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Precious Memories ~白人と黒人で共用されたゴスペル・ソング~ ロレッタ・リン Loretta Lynnとファイブ・ブラインド・ボーイズの事例

2007-07-10 | カントリー業界情報、コラム

 ヴィンテージなゴスペル曲の黒白バージョン違い。それぞれの素晴らしい事・・・・先に取り上げましたAlan Jacksonのカントリー・ゴスペル(俗にいうセイクリッド)・アルバムのタイトルですが、なぜかその曲は入っていませんでした。

 私が初めて聴いたのは黒人ゴスペル・グループ Five Blind Boys of Mississippiによるバージョン。伝説のシャウターArchie Brownlee を擁する50年代のハード・ゴスペル・カルテットの一つです。代表曲は"Our father"や"In the wilderness"など、Archieの粘りのある強烈なシャウトがグレイト。しかし、"Precious Memories"はハードではなく、ハワイアン?といった雰囲気のペダル・スティールギターをバックに、ディープなコーラスの妙を聞かせてくれる異色の作品です。Archieのファルセットの妖艶な事!録音は1952年。コレを初めて聴いた当時(20年くらい前か・・・)は、カントリーでよく取り上げられる曲だとは知らず、なかなかムーディーな曲もこなすクリエイティブな連中だわい、と関心してたものです。リズムに対して半拍ほど遅れて歌い始める、黒人特有の歌唱方法以外は、カントリー・スタイルです。なお、Alan Jacksonもやっていた"In the Garden"もMississippiはやっていますが、こちらは全く違う曲調になっています。

 


 "Precious Memories"は、J. B. F. Wrightが1925年に作曲(版権取得?)した作品。19世紀末以降は霊歌からゴスペルに移行し、人種隔離政策が浸透していて黒人ゴスペルと白人ゴスペルはそれぞれで異なるスタイルで発展していた時期。それでもこうして同じ曲を共有しているというのは、アメリカ南部では違うスタイルを持つ両人種が現実には位置的に接近して生きていて、お互いのちょっと耳に挟んだ良い曲とかメロディを、どんどん自分たちに取り込んで行ったからでしょう。



 
 一方カントリーで私が気に入てるバージョンは、Loretta LynnのDVD「Songs of Inspiration」(2005年)で見ることができる、The Wilburn Brothers ShowでのLorettaとWilburn Brothersによる演奏。そしてLorettaの歌声です。この番組はWilburn Brothersという兄弟デュオがホストを務めたカラーのカントリー・バラエティ番組で、1963~1974年に放送されていました。そして御大LorettaはこのWilburnsの設立した会社のマネージメントでキャリアをスタートしており、The Wilburn Brothers Showにレギュラー出演していました。このDVDはその番組での演奏をまとめたLorettaよるカントリー・ゴスペル集。ヒット曲は入っていませんから地味そうに思うのですが(ジャケもさえないし!?)、いやいやさにあらずこのDVDは、だからこそLorettaの歌唱がじっくり堪能できる素晴らしいものです。



 Precious memoriesは、コレが元歌という感じのシンプルなカントリー・バージョン。メインはTeddy Wilburnが歌っていますが、素晴らしいのがコーラス部でのLorettaの天まで届かんばかりのハイトーン・ヴォイス。美しくパワフル、神々しくもダウン・トゥ・アースな土臭さ、こういう相反するものが同居した歌声だからこそ永遠であり、今だに若者を引き付けるのでしょう。また、同じくこのDVDに入っている"Everybody wants to go to heaven"のイントロのアカペラでのブルージーなフレージングに、ハッとしたりもしました。先に触れた"In the Garden"も聴けます。お気に入りなのか現在でも良く歌っている"Where No One Stands Alone"あたりは白人歌唱の至高です。本当に凄い人だと思います。セットが古き時代の南部の邸宅前風という、いかにものイメージで作られていて、欄干つきのテラスで歌うシーンなどルーツ・ミュージックが育まれる往時の雰囲気を再現しています。なお、このDVDはリージョン・フリーです。

 

 

 

 





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