ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

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Kacey Musgraves ケイシー・マスグレイヴス- Same Trailer Different Park

2013-06-05 | Kacey Musgraves ケイシー・マスグレイヴス レビューまとめ

2019年グラミー賞受賞アルバム、「Golden Hour」の記事はコチラで

 柔らかで穏やかな雰囲気ながら、エッジの効いた意志を感じさせる印象的なナンバー"Merry Go 'Round"で俄然スポットライトを浴びている注目のアーティスト、ケイシー・マスグレイブス。その彼女のメジャー・デビュー・アルバムです。本国では、その若さや音楽スタイルから、テイラー・スウィフトやミランダ・ランバートが引き合いに出される程ですから、期待の大きさが分かります。彼女のサウンドは、ピリッとしたテキサス出身らしさと、フォーキーなアメリカーナ・スタイルをメインストリーム・カントリーに持ち込んできた、って感じ。穏やかでくつろいで聴けるものですが、艶やかな完成度を身の上とするメジャー・サウンドとはチョッピリ異なる印象ですね。ケイシーの歌声は、程よく甘く滑らかながらもクールでパーソナルな思いをジワリと感じさせるソレです。さらに、知的なひらめきに満ち、鋭く的を得た個性的な詩作が、本国で彼女が高く評価されている要因のひとつになってるよう。ビルボードのカントリー・チャートでは1位、ポップ・チャートでも2位まで到達しています。


 まずは注目曲でベスト・トラックの"Merry Go 'Round"。曲の骨格となっているバンジョーのアーシーなカントリー・テイストを、浮遊感溢れるキーボードで上手くソフィスティケイトしたユニークなサウンド(アコギが聴こえない)にまず脱帽。そこで歌われるのは、希望のない貧しい田舎町での生活への鬱積した思い。。。”もし21才までに2人の子供を持てなかったら/多分その人は一人っきりで死んでいくでしょう/それって古くからの言い伝えだけど/貴方が信じるかどうかはどうでもいいわ/~/いろんな人の心にある、同じ傷心/違う駐車場の、同じトレイラー”そしてコーラスではこう歌われます”私達は退屈したから結婚するの/この街に住み着いて、埃のようになるのよ/この壊れたメリー・ゴーランドに乗ってね/どこで止まるか誰にもわからない/そしてこのメー・ゴーランドのスピードは落ちないのよ”

 2番ではその思いはより明確になっていきます。”私達は最初だけで充分満足なのよ/だからHigh School Loveにこだわるの/私達の両親のようにはならないわ/列に並んだ小さな箱たち/知っていることだけが、欲しいものじゃない/自分の履いている靴で幸せになっているだけ”現状の環境、保守的な習慣に満足できない若者達の気持ちを、印象的なたとえで紡いでいきます。通常ヒット・カントリーでは、父親や母親を描く場合、尊敬すべき神のような理想的な存在として描かれるし、田舎町の単調な生活に対しても、そこに生きがいと誇りを見出そうとします。しかし、この曲ではすこし違う捉え方をされているのです。このように南部の日常文化に対する、若者的な、或いは本音の視点で貫かれているところが、カントリー界でこの曲が新鮮で尖っているところなのです。


 オープニングの"Silver Lining"は、一見、キュートでくつろぎのシャッフル・ナンバー。しかし、そこには幸運ばかり追い求める人への戒めが歌われています。”貴方は、自分は幸運に恵まれてないんだ、と言う/でも貴方に必要なのは、幸運じゃない/なぜなら、貴方が四葉のクローバーを見つけたいなら/自分の手を汚してでも探さなきゃ/もし貴方が自分の肩に寄り添ってくれる人が欲しいなら/自分からダンスを誘いに行かなきゃ/蜂蜜が欲しいなら/ハチを怖がっては駄目よ”

 同様に人生観を歌ったナンバーで注目したいのが、"Follow Your Arrow"。”貴方が結婚して救いを得たいなら/貴方は退屈な人だわ/でも、結婚しない事で救いを得たいと思うなら/貴方はおぞましい人よ/もし貴方が全然飲まない人なら/お堅い人って言われるでしょう/でも一杯飲んだだけでダウンしたら/皆から酔っ払いって言われるのよ/~/やってもやらなくても、結局は責められるの/だから貴方のやりたい事をやればいい/~/貴方が投げた矢がどこに刺さろうとも、それを追っていけば良いのよ”スタイル的には、オーソドックスなカントリー曲ですが、意気の良いギャング・コーラスがサウンドにメッセージ性を付け加えています。ライブでは盛り上がるんだろうな。


 私的にお気に入りなのが、アップ・テンポのフォーキー・チューン"My House"。ケイシー自身によるハーモニカがフィーチャーされた、流れるような曲調で、"私の家”であるワゴンでアメリカ中を巡る旅を夢見る自由な主人公が歌われています。”もし貴方に私の家に来てもらえないなら/私の家と共に貴方のところに行くわ/どこに行くのかなんてどうでもいい/私達はけして一人じゃないわ/どこであろうと貴方のそばにいれるのよ/それが私の家なの”

 スローでは、"Dandelion"がナイス。自分を残して去っていった男性をたんぽぽにたとえる、とても感傷的なカントリー・バラードです。"Blowin' Smoke"は珍しくハードなギター・サウンドがフィーチャーされたナンバー。しかし、そのイメージはあくまでクール、ギターサウンドもラウドと言うより絞り出すようで聴き応えがあります。まさにテキサス・サウンドって感じね。アコースティック基調のアルバム中、ケイシーの内に秘めた骨太な意志をサウンドで表現したって感じで、アルバムに程よい刺激を与えています。"I Miss You"は、テイラー・スウィフトがよくアルバム中に忍ばせる生音の小品のようで、このアタリを聴くと、やっぱりテイラーを意識してるのかな、と感じます。


(プロフィール) ケイシーはテキサス州はGolden~ダラスから80マイルの小さな町、ケイシー曰く”何もない街”~で育ちました。両親は印刷店を営んでいて、母はビジュアル系のアーティストだったから、芸術的な素養は子供の頃から育まれたよう。8才から教会で歌い始め、小学校を卒業するまでにはもう曲を書いていたそう(曰く、”9歳の子の書くことなんてたいしたものじゃなかったと今は思うわ”)。最初の楽器はマンドリン。そして12才の時からギターのレッスンを受けるように。 John DeFooreというミュージシャンに、ギター・コードから作曲の手ほどきまでを受けました。高校を卒業した18才のとき、両親や祖父母の出資で始めての自主制作アルバムをリリースします。テキサスでは3枚のアルバムを制作しました。2007年に、ナッシュビルで制作されている「アメリカン・アイドル」のような番組「Nashville Star」に出演。結果は7位でしたが、この露出のおかげでナッシュビルとのコネを持った彼女は、テキサスからナッシュビルに移るのです。


 生活のためにデモ・レコーディングをこなす一方で、有名なプロデューサーとのセッションを持った事もたびたびありました。しかし、”私達がプレイしたものはプロデューサー達のサウンドで、私のものじゃなかった。まだ適切なタイミングじゃなかったのよ”その後、本作のプロデューサーであるLuke Lairdと、殆どの曲で共作している Shane McAnallyと出会い、意気投合した彼らは、ケイシーならではの音楽スタイルの構想を練っていきます。そして、マルティナ・マクブライド("When You Love a Sinner"「Eleven」収録)やミランダ・ランバート("Mama's Broken Heart"「Four the Record」収録)に彼女の曲が取り上げられた事も幸いして、マーキュリーとのメジャー・契約を獲得したのです。

 とかくケイシーをテイラー・スウィフトと対比したがっている事に対して、最初アルバムを聴いたときは、それは違うよなぁと、感じたのですが、何度か聴くうちに、ケイシーはテイラーの、ちょうど対極にいようとしているのだ、、、と思うようになりました。それは、少し極端なたとえになりますが、かつてビートルズの対極にストーンズがいたように(ストーンズはそうやって、まずイメージで”2番手”の位置を獲得)。いえいえ、ケイシーが不良だ、とは言ってませんので誤解しないでくださいね。徹底して”愛”を歌い、お母さんと仲睦まじいテイラーに対し、クールで鋭く周囲を風刺し、自由で、そして時に説教臭いケイシー。ストーンズの詩って、ある意味そんななんです。イイとこ突いたね。二人がいいライバル関係に発展して行く事を期待したい。これを聴いて、テイラーがどう出るか。。。

2015年のセカンド・アルバム、「Pageant Material」の記事はコチラで



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
有難うございます (Bigbird307)
2013-11-18 23:04:18
通りすがりのcountry music fanさん
ご指摘有難うございます。確認し修正しました。思い込みで確認せず記載していました。またよろしくお願いします
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Dandelionって・・・ (通りすがりのcountry music fan)
2013-11-17 18:17:44
タンポポな気が・・・
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