カントリー・フィールドにとどまらずオール・ジャンルで世界の音楽シーンを牽引する存在となったテイラー・スウィフトによる2012年発表のオリジナル4作目。「Speak Now」リリース後のワールドツアーで来日、そのステージをテイラーと共有したファンの皆様には待望のアルバムだったでしょう。この新作、新しい試みに満ち溢れた音楽と、女性としての着実な成長とそれゆえの恋愛の葛藤をストレートに(強烈に!?)描いた野心作となっており、再び多くのファンの共感とコマーシャルな成功を収めているようです。発売1週間で100万枚を売り上げスゴイ!ってな報道が、日本でもされていましたね。
その成功振りは、アメリカ本国ではこんなとらえ方をされています。まず、ビルボードのポップ・チャート、The Billboard Hot 100 での新記録。この2013年1月に、テイラーのチャートイン曲数が57曲となり、マドンナを超えたそう。デビュー以降たった数年での快挙。ちなみに女性アーティストでの最高は、ソウル・レジェンド、アレサ・フランクリンの73曲。60年代のデビューからの数字だから、瞬時値ではテイラーがはるかに上を行ってる。まあ、時代も違うかもしれないけど、とにかく破るのは時間の問題ね。。。もうひとつは、ビルボードのポップ・アルバム・チャートでの記録。そのBillboard 200で、この「Red」が6週連続トップを獲得し、これで最近の2作「Fearless」「Speak Now」に続き、3作連続で6週連続1位獲得となりました。これを、かのビートルズと比べると、ビートルズは7作続けて連続6週以上の1位だったよう。アメリカさん、チョッと気が早いね!とも思いますが、当時のビートルズは1年に2枚のアルバムを出してたから、期間的にはテイラーのほうが長いか。それはそうと、こうしてビートルズと比べられる域に達してきたという事です。
音楽的な変化は、一度聴いてすぐ感じ取れます。大半の曲が、ナッシュビルの音ではない。このワケは、とにもかくにも16曲(レギュラー盤)中8曲の”ポップ・サイド”で、ポップ・フィールドのプロデューサーを起用したことに尽きます。ロケーションも、ロサンジェルスやサンタモニカ、そしてスウェーデンなどで録音しているようです。その筆頭が、バックストリート・ボーイズやブリトニー・スピアーズのプロデュースで知られるマックス・マーティンと、シェルバックのコンビによる3曲、中でもグラミーでもノミネートされた"We Are Never Ever Getting Back Together "でしょう。リズミカルに音がミュートするアコギのリックやヘヴィーなバスドラ(プログラミングでやってる)によって強力なタテノリ感が生みだされ、これまでのテイラー・サウンドとの違いをアピールします。そしてその歌詞は、”私達は絶対に絶対にヨリを戻したりしない”という近年では珍しく効果的に付けられた邦題に象徴される”強烈”なもの。多くの女性達の共感を呼ぶマジックがそこにあります。特にブレイク部での、心中のつぶやきを思わせる絶妙なエコーがかかったテイラーの語りがクール。昔のヌーベルバーグの映画のセリフみたい。そして、彼女の声の魅力的なこと!見事なリード・オフ・シングルだと思います。
さらに、これまでの彼女の音楽にはなかった風合いを加えているのが、ポップ・シーンのゲスト・ボーカリストの2人。スノウ・パトロールのギャリー・ライトボディとデュエットした"The Last Time"は、陰影に富んだストリングス(ロックのそれね)がフィーチャーされた重厚なミディアム。そして、2012年のロンドンオリンピックの閉会式でもプレイした、エド・シーランとの"Everything Has Changed"は、カントリーというよりむしろフォーキーなアコースティック・ナンバーで、これらでのテイラーの歌声には生でストレートな感情の表現を感じます。
しかし一方で、デビューからのネイザン・チャップマンがシッカリ半分でプロデュースを担当している事も留意すべきことでしょう。そのうち3曲は、フェイス・ヒルでその名を上げたダン・ハフが加わっていますね。確かにオープニング・ナンバー"State of Grace "などでは、リズムのアタックが強めな弾むジャンプ・ナンバーで聴きものになってますが、やっぱりナッシュビルの音、人の手触りを感じるソレです。タイトル・チューンの"Red"になるとダン・ハフが加わり、彼お得意のラウドなギター・サウンドが展開されますが、リズムはあくまで滑らかです。"All Too Well "、"I Almost Do"や"Begin Again" はテイラーらしいメロディが楽しめるバラード。なじみの雰囲気でチョッとほっとするひと時です。
このような音楽スタイルだと、”いよいよカントリーから転向するの?”などといった声も聞こえてくるでしょう。ただ、多くのポップ・ファンからの期待や、テイラー自身のアーティストとしての成長の欲求を考えれば、これはごく自然な結果だとは思います。ポップ・ファンは音楽自体の変化を求めますし、テイラーのように若くアイデア豊かであれば、もっと多様な音楽的なテクニックを試したくなるのは正常なこと。それが、エクゼクティブ・プロデューサーであるスコット・ボルチェッタのナンバー1獲得主義と、上手くリンクしているのだと思います。テイラーがカントリーの側にいるのは、アルバムをよく聴けば感じ取れる。そしてジャケットやリーフレットのテイラーの姿でも。。。
リーフレット写真でのテイラーは、さらに大人の女性に成長し、チョッピりセクシーに。しかし、殆ど笑っていない。全然満たされていなくて、陰鬱な雰囲気すら漂うくらい。ジメッとした空気。何かを強く心の中に秘めているその目。こんな文章が思い出されます。「ヴィクトリア朝風の感傷的な情緒や陰気な魅力をすべて、数世代にわたり受け入れてきた点に、(カントリーを愛する)南部人の音楽の好みが現れている。こういった感受性がはぐくまれた事は、南北戦争がもたらした広範囲な破壊と悲痛な失望や喪失に照らしてみれば驚きではない」(カントリー音楽のアメリカ:ロバート・T・ロルフ著)。若い女性達の上手くいかない恋愛の憂鬱を、伝統的なカントリー的”気分”を隠し味に歌い共有する。他のポップ・アーティストではありえない発想です。人の死のような悲しい歌詞を、シャッフル・ビートで明るく歌ったのがカントリーの伝統。最新のビートで恋愛の憂鬱を歌うのは、別に突飛なことじゃない。
当ブログに検索でたどり着いた方々による検索ワードでは、もちろんテイラー関係が一番多く、そして時々はネガティブな言葉もあって、「テイラー、余り評価されてない」というのも見た事あります。スーパー・スターだからといって、全ての人が気に入るわけはないので、たいした話ではなのですが、分かる気もします。テイラーにこういう評価をするのは、おそらくはロック・ジャーナリズムに浸りきった洋楽リスナーです。なぜそんな評価をするかというと、彼らからすればテイラーの音楽が、”ただ普通に良い曲”だから。妙な言い方ですが、ロック・ジャーナリズムは常に音的な進化や革新を求めますから、テイラーがこんなに売れてることに違和感を感じるのです。アメリカ本国のポップ・リスナーでも同様なのだと思います(以前ご紹介した、CMAの市場調査結果からも感じ取れます)。だから(勝気な)テイラーは、そんな連中に一撃を食らわせたくて、この”ポップ・サイド”を企画し、”私達は絶対に絶対にヨリを戻したりしない”を制作したのだと想像します。そんな強い思いがビシビシ伝わってくるほどに、このスタジオでしか創れない(これがロック的)ナンバーのキレ方は見事と思いました。ジャンルが何に属するかは、ここではもう取るに足りない事です。
その成功振りは、アメリカ本国ではこんなとらえ方をされています。まず、ビルボードのポップ・チャート、The Billboard Hot 100 での新記録。この2013年1月に、テイラーのチャートイン曲数が57曲となり、マドンナを超えたそう。デビュー以降たった数年での快挙。ちなみに女性アーティストでの最高は、ソウル・レジェンド、アレサ・フランクリンの73曲。60年代のデビューからの数字だから、瞬時値ではテイラーがはるかに上を行ってる。まあ、時代も違うかもしれないけど、とにかく破るのは時間の問題ね。。。もうひとつは、ビルボードのポップ・アルバム・チャートでの記録。そのBillboard 200で、この「Red」が6週連続トップを獲得し、これで最近の2作「Fearless」「Speak Now」に続き、3作連続で6週連続1位獲得となりました。これを、かのビートルズと比べると、ビートルズは7作続けて連続6週以上の1位だったよう。アメリカさん、チョッと気が早いね!とも思いますが、当時のビートルズは1年に2枚のアルバムを出してたから、期間的にはテイラーのほうが長いか。それはそうと、こうしてビートルズと比べられる域に達してきたという事です。
音楽的な変化は、一度聴いてすぐ感じ取れます。大半の曲が、ナッシュビルの音ではない。このワケは、とにもかくにも16曲(レギュラー盤)中8曲の”ポップ・サイド”で、ポップ・フィールドのプロデューサーを起用したことに尽きます。ロケーションも、ロサンジェルスやサンタモニカ、そしてスウェーデンなどで録音しているようです。その筆頭が、バックストリート・ボーイズやブリトニー・スピアーズのプロデュースで知られるマックス・マーティンと、シェルバックのコンビによる3曲、中でもグラミーでもノミネートされた"We Are Never Ever Getting Back Together "でしょう。リズミカルに音がミュートするアコギのリックやヘヴィーなバスドラ(プログラミングでやってる)によって強力なタテノリ感が生みだされ、これまでのテイラー・サウンドとの違いをアピールします。そしてその歌詞は、”私達は絶対に絶対にヨリを戻したりしない”という近年では珍しく効果的に付けられた邦題に象徴される”強烈”なもの。多くの女性達の共感を呼ぶマジックがそこにあります。特にブレイク部での、心中のつぶやきを思わせる絶妙なエコーがかかったテイラーの語りがクール。昔のヌーベルバーグの映画のセリフみたい。そして、彼女の声の魅力的なこと!見事なリード・オフ・シングルだと思います。
さらに、これまでの彼女の音楽にはなかった風合いを加えているのが、ポップ・シーンのゲスト・ボーカリストの2人。スノウ・パトロールのギャリー・ライトボディとデュエットした"The Last Time"は、陰影に富んだストリングス(ロックのそれね)がフィーチャーされた重厚なミディアム。そして、2012年のロンドンオリンピックの閉会式でもプレイした、エド・シーランとの"Everything Has Changed"は、カントリーというよりむしろフォーキーなアコースティック・ナンバーで、これらでのテイラーの歌声には生でストレートな感情の表現を感じます。
しかし一方で、デビューからのネイザン・チャップマンがシッカリ半分でプロデュースを担当している事も留意すべきことでしょう。そのうち3曲は、フェイス・ヒルでその名を上げたダン・ハフが加わっていますね。確かにオープニング・ナンバー"State of Grace "などでは、リズムのアタックが強めな弾むジャンプ・ナンバーで聴きものになってますが、やっぱりナッシュビルの音、人の手触りを感じるソレです。タイトル・チューンの"Red"になるとダン・ハフが加わり、彼お得意のラウドなギター・サウンドが展開されますが、リズムはあくまで滑らかです。"All Too Well "、"I Almost Do"や"Begin Again" はテイラーらしいメロディが楽しめるバラード。なじみの雰囲気でチョッとほっとするひと時です。
このような音楽スタイルだと、”いよいよカントリーから転向するの?”などといった声も聞こえてくるでしょう。ただ、多くのポップ・ファンからの期待や、テイラー自身のアーティストとしての成長の欲求を考えれば、これはごく自然な結果だとは思います。ポップ・ファンは音楽自体の変化を求めますし、テイラーのように若くアイデア豊かであれば、もっと多様な音楽的なテクニックを試したくなるのは正常なこと。それが、エクゼクティブ・プロデューサーであるスコット・ボルチェッタのナンバー1獲得主義と、上手くリンクしているのだと思います。テイラーがカントリーの側にいるのは、アルバムをよく聴けば感じ取れる。そしてジャケットやリーフレットのテイラーの姿でも。。。
リーフレット写真でのテイラーは、さらに大人の女性に成長し、チョッピりセクシーに。しかし、殆ど笑っていない。全然満たされていなくて、陰鬱な雰囲気すら漂うくらい。ジメッとした空気。何かを強く心の中に秘めているその目。こんな文章が思い出されます。「ヴィクトリア朝風の感傷的な情緒や陰気な魅力をすべて、数世代にわたり受け入れてきた点に、(カントリーを愛する)南部人の音楽の好みが現れている。こういった感受性がはぐくまれた事は、南北戦争がもたらした広範囲な破壊と悲痛な失望や喪失に照らしてみれば驚きではない」(カントリー音楽のアメリカ:ロバート・T・ロルフ著)。若い女性達の上手くいかない恋愛の憂鬱を、伝統的なカントリー的”気分”を隠し味に歌い共有する。他のポップ・アーティストではありえない発想です。人の死のような悲しい歌詞を、シャッフル・ビートで明るく歌ったのがカントリーの伝統。最新のビートで恋愛の憂鬱を歌うのは、別に突飛なことじゃない。
2012年11月のCMAアワードでは、和みの"Begin Again"を歌う”気遣い”も
当ブログに検索でたどり着いた方々による検索ワードでは、もちろんテイラー関係が一番多く、そして時々はネガティブな言葉もあって、「テイラー、余り評価されてない」というのも見た事あります。スーパー・スターだからといって、全ての人が気に入るわけはないので、たいした話ではなのですが、分かる気もします。テイラーにこういう評価をするのは、おそらくはロック・ジャーナリズムに浸りきった洋楽リスナーです。なぜそんな評価をするかというと、彼らからすればテイラーの音楽が、”ただ普通に良い曲”だから。妙な言い方ですが、ロック・ジャーナリズムは常に音的な進化や革新を求めますから、テイラーがこんなに売れてることに違和感を感じるのです。アメリカ本国のポップ・リスナーでも同様なのだと思います(以前ご紹介した、CMAの市場調査結果からも感じ取れます)。だから(勝気な)テイラーは、そんな連中に一撃を食らわせたくて、この”ポップ・サイド”を企画し、”私達は絶対に絶対にヨリを戻したりしない”を制作したのだと想像します。そんな強い思いがビシビシ伝わってくるほどに、このスタジオでしか創れない(これがロック的)ナンバーのキレ方は見事と思いました。ジャンルが何に属するかは、ここではもう取るに足りない事です。
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