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亡き次男に捧げる冒険小説です。
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一一
遥か後方からチッチとマッマの出立の気配を感じたヴァッロは安心したような、そうでないような複雑な心境だった。
「ヘロ、チッチ様とマッマさん、怒ってるかなぁ。」
ヘロは冷淡だった。
「怒ってただろ、既に。お前と話を合わせるために表情はにこやかだったが、目は血走ってたからな。まあ、怒りの半分はマッマさんの余計なお世話に起因していたんだろうが。」
チッチとマッマの茶番を鼻で笑ったヘロは、ヴァッロに聞いた。
「お前はチッチ様のお怒りに気が付かなかったのか?」
「うーんとねー。『いいからさっさと本題を切り出せ!』って命令口調で言われたから、チッチ様にしては珍しくブチギレてるなー、って思った。」
呑気に空の青さを楽しみながらヴァッロは答えた。
「だったら『怒ってるかなぁ』なんて聞くな、この大根。」
ヘロはこいつといると疲れると、凝りもしない金属の肩を揉んだ。ちかれたの?とヴァッロが見下ろしてきたので、もう少しまともな演技をしてくれれば、私が骨を折ることもなかったんだぞと悪態をついてヴァッロを睨んだ。
「オデは野菜じゃないぞ。《コボルド》だ。《竜》のー、末裔のー、コー、ボー、ルー、ドー、様だい!」
ヴァッロの発言の後半は聞くに耐えない、いい加減な即興曲になっていた。ヘロはそのダミ声に辟易とすると、耳を押さえて義兄弟の尾行に専念することにした。
ヴァッロは気持ち良さげに唄っていたが、チッチたちに追いつかれたことに気がつくと途端に黙りこんでしまった。
【第2話 一二に続く】
次回更新 令和7年2月15日土曜
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人種の「坩堝」。そこで行き交う様々な人々との出会いが、義兄弟の運命を導くこともある。