Kim Richeyはシンガーというよりナッシュビルのソングライターというイメージが強く、あまりアーティストとして強い興味を持ってなかったんですが、たまたま耳にしたこの新作、とてもユニークないい雰囲気で気に入りました。彼女の1995年のCDデビューの頃は結構話題で良く覚えています。それはアルバムのオープニング・チューン"Those Words We Said "がTrisha Yearwoodの「Thinkin' About You」で取り上げられてたこともあったのでしょう。その後も、着実に自身のアルバムをリリースし続けていて、今回Vanguard に移籍後の、5年ぶりの新作との事。
一聴して、これは標準的(ナッシュビルの)カントリー・サウンドとは一味違うな、と感じる音。シンガー・ソングライター的な(まあ、確かに彼女はそうなんですが)、ちょっとヨーロピアンで時に60年代のブリティッシュ・ポップ風な、洗練された印象なのです。それもそのはず、録音はロンドン、プロデューサーはビートルズ(Beatles)のプロデュースで有名なGeorge Martinの息子 Giles Martin。ナッシュビルのつやつやした音とは違い、確かにポップではあるのですが、簡素で隙間の多いしっとりした、アーティスティックなサウンドです。オープニングの"Jack and Jill"はサウンドと歌声が共にふわりとした浮遊感漂う、優しさにあふれたミディアム曲。いろんな楽器が所々にうまく散りばめられており、ここらも聴きどころ。そして続く タイトル曲"Chinese Boxes "はその名のとおりこのアルバムを代表するポップチューン。60年代Motownっぽい乾いたホーンとリズムをフィーチャーしつつ、クールなイメージを保ちます。ボーカルがダブル・トラックなのがやはりビートリー?個人的には切なく歌い上げられるバラード"Drift"がお気に入りです。コーラスで爪弾かれる簡素なギターとキーボードのさびしげなメロディがなかなか良い。
"Turn Me Slowly"が素晴らしいカントリー・バラード。ここでのバック編成は、シンプルなコンテンポラリー・カントリーのそれで、何よりもきれいなメロディとKimの情熱的な歌声が聴きどころになっています。"Another Day"も同系統の曲で、コーラスのメロディが印象的。シンプルな弾き語りの"The Absence of Your Company"、ささやくようなアンニュイなボーカルが和みます。
1956年、オハイオ州はDaytonの生まれ。叔母さんがレコード店を営んでいたおかげで、クリエイティブな60年代のポップ、ビート・ロックを徹底的に聴きあさったようです。ここに、彼女の音楽的な基盤が築かれたのでしょう。高校生になってギターを弾き始め、大学生になってステージにも上がるように。大学卒業後は、アメリカ各地や南米、ヨーロッパを転々とする機会があったようで、ここで多彩な感覚を身に付ける事に。そして1988年にいよいよナッシュビルに腰を落ち着けて作曲活動に本腰を入れ、ライターとして腕を磨くだけでなくシンガーとしての評価も勝ち取っていくのです。
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