ジョニー・キャッシュの娘で、80年代のカントリー・フィールドを代表するスター、ロザンヌ・キャッシュによる、カントリー・クラシックのカバー集です。最近、ベテラン女性アーティスト達によるカバー集が、”流行”とも言えるくらいの多さで、当ブログでも紹介したパティ・ラブレスの"Sleepless Nights"をはじめ、タニヤ・タッカーTanya Tucker"My Turn"、ロリー・モーガンLorrie Morgan"A Moment In Time"などがリリースされています。その中でも、このロザンヌ版クラシック集の付加価値は、彼女が高校を卒業した頃に、父ジョニーから手渡された「100 Essential Country Songs」から選曲されている事。それは、当時ロザンヌがロック~ポップ・ソングしか知らない事を憂いた父が、午後のひと時をかけて作り上げた、心からの「The List」でした。そして今、彼女は近年のカントリー・ラジオでかかる曲と自分の好む曲との違いに、父が若きロザンヌに感じたと同じような懐疑的な思いを感じ、父からの「The List」をこの現代に世に問うたのです。
90年代から住まいを構えているニュー・ヨークでレコーディングされたその音は、”クラシック・カントリー集”という看板から連想されるようなトラディショナルなサウンドではなく、時にジャジーで、そして時にAOR的でもあったりする、洒脱なポップ・センスも感じるクールなもの。ロザンヌの歌声からしてそういう個性ですから。そこは、元々伝統的なカントリー・サウンドからは距離を置いてきた彼女らしいところです。また曲目も、フォーク系の"500Miles"やディランの"Girl From The North Country"が含まれていたりして、カントリーとしてはチョッと異色。ここらは、リスト作成者である父、ジョニーの音楽志向~カントリーとフォークのミクスチャー~が反映されたものと言えるでしょう。さらに、ゲストとしてロック界の超大物、ブルース・スプリングスティーンやエルビス・コステロらがゲスト参加!というトピックもあり、このアルバム、カントリー・ビギナーにとってのクラシック曲の入門用としては、なかなかにお薦めなアルバムだと思いますよ。
ロザンヌの歌声は、多くのカントリー・シンガー達のようなエモーショナルでソウルフルな歌声とはひと味違う、やわらかく滑らかでありつつ、チョッピリ影も感じさせるもの。聴いてて心地良いだけでなく、しっかり心にしみるのです。だから、軽快なミディアム・テンポのナンバーがイイ。中でもお気に入りは、ブルース・スプリングスティーンとのデュエットで聴ける"Sea of Heartbreak"と、"Long Black Veil"です。ナッシュビル産の艶やかな音とは違う、コンパクトな編成によるナイーブなサウンドは、ポップ・ファンにも好まれるでしょう。ロザンヌの声は軽やかですが、キッチリと歌詞で歌われる憂いを、ジメジメ感なく漂わせてるところがナイスです(ただ、ブルースの声はチョッと重っ苦しくて、他に誰かいなかったんかいなぁ・・・)。そのロンサムな歌声は、ラストのトラディショナルなスタイルのカーター・ファミリー・ナンバー"Bury Me Under the Weeping Willow"でも魅力的です。
1955年、テネシー州メンフィス生まれ。そう、ジョニー・キャッシュが音楽活動をスタートさせた年に、当時の妻ヴィヴィアンとの間に生まれました。3歳の時に一家はカリフォルニアに移住しますが、8年後に両親は離婚。父ジョニーとは離れる事になりましたが、親しい関係は保ち続けました。高校を出た後、父のツアーに同行し(この時に「The List」が父から授けられた)、ステージ上で歌ったことも。「みんなに守られていると言う感じでした。何をやっても批判されることはなかった。それにステージでの存在感をどうやって出すか、父を手本に色々と学ぶ事ができたわ」1979年に、後に夫となるロドニー・クロウェルの作曲、プロデュースによる"No Memories Hanging Around"でデビュー・ヒット。その後間髪入れずに、"Seven Years Ache"、"Blue Moon With Heartache"などのNo.1ヒットをモノにして個性を確立、80年代をリードするカントリー・スターの座を獲得するのです。彼女の鋭い洞察力を感じさせる作品は、正統派のカントリーファンの嗜好とは違うものでした。当時彼女は語っています「私は自分の事を新しい道を切り拓きつつあるカントリー・ミュージシャンなんだと思っています」ビートルズの"パーティはそんままに"をカバーした事もありました。80年代を通じて商業的な成功を収めますが、90年代に入ると、ロドニー・クロウェルと離婚し、住まいもニュー・ヨークに移住。メインストリーム・カントリーがトラディショナルな方向に行くのに反し、彼女の音楽はより詩的に、そして難解になっていき、チャート・アクションからは離れていきます。しかし、現在まで3~4年毎にクオリティの高い作品を制作し、着実な活動を続けています。
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返事が送れ本当に申し訳ありませんでした。
ディスカバー・アメリカでロザンヌ・キャッシュが出ている
事は知りませんでした。こちらも勉強になりました。
またコメントをいただけたら嬉しいです。これまでの怠慢を
反省し、速やかにお返事をお返しします。よろしくお願い
致します。
今日、自分のブログで思わぬことからRosanne Cashを載せることになり、このページを紹介させていただきました。
現代Country Musicの総合ガイド・サイトということですので、いろいろ勉強させていただきたいと思います
今から20年ぐらい前に光ケ原高原にてスタンピードと言うカントリーイベントがあり、幾人かのカントリー歌手が来日した1人がロザンヌキャッシュでした。
父のジョニーキャッシュはTVショーで観て知ってましたが、その娘さんと言うことと、その歌が心に響いてコンサート後にCDを買い、サインと共に一緒に写真を撮ったりハグしてもらったり、そのサービス精神に心がメロメロでした。
機会があれば来日してワンマンライブを行ってほしいですね。
コメントを頂き有難うございました。
スタンピードは2002年に1年だけ開催されたそうですね。貴重な思い出話を有難うございます。
熊本のカントリーゴールドも2019年に終了し、遠くて2回ほどしか行けませんでしたが、本場のアーティストに触れる機会がなくなったのが残念です。
雰囲気はだい異なりますが、最近はブルーノート東京が若手アーティストをパッケージしたCMAの「イントロデューシング・ナッシュビル」やっていて、昨年もコロナ禍がなければ有ったようなので、今後期待したいと思っています