2007年のデビュー作「I'll Stay Me」、そして2009年のセカンド
「Doin' My Thing」を好意的に紹介しておきながら、この2010年
代のカントリー界を代表するエンターテイナー、ルーク・ブライ
アンを、その後一度も取り上げていませんでした。特にデビュー
作、そののびのびしたテナー・ボイスにかなりのめり込んでいた
のですが。既にベテランとなったそのルークの、5月のリリース
予定から延期になっていた7枚目(「Spring Break」EPのコンピ除
く)がリリースされたこの機会に、まずは「Doin' My Thing」以
降の栄光のプロフィールをアルバム・リリースの足跡を中心に振
り返っておきたいと思います。
「Doin' My Thing」から "Do I"や"Rain Is a Good Thing"がスマッシ
ュ・ヒットとなり、アルバムもプラチナ・セールスを記録して本
格的に人気に火が付きましたが、2011年の「Tailgates & Tanlines」
でさらに勢いを増していきます。リード・シングル"Country Girl
(Shake It for Me)"の4位を皮切りに、続く"I Don't Want This Night
to End"、"Drunk on You"、"Kiss Tomorrow Goodbye"がいずれもカ
ントリー・エアプレイで立て続けに1位になりました。そしてアル
バムは4百万枚のセールスを記録したのです。"Country Girl (Shake
It for Me)"はそのタイトル通り、カントリー・ガールをかつてなく
情熱的に描き、ルークのさりげなくセクシーなナイス・ガイ風イ
メージを決定付けたのではと思ってます。
この勢いは2013年の「Crash My Party」にも引き継がれ、シングル
は"Crash My Party"、"That's My Kind of Night"など6曲全てがカント
リー・シングルか、カントリー・エアプレイ・チャートのどちらか
で1位になるという快挙を成し遂げたのです。アルバムも前作同様
4百万枚をこえるセールスを記録します。これらの実績によって、
2014年のCMAアワードで、最高のエンターテイナー賞に輝く事に
なりました。
ルークの活動で特筆すべき事は、レギュラーのアルバムとは別に、
2009年以降毎年3月にスプリング・ブレイク(いわゆる春休み)向
けのパーティーEP(後にまとめてアルバムにもなってる)をリリー
スして来た事。2010年代は3月になるとフロリダ州パナマシティー
ビーチに学生が集まり、このビーチの街が学生のメッカとなるほど
の社会現象だったようです。このあたりの活動もルークの人気やイメ
ージを形作ったのでしょう。ただ、2015年のその時期に乱射事件や
レイプ事件が有ったようで、パナマは対策となる条例を施行、翌年
から急速に鎮静化し家族旅行の街になっていきました。ルークも以
降は同様のEPをリリースしていないようです。
2015年の「Kill the Lights」からもヒット曲を連発し、"Kick the
Dust Up"、"Strip It Down"らまたもや6曲が1位に上りつめていま
す。そして、この年のCMAアワードでも2年連続のエンターテイ
ナー賞を受賞するという偉業を成し遂げたのです。カントリーの
長い歴史の中でこの賞を連続受賞しているのは、バーバラ・マン
ドレル、ハンク・ウィリアムス・ジュニア、アラバマ、ガース・
たちだけです。アルバムは最終的にダブル・プラチナのセール
スを記録します。
2017年の「What Makes You Country」になると幾分落ち着いてき
ますが、それでもチャート上はオール・ジャンルでしっかり1位を
獲っていますし、シングルも"Light It Up"、"Most People Are Good"
など3曲がエアプレイで1位になっています。それ以上に特筆すべ
きなのが、ABC局で復活した゛アメリカン・アイドル゛の審査員に
抜擢された事でしょう。ケイティ・ペリーやライオネル・リッチー
とその座をつとめ、ギャビー・バレットらの登場を見届けました。
こうして、カントリーの世界をより広げていくエンターテイナーと
して活躍を続けて来たのです。
ルークの声は、カントリー的なクセの少ない奇麗なテナーなので、
ポップにクロスオーバーする魅力が備わっていました。だから、
ハードなロック・サウンドやダンサブルなビート、メロウなポッ
プ・バラードなど、いわゆるコンテンポラリーな幅広い音楽スタ
イルで多くのファンを魅了してきたのでしょう。ただ、゛飲む゛
ことがテーマの歌やトワンギーなカントリーも必ずアルバムに
は入れて、軸はあくまでカントリー・スターであり続けているの
です。
最新作は、まさにそんなルークの真髄をアルバム・タイトルにし、
これまでにない円熟味も感じさせる作品集になっていると思いま
した。既に"Knockin' Boots"、"What She Wants Tonight"、 "One
Margarita"の3曲がエアプレイ・チャートで1位になり、変わらな
い人気の高さを誇りますが、かつてのようなハードでダンサブル
な音は封印され、ゆとりある曲想で聴かせてくれています。
リード・シングルとなった"Knockin' Boots"は、あのボビー・マ
クファーリンの"Don't Worry Be Happy"を思い起こさせる、ジャ
ズっぽいリズムが印象的。タイトルはルークらしい、セクシーな
婉曲表現ですね。そしてくせ者が"One Margarita"。実にシンプル
なミディアムですが、"One margarita, two margarita, three margarita,
shot!"とテンポある歌詞とラテン系のリズムの魔力に知らぬ間に引
き込まれてしまう曲です。冷静に聴くと、基本ワン・コードだけ
で全編押し通してるのです。それでNo.1ヒットになるのは、ルー
クの声の魅力の賜物でしょうね。
お気楽なナンバーでヒットを飛ばす一方で、スローの"Build Me a
Daddy"のような重いテーマもしっかり取り上げています。ある少
年がおもちゃ屋さんに入り、兵士と共に写った写真を渡して店員
に尋ねます。゛店員さんは何でも作れるって聞いたんだ/僕の父さん
を作っくれませんか?/スーパーマンのように強くね/僕は本当に父さ
んに会いたいんだ/父さんと一緒に家に帰ったら、きっと母さんが喜
ぶよ゛アメリカで確実に存在する殉職兵士の家族を描いたもので
すが、あくまで少年の言葉で状況が綴られるだけで、戦争は悲惨な
ものだの、残された家族を支えるべきだの、メッセージが語られる
事はありません。ポップ・ソングで扱うには重すぎるテーマですが、
カントリーでは時々取り上げられる話題で、聴く人に考える機会を
与えているようです。
"Too Drunk To Drive"以降の後半は、これまでになく穏やかなストレ
ート・カントリー曲が並んで、長いファンには嬉しいです。スティ
ール・ギターの代わりにキーボードで色を添えて幾分モダンにして
います("Too Drunk To Drive"ではスティールが少し聴けます)
が、この声で歌われるカントリーは格別です。一時代を築き年齢を
重ねたルークの、新たなステージの始まりを彩るアルバムと言えそ
うに思います。
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