モーガン・ウォレンの待望の3作目、前作「Dangerous:The Double Album」に引き続き全36曲というダブル・アルバムを越えて、もうトリプル(?)と言いたくなるボリュームのアルバムです。このアルバムが相当待ち望まれていた事は、ビルボード200(オール・ジャンルのアルバム・チャート)で初登場1位はもちろんの事、この投稿時点で4週連続トップを保ち続けている事からも感じ取れます。さらに、初登場の週には、ここでの36曲が全てシングルのホット100にチャートインしたという快挙も成し遂げました(ちなみに、前作は19曲がランクイン)。その「記録」は以下の通りです。
3月18日付 Billboard Hot 100
1 Last Night
7 Thought You Should Know
8 You Proof
9 Thinkin' Bout Me
10 One Thing At A Time
11 Ain't That Some
14 Everything I Love
15 Man Made A Bar
18 I Wrote The Book
27 '98 Braves
29 Devil Don't Know
30 Sunrise
32 Born With A Beer In My Hand
35 Whiskey Friends
38 Tennessee Numbers
40 Cowgirls
41 Hope That's True
43 Dying Man
44 Keith Whitley
47 In The Bible
48 Neon Star (Country Boy Lullaby)
51 Me + All Your Reasons
52 I Deserve A Drink
53 F150-50
54 Tennessee Fan
56 Single Than She Was
59 Wine Into Water
61 Days That End In Why
63 180 (Lifestyle)
65 Last Drive Down Main
69 Good Girl Gone Missin'
71 Me To Me
72 Money On Me
75 Had It
76 Outlook
77 Don't Think Jesus
最初一通り聴いて感じた印象は、ザック・ブライアンの「American Heartbreak」を聴いたモーガンが、゛これくらいだったら、俺ももう一作くらいは創れるぜ!゛と意気込んで製作したアルバム、というイメージです。とにかく、Nワード問題で2021年から2022年にかけて業界から締め出しを喰らい、その間に書き溜めた多くの曲のストックが有った事は想像に難くないので、とにかくボリュームでは前作を越えようとしたのでしょう。その分、「Dangerous」はアップ・テンポからスロー・ナンバーまで絶妙に曲想のバラエティを広げ作り分けていたのに対し、今作はロック系のハードなナンバーが影をひそめ、ミディアム~スローくらいの曲が相当多く並んでいる中に、所々ヒップ・ホップの香りのするデジタル・ビート曲を入れて単調にならないようにしているという感じか。"You Proof"などの既発のヒット曲は別として、新曲群の質的な密度という面では前作よりは幾分低いように聴こえます。
それでも、前作にはなかったイメージのナンバーもちらほら見られ、80年代ニュー・ウェイブのブリティッシュ・ポップ?といった風のアルバム・タイトル曲"One Thing At A Time"が目を引くのと、個人的には70年代のポップ・カントリーを感じる、幾分レトロな"Everything I Love"はかなりお気に入りです。アルバムを通じて繰り返し聴いていると各曲はそれぞれに聴きどころがあり、質の良いBGMとして楽しめる程度のクオリティは持っていると感じます。
その他、気になった所は・・・、既にヒットした重厚な名バラード"Thought You Should Know"のソングライターにミランダ・ランバートがクレジットされています。゛どうしたんだい?ママ/~/僕はあなたが僕の事を心配し続けてきたことを知っている/(僕が生まれた)’93年以来、ろくに眠れなかっただろうね゛と、モーガンが謹慎していた時期に母への複雑な思いを綴ったと思われる曲です。この曲をミランダと共作した時のエピソードは分かりませんが、ミランダが手を差し伸べたのでしょう。決めのメロディにミランダが歌いそうなイメージを感じます。
以前の記事で、モーガンは少年時代はカントリーミュージックを聴いていなくて、イーグルスなどのアメリカン・ロックで育ってきた(それで十分と思いますが)エピソードを紹介しましたが、本作に"Keith Whitley"という曲が収められています。歌詞には、"I'm no stranger to the rain"、"Kentucky bourbon"、"When You Say Nothing At All”、"Don't close your eyes"、"Miami, my Amy"などのキースの名曲タイトルがちりばめられている、カントリーではよく見受けられる手法によるキース賛歌です。キース・ホイットリーは、レフティ・フリゼル~マール・ハガードの流れをくむ正統派男性カントリー歌唱スタイルのレジェンドですが、モーガンの声とは似ても似つきません。モーガン自身はソングライティングには関わっておらず、気に入ったので選曲したんでしょう。保守系カントリー・ファンへの強いアピールを感じる、落ち着いた聴かせるミディアムです。
先にも触れたように多く収録されるミティアム・スロー系の小品群で、個人的に楽曲が特に気に入っているのが"'98 Braves"です。意味は「1998年の(アトランタ・)ブレーブス」で、つまりメジャー・リーグの球団の事。内容は、1998年のナショナル・リーグのチャンピオンシップ・シリーズ(NLCS)で、90年代に黄金時代を築いていたアトランタ・ブレーブスがサンディエゴ・パドレスに敗れた事を、゛勝つこともあれば負けることもある、ホームランばかりじゃないんだ゛と捉え、女性との結婚が果たせなかった経験を重ね合わせるものです。アトランタの球団の20年以上前の出来事(ワールド・シリーズでもないのに…)を話題にするとは、アメリカ南部の人々のこの球団に対する強い愛着を感じます。カントリーならではのユニークな(他愛ない?)詩作だと妙に感心しました。少年時代は野球選手だったというモーガンらしい選曲です。それにしても。10年くらいしたら、大谷翔平選手を歌うカントリー・ソングが出てくるのかしら…
全体のサウンドは、通常の艶やかなナッシュビル・サウンドと比べると音数が少なく、少し無機的に感じる部分もあります。キーボードだけでやってるのかしら?という印象を受ける時もあります。そのバックで陰影あるギターを響かせて、シンプルですが他では得られない独特の音世界を創っていて、そこに塩っ辛いモーガンの歌声が乗る事で生まれるパーソナルな感じが若い音楽ファンに広く受け入れられているのかもしれません。その反面、こんな感じで(デジタル技術を駆使したりして)軽々とカントリー・ソングが゛量産゛できる時代になっていくのかしら、なんて予感もします。ハーディやアーネストがゲストとしてデュエットで参加、二人は複数の曲でモーガンと共作しています。
新作が出たばかりで気が早いですが、次はまた新たな音楽的な方向性や飛躍を期待したくなるモーガンです。
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