ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

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Merle Haggard マール・ハガード Legendary Performances DVD

2009-04-18 | カントリー(男性)
 ブラッド・ペイズリー(Brad Paisley)ファンの皆様、これからの音楽生活を悔いなく過ごすために、ロイ・ニコルスのギターはとりえあず聴いといた方が良いかと・・・・

 クラシック・カントリー・レジェンド達の映像発掘はそれなりに進んでいる昨今。マール・ハガード Merle HaggardのDVDも既に幾つか出ていますが、ここに紹介するのはマール様の長い栄光のキャリアの中でも最も勢いのあった、デビュー直後の若々しい60年代から70年台をメインに、御大の脂の乗り切ったTVパフォーマンスを収録した超!お薦めDVDです。製作はカントリー・ミュージック殿堂(ホール・オブ・フェイム)、その貴重なアーカイブから選りすぐった映像と演奏ですから、貴重というだけでなく、歌声はもちろん演奏のクオリティも抜群なのです。なお、同じシリーズで、マーティ・ロビンスとタミー・ワイネットも先にリリースされています。国内再生可能。

      

 約1時間の本編15曲、どれも聴き応えのある名曲、パフォーマンスなのですが、特に前半、デビュー間もない1968年と1970年の映像が、マール様の姿も若々しくてカッコよく、実に見ごたえがありましたね。まずは1968年、「Country Music Holiday」から"Branded Man""The Bottle Let Me Down""Swinging Door"。のっけから気絶してしまいそうなカントリー・フィールド永遠の名曲が立て続けに演奏されます。しかも、バック・バンドは初期ストレンジャーズ(Strangers)。カントリーの伝統に則ったシンプルで簡素なリズムセクションに、2人の伝説のピッカー、ノーム・ハムレット(Norm Hamlet)のクリアなペダル・スティールと、ロイ・ニコルス(Roy Nichols)のカミソリの刃のようにシャープなテレキャスターのサウンドがフィーチャーされる、これぞマールのベイカーズフィールド・サウンドの真骨頂と言えるもの。特に、ロイ・ニコルスのギターは、音数こそ多くないものの、実にキレていて味わい深い。そしてマール様の声。おしゃべりの所から、既にイイ声なんです。そして歌っているときの苦みばしった表情の渋さッたら!

 マール様の革新性は、その鋭い音楽だけでなく、ステージ・マナーにもあったといいます。それまでのカントリー・スターが、今の感覚からすると仰々しいくらいの愛想の良さを振りまいていたのに対し、マール様の振る舞いはそれまでのショービジネスの慣習を無視したもの(まあ、ロックでは当時既にとんでもない連中がいたけど、そこらは異次元ね。フーとか・・・・)。ここでの"The Bottle Let Me Down"では、イントロ部分で姿こそ映っていませんが、歌いだす前に平気でマイクに入るくらいの咳払いをする有様でビックリしたなぁ。コーラスのボニー・オウェンズ(既に奥さんだったのかな)が「しょうがない人ねぇ」ってな感じの笑顔でマールを見つめています。ぶっきら棒とは言いませんが、実にクールな一挙一動を見せてくれるのです。とにかく、ここで聴かれる演奏は、今我々が思い描く、”カントリーらしいカントリー”(ストレートカントリー~ホンキー・トンク)の雛形であり原点と言えるパフォーマンスでしょう。一時、(イージー・リスニング的な”ナッシュビル・サウンド”によって)過去のもののようになっていたスタイルを、シャープなテレキャスターを駆使して、マール様が蘇らせたのです。

      
後列一番右がロイ・ニコルス、中央がノーム・ハムレット

 続く3曲も同じ1968年の演奏。残念ながらストレンジャーズのバックではないですが、それでも素晴らしい「Billy Walker's Country Carnival」から、まずはマール様最高のキー・トラック"Mama Tried"。そして続くは、当時はB面曲でけして代表曲とは言えなかった超名曲"I Started Loving You Again"。後にサミ・スミス(Sammi Smith)が頭に"Today"を付けて、より情念こめて歌い上げヒット曲にしたものです。これは見れて有りがたかった!最後の"I Take A Lot of Pride in What I Am"は幾分軽やかな佳曲。

 1970年の演奏は、「Porter Wagoner Show」からで再びストレンジャーズがバックに登場。弾んだリスムで生き生きと演奏される2曲は、これもキー・トラックである"The Fightin' Side of Me"と必殺の"Okie From Muskogee"。当時、ベトナム戦争に対する反戦運動が盛んになってきた頃、とかく”お国”にグチばかり言う人々への苦言を呈した2曲です。ここらは、いわゆる”保守的”と言われる最たる部分で、ロック的理想主義や我々日本人の平和志向的な感覚からすると違和感を覚える部分である事は確か。その後のベトナム戦争の顛末や現在のイラク戦争の迷走ぶりを見るとね。マール様も後に"Are the Good Times Really Over"で、’ベトナム戦争前に戻れたら・・・’と歌っています。しかし、アメリカという国の一般マスコミの情報ではなかなか見えにくい部分を正しく知る為の具体的な一事例として、冷静に捉えてみる事も有意義ではないでしょうか。少なくともそれだけを理由に、この素晴らしい音楽を避けて通るのは、あまりにもったいないと思うのです。演奏自体はロイ・ニコスルのテレキャスターの響きが演奏を引っ張り文句なしですが、"Okie From Muskogee"の最後のコーラスでマール様が見事に歌詞を間違えて、「ア゛~ッハー!!」と照れ隠しの雄たけびを上げるところが楽しいです。

 その他にも見所は多数、1972年のCMAアワード(!)からの演奏"Daddy Frank"は、オーケストラをカーテンでわざわざ隠してストレンジャーズをフィーチャーした演奏で、マール様のカントリー・サウンドに対するこだわりを見せてくれます。コチラもとっておきのキー・トラック"Workin' Man Blues"(1974年)では、ストレンジャーズのメンバー達のソロがフィーチャーされ、聴きものになっています。ここでもロイ・ニコルスのギターに耳がいきます。私お気に入りの"Ramblin' Fever"(1977年)では、そのロイ・ニコルス(バックに下がっていて姿は全く見えない)とマール様のツイン・リード・ギターが渋く冴え渡ります。

      

 1937年生まれ、カリフォルニアはベイカーズフィールドで貧しく育ちました。一家は大恐慌の時代に、オクラホマからカリフォルニアに移住してきた人たちだったのです。マール様9歳の時に父親が亡くなってしまいます。母親Flossieはマール様を女手一人で懸命に育てますが、彼をコントロールできませんでした。マール様曰く「僕は早く大人になった。12か13歳で、もう一人前だった。母親の重荷にならないように、早く働きたかったんだ。その頃から無断欠席が問題になって少年院に送られた。自分をアウトローだと思うようになっていったんだ」1957年に強盗未遂でサン・クエンティンに投獄されましたが、既にカントリーを演奏していたマール様は、刑務所を訪れたジョニー・キャッシュのショーに感動、一転して模範囚となった事がみとめられ、1960年に仮釈放されました。1963年には、マイナーのTally Recordでレコーディングした後、1965年には早くもメジャー、Capitolと契約。デビューするや否やカントリー・ミュージックの”型”を決定付けてしまう名曲を立て続けにリリースし人気を確立、生きているうちにマール様は早々と伝説の人物となったのです。そのマール様も年には勝てず、最近肺癌手術で肺の一部を摘出したそうです。それでもリハビリでバイクに乗り始めるくらいには回復し、自分は命拾いしてとてもラッキーだったと、ピープル誌に語っています。

 かのグラム・パーソンズがマール様に憧れてカントリー・ロックを模索し始めた事は有名。マール様の作曲、歌唱、演奏など音楽的な能力の高さや、カントリー・ミュージックに留まらずアメリカン・ミュージック~ポピュラー・ミュージックに果たした功績は、いくら称えても称え切れるものではありません。


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2 コメント

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はじめまして (mazu)
2016-04-10 09:55:09
はじめまして、mazuと申します。音楽紹介ブログを書いてまして、ときおりカントリーも紹介しています。

このたびマール・ハガードが旅立ったことに深い悲しみをこらえつつ追悼記事を書いたので、ネットで他にマール・ハガードについての記事を探してすばらしい貴ブログのこの記事を発見して嬉しかった次第です。

事後承諾ですみませんが、当記事に拙ブログ内でリンクを貼らせて頂きました。すばらしい記事をありがとうございます。
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こちらこそ有難うございます (bigbird307)
2016-04-12 23:38:26
mazuさん

初めまして。ありがたいコメント、嬉しいです。

マール様の、本当の残念な知らせでした。一度大きな手術をされて、
以降も元気に活動されていたのですが。悲しいですが、受け入れるしかありません。

とてもエネルギッシュで楽しいブログですね。
今後も覗かせていただきます。よろしくお願いいたします。

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