ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Alan Jackson(アラン・ジャクソン) 「Good Time」

2008-03-11 | Alan Jacksonアラン・ジャクソン レビューまとめ

 帰ってきたAJ。

 待ちに待ったAlan Jacksonのニュー・アルバム「Good Time」。過去2作がセイクリッド集「Precious Memories」と、アーバンでジャジーなバラード集「Like Red on a Rose」というイレギュラーな作品だったので、久しぶりにプロデューサーKeith Stegallも復帰し、Alanらしいストレート~ホンキ・トンク・カントリー集になっているのが、やっぱりファンには嬉しいところ。そして、Alan自身もインタビューで語っているように、初期作品のようなアップテンポ曲が多くなっている事が今回のポイントと言えるでしょう。2000年代に入ってのアルバムが、ブルーグラス風のサウンドも取り入れてチョッぴりマイルドな手触りになって来ていたのに対し、ある意味原点回帰的な作風にしたのは、カントリー・ロック志向の現在カントリー界に対してAlanなりの回答・見解を出そうとしたのではないでしょうか。17曲と言う過去最多曲目を収録、しかも全て自作。駄作無し。その尽きぬ創造力はスゴイ。

 



 オープニングのテクノ・ポップのようなボコーダのコーラスで意表をついて、すかさずトワンギーなカントリー・ギターが切れ込むイントロにまず脱帽。その後展開するホンキー・トンク・サウンドに文句の付けようはありません。そのリズム・セクションは低重心でアタックが強くパワフル。そして、Alanのボーカルがとてもシャープでキレがあるのです。エフェクトの効いたスティール・ギターもなかなかハードで、このシンプルなジャンプ・チューンにグイグイ引き込まれていきます。このオープナーで月並みなカントリー・ロック曲を軽く蹴り飛ばして、続くはヒット中のリード・シングル"Small Town Southern Man"。ライトな正調ストレート・カントリーです。Alanならではのツボを得たメロディと軽やかな歌声が心に染みます。コレを待ってたんだ!てな感じ。そして3曲目がお得意のメロウなアコースティック・バラード"Wish I Could Back Up"。隠し味のアコーディオンが良い味出しています。Alanの歌声は、ここではとても優しく、切なくささやくようです。そして、この3連作で完璧にAlanワールドに浸ってしまってる自分に気付くのです。チョッとユニークな作風なのが、スティービー・ワンダー的なハーモニカがフィーチャーされた、モータウン風ノーザン・シャッフルの"Never Loved Before"。そしてナント!マルティナ・マクブライド(Martina McBride)とデュエットしています。今やキングとクイーンと言っていい二人がボーカルを分け合う様は、聴き応えがありますね。実に楽しく快調なリズム・ナンバーで、ハイライトの一つです。

 



 サウンド・スタイルだけでなく、歌詞においても、カントリー・ミュージックとしてあるべき基本形をキッチリ守り、そこにAlan自身のセンスと非凡な才能・・・・かのアーネスト・ヘミングウェイのように、最低限の言葉数でシンプルにポイントを突く表現力、と称えられるもの・・・が注ぎ込まれています。"Small Town Southern Man"のリフレインでは、こんな風。「彼は神に頭を下げた/彼はアンクル・サムを支持した/彼はたった一人の女性を愛した/彼は自分の持っているものをいつも誇りにしていた/彼は言った。自分の大きな貢献は自分が後世に残していくものだと/小さな町の南部の男の生き方と優しさに力を与える事だと」 "Nothing Left To Do"では平凡な、しかしその事に誇りを持って生きる小市民の生活が描写されています。「そして僕達(夫婦)はディナーに出かける/そして真っ直ぐ家に帰るんだ/古い映画を見て/ボトル半分のラム酒を飲んで/そしてTVを消した/僕達はやるべき事をちゃんとやったんだ/何もやり残した事はない/僕達はやりきったんだから」ユニークなタイトルのクラシック・スタイル曲"I Still Like Bologna"では、「衛星通信があり/長距離インターネットでつながり/世界は毎日早くなってる/どれも良い物だって事は分かるよ~僕は50インチのHDプラズマが好きさ/500チャンネルもあるんだ/結局あきらめて、その代わり携帯電話を買ったよ/ほとんど電源を入れそうにないんだけど~でもやっぱり、僕は今だに白パンにのったボローニャ・ソーセージが好きなんだよ」

 ここには古き良き時代を懐かしみ、伝統的な考え方を大切に守ろうとし、そして日々繰り返す平凡な日常生活を送る善良な市民に対する、心からの愛情が溢れているように思います。時代がどんどん変化していって、そこで生きる為に変化にはついて行かなければならないけれど、やはり心のどこかでそんな変化について行くことに疲れたり、もっと心穏やかな生活をしたいというのは誰しも思う事はあるもの。そして日々の平坦な労働生活の繰り返しに、時にめげそうになる事もあります。そういう人々の心の琴線に語りかけ、生きる誇りを与えることがカントリー・ミュージックの機能の一つであり、Alanは自分の言葉でその役割を忠実にこなし続けているのです。そしてトラディショナルな音楽スタイルと相まって、聴き手に自分達が何処から来たのかを都度確認させてくれるのです。

 



 何々?Alanって、いつもおんなじ様な曲やってるしねぇ、ですって?なるほど、この手のスタイルに馴染みのない方がそう言われるお気持ちもわからないではないですが、それに対しては、ポール・マッカートニーが賛否両論の「ホワイト・アルバム」について聞かれた時の表現を借りてお答えしましょう。

 「これはAlan Jacksonのアルバムなんだぜ。黙れってんだ」





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7 コメント

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うれしいですね (yy harley)
2008-03-17 12:25:29
昨今、ロック系カントリーが多い中、ストレートカントリーを聞かせてくれるのはうれしいですね。
カントリーラインダンス界も、カントリーのジャンルに拘らないようになってきており、少し残念なところがあるんです。
素晴らしい旋律(オーソドックスでもいいですが)のカントリーが出てくれば、ファンも増えるし、ダンスも踊りたくなってきますよ。
久々にヒットを期待したいですね。
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Good Time (bigbird307)
2008-03-17 23:48:19
yy harleyさん、コメント有難うございます。

最近もいろんなカントリーを聴いていますが、今回の「Good Time」は本当に嬉しい作品で、楽しく、心地よく聴いています。正直私自身も一時、いつも同じやなぁ~と感じてた頃もありました。それでもCDは買ってしまうのです。質の高いストレート・カントリーはヤッパリ良いしハズレがない。そして良く聴くと、微妙なサウンドの変化や新しい試みをしてる曲が必ずあるのです。そのさり気なさもカッコイイです。

またよろしくお願いいたします。
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Unknown (wakaba)
2008-03-22 22:39:52
久しぶりにアラン・ジャクソンの傑作ですね。どの楽曲も魅力があるのですが、個人的にはマルティナ・マクブライドとのデュエットが最も白眉。ぴったり息が合った名デュエットだと思います。ふたりでアルバム作ってほしいなー。でも、所属レコード会社が違うから難しいのかな。

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デュエット (bigbird307)
2008-03-24 23:40:11
wakabaさん、コメント頂き有難うございます。

このデュエット曲は良いですよね。マルティナがアランとデュエットした、と言うのが何か感無量でした。マルティナには以前の我が国では、声がでかい~、良い曲もらってるからね~、なんて声もあったのです。

二人のアルバムとはゴージャス!実現したら楽しいでしょうね。

今後とも宜しくお願いします。
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今頃買いました (黒猫トム)
2009-08-20 23:17:12
ごぶさたです。
登場当初はどこいっても高かったのですが、Amazonあたりで1800円前後で入手できるようになってきていたので購入しました。

1曲目から「Perfumeか!?」と笑ってしまったけれど、俺のお初AJアルバム「Who I Am」よりもよいかも知れません。通勤中全曲リピートでぐるぐる聴いています。
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マンネリズムをなめるなと (黒猫トム)
2009-08-20 23:30:53
 AJがどれも同じようなのを演ってるですって?
 困ったものですね。

 最新作も、次回作も、毛色の違う目先の変わったのを出さないと売れない世界とは違うのだということが分からないんでしょうね。
 日本でいえばなんですか、演歌ってみな同じじゃん、とか、モーニング娘。(というか、つんく楽曲)ってどれも同じに聴こえるとか、B'zって、実は俺にはどれも同じに聴こえて「どうでもいい」んですとか(ギターやってる友人に言わせると一つひとつが違っていてすげーのだそうです)に該当しますかねぇ。
 じゃなんで売れ続けているの?ってことでしょう?リスナーに支持されているからですよね。

 その辺もひっくるめて、きっとポール・マカートニ氏も言ったんじゃないかしらんと思いますなぁ。
 外国人である我々が聴いたって「AJすげー」って分かるんですから、偉大なるマンネリなんですよ。飽きの来ないやつなんですよ。
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カントリーは歌詞も魅力 (bigbird307)
2009-08-21 00:37:43
黒猫トムさん、熱いお言葉を有難うございます。

その人ならではのスタイルが確立された人は強いですね。誰も真似できなくなる。あと、カントリーの場合、音楽スタイルだけでなく、歌詞の魅力もあります。歌詞でグッドなストーリーが描ければヒットする。ほとんどはラブ・ソングなのですが、社会的なテーマやスピリチュアルな人生物語など、若い人たちにはチョッと重いかもしれないし、説教臭いかもしれませんが、ナイスな物語が歌われるカントリー・ソングが必ずあります。

私もなかなか歌詞をご紹介しきれないのですが、なるべく取り上げていきたいです。
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