ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

ブレイク・シェルトン Blake Shelton - Body Language

2021-05-29 | カントリー(男性)

 

今と時めくメインストリーム・カントリー界の雄、ブレイク・シェルトン。00年代後半から10年代前半の、毎年のようにCMAアワードを獲得(エンターテイナー賞も)していた時期(そしてミランダ・ランバートと夫婦だった時期)によく取り上げてましたが、久々です。近年では、全米ネット番組「The Voice」で共演した元ノー・ダウトのボーカリスト・グウェン・ステファニーと婚約したことがわが国でも報道されていますね。丁度先週取り上げた、アラン・ジャクソンの次の世代の大物として出て来た一人になりますが、そのアランの憂いていたモノが象徴されているアルバムのように感じました。立て続けにこの二人のアルバムがリリースされた事が、象徴的で興味深いです。

 

 

本アルバム、ブレイクの言葉によると、2年前から製作が進んでいていたそうで、ナッシュビルだけでなくオクラホマやロスでの録音が含まれ、コロナ禍のパンデミック中に3曲を追加して完成させたとの事。ほとんどがミディアム曲で、一時期のようなアメリカン・ハード的なサウンドはなく、耳障りが良くリラックスして楽しめるカントリー・ポップ作品と言えると思います。オープニングで目下ヒット中の“Minimum Wage”は特にブレイクお気に入り曲の様で、デモを聴いた瞬間いろいろとアイデアが湧いたそう。彼曰く゛この曲で気に入ってるのが、ピアノのイントロさ゛。一定の巡回コードが続く、ライブで聴きたいノリの良いナンバーです。私見ですが、ローリング・ストーンズの゛悪魔を憐れむ歌゛の、90年代頃のライブバージョンを思い出しました・・・あの巡回コードです。

 

 

タイトル曲の"Body Language"は、何ともブレイクらしいタイトルですが、シンセ音も聴こえるスムーズなポップ曲。「The Voice」でブレイクのチームで登場していたThe Swon Brothersが共作と客演もしています。セクシーなイメージが歌われますが、゛部屋いっぱいに、地獄のように騒々しいよ/何も聞こえないんだ/でも君の言いたいことは分かるよ゛と言う歌詞に、ブレイクはライブでの爆音を思い出して親しみを感じるんだそう。ラフでセクシーとも言われたブレイクでないと歌えない曲ですが、伝統的なカントリーとの接点は、音にも詞にも見当たらないです。

 

意外にもグウェン・ステファニーとデュエットし、既にNo1になっている“Happy Anywhere” が、バンジョー音がフィーチャーされた田舎風サウンドで、一番カントリー的になってるのが面白いです。グウェンは、デュエット1曲目のバラード"Nobody But You"同様にコーラスで素直にハーモニーを付けるだけですが、確かに二人の声のミックスは絶妙。グウェン姉さんのハイトーンの切ない声はカントリー的で、その声のモデルは、間違いなくタミー・ワイネットでしょう(そして、グレンがジョージ・ジョーンズ)。

 

 

以降の曲では、”Corn”のようなクリアなギターによるストレート・カントリー曲がいくつかあり、その曲のような農業賛歌や労働者応援歌(゛最低賃金でも君のおかげでリッチな気分にひたれるよ!゛)も含まれ、ブレイクがあくまでカントリー・スターである事を確かに実感できます。しかし、どの曲もとにかくスッキリした触感で、長いカントリー・ファンにはどうにも刺さらないなぁというのが、アラン・ジャクソンの「Where Have You Gone」を聴いた後の率直な印象になります。やはり幅広い層へのお楽しみの場のBGMであり、腰を据えて聴くことを想定したものではないのですね。ただし、最後のカントリー・バラード"Bible Verses"は別格です。男気溢れるブレイクならでは表現力が堪能できます。つまり、このアルバムは、グレンに注目するだろうあらゆるファン層の誰一人も裏切らないような作品が取りそろえられているのです。アラン・ジャクソンのように、フィドルやペダル・スティールを聴きたい人には、しっかり"The Fox"が有ります。

 

 

カントリーのラブ・ソングの中の一つのパターンに、労働者の男性がより上流のリッチな女性を、そのラフな魅力でモノにする、というテーマがあります(モノにできないのもある)。ポップとカントリーでどちらが上位か、などとは考えたくはないですが、やはり世界レベルでの知名度を思えば、ポップ・アーティストの方が知名度は高いです。ブレイクとグウェンはそれぞれ離婚したばかりの傷心の時期に出会い意気投合したとの事ですが、カントリー・スター、ブレイクの絵に描いたようなサクセス・ストーリーの延長線上のように見えてしまうし、本国では上記のステレオ・タイプ的なその゛成長゛に、胸をときめかせているファンもいるのかもしれない、と感じています。このアルバムは、そんな彼のBGMであれば良いのかもしれません。

 

 

そもそもブレイクは、初期の代表曲"Some Beach"(カントリーボーイがお金持ちらに絡む幾つかの災難を被るたびに発する"Son-of-a-bitch !"の訛)がランディ・トラビスの名曲を多く書いたポール・オーバーストリートによる曲だったほどで、カントリーの伝統からキャリアをスタートした人だと思っています。前妻のミランダ・ランバートとの音楽性を語った時、ミランダはロックから来たけど自分はカントリーだ、と語っていました。しかし、彼はそこに留まる事を良しとしない発言もしており、カントリーに軸足を据えつつ、音楽的テリトリーを少しづつ拡げてきたわけです。そして、かつてお金持ちにからかわれて憮然としていたカントリー・ボーイは、今やわが国でも著名なポップ・ディーバを虜にする程の存在になったのです。これはまぎれもなく成長と認めるべきでしょう。

 

こう書いてくるとミランダ・ランバートが可哀そう、となりそうですが、彼女も早くに再婚し、今年グラミー賞も取ったりカントリー界を引っ張るべく精力的に活動をしているので、離婚は過去の事でしょう。ミランダとブレイクの活動を見ていると、アラン・ジャクソンが憂いたメインストリーム・カントリーミュージックの行く末が確かなモノになるかどうかは、気まぐれ気味なブレイクでなく、ミランダにかかっていると思っています。

 

★ブレイク・シェルトンは、過去に以下のアルバムを取り上げています   「Pure BS」「Startin' Fires」「HillBilly Bone / All About Tonight」「Red River Blue」「Based on a True Story」



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