ヘンリー王子(左)とメーガン妃(ロイター)
2022年12月6日 20:00東スポWEB
ヘンリー王子夫妻のラブストーリーを描くといわれる米動画配信大手ネットフリックスのドキュメンタリー「ハリー&メーガン」が配信されることを受け、エリザベス女王の牧師を9年間務めたギャビン・アシェンデン博士が「2人は王室を内戦状態へ導いた」と批判した。英紙デイリー・メールが報じた。
番組は6部構成となり、第1回が12月8日に配信される。すでに1日には予告編が配信されているが、訪米中のウィリアム皇太子とキャサリン皇太子妃が2日のアースショット賞授賞式に出席したことを、ヘンリー王子側が意図的に覆い隠そうと調整されたキャンペーンだと批判的に報道され、王室内の確執が拡大化することが懸念されている。
この事態を受けてアシェンデン博士は、上級王室内の確執をこじらせたのはヘンリー王子夫妻だと断言した上で、予告編も含めて王室はネットフリックスの番組についてもっと深く懸念すべきだったと主張した。
続けて「メーガンとハリーは実存的な内戦のようなものを作り出しました。彼らが王室に深刻な損害を与えることは疑いの余地がありません。
その理由は、彼らが特定の社会の考え方に適合しており(彼らの中では)社会が分裂しているからです。反動的部分と進歩的部分、半分ずつに分かれている」と2人の特質的な〝精神状態〟について分析した。
さらに王室作家のリチャード・フィッツウィリアムズ氏は、ネットフリックスの予告編を含む番組について「王室に対する正面からの破壊的攻撃であり、兄弟間の亀裂を広げるのは間違いない。
このシリーズが、ウィリアム皇太子が将来の国王として受け継ぐ制度そのものを弱体化させることを目的とした(ヘンリー王子の)復讐行為であることは間違いありません。
世界中の注目、特に若者の間で王室(のイメージと影響力)を大きく弱体化させるのではないかと思います」と語った。
ウィリアム皇太子が訪米中に予告編が配信されたことで、逆にヘンリー王子夫妻への批判の嵐が止まらないのが現状。本編配信後も嵐は強まりそうだ。
東スポWEB
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By Mashup Reporter 編集部 -2022-12-06
Netflixは5日、ヘンリー王子とメーガン妃のドキュメンタリー番組「Harry & Meghan」の新たな予告編を公開した。
今回の予告編には、故ダイアナ妃がパパラッチに追い回される映像や、ヘンリー王子が「恐怖に襲われた。歴史が繰り返されることは望んでいない」と回想するコメントが含まれれている。
過剰な報道に苦悩する姿を強調する内容となっているが、王室側が撮影させた写真や、2人に関係のない動画が使用されている可能性が浮上。加熱報道を誇張しているのではないかと指摘する声が上がっている。
王室担当記者のロバート・ジョンソン氏は5日、自身のツイッターを更新し、南アフリカのケープタウンにあるツツ大司教の邸宅の上から、隠し撮りしたように見える写真は、実際は、夫妻から許可された写真だと説明。メディアのプライバシー侵害を主張するのは「全くの茶番」と批判した。この時、3人のみが撮影を許され、そのうちの1人は自分だと加えた。
PageSixは、英国のセレブ、ケイティ・プライスが飲酒運転で有罪判決を受けた際、裁判所前で撮影された映像や、トランプ前大統領の元顧問弁護士マイケル・コーエン氏が、ニューヨークで大勢の報道陣に囲まれる場面など、2人に関係のない動画が含まれていると報じた。
なおThe Sunは、先週公開された第一弾の予告編にある、多数のカメラマンが待ち構える写真は、2011年にロンドンで開催された「ハリー・ポッターと死の秘宝: PART2」のプレミアで撮影されたものだと伝えた。
ヘンリー王子は今回の予告編で、王室での生活は「ダーティー・ゲーム」で、ここに嫁ぐのは女性にとって「苦痛と苦しみ」しかないと述べたほか、複数の関係者が「メーガンに対する戦争があった」「憎しみや、人種に関するものだ」と証言するなど、メディアだけでなく、王室に批判的な内容が含まれている。
ドキュメンタリーは全6エピソードからなり、8日には3つのエピソードが放送される。監督は、アカデミー賞ノミネートのリズ・ガルバス(Liz Garbus)。
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員
大門 小百合 (だいもん・さゆり)
イギリスのチャールズ国王の次男、ヘンリー王子が来年1月に回顧録を出版する。ジャーナリストの大門小百合さんは「『Spare』という意味深なタイトルの本で、英国王室に批判的なことも書かれているのではないかと、注目が集まっている。王室が揺れているのは確かだが、日本の皇室よりは安泰であるように思えてならない」という――。
写真=PA Images/時事通信フォト
エリザベス女王が亡くなった2日後、英国・ロンドン近郊のウィンザー城で姿を見せた(左から)キャサリン妃、ウィリアム皇太子、ヘンリー王子、メーガン妃。2022年9月10日撮影
王子の回顧録には何が書かれているのか
イギリス王室が揺れている。
震源地は、現在王族としての役割から距離を置き、子どもたちとアメリカで暮らしているヘンリー王子だ。12月8日には、王子とメーガン妃のドキュメンタリー番組がNetflixで正式に配信され、来年1月には、ヘンリー王子の回顧録『Spare』(「スペア、予備」の意)が発売される。この回顧録とドキュメンタリーで一体何が明かされるのか、イギリス王室は戦々恐々としているに違いない。今、英米のメディアではこの問題について、実にさまざまな報道がされているのだ。
しかし、ドキュメンタリーと回顧録の内容の詳細については、ほとんど明らかになっていない。
イギリス王室に詳しい専門家のニック・ビュレン氏はアメリカのエンターテーメント系週刊誌のUs Weeklyの取材に答え 、Netflixがこのドキュメンタリーのため大金を支払っていることを考えれば、少なくともこの作品には視聴者を満足させる中身が必要だという。
「だから、少なくともヘンリー王子とメーガン妃は『私たちは(カリフォルニア・サンタバーバラの高級住宅地)モンテシートですてきな生活を送っていて、お互い愛し合っている』などとだけ言ってごまかすことはできないだろう」と語る。
人生を「生々しく、率直に」描く
回顧録『Spare』については、出版元のペンギン・ランダムハウスが、ヘンリー王子の人生を「生々しく、率直に」描いたものになると発表し、プレスリリースには以下のようにある。
「世界が悲しみと恐怖に包まれる中、母親のひつぎの後ろには2人の王子たちが歩いていた。ダイアナ妃が亡くなり、王子たちは何を考え、何を感じ、そしてこれからどのような人生を歩んでいくのだろうかと、多くの人が思いを巡らせた。
この本はヘンリー自身が、ようやく自分の物語を語る機会となる」
王子自身も、この本は、幼少期から王族としての成長、兵役、結婚、そして父親としての経験など、自分の人生について「正確かつ完全な真実」を記したものだと語る。
当初は2022年秋に発売予定だった回顧録の発売は、エリザベス女王の死去を受け延期された。だが、結局出版見送りとはならず、2023年1月10日には出版される予定だ。
「スペア」が持つ意味
それにしても、このタイトルはかなり挑発的ではないだろうか。公開された本の表紙には、ヘンリー王子の大きな顔写真の下に、まるで自分はスペアにすぎないと強調するかのように「Spare」という文字が並ぶ。
“The heir and the spare”、「継承者(heirエア)とそのスペア/予備(spareスペア)」という表現は、世継ぎと、その世継ぎに何かあった場合のための予備、といった意味の表現で、イギリス王室のメンバーに対してもよく使われてきた。
例えば、妹のマーガレット王女は姉エリザベス女王の「スペア」、弟アンドルー王子は兄チャールズ現国王の「スペア」、そして、弟のヘンリー王子は兄ウィリアム王子の「スペア」というふうにだ。ただこれは、ロイヤルファミリー自らが公に使う類いの言葉ではない。
もし、天皇の弟であり、皇位継承順位第1位の秋篠宮皇嗣殿下がご自分のことを「予備」と呼んだらどうだろうか。
生まれた時から第1子と第2子では、皇室における役割が異なる。しかし、たとえそうした役割が生きている間ずっと変わらないとしても、「予備」という言葉には、自虐的で、何かやるせないものを感じてしまう。
「一線を越えたことを象徴するタイトル」
「この言葉は、君主制の中心には、生まれた順番によって『エア(継承者)』と『スペア(予備)』が決まるという、頑強な序列があることを思い出させます。
世襲で特権や優位性が決まるという仕組みは、廃止されないかぎり近代化しません」とアメリカのライフスタイル誌タウン&カントリー(Town & Country)で書いているのは、英国王室ジャーナリストのビクトリア・マーフィー氏だ。
「だから、ヘンリー王子がこれほど堂々とこの言葉を受け入れたということは、彼が一線を越えて、ほかの王室メンバーが決して踏み入れない場所に踏み込んだことを象徴しているように見えるのです」
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公務を代行できる王族を増やす提案
さらに、国王とヘンリー王子の関係性を象徴する動きがあった。11月14日のチャールズ国王の誕生日に合わせて国王は、自身の外遊中などに公務代行の資格を持つ王族を増やすための手続きを開始し、妹アン王女と弟エドワード王子を加える案を提示したのだ。
現在、公務を代行できる「カウンセラー・オブ・ステート」(国務参事官)は、国王の妻カミラ王妃に加え、21歳以上の王位継承順位上位者の、4人の「主要な」王族、ウィリアム王子、ヘンリー王子、チャールズ国王の弟のアンドルー王子とその娘ベアトリス王女が務めている。
ところが、アンドルー王子は、性的人身取引で起訴され勾留されていたアメリカの富豪ジェフリー・エプスタイン被告と親交があったことをきっかけに、王室の職務から退いている。また、ヘンリー王子と妻のメーガン妃も2020年にアメリカに移住して以来、「現役」の王族としては公務に関わっていない。
今回の国王の提案は、ヘンリー王子とアンドル王子は役職から外さず、妹アン王女と弟エドワード王子の2人を国務参事官に加えることを求めたものだ。
国王はこの理由について「私が海外で公務に就いている場合など、不在のときにも公務を効率的に続けられるから」と説明している。貴族院はこれを承認し、今後必要な法改正が行われるという。
これはチャールズ国王による苦肉の策なのかもしれない。現状、ヘンリー王子とアンドルー王子は王室の職務に関わっていないので、新たに妹アン王女と弟エドワード王子を加えなければ、自分に何かあったときに頼れる王子はウィリアム王子1人になってしまうからだ。
イギリスの王室コメンテーターのリチャード・フィッツジェラルド氏がデイリー・メールに語ったところによると、これは、エリザベス女王の夫のフィリップ殿下が亡くなった頃からの懸案事項で、重要かつ、やらなければならない改革だったという。
「問題が表面化したのは、女王が95歳の時のことだ。チャールズ皇太子(当時)がコロナにかかってしまったが、ウィリアム王子は(中東の)湾岸にいたのだ」と、フィッツジェラルド氏は言う。
2022年2月、女王にもしものことがあったときに代理を務めるべきチャールズ皇太子は2度目のコロナに感染したのだが、ちょうどその頃、ウィリアム王子はUAEのドバイを訪問中だったのである。
「何かあっても頼らない」国王の意思表示
今後、国王とカミラ王妃、ウィリアム王子とキャサリン妃が、海外で公務を行う時期が重ならないとも限らない。公務を代行できる王室のメンバーを増やしておきたい気持ちは理解できる。
しかしこの変更は、「ヘンリー王子とアンドルー王子にはもう頼らない」というチャールズ国王の意思表示にも受け取れる。2人を国務参事官として残しつつも、何かあったときには彼らに頼る必要がないという体制が出来上がるのだ。
日本の皇室の静かな危機
私は、こんなふうにイギリス王室について語る時、つい日本の皇室と比較して見てしまう。
メディアの目から逃れ、ヘンリー王子とメーガン妃のように、皇室から遠いアメリカに移住した眞子さまだが、夫の小室圭さんがついに司法試験に合格した。さぞ、ほっとしているのではないかと思いきや、今度は早くも眞子さまの妊娠準備の話がメディアで語られ始めている。皇室を離脱したとはいえ、ヘンリー王子とメーガン妃同様、この2人もメディアからはなかなか逃れられそうにない。
しかし、今、本当に気に掛ければならないのは、眞子さんのプライベートではないはずだ。チャールズ国王が「自分に何かあった場合の公務をどうすべきか」と考えているのと同様に、天皇陛下も皇室の行く末を気にかけているに違いない。しかし、王室のメンバーが潤沢にいるイギリスと違い、日本は皇位継承権を持つ皇室のメンバーが現在たった3人なのだ。
天皇陛下と皇位継承権第1位の秋篠宮皇嗣殿下の年齢差は5歳。天皇陛下が上皇陛下のように85歳で退位されると仮定すると、秋篠宮殿下はその時80歳で、かなりのご高齢になる。それを考えると、皇位継承権第2位の悠仁さまが皇位を継承するのは意外と早いかもしれない。
問題はその先だ。現在皇位継承権第3位は上皇様の弟にあたる常陸宮正仁親王で、すでに87歳である。つまり、今の皇室では、悠仁さまよりも若く、皇位継承権を持つものがいないという深刻な状況なのに、政府は過去17年間、皇位継承の抜本策についての議論を先送りしてきた。
ヘンリー王子の回顧録発売で、英米メディアのイギリス王室に対する報道は一層加熱するだろう。場合によっては来年1月の回顧録発売で、さらに王室の評判や信頼が傷つくことにもなりかねない。
それでも今のイギリス王室が、長い目でみれば日本の皇室よりも安泰に見えるのは、私だけではないだろう。
大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員
上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。
神道学者、皇室研究者
高森 明勅 (たかもり・あきのり)
2020年から行われていた秋篠宮邸の改修工事が今年9月に終了した。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「秋篠宮邸を、皇太子のお住まいである東宮御所並みに増築したために、関係費用の総額が約44億4600万円に上った。即位の可能性が低いにもかかわらず、秋篠宮殿下を皇太子同様に扱うのには無理がある」という――。
写真=時事通信フォト
全国犯罪被害者支援フォーラムの会場に到着し、着席される秋篠宮ご夫妻=2022年10月14日、東京都千代田区のイイノホール
秋篠宮邸改修関係費が44億4600万円
去る9月30日、令和2年(2020年)3月から着工していた秋篠宮邸の改修工事が、新型コロナ禍の影響などもあり、予定より半年遅れで終了した。
改修費用は当初、総工費約33億円と報じられていたが、最終的には約34億6600万円に膨らんだ。これに、工事中に秋篠宮家ご一家が仮住まいをされた「御仮寓所ごかぐうしょ」の建築費の約9億8000万円を加えると、関係費の総額は約44億4600万円になる。
御仮寓所は今後、事務所や収蔵庫として活用されるというが、ご一家がお住みになられず、単に事務所、収蔵庫が必要でそれを新築した場合、もちろんこれほどの費用が支出されることはなかったはずだ(坪単価に換算すると約235万円という)。
御所の改修工事との違い
一方、天皇陛下ご一家がお住まいになる御所ごしょの改修費用は、質素を旨とされる陛下のお考えもあり、わずか約8億7000万円に抑えられていた。
そのため、約44億4600万円と約8億7000万円という対照的な数字だけが独り歩きして、秋篠宮邸の改修費用の多さに違和感を抱いた人々もいたようだ。
秋篠宮邸の改修工事費がこのような金額になった理由は、御所の場合はもともと上皇陛下が「天皇」としてお住まいになっていた建物に、必要最小限の手を加えるだけの工事だったのに対し、秋篠宮邸の方はそれまで一宮家の邸宅だった建物を「皇太子」(「皇嗣こうしたる皇子」=皇位継承順位が第1位の天皇のお子様)ご一家のお住まいである「東宮とうぐう御所」のような規模にまで拡大した、という事情がある。
秋篠宮殿下の「皇太子」待遇
秋篠宮殿下は改めて言うまでもなく、天皇陛下の弟宮(皇弟)であって、お子様(皇子)ではないので、皇室典範が規定する「皇太子」ではない。
しかし、皇位継承資格を「男系の男子」に限定している今のルールの下では皇位継承順位が第1位、つまり「皇嗣」でいらっしゃるという理由から、秋篠宮邸を「東宮御所」並みに増改築したということだ。
そこには、皇太子にお仕えする「東宮職」に相当する新設の「皇嗣職」の役人を受け入れるスペースも設けられた。皇嗣職は、東宮職と同規模の51人で構成される、宮内庁内のそれなりに大がかりなセクションだ。
ちなみに毎年、秋篠宮殿下に支出される皇族費も、皇太子に準じた待遇ということで、定額(3050万円)の3倍になっている。
皇太子と「傍系の皇嗣」の違い
しかし見逃せないのは、秋篠宮邸の呼び方が“皇嗣御所”などではなく、もとの「秋篠宮邸」のまま何ら変更されないことだ。
また、皇太子が外出されることを正式には「行啓ぎようけい」と申し上げるのに対し、秋篠宮殿下の場合は、皇嗣になられてからも一般の皇族方と同じように、「お成り」と申し上げ続けている。
このあたり、“直系(天皇と親子関係の線でつながる系統)の皇嗣”で次の天皇になられることが確定している「皇太子」と、その時点の巡り合わせで皇位継承順位が第1位であるにとどまり、即位されることが必ずしも確定したお立場ではない“傍系(直系から分かれた別の系統)の皇嗣”について、宮内庁として区別する姿勢が見られる。
一般的な位置付けとして、天皇・皇后に男子がお生まれになれば、法制上、その瞬間に皇位継承順位が第2位に変更されて「皇嗣」でなくなる、というのが“不確定”な傍系の皇嗣のお立場だ。
また具体的な話としては、もし長年の懸案とされてきた皇室典範の改正が実現し、安定的な皇位継承を確保するために継承資格の「男系の男子」限定という、旧時代的な側室制度を前提としてこそ持続可能なルールが見直された場合、直系主義の原則によって秋篠宮殿下は皇嗣のお立場を離れられる。
その場合は、天皇陛下のお子様でいらっしゃる敬宮としのみや(愛子内親王)殿下が「皇嗣たる皇子」として、「皇太子」になられる(皇室典範の用語法では、「皇子」も「皇太子」も用語それ自体としては男女とも包含する)。
即位されない可能性が高い
そもそも秋篠宮殿下が将来、実際に即位されることは、普通に考えて想定しにくいはずだ。これはもちろん、資質とか能力について申し上げているのではない。シンプルにご年齢の問題だ。
天皇陛下は昭和35年(1960年)のお生まれだ。一方、秋篠宮殿下は昭和40年(1965年)にお生まれになっている。わずか5歳しかお年が違わない。
よって、天皇陛下が上皇陛下と同じように85歳で退位された場合は、秋篠宮殿下はすでに80歳というご高齢に達しておられる。それから新しく天皇として即位されるという場面は、リアルには想像しにくいだろう。
先ごろ、エリザベス女王の崩御ほうぎょをうけて英国史上“最高齢”で即位されたチャールズ3世でさえ、73歳だ。
しかしだからといって、天皇陛下がご壮健でいらっしゃるご年齢なのに、お年が近い秋篠宮殿下の即位のためという理由で、“前倒し”して退位されるわけにもいかない。
秋篠宮殿下のご即位は、決してあってはならない不測の事故でもない限り、現実的には考えにくい。
秋篠宮殿下が即位されないという展開は、皇室典範第3条(皇位継承の順序の変更)の適用によって法的にも可能だ。
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天皇陛下のおことばと秋篠宮さまのおことば
しかも、秋篠宮殿下ご本人が即位を望んでおられないと拝察できることは、これまで本連載で具体的な根拠を挙げて指摘してきた(4月29日公開および5月23日公開)。そのことをさらに裏付ける注目すべきおことばがあるので、今回はそれを紹介しよう。
それは他でもない「立皇嗣の礼」(令和2年11月8日)でのおことばだ。
立皇嗣の礼は国事行為として挙行されたから、そこでのおことばの確定には内閣も関与したはずだ。しかし、その内容はご本人のお考えが基調になっていたと見てよい。
しかも、秋篠宮殿下がおことばを練り上げられる際、先行した天皇陛下の立太子の礼(平成3年[1991年]2月23日)でのおことばを参照されたことは、ほぼ疑う余地がない。
だから、天皇陛下のおことばと表現が違っている箇所は、秋篠宮殿下が“意識して”変更されたと見ることができる。
それを前提に、天皇陛下と秋篠宮殿下のおことばを次に掲げる。
立太子の礼での天皇陛下のおことば
「立太子宣明せんめいの儀(立太子の礼の中心となる儀式)が行われ、誠に身の引きしまる思いであります。皇太子としての責務の重大さを思い、力を尽くしてその務めを果たしてまいります」立皇嗣の礼での秋篠宮殿下のおことば
「立皇嗣宣明の儀をあげていただき、誠に畏れ多いことでございます。皇嗣としての責務に深く思いを致し、務めを果たしてまいりたく存じます」
2つのおことばの明らかな違い
このように2つのおことばを並べてみると、両者の間に意外と目立つ違いがあることに気づく。
より重要な後段から取り上げる。
最も端的な違いは、天皇陛下が「皇太子としての責務の“重大さ”」と表現された箇所が、秋篠宮殿下のおことばでは「皇嗣としての責務」という言い回しで、分かりやすくトーンダウンしていることだ。「重大さ」という言葉をことさら削っておられる。
これは、おそらく秋篠宮殿下がご自身の責務を軽く見ておられるということではなく、「皇太子」という地位の「重大さ」との対比において、不確定な「皇嗣」というお立場を踏まえて同一の表現を自覚的に避けられた、ということだろう。だから、天皇陛下のおことばにあった「力を尽くして」も抜けることになった。
重大さ→力を尽くして/「重大さ」削除→「力を尽くして」削除、という対応関係をはっきりと認めることができる。
「断じてやります」と「できるだけやります」
おことばの末尾の違いも明瞭だ。天皇陛下はきっぱりと断言され、潔く言い切っておられた(「果たしてまいります」は“……します!=断じてやります”という言い方)。これに対し、秋篠宮殿下の場合は失礼ながら少し腰が引けた印象を与える(「果たしてまいりたく存じます」は“……したいと思います=できるだけやります”という言い方)。
前段についても、天皇陛下が「身の引きしまる思い」という強い言葉を選ばれたのは、国家・国民に向き合う皇太子としての重い責任感によるものだろう。
これに対して秋篠宮殿下の場合は、もっぱら儀式を「あげていただ」いた天皇陛下に対して、受け身の姿勢で「畏れ多い」と述べておられるにとどまる。
「立皇嗣の礼」には後ろ向きだった
このような違いの背景には、皇太子とは本来お立場が異なるはずの傍系の皇嗣を、あえて皇太子と同じように扱おうとする、立皇嗣の礼という政府が用意した不自然な儀式に対して、もともと秋篠宮殿下が前向きなお気持ちではなかったという事情がある。
このことについては、江森敬治氏の『秋篠宮』(小学館)に印象的な場面が描かれている。
平成29年(2017年)12月に、江森氏が「皇嗣就任の儀式」(立皇嗣の礼)を行った方がよいという政府の考え方について尋ねると、「『どうでしょうかね』彼(秋篠宮殿下)は考える振りを見せた。だが、明確な回答はなかった」(37ページ)という。
また、平成31年(2019年)2月に同氏が「(同年=令和元年)5月から皇嗣殿下となられます。
皇嗣殿下としての心構えや決意を教えてください」という、当然に予想される質問をした時も、秋篠宮殿下は「『うーん』と、しばらく考えていたが、求めていた答えは返ってこなかった」。
重ねて質問して、やっと「象徴天皇制を担うのは、あくまでも天皇であり、私は兄を支える、助けることに徹するのではないでしょうか」という、いたって控え目な返答があった(128ページ~129ページ)。
このやり取りと先のおことばを照らし合わせると、傍系の皇嗣というお立場の不確定さと、将来の即位にリアリティーがないことを、秋篠宮殿下ご自身が深く自覚しておられることが分かる。
「皇嗣」ではなくなる可能性も
秋篠宮殿下が即位されない可能性は極めて高い。
しかも、側室制度がとっくに過去のものとなり、歴代天皇のおよそ半数を占めた側室から生まれた非嫡出子・非嫡系子孫による皇位継承が除外された条件下で(過去の実例で天皇の正妻が男子を生まなかった割合は35.4%)、「皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇への路みちを開くことが不可欠」(「皇室典範に関する有識者会議報告書」〔平成17年[2005年]〕20ページ)である以上、現在の「男系の男子」限定という継承ルールを真正面から見直すことは避けられない。
その制度改正に手を着ければ、秋篠宮殿下は直ちに皇嗣ではなくなられる。
先に見たように、そのことを誰よりもよく分かっておられるのは秋篠宮殿下ご自身だろう。にもかかわらず、ルールの見直しに踏み込む前に、きちんとした展望もなく東宮御所並みの秋篠宮邸改修工事を行うなどした政府は、いったいどういうつもりだろうか。
最も心配なのは、皇嗣職の設置や巨費を投じた改修工事などをすでに終えたことから、行動経済学が指摘する「サンクコスト(埋没費用)効果(※) 」によって、肝心な皇室典範の改正を秋篠宮殿下の皇嗣としてのお立場を“変更しない”範囲内にとどめるという、安易な弥縫びほう策に政府が逃げ込むことだ。
それでは本末転倒になってしまうし、皇室の危機は深まるばかりだ。
※サンクコスト効果:もはや取り戻すことができない、過去に支払ったコストを惜しみ、さらなる投資は損失になるのにも関わらず、そのまま不合理な判断を続けてしまう心理効果。
高森 明勅(たかもり・あきのり)神道学者、皇室研究者
1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。
『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。
著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録」