ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Little Big Town リトル・ビッグ・タウン- Tornado

2012-12-10 | カントリー(女性)

 カントリー界随一の実力派4声ユニット、リトル・ビッグ・タウンの、今年2012年の大出世作。2005年の「The Road to Here」でブレイク以降、その確かで魅力的なボーカル・ワークで地位を築き、最近は堅実なカントリー・ロックの様式美に則った作品で一定の評価を得てきた彼ら。しかしブレイク以降は、なかなか実力相応のビッグ・ヒットに恵まれなかった彼らが、本作で遂に念願のCMAアワードのグループ賞とシングル賞("Pantoon"!)の2冠を獲得する栄光を手にしたのです。LBTの本物感溢れる音作りに長く注目してきた私にも嬉しい事でした。

 オープニングから感じるのが、各楽器の音圧の強さ。とくにロッキン・ナンバーでの低音部の骨太感や粘着性は、カントリー・ロック路線の近作よりも、ブレイク作の「The Road to Here」に通じる、ブルージー路線の再来といった印象です。エリック・チャーチの「Cheif」でCMAアワードのアルバム賞を獲得した、プロデューサJay Joyceのサウンド・デザイン(シンセや打ち込みも随所に使いながら)により、LBTが本来持っていたダウンホームな特質とパワーが蘇ったのです。プロデューサー交代が見事に功を奏しましたね。ボーカルのカレン・フェアチャイルドは言います”Jayはクリーンなやり方を望む一方で、その下にある基礎はヘヴィーで豊かであるべきと考えているの。それはまた私達が探し求めていたものでもあったのよ”


 70年台ロック、特にイーグルスやCSN&Yのファン(ストーンズも好きなんだそう)であるJayは、グループと濃密なリハーサル(Pre-Production)を行い、たくさんの新しい試みにチャレンジしました。”ナッシュビルでPre-Productionが余り行われてないのがなぜかわからないけど、ボーカル・バンドにはかなり有効だよ。なぜなら、何度もシンガーやキーを変えれるからね。選択肢は無限大にあるんだ”とはJayの弁。彼は、グループのコーラスに古風な(Old-School)スタイルを取り入れたり("Can't Go Back")、古いエコー・チャンバーを活用("Tornado""Night Owl")したり、ボーカルの定位を中央からずらしたり、ボーカルとインストのボリューム・バランスを巧みに調整したり、などなど沢山のユニークな試みをバンドとチャレンジしたのです。カレンは言います”Jayは文字通り、スタジオの真ん中でB-3(ハモンドオルガン)の上に立ち上がって、私達を指揮したりインスピレーションを与えてくれたりしたの。それは忘れられない光景だわ”結局、レコーディング自体は、たった7日間で修了し、ライブで活き活きした瞬間を捉える事に成功したのです。


 全てのきっかけとなったリード・シングル"Pantoon"。この中近東アタリを思わせるエキセントリックなイントロとミディアムの曲調は、一度聞いたら忘れられない。アーシーなハスキーボイスでリードを取るカレン・フェアチャイルドの歌声も見事にマッチしていて、レトロなR&Bナンバー(それもB級っぽいのがミソ)って感じかな。一方、セカンド・シングルとなったタイトル・チューン"Tornado"は、口笛もフィーチャーされたクラシックなカウボーイ・ソングのような、これまた耳にこびり付くユニークなスタイル。しかし、その底部にはうねるシンセ・ベースを配して、現代の音楽として強力な磁力を発揮しています。これら2曲とも、ライターにNatalie Hembyがクレジットされており、彼女が絡んだ他のナンバーも含めて、LBTに新しい曲想・スタイルを持ち込む事に成功しています。その中で、"Can't Go Back"やラストを静かに締めくくる"Night Owl"は、これまでのLBTにない、浮遊感と優しみに溢れたボーカル・パフォーマンスが楽しめるスロー曲で、やはり印象に残ります。

 1曲、実にオーソドックスなカントリー・バラードがきっちり収録されています。可憐なハイトーンボイスのキンバリー・スクラプマンが切々と歌う"Sober"。”貴方の肩に寄りかかって酔いしれているの。それは長い間を経たワインのように甘い。死ぬ時も、けして酔いから冷めたくはないわ”美しいコーラスが素晴らしく、アルバム中のフェイバリット・ソングです。やはり、シンプルなカントリー・ソングを歌わせたら、LBTの右に出るアーティストはいないという事が、この珠玉の1曲で改めて分かりました。



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
更新楽しみにしてます。 (taka2300)
2012-12-15 14:08:39
Little Big Townの4人のコーラスをフューチャーしたスタイルが好きです。今作は楽曲もバラエティに富んでいて聴いていて飽きないですね。

Soberは僕も好きな曲で耳に残りますね!
Pantoonはあのイントロがインパクトあるんですけど楽曲のゆるい感じにフィットしてて面白いです。

bigbirdさんお文章は深い音楽の知識とカントリーミュージックへの愛が感じられて良いです。
これからも更新楽しみにしています。
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お返事おくれて申し訳ありません (Bigbird307)
2013-06-05 23:47:06
taka2300さん。コメント頂き有難うございました。
お返事が半年後になり、申し訳ございませんでした。
今怠慢を猛省しています。今後は速やかにお返事するよう
努力いたします。

共感していただいたようで嬉しいです。文章は褒めてい
ただく程のモノではなく、いつも冷や冷やしています。
また気が向かれましたら、コメントいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。
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