ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

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カントリー・ソングライター・インタビュー 経済不況時代のカントリー・ソング ”険しい時代の賛美歌”

2009-06-07 | カントリー業界情報、コラム

 現在100年に一度などと言われる経済不況で世界が苦しみ、その発信地アメリカも再建に四苦八苦している現在。CMAのパートナー、GM(直接のスポンサーChevyシボレー・ブランドはまだ優良のようですが・・・)も遂に破綻・・・・。今回の不況は1929年の”世界恐慌”に良く例えられますが、実はこの世界恐慌の時代にジミー・ロジャースやカーター・ファミリーらが絶大な人気を獲得し、カントリー・ミュージックが商業ベースにのる土台になると共に、それが現代アメリカン・ポップ・ミュージックの基礎に繋がったとされています。特にこの2組がデビュー・レコーディングを果たしたラルフ・ピア(Ralph Peer)による1927年の"ブリストル・セッション”は伝説的で、南部農村地区の経済苦が歌われた作品群は、広くアメリカの人々の心を打つことになったのです。このことから、現在の世界恐慌においても、カントリー・ミュージックが果たす役割に期待し、新しい音楽の創出に希望を託す声も聞かれる様になっています。今回はユニークな企画として、著名なソングライター達にそのあたりの展望についてインタビューした、CMA提供のランディー・ラダー氏の記事をご紹介しましょう。

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 1980年代の”アーバン・カウボーイ”の時代までカントリー・ミュージックでは良く似たモチーフが一般的だった。その頃ニューヨークのマディソン・アベニューでは、しばしば高価な車を買ったり、機械式のロデオ・ブルに乗ったり、ビールやジーンズを買う為にお金を残しておくようなカントリー・ファンが発見され始めたのだ。その時期から、テーブルに食事を出す為に懸命に努力する父親を歌うカントリー・ソングは、チャートにはあまり見られなくなった。しかし、この経済危機の中、かつての険しい時代のテーマは再び身近になってくるだろうか?今回はその問題について、一流のソングライター達に彼らの経験や考察を語り合ってもらった。参加者はGary Burr(Juice Newton"Love's Been a Little Bit Hard on Me"、リアン・ライムス"Nothing About Love"、ケリー・クラークソン"Before Your Love"など)、Chris Dubois(Jimmy Wayne"I Love You This Much"、マーク・ウィリスMark Wills"19 Somethin'"そしてブラッド・ペイズリーの"Me Neither""We Danced"を始め、リリース間近の「American Saturday Night」からのNo1シングル"Then"までの多くの作品)、そしてパブリッシャーであるRusty Gastonの3人である。

 Q:カントリーのソングライターは、この不確かな時代において、アメリカ人の関心事にどのように責任を果たしていますか?

 Burr : ソングライターにとっての課題は、些細な出来事の中の大切な事について書けなくてはいけない事なんだ。もし仕事を失った男性について書くとすると、リスナーはなぜ彼が仕事を失ったかなんて気にしない。それよりも重要なのは、彼や彼の家族への影響なんだ。こういう話題は、いつも人の心を捉えるんだね。

 Dubois : 僕は、音楽は人々にとっては逃避の手段だと思うんだ。僕には、対象が悪い人間関係や不景気であっても、ネガティブな部分に視点を向けるのではなく前向きな事について書くことが、ライターとして成功する秘訣のように思える。みんな悪い事をしょっちゅう思い出す必要はないよね。皆分かっているんだよ。また、もし僕が、今の良くない時期について書いたとしても、書いて、デモを吹き込んで、シンガーに渡して、レコーディングしてリリースするまでに、状況はもう悪くなくなって、関係なくなってるかもしれないよ。

 Q : でも、そういうネガティブなテーマは、かつての大恐慌の時代のカントリーにしばし見られました。現代のソングライターにとって、彼らの父親や祖父の世代に扱っていたのと同じテーマを取り上げる事が難しくなってしまうほどに、カントリー・ミュージックは変わってしまったのでしょうか?

 Gaston : 全てのジャンルの中で、カントリー・ミュージックはこれまでアメリカ人のスピリットの声であり続けたものだよ。そしてどんな時もカントリーは、経済だの戦争だの騒動だのの良くない時代を通じて生まれてきて、それは人々に、彼らの真の価値を吟味させてきたんだ。みんながそうする時、たいがいはカントリー・ミュージックには良い事なんだ。家族や神や国の本当の価値を表現できるのは、カントリー・ソングライター以外にいないよ。経済不況の時って、必ずしもカントリー・ファンでない人たちも彼ら自身を見直したり、自身の価値を見つめたりして、自然にカントリー・ミュージックに目覚めていくんだよ。

右より、Gary Burr、Rusty Gaston、Chris Dubois



 Q : 皆さんが作品を書くにあたって、どの程度の日々のニュースに影響を受けていますか?
 Burr : もし良いライターだったら、原点に立ち返ってやり直したいと思うべきものは、創作そのものだよ。テーマに限っては、僕はかつて、歌詞や文学では本当はほんの7つの基本的な筋立てしか存在しないんだって読んだことがある。この手のストーリーってのは、アメリカ人がいつも聞きたいと望んでいるものなんだ。

 Dubois : カントリー・ファンのためにベストなモノを書くべきで、世の中のニュースで何が起こっているかには対して関心を持たない方が良いよ。ただ、明らかに例外なのはアラン・ジャクソンAlan Jacksonの"Where Were You"(※あの9.11を取り上げたメッセージソング)かな。でもそれは、経済不況とはチョッと違うね。世界が震撼するような出来事だった。アランの語り口も痛切だったしね。彼は曲を書き、レコーディングして急いでリリースし、2002年のCMAアワードでSong of the Yearを獲得した。しかし、それ以降はそのような曲は多くは出ていない。映画「シンドラーのリスト」を見るようなものだね。何度もお目にかかれる映画じゃない。とても強力で、でも一度見たらその後はしょっちゅう思い出す必要はないんだよ。

 Gaston : ナッシュビルのソングライター達は、時を超越した曲、それは今日であろうと10年後であろうと録音できるような曲を書こうと懸命なんだよ。

 Q : だから、私達はDaryl Worleyの"Have You Forgotten?"(※戦争に対する反対の声が多くなり始めた事に対して、オサマ・ビンラディンの名を出して「9・11を忘れたのかい?」と問いかけた曲)の新しいバージョンを探そうとするのかもしれません。

 Dubois : それは、時間に過敏な曲の一番良い例だね。一つの出来事に関して文化的に学ぶべきものを多く持っている。ガソリンの値段は、もう一つの例だよ。僕は実際、去年の夏にガソリンの高騰についての多くの曲を聴いた。6ヵ月後、値段はそれ以前の5年間のレベルにまで下がってしまったね。

 Q : しかしある程度の曲はルールを破る・・・・・

 Burr : 僕はかなり以前にConway Twittyがレコーディングした"That's My Job"を書いた。それは僕の父親の死についての歌だったんだ。自分自身のために書いたんで、レコーディングされるなんて考えもしなかった。でも僕はその曲を提供し、レコーディングされた。その後僕はその曲を聴いていたよ。”なぜみんなはこの曲を聴きたいんだい?とても気がめいる曲だよ”しかし、父の日が来るたびに、その曲は聴かれるようになったんだ。

Dubois : シンガーは曲のテーマに対してとても個人的な経験や、その曲との緊密な関係を持つ必要がある。そうでなければ、登場人物として自分自身が演じなきゃいけない。シンガーが曲の中で役割を演じる事は、以前ほどには頻繁ではなくなってる。もし子供を持っているという設定の曲を書き、シンガー自身が子供を持っていなかったら、その曲をレコーディングしたがらないんだ。

 Burr : それってクレイジーだよね。僕には理解できないんだ。装っているのさ。一つの役を演じているんだ。でももし人々が飲まなかったら、誰も酒の歌を歌いたがらないさ。ジョニー・キャッシュがリノRenoで実際に殺人をしたわけじゃなんだけどね。

 Gaston : 近年の偉大なシンガー達は、こういった役者になりきれた人たちで、ファンはそれを知っているよ。みんな、ガース・ブルックスGarth Brooksが奥さんに暴力をふるわない事や、リバ・マッキンタイアReba McEntireが売春婦じゃない事を承知していたんだ。みんなは理解をして、それを楽しんでいたんだよ。

 Q : 深刻な問題を写実的に扱った曲は、人々の興味を引く事が出来ませんか?

 Dubois : 出来ないね。リリースされた曲も、チャートの上位まで行けていないよ。時々曲のメインテーマが深刻すぎるものがあるけれども、誰も2度と聴きたいと思わないよ。

 Burr : ある程度の人たちは、音楽を聴く時、自分の現在の状況から抜け出たいと思っている。だから、今悪い状況だと、そこから彼らを出してくれる曲やストーリーを聴きたがるんだ。

 Gaston : インスピレィションを与える曲であれ、希望の曲であれ、あるいは人との結びつきに関する曲であれ、カントリー・ソングライターは人間の精神の核たる土台を結びつける事が出来る人たちなんだよ。僕たちのカントリー・ライターは、経済不況だからといって違うテーマについて書く必要はないんだ。ライター達が自然に書いたり歌ったりするテーマは、みんなが今聴きたいものなんだよ。

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 ソングライターは、あまり経済不況云々はこれからのカントリーには重要ではないと考えているようですね。それでは新しい音楽が生まれる兆しはあるのでしょうか?CMT.Comのチェット・フリッポ氏が、先週のコラムでこう語っています。「2人のシンガー・ソングライターがモダン・カントリー・ミュージックの構造を再構築しようとしている。一方は現在とてもパワフルで、ほんの数年前には存在しなかった。そしてもう一つは、かつて強力だったが、ここ最近は表に出ていなかったものだ。その2人とは、テイラー・スウィフトTaylor Swiftジェイミー・ジョンソンJamey Johnsonである」

  

   Taylor Swift        Jamey Johnson



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