ベテランで90年代のスター、Suzy Boggussの通算12作目の新作。マイナー・レーベルからのリリースですが、彼女の長いキャリアを通じても指折りの素晴らしい作品と評判です。この人のシンガー・ソングライター的で、清涼感(本当に気持ち良い)と魂が絶妙にミックスされた歌声は昔からお気に入りで、今回の好盤はうれしい限りです。最近はジャジーな「Swing」(これはなかなか聴きものでした)やクリスマス・アルバムなど、企画物的お気楽な作品が続いていましたが、再び気合を入れてみました!てなとこ。
今回のプロデューサーはJason Milesというジャズ畑の人。今から12年前に、エルビスの曲を子供向けにリメイクしたアルバムでSuzyと出会い意気投合。CMTのインタビューによると、数年前のニュー・ヨークのライブで再開した二人の会話をキッカケに、このプロジェクトが立ち上がったとの事。Jason「で、次は何やるつもり?」、Suzy「決めてないわ。あなたはどうなの?」。
レコーディングの大半はニュー・ヨーク、そして残りをテネシー州Franklinで行っており、全くナッシュビルでは録音していません。この事からも、このアルバムのもつ風合いが標準的なカントリー・アルバムとは違う事が予想できますし、オープニングからの異色でクリエイティブな3曲でそれが早速明らかになります。"The Bus Ride"のイントロのピアノは、「オッ」と思うほどモロにジャズのそれ。しかし、そこにアコースティック・ギターとSuzyの滑らかなボーカルが自然に乗っています。 2曲目の"Everything"は、軽やかなボサノバ。ボーカルの多重録音を駆使したアレンジが面白い。そして次が、実に都会的な"No Good Way to Go"。これ、70年代前半のニュー・ソウル(Roberta Flack、Bill Withersなど)風サウンドと感じました。Suzyがこういう曲も歌いこなせる、幅広いセンスを持っている事の証明。 "Chain Lover"もジャズ路線、というより昔のウェスト・コースト・ブルース的(Percy Mayfieldを思い出しています)なスロー・バラードで聴きもの。 ここら、ナッシュビルのスタッフだったらとても生まれそうに無かった作品群です。しかし、けして先鋭的で尖がったものでなく、Suzyらしい暖かさ、親しみやすさがあるのが良いです。
Roberta Flack Bill Withers
一方、お得意のアコースティック・バラードも素晴らしいクォリティの曲がズラリと並んでいます。その代表、"Baby July"は、我々昔からのファンがSuzyらしいと感じる爽やかなミディアム・スロー。 先のインタビューでも「(全盛期のヒット曲)"Hey Cinderella"のような曲を今アルバムに入れようとは思わないわ。でも、私が以前から持っているフォーキーなコードはどの曲にも紛れ込んでいるし、それを取り除く事はできそうにないわね」と語っています。また、目を引く曲として、ブラス・ロック・バンドChicagoの、ソロでも成功した Peter Cetera作のバラード"If You Leave Me Now"。選曲は弩ポップですが、アレンジにコマーシャルな媚びは感じられず、Suzyの曲にしてしまっています。リズム・ナンバーでは、Beth Nielsen Chapmanの最近作のカバー"Right Back into the Feeling"、タメのあるリズムと引き締まったサウンドが聴き物になっています。Travis Tritt、Trisha Yearwood、Pam Tillisもそうですが、ベテランがこうしてクリエイティブでパッションに溢れた作品で意地を見せてカントリー・ミュージックに刺激を与えてくれているのは、本当に頼もしい事です。改めて、カントリー・ミュージックのなんと懐の深いこと!と思います。
彼女のブレイク作は1991年の「Aces」。フォーキーな"Someday Soon"を皮切りに、"Outbound Plane"、"Aces"、"Letting Go"で立て続けにトップ10ヒットを飛ばしたのです。 たっぷりとしたアコースティック・サウンドに乗って、風のように爽やかに、それでいてソウルフルに歌いきるSuzyのボーカルは新鮮でした。"Outbound Plane"のオリジナルはNanci Griffith。Nanci盤が、信奉するBuddy Holly(の"Peggy Sue"的なスタイル)を多分に意識したと思われる、ロカビリー風曲調だったのに対し、Suzy盤はガラリと印象を変える爽快なイメージでまとめています。こういうカバーって、結構予定調和的になってつまらなくなる事が多いと思うんですが、Suzyの声に魂があるのと、ツボを得たアレンジのおかげで、真の名曲・名演に生まれ変わりました。
もう1作、デビュー・アルバムについても触れたいと思います。Merle Haggardの名曲をタイトル・チューンとした1988年の「Someday Between」は、それ程ヒットしませんでしたが、名作です。Suzyの歌声は既にその魅力を発揮していますが、注目はサポートするバックのカントリー・サウンド。必要最小のアコースティック・メインのバンド構成で、アップテンポではコンパクトに引き締め、バラードでも決して甘くなりすぎない、ナッシュビルのミュージシャンの良心に満ち溢れたサポートは素晴らしい。雰囲気的には、少しレイドバックしたジックリと聴きこめるもので、気心の知れた精鋭ミュージシャン達が夜のカフェに集まってやってるような感じ(ココラが売れない要因だったのかな)。Hank Williams Srのカバー"My Sweet Love Ain't Around "。カントリー・チャートで14位まで行ったバラード"Cross My Heart"、そして当時でもSuzyくらいしか歌えないと言われたヨーデルが聴ける"Night Rider's Lament" など、全曲が聴き物です。
1956年、イリノイ州はAledo生まれ。カントリーは主に父から教わり、一緒に車に乗るときはカントリーしか聴けなかったとの事。イリノイ州立大学で芸術(ジュエリー・デザインなど)を専攻していましたが、それで生活する気はありませんでした。それで、結婚する前に好きな音楽でちょっと人生を楽しもうと、一人でキャンピング・カー付きのピック・アップ・トラックを運転し、北西部のクラブやダンスホールをまわったそうな。タフ。当時の事を振り返って、「今は昔みたいにトラック・ストップは安全じゃないから、私みたいなことをする人はいないわね。でも当時のトラック・ドライバー達は本当に良くしてくれて、ラジオ片手に全く孤独に思った事なんてなかった」とおっしゃっております。次第に音楽にのめりこみ、1984年にナッシュビルへ。そして1986年にDolly Partonの遊園地DollywoodでのショーをキッカケにCapitolと契約を結んだのでした。1992年のCMA アワードでHorizon Awardを獲得しています。
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私が初めて彼女の声を耳にしたのはSomething・Up・My・Sleeveでした。オープニングのDiamond・And・Tearsは特にGoodでした。さて、Somewhere・Betweenがデビユーアルバムだとは・・・・。いまさら、びっくりです。
Suzyはもっと聴かれても良い人ですね。「One Sweet Night」というライブDVDもリリースしたようです。見たいな。「Someday Between」は機会があれば是非お聴きになってください。