ラフなTシャツだけでなく、ドレス・シャツやタキシードも気軽
に着こなしてしまう、゛現代カントリー界のトム・ジョーンズ゛
と言いたいブレット・エルドリッジの4枚目です。チョッと大げさ
な喩えだったかもしれませんが、そのソウルフルで時にかなりダ
イナミックさも見せるその歌声は、ブルーアイド・ソウルのフォ
ロワーと見て良いでしょう。その音楽からはトラディショナルな
カントリーとのリンクはあまり感じませんが、結構音創りはオー
ガニック、オーソドックスなカントリーのバンド編成を守り続け
ていて、好感が持てます。昔、ソウル・ミュージックを聴いてい
た血がそう感じさせるのでしょうかね。今作は、今まで以上に温
和で、心温まるサウンドと歌声を聴かせてくれていると思います。
プロフィールです。1986年、イリノイ州のParisという街の生まれ。
子供の頃は、レイ・チャールズ、フランク・シナトラ、そしてボ
ビー・ダーリンらの、どちらかというとポピュラー寄りのシンガ
ーを聴いていたそう。落ち着いてたんですね。16才の頃、ブルッ
クス&ダンとの出会いでカントリーに夢中になります。大学は、
シカゴのElmhurst大学に通っていましたが、ナッシュビルに旅行
した時に、ライブ・ハウスStation Innでいとこのテリー・エルド
リッジ(Grascalsのメンバー)のプレイに感銘を受けてしまい、
早速Middle Tennessee州大学に移ります。ジョージ・ジョーンズ、
レイ・プライスらのクラシック・レジェンドやヴィンス・ギルの
歌声に影響されていきました。
卒業後はナッシュビルで作曲活動に励みつつ自主レコーディング
やライブ活動を行い、Atlanticレコードとのアーティスト契約を
結びます。デビュー曲は2010年の"Raymond"でしたが、人気に
火が付いたのは2012年の"Don't Ya"から。カントリー・シングル・
チャートで5位まで登りました。続く2013年にファースト・アル
バム「Bring You Back」をリリースし、カントリー・アルバムで2
位まで到達。この勢いで2014年のCMAアワードでは、見事、新人
賞の勝者となったのです。
その後も、2015年には出身地名を冠したセカンド・アルバム
「Illinois」と、2017年のサード「Brett Eldredge」と着実にアルバ
ムをリリースし、いずれもカントリー・アルバムで1位となります。
シングルは、前者からは"Lose My Mind" と"Drunk on Your Love"、
後者からは"The Long Way" と"Love Someone"が、トップ10ヒット
となり安定した人気を維持してきました。
「Sunday Drive」からのリード・シングル"Gabrielle"
前作、「Brett Eldredge」では"Somethin' I'm Good At"や"Superhero"
あたりの賑やかな曲や、キーボード音が要所で華を添えていました
が、今作は基本は変わらずとも、かなり穏やかなトーンで統一され
てると思いました。ジャケットやアルバム・タイトルのイメージど
うりの、ゆったりした気持ちに浸れる音です。プロデュースは、ケ
イシー・マスグレイヴスのグラミー受賞アルバム「Golden Hour」
をプロデュースしたチームのDaniel TashianとIan Fitchukが担当。レ
コーディングはブレットの故郷イリノイ州のシカゴで行われていま
す。
コロナ・パンデミックの中、Good Dayを願う
デビュー曲"Raymond"のように、固有名詞のタイトルを冠した
"Gabrielle"は、ムーディーなソウル・ボイスをピアノとギターで控
えめにサポートするミディアム曲。こんな穏やかな曲をリード・
シングルにするとは、独自のスタイルへの自信でしょう。"Good
Day"や、タイトル曲のスロー"Sunday Drive"など、ポピュラー系
の曲想ではあるものの、「カントリーの良心」とでも言いたい心
地よさに浸れます。「Golden Hour」との共通性は、”Fail For Me"
に少し感じる程度で、基本的にこれまで通りのブレットならでは
の世界を楽しめるアルバムだと思います。
新しい事や画期的な事は何もしていないけれども、日がな一日、
音楽でも聴きながらくつろぎたいときには最適な音楽です。現在
の主流的なポップ・カントリーでもなかなか聴けない類の品位
あるスタイルであり、ブレットがこだわり続けているものなので
しょう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます