感情的なレッテルを張るのに長けてきた。同テレビは、ウクライナ人はファシスト、欧州人はリベラルでゲイ(同性愛者)を受け入れる異教徒だとし、米国人は世界の悪意ある人形使いであり、ロシアの権益をむしばみ破壊するため世界中で人形の糸を引いていると述べている。
トルコに対してはどう攻撃しているか。「裏切り者のテロ支援国」だ。
ロシアのトーク番組の人気ホスト、ウラディミール・ソロビヨフ氏は11月25日、つまりロシア機撃墜事件の翌日、国営テレビ局「ロシア1」の番組で、「この事件を通じて、トルコは北大西洋条約機構(NATO)にとって極めて難しい問題を提起した。つまり、トルコはテロ支援国でありながら、NATO加盟国でいられるのかという問題だ」と述べた。そして「テロの幇助(ほうじょ)者であり、同時にNATOの加盟国である国(トルコ)はNATO全体の信用を落とす」と語った。
またロシア1のキャンスターであるドミトリー・キセリョフ氏は、かつて米国を「放射能の灰にする能力があると豪語した人物だが、29日に放映された週一回の自らのニュース番組のほとんどを使ってトルコとのあつれき問題を取り上げた。
この番組は、エルドアン大統領率いるトルコについて、ISを支援し、一般市民がジハド(聖戦)を訴えるのを公然と認め、ロシアに発がん性の産品を輸出する国だとし、大勢の難民を「特殊作戦」によって欧州に意図的に送り込んだと非難した。
番組のある部分では、エルドアン大統領の息子ビラル氏がISに資金提供している石油密輸事業から利益を得ていると述べた。別の部分では、エルドアン大統領はクルド人とシリアのアサド大統領との戦いで、トルコの超国家主義組織「灰色の狼(おおかみ)」を支援しているとした。
キセリョフ氏は番組放送中、「NATOの全加盟国には、今やペテン師と判明したエルドアンの意図がよく理解できない」と述べ、「彼はテロリストから入手する安い石油で中毒症状になっているばかりか、偉大なオスマン帝国の再興を夢見て、ファシストである灰色の狼への資金流用している」と語った。
これに対し、パリ訪問中のエルドアン大統領は30日、とくにトルコがISから石油を買っているとのロシアの主張に強く反論した。同大統領は「トルコがISから石油を購入しているとの言いがかりは受け入れられるものではない」と述べ、「われわれは、テロ組織とそうした取引を行うような不道徳なことはしない」と語った。