亡き次男に捧げる冒険小説です。
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〇六
世にも珍しい機械仕掛けの生命体。《オートノーム》はテーリの詰問を遮った。
「余計な詮索はいらない。私たちはお前たちの役に立った。お前たちは感謝した。それでいい。」
《オートノーム》の言葉からはこれ以上、相棒を困らせないでくれという強い警告が秘められていた。テーリはゴクリと唾を飲んだ。ヴァッロは《オートノーム》の言葉でいつもの調子を取り戻した。
「お前たちは感謝した。それでいい。」
キリッとした表情で言い返してきたので、さしものハーラとナーレも苛立ちを覚えた。悔しいが《オートノーム》の言葉は正論だった。ヴァッロと《オートノーム》は自分たちのために親切にしてくれた。そんな相手を責め立てる非礼を正当化するほど、テーリたちは傲慢ではない。しかし、怪しい者を警戒するのは当たり前だ。さて、どうしたものかとテーリが言葉に詰まった瞬間、ガシャンと皿が割れる音がした。
奥で仲睦まじく食事をしていた老夫婦がいつの間にか諍いを始めていた。
「だから儂は自分の食べたいように食べてるだけじゃ。余計なことはせんでくれ。」
「あなたのためを思ってしています。汚らしく食べるのはおやめなさい。」
「儂を耄碌したと馬鹿にして!」
世話を焼かれるのが気に食わない老夫が憤って声を荒らげる。老婦人も負けずと静かに、そして威圧的に言い返す。実の両親の夫婦喧嘩も見られたものではないが、他人のそれも同等だな。親のいるハーラとテーリは同じことを考えていたが、孤児だったナーレだけは違った。どちらが勝つのかなぁと、喧嘩の決着をワクワクしながら見守っている。静かに椅子を引き《オートノーム》とヴァッロが老夫婦に近づいていった。
義兄弟の三人は腰を浮かせた。まさか怒鳴りつけたり、小突いたりしないだろうな。そんなヴァッロたちに失礼な想像をしてしまったが、老夫婦に近づいた二人組の様子を見て、義兄弟の三人はすぐに椅子に腰掛け直した。ヴァッロはなにやらにこやかに話している。ハマニャッだけは聞き取れたが、後の会話は聞き取れなかった。終始和やかに会話をしていた。威圧的だった《オートノーム》も礼儀正しく、老夫婦にペコペコと頭を下げている。少し慇懃過ぎないかと、ハーラは心配になる程だった。申し訳ありませんでした、いやいやと老夫婦とヴァッロたちはお互いに恭しく頭を下げると、食堂は元の静けさを取り戻した。
【第2話 〇七に続く】
次回更新 令和7年2月5日水曜日
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《オートノーム》からの意外な申し出。どうするハテナ義兄弟??