The Crow: New Songs for the Five-String Banjo
映画「花嫁のパパ 」「ミックス・ナッツ/イブに逢えたら」などで知られる”ハリウッド・スター”。アカデミー賞の司会暦もある、大物コメディアンで俳優のスティーブ・マーティンSteve Martinが、何と自身のバンジョーをフィーチャーしたブルーグラス・アルバムをRounderレーベルからリリースしています。有能なコメディアンで、自称「世界一面白い白人」。1970年代から第一線で活躍し続けていて、最近は映画「ピンクパンサー」で話題になっていたところ。確かにコメディ・レコードはリリースした事がありグラミー賞を獲得してはいたものの、音楽アルバムをリリースするのは初めて。本作、スティーブのボーカルをフィーチャーしたナンバーも楽しめますが、ほとんどは彼のバンジョーをフィーチャーしたインスト曲。ブルーグラス特有の洗練された緊迫感というより、のどかで親しみやすいマウンテンミュージック集という感じ。アイリッシュなナンバーもあります。このアルバムのリリースに合わせて、グランド・オール・オープリーにも出演したようです。
プロデュースは、ニッティ・グリティ・ダート・バンド Nitty Gritty Dirt Bandのプログレッシブなバンジョー弾きであるジョン・マッキューエン John McEuen。そしてサポート陣には、ヴィンス・ギルVince Gill、ドリー・パートン Dolly Parton、メアリー・ブラック Mary Black、アール・スクラッグスEarl Scruggs、ティム・オブライエンTim O'Brienらそうそうたる実力派。しかし、スティーブのバンジョーは、ジョークなどでなく一級品であると、アメリカ本国でも絶賛されるもの。なんせ、ほぼ全曲(1曲"Clawhammer Medley"を除く)が彼自身のオリジナル作品なのです。コメディの世界でこれほど長く才能を発揮してるのに、まだこんな隠れたタレントを持っているなんて、アメリカのスターの”余力”のすごさには参ります。オープニングはマーティンのボーカルが堪能できる"Daddy Played the Banjo"。公式バイオでは、幼少期の大半を過ごしたカリフォルニアにあるディズニーランドのショーで働いていた時に、マジックやジャグリング、風船での人形作りと一緒にバンジョーを覚えたとありますが、このオリジナル曲ではお父さんのプレイしていたバンジョーで既に親しんでいた事が歌われています。そして、温かみのある歌声で歌われるフレンドリーなメロディーがナイスなんです。インストの"Words Unspoken"や、ヴィンス・ギルとドリー・パートンの2人によるボーカルをフィーチャーした"Pretty Flowers"あたりも、牧歌的で心を掴むメロディーが魅力的。ブルーグラスに馴染みが無い方でも楽しめそう。晴れ渡る夏に森林をドライブしながら聴いたら、夢心地になるでしょう。
オーソドックスなブルーグラス・チューンに留まらず、"Freddie's Lilt"のようなアイリッシュ・インストもモノにしています。また、"Clawhammer Medley"では、このアルバムにも参加のアール・スクラッグスが世に広めて現在のブルーグラスの主流の奏法となった”スリー・フィンガー・ピッキング奏法(親指・人差し指・中指・・・と、決まったパターンのフィンガーピッキングを繰り返し、これにメロディを絡ませる)”よりも以前の、オールドタイム・ミュージック時代に主流だった”クロウハンマー奏法(人差し指でメロディとコード、親指で5弦を弾いて、ツンチャカ・ツンチャカという感じで弾く)”を披露。このアルバムがバンジョーやその音楽に対してスティーブが真摯に探求した成果であり、単なるイベント物として取り組んだのではない事をPRします。その他の聴きものとしては、メアリー・ブラックによる歌入りとインストの2バージョンが聴ける"Calico Train"、お久しぶりと言いたいメアリーのボーカルがなかなか荘厳な雰囲気でアルバムのクオリティを上げています。
かつては日本でも製造されていたエピフォンのバンジョー
バンジョーは、現在ではブルーグラス、カントリー向けの、主に白人が弾く事がほとんどの楽器ですが、元々はアフリカ起源のブラック・ピープルの楽器でした。19世紀になって当時の最大の娯楽であったミンストレル・ショーで、5弦バンジョーが黒く顔を塗りたくった白人の芸人に弾かれるようになることで、その存在がアメリカ中に認知されるように。そして南北戦争で遂に秘境のアパラチア山脈にも伝わり、”フィドル&バンジョー”スタイルが産まれます。そしてその後のブルーグラスへ・・・と行きたい所ですが、その前にバンジョーには面白い歴史があります。まず、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、都会の富裕層に急速にバンジョーが広まったのです。当時はフォーマルな楽器として、クラシック・ギターのように指弾きされていました。バンジョー・オーケストラなるものまで結成され、様々なサイズのバンジョーで編成されていたようです。そして続く動きが、ジャズ・エイジと呼ばれた1920年代から30年代にかけての、4弦テナー・バンジョーのブームです。これは、一見バンジョーではあるものの、どちらかというとマンドリンの方に近い楽器だったようで、都会のダンスホールで演奏するジャズ・バンドのリズム・セクションとして活躍しました。ジャズのビッグ・バンドの大音量と渡り合うくらい大きな音が出るので、バンジョーは大変もてはやされたのです。しかしそれも世界恐慌で一気に終焉、テナー・バンジョーはそれまでのブームが嘘のように消えていきました。次にバンジョーが音楽シーンの表舞台で注目されるには、ビル・モンローのブルーグラス・ボーイズでアール・スクラッグスが革命的なスリーフィンガー・ピッキングを披露する1940年代半ばまで待たなくてはいけませんでした。(参考文献:「アメリカン・ルーツ・ミュージック 楽器と音楽の旅」奥和弘著)
映画「花嫁のパパ 」「ミックス・ナッツ/イブに逢えたら」などで知られる”ハリウッド・スター”。アカデミー賞の司会暦もある、大物コメディアンで俳優のスティーブ・マーティンSteve Martinが、何と自身のバンジョーをフィーチャーしたブルーグラス・アルバムをRounderレーベルからリリースしています。有能なコメディアンで、自称「世界一面白い白人」。1970年代から第一線で活躍し続けていて、最近は映画「ピンクパンサー」で話題になっていたところ。確かにコメディ・レコードはリリースした事がありグラミー賞を獲得してはいたものの、音楽アルバムをリリースするのは初めて。本作、スティーブのボーカルをフィーチャーしたナンバーも楽しめますが、ほとんどは彼のバンジョーをフィーチャーしたインスト曲。ブルーグラス特有の洗練された緊迫感というより、のどかで親しみやすいマウンテンミュージック集という感じ。アイリッシュなナンバーもあります。このアルバムのリリースに合わせて、グランド・オール・オープリーにも出演したようです。
プロデュースは、ニッティ・グリティ・ダート・バンド Nitty Gritty Dirt Bandのプログレッシブなバンジョー弾きであるジョン・マッキューエン John McEuen。そしてサポート陣には、ヴィンス・ギルVince Gill、ドリー・パートン Dolly Parton、メアリー・ブラック Mary Black、アール・スクラッグスEarl Scruggs、ティム・オブライエンTim O'Brienらそうそうたる実力派。しかし、スティーブのバンジョーは、ジョークなどでなく一級品であると、アメリカ本国でも絶賛されるもの。なんせ、ほぼ全曲(1曲"Clawhammer Medley"を除く)が彼自身のオリジナル作品なのです。コメディの世界でこれほど長く才能を発揮してるのに、まだこんな隠れたタレントを持っているなんて、アメリカのスターの”余力”のすごさには参ります。オープニングはマーティンのボーカルが堪能できる"Daddy Played the Banjo"。公式バイオでは、幼少期の大半を過ごしたカリフォルニアにあるディズニーランドのショーで働いていた時に、マジックやジャグリング、風船での人形作りと一緒にバンジョーを覚えたとありますが、このオリジナル曲ではお父さんのプレイしていたバンジョーで既に親しんでいた事が歌われています。そして、温かみのある歌声で歌われるフレンドリーなメロディーがナイスなんです。インストの"Words Unspoken"や、ヴィンス・ギルとドリー・パートンの2人によるボーカルをフィーチャーした"Pretty Flowers"あたりも、牧歌的で心を掴むメロディーが魅力的。ブルーグラスに馴染みが無い方でも楽しめそう。晴れ渡る夏に森林をドライブしながら聴いたら、夢心地になるでしょう。
オーソドックスなブルーグラス・チューンに留まらず、"Freddie's Lilt"のようなアイリッシュ・インストもモノにしています。また、"Clawhammer Medley"では、このアルバムにも参加のアール・スクラッグスが世に広めて現在のブルーグラスの主流の奏法となった”スリー・フィンガー・ピッキング奏法(親指・人差し指・中指・・・と、決まったパターンのフィンガーピッキングを繰り返し、これにメロディを絡ませる)”よりも以前の、オールドタイム・ミュージック時代に主流だった”クロウハンマー奏法(人差し指でメロディとコード、親指で5弦を弾いて、ツンチャカ・ツンチャカという感じで弾く)”を披露。このアルバムがバンジョーやその音楽に対してスティーブが真摯に探求した成果であり、単なるイベント物として取り組んだのではない事をPRします。その他の聴きものとしては、メアリー・ブラックによる歌入りとインストの2バージョンが聴ける"Calico Train"、お久しぶりと言いたいメアリーのボーカルがなかなか荘厳な雰囲気でアルバムのクオリティを上げています。
かつては日本でも製造されていたエピフォンのバンジョー
バンジョーは、現在ではブルーグラス、カントリー向けの、主に白人が弾く事がほとんどの楽器ですが、元々はアフリカ起源のブラック・ピープルの楽器でした。19世紀になって当時の最大の娯楽であったミンストレル・ショーで、5弦バンジョーが黒く顔を塗りたくった白人の芸人に弾かれるようになることで、その存在がアメリカ中に認知されるように。そして南北戦争で遂に秘境のアパラチア山脈にも伝わり、”フィドル&バンジョー”スタイルが産まれます。そしてその後のブルーグラスへ・・・と行きたい所ですが、その前にバンジョーには面白い歴史があります。まず、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、都会の富裕層に急速にバンジョーが広まったのです。当時はフォーマルな楽器として、クラシック・ギターのように指弾きされていました。バンジョー・オーケストラなるものまで結成され、様々なサイズのバンジョーで編成されていたようです。そして続く動きが、ジャズ・エイジと呼ばれた1920年代から30年代にかけての、4弦テナー・バンジョーのブームです。これは、一見バンジョーではあるものの、どちらかというとマンドリンの方に近い楽器だったようで、都会のダンスホールで演奏するジャズ・バンドのリズム・セクションとして活躍しました。ジャズのビッグ・バンドの大音量と渡り合うくらい大きな音が出るので、バンジョーは大変もてはやされたのです。しかしそれも世界恐慌で一気に終焉、テナー・バンジョーはそれまでのブームが嘘のように消えていきました。次にバンジョーが音楽シーンの表舞台で注目されるには、ビル・モンローのブルーグラス・ボーイズでアール・スクラッグスが革命的なスリーフィンガー・ピッキングを披露する1940年代半ばまで待たなくてはいけませんでした。(参考文献:「アメリカン・ルーツ・ミュージック 楽器と音楽の旅」奥和弘著)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます