2004年、"Redneck Woman"でエピックから彗星のようにデビューし、CMAアワードの女性ボーカル賞を受賞するなど、一躍時の人となったグレッチェン・ウィルソン。その彼女が、自身のレーベル、その名もズバリのRedneck Recordsから初めてのアルバムをリリースしました。サザン・ロック・マナーのハードなサウンドと、アーシーなアウトロー・カントリー・スタイルが身の上の彼女。しかし、その後メインストリーム・カントリー・シーンは、若手世代によるポップ~アイドル化へ進んだこともあり、グレッチェンはメジャー、エピックとの決別を決意、自身のレーベル立ち上げに動いたのです。情熱と内省的な深みが同居した素晴らしい前作、「One of the Boys」が商業的に振るわなかった事も一因でしょう。
しかし今作では自由な制作権を得たおかげで、レッドネック~ブルー・カラーの白人層~の同胞達に向けた、カントリーらしいテーマとダウンホームなサウンド、そしてグレッチェンのキレのあるソウル・ボイスで満たされています。アルバムタイトルは、このアルバムのコンセプトをストレートに表現したものなのです。シャープなギターリックが強力なタイトルソングでは、チャーリー・ダニエルズ、ウェイロン・ジェニングス、ハンク・ウィリアムスらのカントリーレジェンドと、オールマン・ブラザース・バンド、Z.Z.トップらのロック・ヒーローの名を取り上げて、「ここにあなた達のカントリーがあるわ!」と畳み掛けます。現在ブルーカラー層の求める”今のカントリー”とは何なのかが垣間見えるようです。そして間髪入れずにソリッドに迫るリードシングル"Work Hard Play Harder"で息つく暇を与えません。「月曜は2交替で働き、火曜は夜明け前に起きる~そして待ちに待った金曜の夜はホンキー・トンク・バーで仲間と騒ぐのよ」と、大国アメリカをベースで支える労働者達のタフさを称えるのです。
さらに、スライド・ギターが響くヘヴィな“Trucker Man”は、ズバリ、週に6日(Six Days On the Road!)以上ハードに仕事をするトラック・ドライバー賛歌だし、“Blue Collar Done Turned Red”は自国への愛国心を高らかに宣言しています。自分の男性を奪おうとする女とのいざこざを歌った“The Earrings Song”も、カントリーでは定番のテーマ。「私の彼は、戦うに値する人なのよ」と肝っ玉据わってます。ハード&ヘヴィなサウンドが支配するこのアルバムの中にあって、ベイカーズフィールド・サウンドを思わせる、トラディショナルでルーツィーなサウンドが弾むナイス・チューンです。“Outlaws and Renegades”では、ジョニー・キャッシュ、ウィリー・ネルソン、そしてウェイロン・ジェニングスらアウトロー・カントリーのレジェンド達がヒットを飛ばした70年代を懐かしみ、一方現在彼らが歌ったようなサウンドや物語が聴かれない事を憂います。“Walk on Water” は、これもカントリーではおなじみの、アルコールを取り上げた作品。しかし、酒にまつわるトラブルへの警告でも、疲れた心を癒す治療薬として描くでもなく、酒を神聖なものとして捉えているところがグレッチェンの個性です。
ラストの“I’d Love to Be Your Last”では、何度も間違いを犯した経験を経て、本当の愛を捜し求める女性が描かれるメランコリックな曲。アコギとストリングスによるフォーキーなナンバーで、アイドル系の歌う”おとぎ話”とは全く異質の大人の世界を歌い、最後をしっとりと締めてくれます。近頃ポップ系サウンドに食傷気味の貴方、帰ってきたグレッチェンのこのアルバムを是非お試しあれ。ハードエッジなサウンドと、絶妙なセンスを感じさせる彼女の歌声がきっと満足させてくれるでしょう。
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