テキサスの人たちは、今日もこんな素敵なホンキー・トンクを楽しんでいるのだ。
メインストリームのトレンドやヒット・チャートなんぞお構いなし、この21世紀の現代においてもバック・オウェンズ、マール・ハガードらから継承したベイカーズ・フィールド流ホンキー・トンク・カントリーを提供し続けてくれるデイル・ワトソン。その彼の、中でもお得意のトラック・ドライビング・ソング(全米をトレーラーで走り回るトラック乗りをテーマにした、カントリーの1ジャンルと言えるもの)をフィーチャーしたニューアルバムです。1998年に同様のコンセプトでリリースし好評を博したアルバムの「Vol.2」という訳です。そのコンセプトはジャケットでもキープされ、白髪になったその姿に年輪を感じます。ホンキー・トンク・スタイルのカントリー・ミュージックの魅力にドップリハマってしまった(私のような)人々には、この軽快でエッジの効いたダウンホームなサウンドと、ディープでキレる歌声はタマリマセン。確かにセールスの絶対数はそれほど稼ぐ人ではないけれども、それでも1995年のデビュー以来コンスタントにアルバムをリリースし続けているのは、そんなデイルの音楽を熱く求め続けているコアなカントリー・ファンがいるからなのです。彼のサウンドは、我が国のトラディショナリストの皆さんはもちろん、プリミティブでシャープな音楽を求めるロック~ロカビリー・ファンにも結構訴えるポテンシャルがあると思います。
マール・ハガードのギタリストで、ブラッド・ペイズリーの「Play」収録の"Cluster Pluck"(グラミーのインスト賞獲得)にも参加したRedd Volkeartのテレキャスターを中心に、ペダル・スティール、フィドル、ベース、ドラムだけのカントリー・コンボによるホンキー・トンク・ミュージックは、ファンには期待通りで、確かに想定内。その魅力は、インストになりますがハイライトの一つである"10-4"の軽やかでテキサスならではのウットリするようなテーマ・フレーズとサウンドに凝縮されています。また、デイル自身による楽曲もシンプルで、カントリーらしさに溢れた”おいしい”メロディを紡いだもの。しかし、それが全く懐古趣味だのノスタルジーなど微塵も感じさせない躍動感を持つのは、現代においても彼の音楽が意義を持ち機能している事と、このホンキー・トンク・スタイルがロックンロール~ロックの原型であり普遍的な音楽スタイルだからだと思います。
オープニングの"Drag 'n' Fly"から早速快調。フィドルとペダル・スティールのユニゾンによる極上のイントロに導かれるデイルの声、いつ聴いてもマール・ハガードにクリソツ!です。もう本家マール様は年齢からすっかりマイルドなお声になられてしまったので、今となっては貴重。これってかつてのソウル・ミュージック界での、サム・クックSam Cookeとそのソックリさん、オヴェイションズのルイス・ウィリアムスLouis Williamsとの関係が思い出されます。本家を想起させつつ、ビミョーにオリジナリティを散りばめる~デイルの場合は塩っ辛いカントリー・ロック感~事でファンの支持を獲得しているのでしょう。バンドはプリミティブですが、テクニックは文句なし。"Truck Stop In Lagrange"では4ビート・ベースのリズムの中、”it shuffled me on my way”と歌われる部分で難なくシャッフル・ビートを挿入するという、芸の細かいところを見せます。それに各曲のアレンジやビートは実にバラエティに富んでおり("Truckin' Queen"などチョッピりイナたいファンキー・ビートだったり)、聴き手を飽きさせません。職人芸です。これはデイルのツボを得た楽曲作りの上手さによるところも大です。このアルバムにあって、なかなかにモダンなイントロがインパクトの"Yankee Doodle Jean"や、ワイルドに畳み掛けるハイテンポな"Me And Freddie And Jake"辺りも注目。一方、スロー曲は"Hero""Let This Trucker Go"の2曲と少ないものの、要所に配されホロリと涙を誘います。特に”俺はもう天国にたどり着いたんだよ。ハニー、このトラッカーに行かせてくれよ”と物悲しく歌われる"Let This Trucker Go"の美しさは、カントリー・ミュージックならではの至福の時間を味わわせてくれます。
1962年にアラバマ州に生まれますが、すぐにテキサス州ヒューストンに移り住み、テキサスが彼の真の故郷になります。高校卒業後は7年ほどローカルのクラブで演奏活動をしますが、1988年にロサンジェルスに移動。すぐに、今や伝説的なオルタナ・カントリー・クラブ、Palomino Clubのハウス・バンドに参加するのです。そのロスで、シングル・リリースやコンピレイション・アルバムへの参加もこなした後、ナッシュビルへ移動、ソングライターとしての日々を過ごす事になります。しかし、ナッシュビルのメインストリームに肌が合わなかった彼は、故郷テキサス州のオースティンにおける急進的なカントリー・シーンに自然と惹かれて行ったのです。そして1995年にHightoneレーベルから「 Cheatin' Heart Attack」でデビュー、そこで展開されたヴィンテージ感溢れ、ナッシュビルのメインストリーム・シーンに対するアンチテーゼのような音楽が、批評家筋の絶大な支持を得たのです。1998年にも彼のイメージを決定付ける「The Truckin' Sessions」をリリースするなど順調に活動していた彼ですが、2000年にフィアンセを交通事故で亡くす不幸に見舞われます。一時ドラッグ浸りの荒れた生活をしたものの、しかし徐々に体調を整え、クリスマス・アルバムやイギリスでのライブ・アルバム「Live in London, England」で少しづつ調子を上げていき、「Dreamland.」でほぼ復調。その一方で、カウボーイ・ドラマに主役で出演するなど、多芸なところも見せるように。そして2005年、それまでのテキサスでの精力的な活動が認められ、 Austin Music Hall of Fame(こういうものが存在する事に、アメリカにおけるテキサス文化の強さ、存在感が感じられます)への殿堂入りを果たすのです。
「Rig Rock Deluxe: A Musical Salute to the American Truck Drivers」
それにしても、デイルがイギリス録音のライブ・アルバムをリリースしている事が興味深いです。彼の音楽がイギリスでも好まれている証拠でしょう。それで思い出したのですが、10年ほど前にソリッドなホンキー・トンク~カントリー・ロック・サウンドが聴きたくて、トラック・ドライビング・ソングのコンピレイション・アルバム「Rig Rock Deluxe: A Musical Salute to the American Truck Drivers」(1995年)を紹介され、良く聴いていた事があります。トラック乗りは、この手の音が好きなんですね。そしてそこに、ベイカーズフィールドサウンドのオリジネイターであるバック・オウェンズ御大、当代オルタナ・カントリー界からのソン・ボルトSon Volt、ケリー・ウィリスKelly Willis、スティーブ・アールSteve Earle、さらにナッシュビル・メインストリーム界の曲者マーティ・ステュワートMarty StuartやBR5-49らの名に混じって、ブリティッシュ・ロック・バンド、ロック・パイルのニック・ロウNick Loweの名があったのです。もちろんデイル・ワトソンも参加していました。たしかにロンドンのパブ・ロック・シーンとテキサス・ホンキー・トンクは、共通するサウンド、テイストがありますね。
蛇足ですが、グラム・パーソンズのフライング・ブリトー・ブラザーズで有名な"Six Days on The Road"、オリジナルはDave Dudleyによるトラック・ドライビング・ソングの草分けです。1963年のヒット曲。この曲でDave Dudleyは”トラック・ドライビング・ソングの父”との称号を与えられる事になりました。一度聴き比べられる事をお勧めします。
●デイルのMySpaceサイトはコチラ●
Dave Dudley
メインストリームのトレンドやヒット・チャートなんぞお構いなし、この21世紀の現代においてもバック・オウェンズ、マール・ハガードらから継承したベイカーズ・フィールド流ホンキー・トンク・カントリーを提供し続けてくれるデイル・ワトソン。その彼の、中でもお得意のトラック・ドライビング・ソング(全米をトレーラーで走り回るトラック乗りをテーマにした、カントリーの1ジャンルと言えるもの)をフィーチャーしたニューアルバムです。1998年に同様のコンセプトでリリースし好評を博したアルバムの「Vol.2」という訳です。そのコンセプトはジャケットでもキープされ、白髪になったその姿に年輪を感じます。ホンキー・トンク・スタイルのカントリー・ミュージックの魅力にドップリハマってしまった(私のような)人々には、この軽快でエッジの効いたダウンホームなサウンドと、ディープでキレる歌声はタマリマセン。確かにセールスの絶対数はそれほど稼ぐ人ではないけれども、それでも1995年のデビュー以来コンスタントにアルバムをリリースし続けているのは、そんなデイルの音楽を熱く求め続けているコアなカントリー・ファンがいるからなのです。彼のサウンドは、我が国のトラディショナリストの皆さんはもちろん、プリミティブでシャープな音楽を求めるロック~ロカビリー・ファンにも結構訴えるポテンシャルがあると思います。
マール・ハガードのギタリストで、ブラッド・ペイズリーの「Play」収録の"Cluster Pluck"(グラミーのインスト賞獲得)にも参加したRedd Volkeartのテレキャスターを中心に、ペダル・スティール、フィドル、ベース、ドラムだけのカントリー・コンボによるホンキー・トンク・ミュージックは、ファンには期待通りで、確かに想定内。その魅力は、インストになりますがハイライトの一つである"10-4"の軽やかでテキサスならではのウットリするようなテーマ・フレーズとサウンドに凝縮されています。また、デイル自身による楽曲もシンプルで、カントリーらしさに溢れた”おいしい”メロディを紡いだもの。しかし、それが全く懐古趣味だのノスタルジーなど微塵も感じさせない躍動感を持つのは、現代においても彼の音楽が意義を持ち機能している事と、このホンキー・トンク・スタイルがロックンロール~ロックの原型であり普遍的な音楽スタイルだからだと思います。
オープニングの"Drag 'n' Fly"から早速快調。フィドルとペダル・スティールのユニゾンによる極上のイントロに導かれるデイルの声、いつ聴いてもマール・ハガードにクリソツ!です。もう本家マール様は年齢からすっかりマイルドなお声になられてしまったので、今となっては貴重。これってかつてのソウル・ミュージック界での、サム・クックSam Cookeとそのソックリさん、オヴェイションズのルイス・ウィリアムスLouis Williamsとの関係が思い出されます。本家を想起させつつ、ビミョーにオリジナリティを散りばめる~デイルの場合は塩っ辛いカントリー・ロック感~事でファンの支持を獲得しているのでしょう。バンドはプリミティブですが、テクニックは文句なし。"Truck Stop In Lagrange"では4ビート・ベースのリズムの中、”it shuffled me on my way”と歌われる部分で難なくシャッフル・ビートを挿入するという、芸の細かいところを見せます。それに各曲のアレンジやビートは実にバラエティに富んでおり("Truckin' Queen"などチョッピりイナたいファンキー・ビートだったり)、聴き手を飽きさせません。職人芸です。これはデイルのツボを得た楽曲作りの上手さによるところも大です。このアルバムにあって、なかなかにモダンなイントロがインパクトの"Yankee Doodle Jean"や、ワイルドに畳み掛けるハイテンポな"Me And Freddie And Jake"辺りも注目。一方、スロー曲は"Hero""Let This Trucker Go"の2曲と少ないものの、要所に配されホロリと涙を誘います。特に”俺はもう天国にたどり着いたんだよ。ハニー、このトラッカーに行かせてくれよ”と物悲しく歌われる"Let This Trucker Go"の美しさは、カントリー・ミュージックならではの至福の時間を味わわせてくれます。
1962年にアラバマ州に生まれますが、すぐにテキサス州ヒューストンに移り住み、テキサスが彼の真の故郷になります。高校卒業後は7年ほどローカルのクラブで演奏活動をしますが、1988年にロサンジェルスに移動。すぐに、今や伝説的なオルタナ・カントリー・クラブ、Palomino Clubのハウス・バンドに参加するのです。そのロスで、シングル・リリースやコンピレイション・アルバムへの参加もこなした後、ナッシュビルへ移動、ソングライターとしての日々を過ごす事になります。しかし、ナッシュビルのメインストリームに肌が合わなかった彼は、故郷テキサス州のオースティンにおける急進的なカントリー・シーンに自然と惹かれて行ったのです。そして1995年にHightoneレーベルから「 Cheatin' Heart Attack」でデビュー、そこで展開されたヴィンテージ感溢れ、ナッシュビルのメインストリーム・シーンに対するアンチテーゼのような音楽が、批評家筋の絶大な支持を得たのです。1998年にも彼のイメージを決定付ける「The Truckin' Sessions」をリリースするなど順調に活動していた彼ですが、2000年にフィアンセを交通事故で亡くす不幸に見舞われます。一時ドラッグ浸りの荒れた生活をしたものの、しかし徐々に体調を整え、クリスマス・アルバムやイギリスでのライブ・アルバム「Live in London, England」で少しづつ調子を上げていき、「Dreamland.」でほぼ復調。その一方で、カウボーイ・ドラマに主役で出演するなど、多芸なところも見せるように。そして2005年、それまでのテキサスでの精力的な活動が認められ、 Austin Music Hall of Fame(こういうものが存在する事に、アメリカにおけるテキサス文化の強さ、存在感が感じられます)への殿堂入りを果たすのです。
「Rig Rock Deluxe: A Musical Salute to the American Truck Drivers」
それにしても、デイルがイギリス録音のライブ・アルバムをリリースしている事が興味深いです。彼の音楽がイギリスでも好まれている証拠でしょう。それで思い出したのですが、10年ほど前にソリッドなホンキー・トンク~カントリー・ロック・サウンドが聴きたくて、トラック・ドライビング・ソングのコンピレイション・アルバム「Rig Rock Deluxe: A Musical Salute to the American Truck Drivers」(1995年)を紹介され、良く聴いていた事があります。トラック乗りは、この手の音が好きなんですね。そしてそこに、ベイカーズフィールドサウンドのオリジネイターであるバック・オウェンズ御大、当代オルタナ・カントリー界からのソン・ボルトSon Volt、ケリー・ウィリスKelly Willis、スティーブ・アールSteve Earle、さらにナッシュビル・メインストリーム界の曲者マーティ・ステュワートMarty StuartやBR5-49らの名に混じって、ブリティッシュ・ロック・バンド、ロック・パイルのニック・ロウNick Loweの名があったのです。もちろんデイル・ワトソンも参加していました。たしかにロンドンのパブ・ロック・シーンとテキサス・ホンキー・トンクは、共通するサウンド、テイストがありますね。
蛇足ですが、グラム・パーソンズのフライング・ブリトー・ブラザーズで有名な"Six Days on The Road"、オリジナルはDave Dudleyによるトラック・ドライビング・ソングの草分けです。1963年のヒット曲。この曲でDave Dudleyは”トラック・ドライビング・ソングの父”との称号を与えられる事になりました。一度聴き比べられる事をお勧めします。
●デイルのMySpaceサイトはコチラ●
Dave Dudley
早速My Spaceで試聴してきましたが、イイですね、これ。早速取り寄せます。
メインストリームのトレンドやヒット・チャートしか追いかけてこなかった、というより追いかけるしかすべを知らなかった私には、こういった"Too Country(カントリーすぎる)"サウンドがかえって新鮮だったりします。
トラック・ドライビング・ソングって、まさにドライバーのためのドライブミュージックなんですねえ。車でカントリーを聴く私にはぴったりかも・・・・・ カントリーにこんなジャンルがあるのも初めて知りました。スイングあり、ヨーデルあり、ほんとうにカントリーって幅広いですね。どうやら勉強することはまだまだ山積みのようです。
ブラッド・ペイズリーといえば、新作"American Saturday Night"が今月末発売ですね。こちらも楽しみです。
私もbigbird307さん同様、いろんな音楽を聴き、カントリーにたどり着きました。アメリカンロックは言うに及ばず、ジャズ・フュージョン - R&B・ソウル - カントリーといった流れでしょうか。
これからもメインストリームはもちろんのこと、この作品のようなヒットチャートに隠れた名盤もどんどん紹介してくださいね。