米紙ニューヨーク・タイムズは27日、ドナルド・トランプ米大統領が当選した2016年に納税した連邦所得税は、わずか750ドル(約8万円)だったことが分かったと伝えた。
ニューヨーク・タイムズは、過去20年以上にわたるトランプ氏や関連企業の納税記録を入手したという。それによると、トランプ氏は過去15年間のうちの10年で、所得税をまったく納めていないことが明らかになった。
これは「主に」、トランプ一族の所有企業が損失を計上しているからで、「慢性的な損失と長年にわたる租税回避」が繰り返されていたと、同紙は伝えている。
大統領になる前、トランプ氏は大富豪の不動産王として知られ、リアリティー番組などの出演で有名だった。
しかしニューヨーク・タイムズはアメリカの税務当局、内国歳入庁(IRS)へのトランプ氏の申告について、「毎年数百万ドルの収入がありながら、慢性的に巨額の損失を出し、それを大々的に活用して納税を回避し続けるビジネスマン」の姿がうかがえると書いている。
2018年の所得申告でトランプ氏は、少なくとも4億3490万ドルの収入があったとしている。これに対してニューヨーク・タイムズは、納税記録から実は同年のトランプ氏は4740万ドルの損失を計上していたと書いている。
トランプ氏は「フェイクニュース」と
トランプ氏は報道後に記者団に対して、「完全なフェイクニュース」だと反論。「実際には払ったが、納税申告書の作成が終わり次第、公表する」と述べた。
トランプ一族の複合企業「トランプ・オーガナイゼーション」も、報道内容を否定した。
米大統領は1970年代以降、選挙段階で納税記録など財務状況を公表するのが慣例となっていたが、トランプ氏はこれまで納税記録を明らかにしていない。
ニューヨーク・タイムズは、1990年代までさかのぼるトランプ氏とトランプ・オーガナイゼーション所有の複数企業の納税記録のほか、トランプ氏自身の2016年と2017年の納税記録を点検したとしている。
入手したすべての情報は、合法的にその情報を見る権利のある情報源から提供されたものと説明している。
<関連記事>
トランプ・オーガナイゼーションの法務責任者、アラン・ガーテン弁護士は、報道内容について「ほとんどもしくはすべての事実が、不正確だ」とコメントした。
「過去10年の間、トランプ大統領は個人的に数千万ドルもの税金を連邦政府に納めてきた。2015年に大統領選出馬を発表した後も、個人として数百万ドルを納税している」と、ガーテン氏は報道内容に反論した。
民主党の反応
野党・民主党の幹部、ナンシー・ペロシ下院議長は報道を受けて、トランプ氏がいかに「極端な手段」によって「自分に応分の税金を納めずに済むよう、税法の抜け穴を利用してきたか」示すものだと批判した。
同様に民主党幹部のチャック・シューマー上院院内総務はツイッターで、「トランプ大統領より多く連邦所得税を払った人は手を挙げて」と呼びかけた。
民主党大統領候補のジョー・バイデン副大統領の陣営は、教師も消防士も看護師も、750ドルより多くの連邦所得税を納めているとツイートした。
「租税回避のため損失申告」
ニューヨーク・タイムズはさらに、各地のゴルフ場やホテルなどトランプ氏が所有する事業の「ほとんど」は、「数千万ドルか数万ドルの損失を毎年申告している」と指摘する。
「この方程式が、トランプ氏の財務の錬金術の鍵となる要素だ。有名人として得た収入で、ハイリスクな事業を購入して支え、そしてその事業が出す損失を使って納税を回避する」のだと、記事は書いている。
記事によると、大統領は個人として3億ドル以上の債務を抱えており、今後4年間にいずれも返済期限が来るという。
またトランプ氏の複数の企業が、大統領の知己を得たい、あるいは便宜を得たい「ロビイストや海外政府関係者」から資金提供を受けてきたとも書いている。
ニューヨーク・タイムズは、入手した納税記録から、トランプ氏が外国に持つ企業での収益も計算したという。それによると、大統領就任から2年間に海外で7300万ドルの収入を得たという。
収入の一部は、アイルランドや英スコットランドに所有するゴルフ場から得たものだが、それに加えてトランプ・オーガナイゼーションは「独裁的指導者のいる国や、地政学的に緊張状態にある国で、数々のライセンス契約」を交わすことで収入を得ていたという。
同紙によると、こうしたライセンス契約の中には、フィリピンでの300万ドル、インドでの230万ドル、トルコでの100万ドルなどが含まれる。
<関連記事>
- 【米政権交代】トランプ氏、「利益相反」対応策の発表を延期(2016年12月)
- 【米政権交代】トランプ氏は事業から身を引く? 大統領職との様々な抵触(2016年12月)
さらに同紙は、トランプ氏が大統領就任後の2018年に米NBCテレビの「セレブリティ・アプレンティス」シリーズから4億2740万ドルの報酬を得たほか、NBCがトランプ氏の名前を使うためのブランディング契約でも収入を得たと伝えた。また同年には、オフィスビル2棟への投資で1億7650万ドルを得たという。
しかし同紙によると、トランプ氏は自分の事業が巨額損失を出したと申告したため、こうした収入について所得税をほとんど払っていない。
同紙はさらに、「前年の損失を翌年以降に繰り越すことで、将来的な納税額を減らす」ことができる税制の仕組みをトランプ氏が活用してきたと伝えた。
たとえば、フロリダ州マイアミ近くにあるトランプ氏所有のゴルフ場「トランプ・ナショナル・ドーラル」は2018年に1億6230万ドルの損失を申告したと、同紙は書いている。同様に、アイルランドと英スコットランドに所有する2つのゴルフ場は計6330万ドルの損失を申告したという。