旧・鮎の塩焼キングのブログ

80年代を「あの頃」として懐かしむブログでしたが、子を亡くした悲しみから立ち直ろうとするおじさんのブログに変わりました。

冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その13 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-17 15:07:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一三

 三人それぞれの思惑が噛み合わない中、《サンダー渓谷》《ゴール橋》の出口側に到着した。当初は手負いの《ウォーグ》狩りという自分たちの力で充分に完遂できる冒険だった。いつの間にかそれが《竜》との遭遇という分不相応な冒険になる可能性が出てきた。不安げなハーラとテーリ。ナーレも二人の神妙な面持ちに、不安が伝播する。

「怖かったらやめた方がいいよ、ハー兄、テー兄。」

ナーレはお気楽な性格に見えてその実、慎重さをもっていた。そうでなくては《青銅街》を生き抜くことはできなかった。今回のヤマは身の危険を感じる。渓谷に着いたナーレはそう直感していた。

「こんなことならヴァッロとヘロを雇っておけばよかったかな。」

ハーラが弱音を吐いた。冗談めかしていたが本心だろう。ヴァッロたちが醸し出していた冒険者としての風格は《息巻く竜》ならば、十分に渡り合える圧があった。しかしそれはもう後の祭りであった。

「《竜》がこの時間帯に活動している可能性は低い。昨日の《ウォーグ》を排除したら、速やかに渓谷を出ればいける。どうかな?」

テーリの正義感は恐怖を抑えつけた。もし《竜》の出入りするような渓谷ならば、《ウォーグ》も住処を変えようとするかもしれない。そうなれば人型生物が襲われる可能性が格段に上がる。昨日の戦いから学んだテーリたちは、一晩にして力が増していた。今の自分たちなら《ウォーグ》程度なら遅れをとることはない。

「無理はしない。それだけは約束しよう。」

ハーラの言葉に二人は頷くと、昨日の戦場へ降りて行った。

 真夏のまだ気温が上がりきらない午前の日差しは、それでもギラギラと義兄弟の三人を照りつけた。昨日と打って変わった蒸し暑い森林特有の風が義兄弟の三人に重く絡みついた。樹々のざわめきで、渓流の涼しげな音はかき消されていた。

 渓谷に入っていく三人組の姿を認めたチッチたち四人。いかにも手練れの《パーティー》は義兄弟に気取られない絶妙な距離をあけて義兄弟の跡を追った。不幸なことにチッチたちは《竜》の噂を、道中耳にすることがなかった。聞いたところで、さして問題視することもなかったのだが。ただ、《竜》に対しての備えがなかったことは慢心と言わざるを得なかった。


【第2話 一四に続く】

次回更新 令和7年2月19日水曜日


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遂に見つけた魔獣の巣穴。しかしそこには他の魔物の痕跡が!


冒険者3levelになったテーリ・テフルデニス


クラス:野伏せり2level/魔法技師1level

・ロングボウとピストルが得意武器となった。

・この2種類の武器の特殊効果を発揮できるようになった。

・生存術のスキルを獲得した。

・戦闘技術として遠距離攻撃を獲得し、矢弾の命中率が増した。


辰の日企画! D&D今度こそ実写ドラマ化成功なるか!?&ご報告

2025-02-16 14:03:00 | 日記

今日は2月2回目の辰の日企画。

ビッグニュースが飛び込んできたので、そのご紹介です。



もともとバナマウントピクチャーズで進行していた本企画ですが、昨年頓挫したとのニュースが流れたときは悲しかったですね。


映画アウトローたちの誇りも大傑作でありながら、D&DというニッチなIPのせいなのか、世界的ヒットには至りませんでした。


そんな悲劇の企画をネットフリックスが拾ってくれたそうです!ありがとー、ネトフリ!


映画こそ外れたものの、ゲームではバルダーズゲート3が2023年のGOTY五冠を達成。ドラマではストレンジャーシングスがファイナルシーズン目前。アニメはアマプラ独占でヴォクスマキナの伝説とシークレットレベルが配信中。そして何よりも、本家TRPG界ではD&D2024の展開が始まり、ダンジョンズ&ドラゴンズを取り巻く環境は、大ヒット作を生み出すマグマが噴出寸前と言っても過言ではないと思います。


あ、そうそう、いつ放送が始まるかはまだ不明ですが、漫画原作のある「異世界マンチキン」のアニメ化も、このビッグウェーブに乗れればいいですね。原作の知名度的に苦戦しそうですが。私は応援しています。


さて、ドラマは最も人気のあるD&Dの世界観からとられ、「フォーゴトン・レルム」に成りました。フォーゴトン・レルムの解説本は以下2冊が発売されています。ソードコースト本は現在絶版のため、入手難易度が高いですが、ドリッズド本は簡単に手に入ります。



ドリッズドという方はフォーゴトン・レルムの有名人らしく、ドラマにも出てくるかもしれませんね。


モブ出演という意味では、80年代アニメのキャラやアウトローたちの誇りのパーティー、バルダーズゲート3の仲間たちなんてのも登場が期待されます。


夢が膨らみングな実車ドラマ化。長男がネトフリ会員なのですが、リビングのテレビに繋げてくれないので、ドラマ化が成功した暁には入会しますか!


ちなみに拙著「ハテナの交竜奇譚」の世界は《タツノオトシヨ》といって、フォーゴトン・レルムとは何の関係もない世界でございます。でもD&Dの世界はゲートで繋がることが多分にあるので、無関係とも言い切れず。


テーリたちの冒険が一段落したら、他世界に迷い込むシナリオを書いてみてたいですね。


先週は妻がコロナにかかりアタフタしましたが、今週はどんな1週間になるやら。


最後に重大なご報告をば。


我がブログのメインコンテンツの一つ、鮎の塩焼キング的ドラゴン大辞典を遂に更新いたします!

パチパチぱち!


なかなかやる気が起きなかった下位竜レッサードラゴン《龙》(リョウ)についてまとめていきたいと思います。


たまに読んでくれる人が訪れるので、やっとこさ重い腰が上がりました。思えば次男を亡くした直後、私の命を繋いだ一つが、この辞典作りでした。


小説と並行して更新していきますが、辞典のネタはわずかですので、すぐに完成すると思います。


3月からは生活が激変する予定ですので、来月からはまたこのブログの内容が大きく変わっていくと思いますが、今後ともよろしくお願いします!


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その12 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-15 08:25:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一二

 宿場町から《サンダー渓谷》までは、早足で2時間の距離だった。午前中の早い時間にも関わらず、街道を行き交う人々は多かった。《坩堝》と呼ばれるだけあって、この大陸は多くの人種で溢れていた。

 向かいから大きな荷物を背負った猫型の獣人《タバクシー》が歩いてきた。親子らしく手を繋いで歩いている。行商で街に向かうのだろう。

 冒険者らしい一団ともすれ違った。翼のある《アーラコクラ》や《ドワーフ》、《エルフ》の《パーティー》だった。腕に自信があるのかすれ違いざま、テーリの顔を見てふふんと笑って見せた。悔しくもないが嫌な気分になったので、ナーレになんだあいつら、と愚痴ってみた。

 すれ違う人々よりも、同じ方向に向けて進む人の方が圧倒的に多かった。早足で移動しているため追い抜いていくのだが、ほとんどの者が《新都ネオキオ》に向かっている様子だった。すれ違う人々も追い抜いた人々も漏れなく《ゴール橋》を渡っていく。中には《サンダー渓谷》に降りる者だっているかもしれない。《ウォーグ》の傷が癒えないうちに駆逐しなくては、と義兄弟の気持ちはいっそう逸るのだった。

 前を歩く《ティーフリング》を追い越す瞬間だった。

「渓谷の《竜》の話は聞いたか。運悪く遭遇したら堪らんな。」



赤い肌をした銀髪の男が隣の青い肌の男にそう話しかけていた。《ティーフリング》は悪魔の血を引く人種だが、だからといって邪悪な存在ではない。その長い歴史の中で悪魔の血が混じって生まれた存在に過ぎない。恐れる存在ではなかった。

 《竜》。この世界、《タツノオトシヨ》を産み落とした《辰》(シン)の末裔たち。空を飛び、火や氷を吐き出す最強の生物。知識と財宝に溢れ、高度な呪文を易々と扱う。爪、牙、翼、尾。全身が人型生物にとって脅威となる凶器で武装されている。年を経ることにその力が増していくのも《竜》の特徴だ。生まれたての《囀る竜》から《息巻く竜》を経て《年降る竜》に至る。この年齢に達した《竜》を押し留める人型生物は英雄としてその名を馳せる。《年降る竜》を超える年齢段階を迎える《竜》もいるにはいるが、それは既に伝説の存在とされる。

 その《竜》が《サンダー渓谷》に潜んでいるというのだ。テーリは思わず前を歩く《ティーフリング》に話しかけていた。

「ちょっと失礼。今、《竜》と仰いました?」

話しかけられた赤肌の男は突然のことに驚いていたが、気の良い男で少しの間立ち話ができた。偶然にも耳にできたことは、この先の冒険に役立つ情報ばかりだった。

 一つ、ここ数ヶ月《サンダー渓谷》を出入りする「小型」の《竜》が目撃されるようになった。

 一つ、《竜》は住み着いているわけではなく、頻繁に出入りを繰り返している。

 一つ、深夜から夜明けに行動しているため、人的被害は「まだ」でていない。要約するとこの三つの情報が重要に思えた。

 ハーラはいい話が聞けたよと銀貨一枚を赤肌の《ティーフリング》へ手渡した。男はなんだか悪いね、と上機嫌で手を挙げた。ハーラたちも手を挙げ返すと、足早に歩を進めた。

「テー兄の言う通り、《サンダー渓谷》には《竜》のお宝がありそうだ!」

ナーレは興奮していた。ドラゴンスレイヤー、いわゆる《竜殺し》の仲間入りができるかもしれない。自分が英雄として持て囃される姿を夢想して、鼻息を荒くする。

 ナーレを担いだテーリは焦っていた。まさか本当に《竜》がいるとは。渓谷の伝説は遥か昔に《竜》がいたというものだ。その残骸を探索できたらしめたものくらいの考えだったのが、まさか現在進行形で《竜》の巣になっている場所とは思いもよらなかった。テーリは身震いをした。どんなに年若い《竜》であろうと駆け出しの自分達が叶う相手ではないからだ。鎮痛な面持ちでテーリは俯いたが、歩むことはやめなかった。

 ハーラはテーリよりもさらに暗い顔をしていた。尊敬する祖父君と父上を殺した《竜》。遠くから見たことしかないが、圧倒的な存在感と恐怖を思い出し足が竦んだ。前に進むことが怖くなったが義兄弟の長男分としての威厳があった。テーリにも増して俯きながら、速度を緩めることはなかった。


【第2話 一三に続く】

次回更新 令和7年2月17日月曜日


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竜の作りし世界《タツノオトシヨ》。あまりに身近な生き物だけれど、《竜》を目の当たりにする機会は少ない。《竜》の脅威を前に、義兄弟に臆病風が吹きつける。


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その11 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-13 15:55:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一一

 遥か後方からチッチとマッマの出立の気配を感じたヴァッロは安心したような、そうでないような複雑な心境だった。

「ヘロ、チッチ様とマッマさん、怒ってるかなぁ。」

ヘロは冷淡だった。

「怒ってただろ、既に。お前と話を合わせるために表情はにこやかだったが、目は血走ってたからな。まあ、怒りの半分はマッマさんの余計なお世話に起因していたんだろうが。」

チッチとマッマの茶番を鼻で笑ったヘロは、ヴァッロに聞いた。

「お前はチッチ様のお怒りに気が付かなかったのか?」

「うーんとねー。『いいからさっさと本題を切り出せ!』って命令口調で言われたから、チッチ様にしては珍しくブチギレてるなー、って思った。」

呑気に空の青さを楽しみながらヴァッロは答えた。

「だったら『怒ってるかなぁ』なんて聞くな、この大根。」

ヘロはこいつといると疲れると、凝りもしない金属の肩を揉んだ。ちかれたの?とヴァッロが見下ろしてきたので、もう少しまともな演技をしてくれれば、私が骨を折ることもなかったんだぞと悪態をついてヴァッロを睨んだ。

「オデは野菜じゃないぞ。《コボルド》だ。《竜》のー、末裔のー、コー、ボー、ルー、ドー、様だい!」



ヴァッロの発言の後半は聞くに耐えない、いい加減な即興曲になっていた。ヘロはそのダミ声に辟易とすると、耳を押さえて義兄弟の尾行に専念することにした。

 ヴァッロは気持ち良さげに唄っていたが、チッチたちに追いつかれたことに気がつくと途端に黙りこんでしまった。


【第2話 一二に続く】

次回更新 令和7年2月15日土曜


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人種の「坩堝」。そこで行き交う様々な人々との出会いが、義兄弟の運命を導くこともある。


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その10 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-11 08:11:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一〇

 冒険の行き先がまとまると三人の動きは早かった。ハーラは食事代をテーブルに置き二階に戻った。ハーラとナーレは旅をしてきただけあって、今すぐにでも冒険に出られるだけの携行食や野営の準備ができていた。直近の記憶のないテーリは、わずかな着替えと武器と《魔法技師》の呪文発動具である《盗賊ツール》しか持っていなかったため、宿屋で手配することにした。宿屋は冒険者が身体を休めるだけではなく、装備品の補充にも活用される重要な拠点である。《リザードフォーク》の主人に必要なものを伝えると、すぐに奥から持ってきた。テーリの準備もこうして整った。

 魔獣の追跡と渓谷の探索には馬が足手纏いとなるため、五日以内に戻ると約束して宿に預けた。戻らなければ宿屋の主人の所有物にしていいという契約だ。少なからぬ餌代を渡し、義兄弟の三人は《サンダー渓谷》に続く街道を小走りに走っていった。

 足早に出かける義兄弟を横目にヴァッロがヘロに耳打ちする。

「オデたちも行くぞ。」

「言うまでもない。」

義兄弟の話を何から何まで聴いていた二人はゆったりとした足取りで宿を出た。義兄弟がだいぶ先に見えたが、慌てる距離ではなかった。ヴァッロたちは今ある距離を保つことに注意して、義兄弟の尾行を開始した。

 がらんとした食堂で老夫がポツリと呟いた。

「ヴァッロのやつめ、機転がきかなくて困る。」

ご馳走様と言って食事代を置くと、老婦人を連れ立って店を出た。店を出た瞬間、二人は白い光に包まれる。輝きが収まるとそこには《ドラゴンボーン》の《魔術師》と《ケンタウロス》の《聖職者》の姿があった。

 《ディスガイズ・セルフ》(変装の呪文)を解いた二人はふうと息を吐いた。二人の変装がバレる危険性はなかったが、ヴァッロがボロを出しそうで肝を冷やしたと二人で苦笑した。



「ところでマッマさん。儂の食べ方に文句をつけるのやめていただけないものかな。」

穏やかな物言いだったが、チッチの不満がありありと滲み出ていた。

「あら?差し出がましいようですがチッチさんとご一緒する限りは口出しさせて頂きます。《パーティー》全体の品位が問われますもの。」

マッマと呼ばれた《ケンタウロス》は一切の妥協を見せなかった。

「儂は貴方の倅じゃないんだ。儂の食べ方は儂の美学です。本当に放っておいてもらいたい!」

チッチは語気を強めるとマッマの返事も聞かずに歩き出した。マッマも頬を膨らませている。

「うちの子だったら尚更こんなことは言いません!しっかり躾けておりますので。もう、独身者はこれだから。」

「独身と食の美学は関係ないでしょう!まったく既婚者はこれだから。」

お互いにぶつぶつ文句を言い合いながら、二人は東に歩を進めた。そう、義兄弟やヴァッロたちと同じ目的地を目指して。


【第2話 一一に続く】

次回更新 令和7年2月13日木曜日


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ヴァッロとヘロの珍道中。そこに忍び寄る「あの人」の影!?