ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Robert Plant & Alison Krauss ロバート・プラント&アリソン・クラウス - Raising Sand

2007-12-16 | Bluegrass ブルーグラス レビューまとめ
 ロック・レジェンドLed Zeppelin(レッド・ツェッペリン)のハイ・トーン・シャウターRobert Plant(ロバート・プラント)と、ブルーグラス界の女王Alison Krauss(アリソン・クラウス)のアッと驚くコラボによる待望のアルバム「レイジング・サンド」。この二人の競演と聞いただけで、ロック・ファンはもちろん、カントリーやブルーグラス、そしてフォーク・ミュージックのファンもまずは注目せざるを得ないでしょう。ここでもう勝負あり!しかもプロデューサーが、T-Bone Burnettなのだから、ルーツ・ミュージック志向のリスナーの知的好奇心を大いにくすぐる作風になる事は約束されたようなものです。彼の仕事はGillian Welch(ギリアン・ウェルチ)や映画「O Brother, Where Art Thou? 」のサウンドトラックなどで、ルーツ・ミュージックやカントリー・ミュージック・ファンには既に定評がありますから。

 
 若かりし日のロバート・プラント

 このアルバムの音世界は、個人的な話で誠に恐縮なのですが、カーステレオでかけると嫁さんに「もっと明るいのに変えて」と言われる類のモノ(本当の話であります)。とてもビルボードのポップ&カントリー・チャートの初登場2位を獲得するようなものではない、基本的に内省的で深みにはまり込むマニアックなサウンドです。もちろんPlantもシャウトは封印、男気と優しみを絶妙に使い分けた(時に得意の中性的なアノ声も)魅力的な歌声を聴かせてくれます。バックの編成は、一部にスティールやフィドルが入る、基本的にギター、ベースとドラムによる、50年代のロックンロール・コンボのそれ。時には、Everly Brothers(カントリーとロックの架け橋)作の"Gone Gone Gone"のように、その時代のバディー・ホリー調ロックン・ロールで弾けたりもします。しかし、トータルとして感じられる後味は、レイドバックして実に緩い、言葉は悪くなりますが陰鬱にも感じられるもの。そして、これってどういう音楽からヒントを得てるのだろう、と考えてしまうのです(これこそT-Bone Burnettの狙い?)。そして私がまず思い当たったのが、同じく50年代のゴスペル。現在のクワイア(合唱団)・スタイルになる前の、男性数人によるコーラス・グループ・スタイルが全盛だった頃のブラック・ゴスペルの音と空気感です。

 
 Soul Stirrers

 このカルテット(パートがテナー、バリトン、ベース、ファルセットの4つなので)・スタイルのゴスペルは、1940年代いっぱいはほぼ完全アカペラがメインだったのですが、時代の流れでいつまでもそれを貫くわけにもいかず、まずはドラムだけとかギターだけというところから始まって、60年代初めにはほぼバンド・スタイルになっていきます。その途上、50年代ハード・ゴスペル時代の、なるべくアカペラ的なプリミティブな肌触りを損なわない為に、今から見ると半端で(ドラムとギターだけ、というパターンが多い・・・)そのためスロー曲などではノリきらず陰鬱とも形容できる当時のサウンドが、このアルバムのイメージと共通するトーンだと感じたのです。それがよく感じられるのが"Polly Come Home"。メロディはRobert PlantがファンであるGene Clark(元Byrds)のペンによるフォーク調のものですが、ドン、ドン、と地響きのようなノリの悪いドラムや、チリチリとブルージーなフレーズを爪弾くエレクトリック・ギターは、例えばSam Cookeのいた頃のSoul Stirrersによる"Pilgrim of Sorrow"のようなスロー・ゴスペルを思い起こさせます。そしてこれを基調として、"Killing the Blues"あたりでは実に枯れた味わいのペダル・スティールを絡ませ、かつて聴いた事もないカントリー・サウンドにする、などバリエイションを付けていってるように聴こえました。ハイ、全くの独断ですが、どうでっしゃろ?

 

 それにしてもこのアルバム、大半がカバー曲ですが、その選曲の渋いこと!一番知られてそうな曲が、Rolling Stonesがカバーした"Fortune Teller"(それもライブ盤の中の擬似ライブ曲でのカバー)なのだから、そのマニアックさは見事。そして、ジャンルがロックンロール、カントリー、フォーク、R&B、そしてブルースとルーツ・ミュージックと言われる物をほぼ網羅している事が、T-Bone Burnettのこだわりと音楽全体への愛情を感じます。そう、音楽を聴く上ではそれが好きか嫌いかだけでありジャンルなどそれほど気にしなくても良いのです。それでも、このアルバムがカントリー・チャートにチャート・インするのは、Alison Kraussの影響力の大きさと彼女のすばらしい歌声によるものでしょう。Littel Miltonのモダン・ブルースをかつてのRobertばりの力強いハイ・トーンで、しかもAlisonならではの力のあるエンジェル・ボイスで歌いきり、カントリー・ジャンプにしてしまう天才には頭が下がります。

 以下にそのカバー曲のオリジネイターをリストアップします。

"Rich Woman" Canned Heat (1967) ブルース・ロック
"Killing the Blues" Roly Salley (1977)、John Prine(1979) フォーク
"Polly Come Home" Dillard & Clark (1969) カントリー・ロック
"Gone Gone Gone" The Surfaris (1965) ロックン・ロール
"Through the Morning, Through the Night" Dillard & Clark (1969) カントリー・ロック
"Please Read the Letter" Jimmy Page & Robert Plant (1998) ハード・ロック
"Trampled Rose" Tom Waits (2004) ロック
"Fortune Teller" Benny Spellman (1962) ニュー・オリンズR&B
"Stick With Me Baby" The Everly Brothers (1961) オールディーズ/ロカビリー
"Nothin'" Townes Van Zandt (1971) フォーク
"Let Your Loss Be Your Lesson" Little Milton (1975) ブルース
"Your Long Journey" John Hartford (1987) カントリー

 12月10日にアトランティック・レコードの伝説のボス、アーメット・アーティガンを追悼するロンドンでのLed Zeppelin再結成ライブが行われたり(なんで沢尻エリカがおったの?)、それにあわせるかのように発売されたベスト盤「マザーシップ~レッド・ツェッペリン・ベスト」と、リマスター盤の「永遠の歌(熱狂のライヴ)~最強盤(The Song Remains the Same)」によって再び高まるLed Zeppelinへの注目。そしてこのRobertのソロ・アルバムのヒット。また今年は同じく元ツェッペリンのJohn Paul JonesがUncle Earlのフォーク・アルバムをプロデュースするなど、このブリティッシュ・ロッカー達のアメリカン・ルーツ・ミュージックへの接近が話題となる年でした。これをキッカケに、より多くのロック・ファンが、アメリカン・ミュージックの奥深さに触れると共に、Alison Kraussの才能とカントリー・ミュージックの素晴らしさにも触れていただければうれしいなぁ、と思っています。

 

 そして最新情報。AlisonとRobertの2人によるヨーロッパ・ツアーが発表されました。日程は来年5月5日のイギリスはバーミンガムを皮切りに、ドイツ、ベルギー、フランス、オランダ、スウェーデン、ノルウェイと廻り、5月22日のロンドン、ウェンブリー・アリーナで幕を閉じるというスケジュール。しかし、まだアメリカ・ツアーは発表されてないようです。日本は?

 「レイジング・サンド」のMySpaceサイトはコチラ

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿