今チャートを賑わすアーティストの中で、最もカントリーらしいサウンドと歌声を聞かせてくれる貴重な男性シンガーJoe Nocholsの2007年の新作「Real Things」。ビルボード・カントリー・チャートでは現時点2位がピーク。その歌声は、Lefty Frizzellを起源とし、Merle Haggard、Gene Watson、Randy Travis、Keith Whitley、Clint Black と受け継がれてきた、強さと温かさと深みを兼ね備えた、カントリー特有の男のGood Voice。そして、その作品はコンテンポラリーな味付けをしつつも伝統的なカントリーの良心にあふれており、「いろいろあるけど、カントリーってこんなだよ」と自信を持って紹介できるものと思います。これからのトラディショナル系の若手男性として、Brad Paisley、Josh Turnerに続く人として期待したいです。いやいや、本来Joeの方が王道なのだと思います。
彼がブレイクしたのは2005年の前作「Ⅲ」。ここで彼は、そのバリトン・ヴォイスを縦横無尽に駆使したエッジの効いた力強いストレート・カントリー・サウンドを展開、ヴィヴィッドな素晴らしい作品になりました。その最大の駆動力となったのが、グレイトな"Tequila Makes Her Clothes Fall Off"。 ドラマティックなエレクトリック・ギターによる伝統的なカントリーのフレーズのイントロ(凄い音だぁ)に始まるロッキン・カントリーで、Joeはキレと勢いのある歌唱で快調に飛ばしてこれをモノにし、個性を確立しました。シャープにアルバムの幕を開ける"Size Matters (Someday) "もカッコイイ。Gene Watsonのカバー"Should I Come Home (Or Should I Go Crazy?)"や(コレ以前にも"Farewell Party"をカバー。相当のGene Watson好き) 、Patty Lovelessが「Dreamin' My Dreams」で取り上げていた"My Old Friend the Blues"なども、実に余裕の歌声です。
そしてこの最新作、前作と踏襲するかと思いきや、実にアコースティック基調でマイルドな、心和むカントリー・アルバムになっていて、素晴らしいです。前々作「Revelation」っぽいか。リード・シングル"Another Side Of You "が早速ヒット。エレキ&アコースティック・ギターのアルペジオが気持ち良く、Joeのリラックスした声が心地よいソフト・タッチのリズム・ナンバーです。アコースティック楽器の混じり具合が絶妙で、その音場は豊かな質感にあふれており、このアルバムのサウンドを代表しています。まさに、ナッシュビルの精鋭スタジオ・ミュージシャンの面目躍如!ただこのアルバム、ソフト基調とはいうもののロッキン・カントリー系もかなり良く、結構ハードなギターがフィーチャされエキサイティングな"Comin' Back in a Cadillac"、そして "Tequila Makes Her Clothes Fall Off"っぽい南部らしいダウン・ホームなタメのあるリズムの"Let's Get Drunk and Fight"や "It Ain't No Crime"など、クォリティが高くワイルドな歌声もカッコイイ作品が適度に配置されています。
そうは言っても、やはりハイライトはJoeの実にリッチでリラックスした深みのあるボーカルをフィーチャーしたアコースティックなカントリー・バラード群である事は否定しようがありません。オープニングのタイトル・チューン"Real Things"。この世に存在するありのままの物事~暖炉、冷たいビール、古いギターに張った新しい弦、おじいさんの笑い、日曜の朝、そしてあなたを愛する事、などなど~これら全てへの愛を、語りもまじえて切々と心をこめて歌い込みます。歌詞はとてもシンプルなのに、ドブロギターとマンドリンが良く響くサウンドにのってJoeが歌うと、そこに永遠の意味が付加されるよう。また、"My Whiskey Years"では、酒びたりの自分から抜け出したいとは思いつつも、抜け出せない男ののつぶやきが、温かみのある声で歌われています。シンプルなアコースティック・サウンドの中、間奏でのメロトロンとスライド・ギター(共に、プロデューサーBrent Rowanによるもの)がとても良い雰囲気を作り出していますね。少しモダンな雰囲気の"Ain't Nobody Gonna Take That from Me "では、コーラスでのピアノがセンス良く少し都会的で、ここらもさり気なく歌いこなしています。そしてラストは"If I Could Only Fly "、2000年Merle Haggardによる好アルバムのタイトル曲でもあった曲。このJoe盤はLee Ann Womackがコーラスで参加しているのがトピック。余計なギミックなしのミニマムのバックで、Joeの自信に満ちた歌声によってアルバムが締めくくられます。そして他の曲も平均以上で、見事なアルバムです。
このアルバム、モノトーンのジャケットにも惹かれます。長髪のハンサムなJoeが街角でギター・ケースを片手に歩く様は、都会的(地方のそれっぽいところがカントリー)でシックなイイ雰囲気です。現在のカントリー・ミュージック。クロスオーバーやトラディショナル、アメリカン・アイドルやマフィア云々、色々良いのはあるのですけれども、とりあえず面倒な事は置いといて、つかの間の本当に心和みたいひと時に聞くカントリー・アルバムとして、これ以上のものはないと私的には思っています。
1976年、アーカンサス州、Rogers生まれ。父がトラック乗りをしながら、ベースギターでお爺さんや親戚と同様にトラディショナルなカントリーをプレイしており、この父の影響が大きかったようです。子供の頃はロックをやっていましたが、まもなくカントリーに戻ります。そして、高校卒業後は、メカニックをやりながらDJをやるなど、なかなか多芸なところも。1996年に早くもIntersound Recordsとレコード契約を結びデビューしますが、まもなくこのレーベル自体が終息(このアルバムは、後に「Six of One, Half Dozen of the Other」というタイトルで再リリースされます)。その後長い間、ナッシュビルで色々な職を転々として苦労しましたが、転機はセッション・ギタリストBrent Rowanとの出会い。2002年にそのBrentのプロデュースによる 「Man with a Memory」で Universalからの再デビューとなりました。そこからの "The Impossible" や"Brokenheartsville"のシングル・ヒットにより、グラミーで3部門のノミネートをはじめ、The Academy of Country Music に於けるTop New Male Vocalistや、CMAのHorizon awardのWinnerを獲得するなど、Joeは一気に若手の注目株になったのです。そして、2005年の"Tequila Makes Her Clothes Fall Off"がラジオで大ブレイク、アルバム「Ⅲ」はおかげで一気にゴールド・レコードを獲得するほどのセールスを記録し大ヒットしました。つい先だって、9月5日に結婚したばかり。18歳の頃に知り合い、Joeの一目ぼれだったとの事。心も一途。
Joeにはいずれ、「Sings Jimmie Rodgers」を期待したいですね。そう感じさせる、唯一の逸材です。
"Merle sings the great songs of Jimmie Rodgers"
JoeのMySpaceサイトはコチラ → http://profile.myspace.com/index.cfm?fuseaction=user.viewprofile&friendid=146117144