メジャーMCAレーベルでの16作目という、長くトップクラスの
人気とクリエイティブな音楽活動を継続して来たヴィンス・ギル
の2019年の新作です。その温かみのある声で、いつも気の利い
たジョークを飛ばして皆を和ませてくれるというイメージの人で
すが、今作のジャケットを見ると様子が違いますね。薄暗いトー
ンの中で一人孤独に背中を向けて佇んでいるヴィンス。歌われ
ているテーマは、かつてなく自伝的だったり、痛切な表現や時事
的な内容が取り上げられているようです。
そしてサウンドの方は、ペダル・スティールやバンジョーも要所
でフィーチャーしたカントリーの基本スタイルで固めていますが、
アコースティック・ギターの響きが全体を支配し、穏やかなスロ
ーからミディアム曲が大半を占めています。グラミー賞のアメリ
ン・ルーツ部門でノミネートされた"I Don't Want to Ride the Rails
No More"は、ヴィンスが長年勤め続けて来たコンサート・ツアー
の過酷さ、孤独を歌った作品。ヒルビリーの古いスタイルをベー
スにしながらも、モダンでムーディな雰囲気になっているのは、
さすが彼らしいです。このアルバム、一見地味かもしれませんが、
音楽的には意欲的で、ありきたりなカントリーではなかなか得ら
れない心地良さがあります。さすがです。
"What Choice Will You Make"は意に反して妊娠してしまった女
性を歌った重いテーマのナンバー。こういった歌詞内容と共に、
サウンドも”The Price of Regret”とかアコギのアンサンブルが、
結構重厚な響きを醸しています。"Black and White"あたりはバ
ンジョーが奥ゆかしく鳴り、チョッぴりハスキーになってもふく
よかで温かいヴィンスの歌声に落ち着きます。ギターの爪弾きが
美しいです。
自伝的なナンバーでは、奥さん、Amy Grantへ捧げた"When My
Amy Prays"と、お母さんへ捧げた"A Letter to My Mama"が続
けて収録されています。タイトルからしてとてもストレートに家
族への愛が表現されていますね。前者はピアノ主体によるゴスペル
調スローで、ヴィンスの歌声もエモーショナルに思いを込めて歌い
上げています。これらスロー曲の中に有って、終盤に1曲、ソフト
なファンク曲"That Old Man of Mine"が目を引きます。また、
"The Red Words"もシンプルながらフックのあるミディアムで、
それぞれアルバムの要所で変化を付ける良い効果を果たしていると
思います。
電子音が増加し、だんだん賑やかになってくる近年のヒット・カン
トリーにあって、ベテランとして業界内の音楽的なバランスを取っ
てくれているように思いました。長年のファンには、このようなス
タイルの新作が有る事がとてもありがたいと感じるのです。2017年
には、イーグルスのツアーに参加し、グレン・フライのパートを多
くこなしたそうです。
●その他、ヴィンス・ギル作品のレビュー
・「Down to My Last Bad Habit」2016年
・「The Time Jumpers」2012年
・「These Days」2006年
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