ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Nitty Gritty Dirt Band - Speed of Life

2010-01-09 | カントリー(男性)
 ニッティ・グリッティ・ダート・バンド- Speed of Life

 カントリーはもちろん、フォークやブルーグラス、ラグタイム、そしてロックなど多彩で広範な音楽イディオムを自由自在に操り、なんと43年もの長いキャリアを築いてきた、稀有なグループ、ニッティ・グリッティ・ダート・バンド(以下、NGDG)の、最新アルバムです。バンジョーやマンドリンのカントリー楽器はもちろん、洗濯桶ベースやカズーなどの伝統的な楽器も演奏する、元々フォーク・グループからスタートした彼らの音楽は、ルーツ志向のアコースティック・ミュージック。1973年、LPで3枚組みのフル・ボリュームでリリースされた名盤、「Will The Circle Be Unbroken」で、当時まだ存命だったカントリー・ミュージック創生期のスター達~ロイ・エイカフ、ドック・ワトソン、マール・トラビス、マザー・メイベル・カーター(!)ら~と、ロック世代ならではのヴィヴィッドなアコースティック・パフォーマンスでクラシック・カントリーの名曲を競演し、当時すっかりアダルト向けの音楽となっていたカントリーの魅力をサイケデリック世代の若いファンの耳に届けた功績が、今だに語り草になっている偉大なバンドなのです。同時期にウェスト・コーストで活動を開始したイーグルスやジャクソン・ブラウンがカントリー・ロック~ロックン・ロールを志向してブレイクして行ったのに対し、NGDBはオーガニックなカントリー・サイドの音楽で着実な活動を続けてきました。

                    

 そんなNGDBの最新作は、彼ららしいオールド・タイム・ミュージックの雰囲気をたっぷりと漂わせながら、超ベテランとは思えない若々しさに満ちている事がトピックです。ますます若手が席巻している現代のメインストリーム・シーンの音楽と比べても、彼らの歌声の飄々とした軽~い明るさには力強さが感じられ、絶えない創造力を見せつけてくれるのです。そして、ジェフ・ハンナJeff Hannaやボブ・カーペンターBob Carpenterらのバンドメンバーや、Shawn Camp、Matraca Bergらの名ソングライター達による楽曲の良さも、このアルバムのクオリティを上げる一因になっています。この手の、今風に言うアメリカーナ音楽では、楽曲のキャッチーさやクオリティは二の次になってしまってるのは事実ですから、余計にこのアルバムのありがたみが増すのです。

                    

 アルバムは、エレクトリック・ドブロが響くイントロから、NGDBらしいフル・アコースティックの軽快で洒脱な曲調に転換する"Tulsa Sounds Like Trouble to Me"でスタート。都会の誘惑に、欲望の赴くままに刹那的に振舞う主人公の言葉が、ジェフ・ハンナの若々しい歌声で歌われます。「このでかい国のアチコチをさまよい、どの町も俺を迎えてくれるけど、タルサだけはヤバイぜ」 Matraca Bergがソングライティングに加わったスロー"The Resurrection"は、かつての面影なくすっかり寂れてしまった町の、疲れきった列車の車掌の背中や、年老いた牧師の食前の感謝の祈りを描き、そんな状況でも”復活”を待ち望んで夢をあきらめない姿を淡々と歌います。現在の経済不況下にあるアメリカを描いているのでしょう。このアルバムの意欲的な部分を表現しているのが、ブルース・ロック・バンド、キャンド・ヒートCanned Heatの名曲"Goin' Up the Country"のオールド・タイミーなカバー。アーシーでルーツ志向でありつつ、とても気品に満ちた生音のアンサンブルが本物感に溢れています。

 気品と言えば、アーシーでオーガニックなこのアルバムの中で、スムーズで流れるような時を提供してくれるのが、"Speed of Life"と"Amazing Love"の2曲。楽しみや悲しみ、出会いや別れを繰り返しながら、川の流れの浮き沈みのように決して止まる事のない人生を観念的に歌ったタイトル・ソング。「生まれてから死ぬまで、一時たりとも振り返って時間を無駄する事なんてできないんだよ。全ては人生のスピードで動いているんだから」文字通り川のせせらぎのように可憐に響くピアノとバンジョーのソロが美しい小品です。"Amazing Love"ではフォーク・ロック的なエレクトリック・ギターが加わり、よりスケールが増します。「豊かで優れ、他と比較出来ない”素晴らしい愛”。神のご加護に満ち溢れた人生。約束は守られる」というスピリチュアルな言葉と共に、「僕は子供の頃、自分の行いが、結局は自分に返ってくるんだなんて、分からなかった。これまで長い間旅をして来て、幾つかの間違いを犯しながら、”許し”と”素晴らしい愛”を学んだんだ」と、長い人生を経験してきた彼らならではの、要点をついた人生訓が歌われています。

                    

 1966年にカリフォルニア州ロングビーチ結成されたニッティ・グリッティ・ダート・バンド。ジェフ・ハンナ、ジミー・ファデンJimmie Fadden、プログレッシブなバンジョー奏者ジョン・マッキューンJohn McEnenの3人は、当時からのオリジナル・メンバーです。1967年にデビュー。70年代に入り、"ミスター・ボージャングルズ""プー横丁の家"などでまずまずのヒットを放った後、冒頭で触れた「Will The Circle Be Unbroken」で名声を確立したのです。当時ロイ・エイカフはNGDBの事をこう語ったと言います。「彼らは素晴らしい若者だ。それに、彼らは自分達がやっている事をシッカリ自覚していた」ロック、フォーク、そしてカントリーのエッセンスがバランス良く表現されたこのアコースティックなアルバムは、現在我々が求める”本物感のあるカントリー・サウンド”の原型であり雛形になっていると思います。

                    

 その後、独自のサウンドと活動でカルト的な人気を維持していた彼らですが、80年代に入り突如、カントリーのメインストリーム・シーンでブレイク。1984年の初のカントリーNo1ヒット"Long Hard Road"を皮切りに、15曲連続のカントリー・トップ10ヒットという快挙を成し遂げたのです。その時期の集大成が1988年「Will The Circle Be Unbroken, Vol. 2」。この「Vol.2」では、 カントリー・レジェンドのジョニー・キャッシュ Johnny Cash、カーター・ファミリーCarter Family、 チェット・アトキンスChet Atkins、ロイ・エイカフRoy Acuffだけでなく、当時のメインストリーム・カントリー・シーンのスター、ジョン・デンバーJohn Denver、リッキー・スキャッグスRicky Skaggs、 ロザンヌ・キャッシュRosanne Cash、スティーブ・ウォリナーSteve Warinerら、さらにはロック・フィールドからブルース・ホーンズビーBruce Hornsbyと、元バーヅByrdsメンバーであるロジャー・マッギン Roger McGuinn、クリス・ヒルマンChris Hillmanの2人、などなどを豪華ゲストを迎え、NGDBらしいアコースティック・ミュージックで共演したイベント・アルバムでした。このアルバムは、グラミー賞でのベスト・ブルーグラス賞とベスト・カントリー・グループ賞だけでなく、CMAアワードの年間アルバム賞をゲットするという、最高の栄誉を得たのです。「Will The Circle Be Unbroken」の続編としては、2002年にも「Vol.3」が制作され、アリソン・クラウス、ドワイト・ヨーカム、トム・ペティ、サム・ブッシュ、タジ・マハルらが新たなメンバーとして参加しています。

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