★2021年、デビュー作の名盤「Storms of Life」がデジタル・リマスターされリイシューされたので取り上げました★
ここずっとクリスチャン・ミュージック(カントリー・ゴスペル)をリリースし続けていたランディ・トラビス Randy Travisが、およそ10年ぶりに世俗音楽(つまり、カントリー・ミュージック)アルバム「Around the Bend」をリリースしました。Randyは先日取り上げたジョージ・ストレイト(George Strait)、リッキー・スキャッグスらからその後のガース・ブルックスやアラン・ジャクソンなどのネオ・トラディショナリストへ橋渡しをした現代カントリー・フィールドの立役者の一人です。Randyの声の魅力は、レフティ・フリゼル直系の正統派カントリー・ボイスでありながら、偉大な先達のような粘り腰というより、軽やかな親しみやすさを併せ持っていたところが個性であり、カントリー・フィールドに新たな歴史を刻印した原動力だったのだと思います。
しかし、その偉大なRandyも90年代後半から強まってきたカントリーのポップ化の波には抗しきれず、おそらくは自己の音楽に対する信念とのバランスを取る為でしょう、一時ゴスペルの世界に”非難”していたと言う事だと思います(このあたり、ブラック・ミュージックでのアル・グリーン(Al Green)の動きと良く似ているような。)。この突然の世俗音楽への復帰、一つにはキャリー・アンダーウッド(Carrie Underwood)が最新作「Carnival Ride」でRandyの名曲"I Told You So"を取り上げた事が関係しているのでは・・・と思っています。キャリー、いい仕事したね!この「Around the Bend」、カントリー・アルバム・チャートで3位に食い込んだのですから。
Randyの復帰を迎えるサウンドは、言うまでもなくトラディショナル~ストレート・カントリーの王道といえるもの。アコースティック・ギターが軽やかにリズムを刻み、トワンギーなエレクトリック・ギターやスティール、フィドルが聴き手を安心させリラックスさせてくれるのです。平凡な楽曲でも素晴らしいRandyにかかれば魅力が増す言われる声です。余計な装飾は不要。アルバムとしてのバリエーションの為に"Faith In You"のようなピアノとストリングスがタップリのマッタリ系バラードも収録されてはいますが、主力はやっぱりタイトル曲"Around the Bend"や"Turn It Around "のような乾いたアコースティック・ギターがフィーチャーされたカントリー・チューン。ボブ・ディランの"Don't Think Twice, It's All Right"はクールなウェスタン・スィングといった体裁のアレンジで、粋です。
Randyの声には、20年選手の深みと適度な枯れ、そして変わらないリラックス・フィーリングに溢れ、心地よい木の香りを感じさせてくれます。エレキ・ギターとスティールのユニゾンによるフレーズが印象的など真ん中のカントリー・シャッフル"Everything That I Own (Has a Dent)"もしっかり聴けますよ。ラストのジャンプ・ナンバーのカッコよさ(終盤の各楽器によるインプロビゼーションの交換にはいつもながら圧巻!これぞナッシュビル・ミュージックの魅力)は最高。驚くような事は何もしていませんが、これで良いのです。Randyは、もう余計な事はしなくて良いのですから。
1959年ノース・カロライナ州Marshville生まれ。子供の頃からハンク・ウィリアムス、ジョージ・ジョーンズそしてレフティ・フリゼルらのクラシック・カントリーに親しむと共に、兄とバンドを組んでいました。しかし当時から兄弟共々荒くれもので、結局兄は刑務所行きに。RandyもCharlotteのクラブ・オーナーLib Hatcher(後に結婚)に雇われなかったら、兄と同じ運命だっただろうと言われています。1979年には Paula Recordsでシングル"She's My Woman"をリリースしますが、91位止まりに。その後1982年、 Lib HatcherはCharlotteの自分の店を売り、オープリー・ランド近くのNashville Palaceの支配人になり、Randyを調理人兼歌手として連れて行きました。そこで3年半働いた後、Lib Hatcherの売り込みも功を奏して、ワーナー・ブラザーズとの契約にこぎ着けたのです。その頃、80年代半ば、CMAは「カントリー・ファンはトラディショナルなカントリーを歌う若手ミュージシャンの登場を望んでいる」との調査結果を発表していました。まさにRandyはそんな時代の寵児だったのです。
1985年、名曲"On The Other Hand"はリリースされました。しかし、ヒットしませんでした。当時のカントリー・ラジオは既にトラディショナル・カントリーを積極的にかけたがらなくなっていたのです。しかし、番組制作者達は本音ではこの曲をたいそう気に入っていたようでした。おかげで次の"1982"がようやくヒット。この勢いを察知してワーナーはもう一度"On The Other Hand"をリリース、そしたらこれが初のNo.1ヒットになったという面白い事態になったのです。Paul Overstreet作(共作)の永遠の名曲です。当時、カントリーでゴールド・レコードを獲るのも大変だった時代、Randyのアルバムは何枚もプラチナ・アルバムになりました。そして、ポップスに飽きた人たちをカントリー・フィールドに引き込む役割を果たし、それはその後90年代以降カントリー・フィールドがアメリカン・ミュージックの中でさらに隆盛を極める土台を築く事になったのです。名曲は他にも"If I Didn't Have You" "Look Heart, No Hands""Forever and Ever, Amen"(嗚呼!)"No Place Like Home""Diggin' up Bones"(うぐっ)など多数。 偉大。
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