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アラン・ジャクソン Alan Jackson - Where Have You Gone【レビュー】~アランが歌うナッシュビルへの憂い

2021-05-22 | Alan Jacksonアラン・ジャクソン レビューまとめ

 

この4月にリリース情報をご紹介(下段に転載)しましたように、゛Keepn' It Country゛キャンペーン以来6年ぶりの、まさに待望と言いたいアラン・ジャクソンの新作です。全21曲(ただし、マール・ハガードのカバー"That's the Way Love Goes"はCDには未収録)はダブル・アルバムと言ってよいボリュームで、基本的にデビュー以来貫いてきた、ファンの期待通りのホンキー・トンク・スタイルのカントリーがたっぷりと堪能できます。アルバム・タイトルとオープニング曲の゛君はどこに行ってしまったんだい?゛の「君」は、その彼の愛し続けて来た伝統的なカントリーミュージックを指していて、そのせいもあってかどことなく感傷的な雰囲気がアルバムに漂います。

 

 

さすが6年も持たされただけあって、厳選されただろう各楽曲の質は高いです。アランはこのアルバムの音楽を、゛ちょっとハード(Hard)なカントリー゛と感じているよう。全体を見れば、各楽器のソロの応酬も楽しめるアップ・テンポの"Back"や"Beer:10"(フロリダ・ジョージア・ラインの"Beer:30(ビールの時間だよ!)"への返歌?)とか、トワンギーなギターが響くミディアム"Write It in Red"、娘の結婚を通じて家族へのやさしいまなざしを歌う"You'll Always Be My Baby"や"I Do"、そして傷心の酒場ソングの"Wishful Drinkin'"、"Way Down in My Whiskey"などなど、これまでのアランお得意のスタイルをくまなくショーケースしているのですが、とくにスロー・バラードでテンポが少し落とされ、重厚な雰囲気を漂わせていたり、ブレント・メイソンのギターが結構前面に出ていたりするのをハードを表現したのでしょうかね。特にスローには凛とした雰囲気があります。

 

 

゛君がいなくなってあまりに長い時が経った/忘れることなど出来ないし、大丈夫だなんてふりも出来ないよ/誰も君に変わるものはいない/だから僕は君を信じ続け、夢見続ける/やわらかなスティール・ギターが聴けないのがどれほど寂しいか/もう一度心からの言葉を聴かせておくれ/魂からの声であるフィドルが必要なのさ/素晴らしいカントリーミュージックはどこに行ってしまったんだい?゛と歌われる"Where Have You Gone"での切なる訴えが、やはりアルバムの空気を作っています。娘の結婚や今は亡きお母さんへ捧げた"Where Her Heart Has Always Been"など家族をテーマにした楽曲も別れが主題であり、物悲しさを増幅させているようです。

 

 

確かに失われたものへのノスタルジーは、元々カントリーミュージックを特徴づける定番の話題でした(ただし、それを強引に元に戻そうとする事とカントリーとは関係ない)。例えばアランも、ロバート・T・ロルフ氏が「カントリー音楽のアメリカ」で取り上げた"Little Man"(1998年)では、ウォルマートのような大資本の大型店によって衰退してしまった、小さな町のさびれた目抜き通りや小規模経営店の”名もなき人”を歌っています。それは、ロルフ氏いわく゛伝統的なカントリー音楽の感性を支える価値体系や世界観を危うくすることになる゛ものだからです。またその少し後の時期には、ジョージ・ストレイトとデュエットした"Murder on Music Row"(作曲はラリー・コードルLarry Cordle)で、゛ナッシュビルの音楽業界で真のカントリーミュージックが殺され、ロック・ギターに取って代わられている゛と,歌っていました。

 

 

それから20年が経ち、今度はアラン自身のペンによって、その真のカントリーミュージック自体が失われてから長い年月が経ってしまい、戻ってくる見込みもない、と歌われているのです。アメリカからホンキー・トンク・スタイルが消滅しているのでしょうか。少なくとも、テキサスやレッド・ダートの状況を見る限り、伝統的なカントリー・スタイルは健在ではあります。アメリカーナでもそのスタイルにこだわるアーティストはいます。やはりアランが問題にしているのは、ナッシュビルとその地でのメインストリーム・カントリー業界の方向性なのでしょう。音楽産業都市として発展し続けてきてそれは素晴らしい事なのですが、成長の為にはどうしてもつきまとう他ジャンルとのクロスオーバーの動きと、昔ながらのスタイルを維持する事との矛盾。その事への途方に暮れる思いが、アランの声に現れているかのようです。

 

一方で、コロナ禍のステイホーム・ライブの影響か、フロリダ・ジョージア・ライントーマス・レットが穏やかな新作をリリースしたり、シングル・チャートでもアコースティックな肌触りの曲が増えてる良い兆しがあるようにも見えて、今回アランが久々のアルバムをリリースしたのもその流れに乗ったのかしら、とも思います。しかし、そのトーマスですら、゛カントリーとは音楽的には誠実なストーリーさ゛と、よく見ると意味不明な事を言っていて、やはり気まぐれっぽいのです。

 

 

どうしても思い起こしてしまうのが、かつてのソウル・ミュージックの顛末です("Where Have You Gone"でアランは「Sweet Country Music]と歌っていますが、下地にある言葉は「Sweet Soul Music」でしょう)。「リズム&ブルースの死」でネルソン・ジョージ氏は語っていました。゛アメリカ黒人の(白人への)同化主義への執着が、自らを文化的自殺に向かってまっしぐらに突き進ませている゛゛自らをクロスオーバーのぬるま湯から引き上げ、(中略)自分たちの思い通り生きる権利のために闘うことだ゛解説のピーター・バラカン氏も、゛ブルースに根差したアメリカ黒人の音楽は、完全になくなってはいないとしても、進化は止まった゛と書いていました。今のカントリー業界においても、ビジネスとしての成長を追い求める中で、大まかには同じような構図になってるのではないかと感じるのです。本来あるべき「カントリー人(いわゆる労働者層とかレッドネックとか)」としての気骨を音楽的に表現する事を放棄するかのような姿勢に、アランは憂いの気持ちを隠せないのでしょう。

 

 

アランがブレイクした頃を思いかえしてみると、けして古いスタイルをそのまま焼き直していたわけではなく、クリアで硬質なギター・サウンドや強いビートを取り込んで、ホンキ―・トンク・スタイルを進化させていました(クラシック・カントリー・ファンでも、アランはもう一つしっくりこない、という方もいた)。やはり、この音楽的フォーマットでのサウンドの革新やそれを実現する新しいスターを期待するしかないのでしょうか。待望のアラン・ジャクソンの変わらない新作に、またいろんな事を考えてしまいました。これでまたまたビルボード200のトップ10に食い込んだら、痛快なんですが・・・ (追記) ビルボード200で初登場9位でした。同トップ10内は通算15作目

 

 

【以下は、2010年4月10日に投稿したリリース情報記事です】

 

 

1989年のデビュー以来、一貫してカントリーミュージック本来のスタイルでトップ・クラスの人気を保ち続けて来たアラン・ジャクソンが、来月5月14日に、実に6年ぶりの新作スタジオ・アルバムをリリースすると発表しました。そこには21曲が含まれ、先行してタイトル曲"Where Have You Gone"を含む3曲が公開されています。アランと言えばソングライターとしても有能な事は定評がありましたが、今回も15曲を自作。もちろんプロデューサーはいつものKeith Stegallで体制も盤石です。

 

発表に合わせて紹介されたアランの言葉です。今までの多くの彼の作風に比べると、゛少しハードなカントリー゛だとのこと。聴いた感じでは、ライブ感のあるわりと重厚でアーシ―な音楽という事でしょうか。アルバムの最終ミックスを聴いて、予期しない結果が得られたと感じているようで、゛面白いよ。運転しながら聴いてたら、涙が出始めて感情的になった事に驚いたけど、こんな音楽が好きなんだ゛

 

曲作りに関しても語っています。゛曲を書くとき、故郷や成長していた頃を思いかえすんだ。本当のカントリーミュージックは、人生、愛、傷心、お酒、お母さん、そして楽しい時を過ごす事に関わる音楽なんだけど、楽器のサウンドそのものでもあるんだ。スティールやアコースティック・ギター、そしてフィドル。これらには丁度良いサウンドやトーンがあって、それが聴く人たちの心に響く・・・それもカントリーなんだよ゛この辺りの思いが、Where Have You Gone"でも綴られているようです。アランは詩人でありつつ、やはりサウンド・マンでもあるのです。

 

ギター一本片手に、ジョン・シーゲンソーラー歩道橋をナッシュビルのダウンタウンに向かって歩いていくジャケットにもしびれますね。かつてのようなヒットは望めないでしょうが、ライブも予定されているようで、よりアランの露出が増えて欲しいと思います。

 



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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
初めまして (1000villagechild)
2021-06-22 22:41:02
初めまして、こんにちは。
アラン・ジャクソンのニューアルバムはまだ聴いていませんが、読んで少し聴きたくなってきました。
これからもよろしくお願いします。

ps。わたしのブログで”リクエスト曲”を募集中です。
カントリーやポップス・ロックなどでお聴きになられたい曲がございまして、もしよろしければ、ユーチューブの動画より”おかけ”致しますので、お気軽にコメント欄よりご投稿ください。
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ありがとうございます (bigbird307)
2021-06-23 23:21:38
1000villagechildさん
コメントいただき有難うざいました。
アランの新作、ぜひお楽しみください。
濃厚にカントリーを楽しまれてますね。
こちらこそよろしくお願いします
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video editing service (Gustavoanogy)
2021-10-08 21:04:05
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