ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Sugarland シュガーランド- The Incredible Machine レビュー

2010-11-25 | カントリー(女性)
 安定志向と言われるカントリー・フィールドの中にあって、常にその音楽に変化と挑戦的な試みを継続してきた稀有のボーカル・デュオ、シュガーランド。クリスマス・アルバムやライブを除くオリジナル・アルバムとしては4枚目となるこの「The Incredible Machine」は、シンプルでルーツィな作風でカントリー・ファンを唸らせた「Love On The Inside」とは打って変わって、これまでの中でも最もトンがった、ヒップでエネルギッシュな作品に仕上がっています。本アルバムにはデラックス・バージョンがあって、そこには二人のインタビューがたっぷり見れるアルバムのメイキングや新たなツアーのリハーサル映像、そして何よりうれしい新曲3曲の最新ライブ映像と素晴らしい"Stuck Like Glue"のミュージックビデオ(ジェニファーの女ストーカーぶりが怖い!?)が収録されたDVDがボーナスで付いているのですが、得にそのライブ映像を見ると、「The Incredible Machine」の狙いが何であるかが明確に伝わって来ます。そして、”カントリー・ファン”からの視点で見ると、その人がそもそも音楽に何を期待するか、で評価が分かれる作品と言えます。



 壮大なバラード調のイントロからスタート、一転、ハードエッジなロッキン・スタイルで押しまくる“All We Are”。現代アメリカン・ミュージック界の奇跡の声、ジェニファー・ネトルズのホワイト・ソウル・ボイスが全快、聴き手を圧倒してくれます。同様なロック・チューンは"Wide Open"や"Find The Beat Again"。"Find The Beat Again"のほうはかつてのニュー・ウェイブ・ロックみたく凄くストレートにロックしてますね。私がハマったのがタイトル曲"The "Incredible Machine"。ミディアムのドッシリしたリズムに、シンプルで耽美的で意味ありげなピアノのリフ。そこに言葉数は少ないですが、ジェニファーのどこまでも伸びる声(Calling!)が高らかにこだまします。カッコイイ。このタイトル、機械を越えたとてつもない力を秘める、”人を愛する心”を表現したもののよう。DVDのアルバム・メイキングでは、ダブル・ハイハットでリズムにニュアンスを付ける工夫がたっぷり語られていて、この曲に掛けた二人の意気込みが伝わってきます。同系のミディアム"Stand Up"もドラマティックでナイス。ちょうどU2のようなアイリッシュを感じますね。

 このアルバム、アップ・テンポ・ナンバーが大半を占めていて、真のスロー曲はラストのジェニファー単独作であるゴスペルタッチの “Shine The Light” (ソウルフル!)くらい。ココまで調子イイ曲そろえた理由は、DVDのライブ映像にあります。そこにフィーチャーされているのは、本作の”Machine”のイメージをステージ上に表現した巨大なステージ。そしてそれを歓迎する大観衆。そう、このアルバムはスケールアップした巨大な会場に来てくれるファンを、豪快にノセるレパートリーを強化する狙いで制作されたのでしょう。ここでも素晴らしいのが"Incredible Machine"のライブ・パフォーマンス。スタジオ以上にヘヴィなサウンドに乗って、所々骨組みが露出し”メカニカル”な印象をかもし出すスカートを身に着けたジェニファーがステージ上を舞う様が目茶苦茶カッコいい。



 正直このアルバムを通して聴くと、後半はパワーに圧倒されて「もういいかぁ」って感じに、私はなります。大観衆が一緒に歌いやすいような、メロディが単純な曲が多い。カントリーに和みを求める人には楽しめないかもしれません。このパワフルなエナジー(これは本物)は、やはりジャンルを問わずグッドミュージックを求める若い音楽ファン層をターゲットにしたものでしょう。唯一アコースティックでオーガニックな"Stuck Like Glue"がリードシングルになったのは、前作「Love On The Inside」からの橋渡しとカントリー・ファンに対するバランス感覚かな?。ジェニファーの声にはそれほど幅広い層の人々を引き付けるマジックがあるのです。これを、カントリー・ファンだけに留めておくなど、やはりもったいないのです。ここは、ジェニファー・ネトルズとクリスティーン・ブッシュの限りない可能性を見守りましょう。それでもジェニファー・ネトルズの個性的でアーシーな歌声は、この現代において疑う余地無く”カントリー”なのだと思います。


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