ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Jamey Johnson ジェイミー・ジョンソン- Living for a Song: A Tribute to Hank Cochran

2013-01-28 | カントリー(男性)
 究極の滋味。

 メインストリーム・カントリー・シーンにて、殆どリスキーと言える、徹底したアウトローなトラディショナル・スタイルのカントリーで、コアなカントリー・ファンや批評家筋を唸らせるジェイミー・ジョンソン。前作のCD2枚組みの大作「Guitar Song」はグラミーにもノミネートされたり、さらにはローリング・ストーン誌の年間ランキングの上位を獲得したりなど、カントリー界の外でもその音楽性・芸術性が高く評価されました。この2012年発表、マーキュリー・レコードでの3作目は、2010年にその生涯を閉じた偉大なソングライター、ハンク・コクランHank Cochran(1935-2010)の楽曲をカバーするというトリビュート作品です。1曲を除いて、そうそうたるカントリー界のゲスト陣とのデュエットが楽しめるという、ある意味で企画もの。しかも、そのゲストには、ロック界の重鎮、レオン・ラッセルやエルビス・コステロの名も見られ、好奇心をそそられます。

晩年のハンク・コクラン

 ハンク・コクランは、1960年にナッシュビルに移動しソングライティング活動を開始。こちらも伝説的なソングライターであるハーラン・ハワードHarlan Howardと組んだ、パッツィ・クラインの歌唱による超名曲"I Fall to Pieces."で一躍表舞台に。以降、 同じくクラインによる"She's Got You"(ロレッタ・リン盤も有名) 、レイ・プライス(まだご存命でこのアルバムにも参加)やエディ・アーノルドが歌った、たった15分で作曲したという"Make the World Go Away"~この曲は巨人アーノルドの生涯最大ヒット。カントリーではもちろんトップ獲得、1965年にはビルボード・ポップチャートでも6位を獲得~、そして、妻でもあったジェニー・シーリーJeannie Seelyの"Don't Touch Me"などのカントリー永遠の名曲を1960年代にモノにし、その名を確立しました。その後も息の長い活動を続け、80年代にはジョージ・ストレイトGeorge Straitの代表作"The Chair"、"Ocean Front Property" を提供するなど、近年までヒット作をモノにしていました。

 企画ものとはいえ、イベント的な華やぎとは無縁。このアルバムのサウンドは、ジェイミーらしさ、なんというか古風な温かみに溢れ、土埃の香りさえも漂うホンキー・トンク・スタイルで溢れています。アリソン・クラウスとの神々しいデュエットでオープニングを飾る"Make the World Go Away"(オリジナルのレイ・プライスでないのがミソ)で、その世界を決定付けるのです。注目のゲスト陣も多様なカテゴリーからバランスよく招聘されています。先のアリソンのように、現在も活躍するスーパースターとしては、ジョージ・ストレイト、ロニー・ダン、ビンス・ギルリー・アン・ウォマックら。一方、ハンクと同世代を生きたレジェンドとして、マール・ハガード、レイ・プライス、ボビー・ベア、クリス・クリストファーソン、そしてこちらは今も活躍しているウィリー・ネルソンらが参加。そして冒頭でも触れたように、ロック・レジェントであるレオン・ラッセル、さらには以外や以外、ブリティッシュ・ロックのエルビス・コステロがサプライズ的に参加しているのです。


 エルビスが参加した"She'll Be Back "は、元々はココでも参加しているリー・アン・ウォマックが"He'll Be Back"として2002年にレコーディングしてたもので、ジャジーなピアノ哀歌に仕上げられています。陰りあるムーディーな雰囲気がナイスですが、エルビスの歌唱は、カントリー的というより、クルーナーっぽく歌っていますね。レオン・ラッセルの方は2曲でその個性的なダミ声を聞かせてくれます。レオンというと、60年代後半、アメリカ南部らしいスワンプ・ロックで一世を風靡した人。その音楽のベースには、ハンク・コクランらのカントリー・ソングがあったのでしょう。レオンというと、カントリー・レジェンド、ジョージ・ジョーンズの1994年のアルバム「The Bradley Barn Sessions」に掲載されたスタジオ風景でも、キース・リチャーズと共にその姿がとらえられていて、近年はずっとナッシュビルに活動拠点を置いているのでしょう。

 前作「Guitar Song」が、今の時代において、考えられる限りのトラディショナル~アウトロー・カントリースタイルを詰め込んで集大成した大作だったものだから、この豪華ゲストを招いたイベント・アルバムって、どうかな?と感じたことも確か。ジェイミーのスタイルからすると、音楽的に変化・進化を見せた話題づくりは難しいでしょう(ジェロッド・ニーマンのようにね)。だから、メジャー・レーベルからのアルバムらしいアピール性も考えると、こういったイベント物に落ち着いたんでは。。。と。。しかし結果的には、主催者のジェイミー自身よりも、彼がこよなく愛する楽曲群にフォーカスした心のこもった音作りは、見事なトータリティを持った完成度を誇り、再びグラミーのカントリー・アルバムにノミネートされたのです。


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