ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Travis Tritt トラヴィス・トリット - The Storm

2007-12-02 | カントリー(男性)

 ベテラン、Travis Trittによる素晴らしい新作です。私がカントリーを聴き始めた90年代初頭に華々しくデビュー、 Garth Brooks、Clint BlackやAlan Jacksonと共にニュー・カントリーの旗手として大活躍していたので思い入れがある人です。カウボーイ・ハットをかぶらないNo Hat派を標榜し、アーシーなサザン・ロック感覚あふれるカントリーを展開しました。現在まで着実に前線で活躍していますが、まあ正直、もう旬の人ではないだろうってなとこで、今作はマイナー・レーベルからのリリース。しかし、俺を忘れてもらっちゃ困るゼ!、とでも言わんばかりにまだまだカントリー界を引っ張っていこうとする意欲とエネルギーに溢れています。カントリー・チャートでは3位まで到達。

 とにもかくにも、画期的なリード・シングル"You Never Take Me Dancing"。アルバムでは、モロにカントリー・ブルース調のモーン("Mudcat Moan")に導かれて、アルバムの幕を開けます。遂にこのファンクのリズムをカントリーに持って来たか、ってとこです。挑戦しますねぇ。跳ねるベースラインと、アコギのカッティング、そしてクワイア・ゴスペル風女性コーラスの絡みつきが、本当にグルーヴィー。そしてTravisのボーカルはブルージーでソウルフル、まさに独壇場です。コレが歌える人は他に思い当たりません。このアルバムでは、そのブルージーなフィーリングがキーになっていて、これはBig & RichのMuzikMafia一派に刺激を受けたに違いないでしょう。 Richard Marx(懐かしい!80年代後半"Don't Mean Nothing"でポップ・ヒット)との共作"Doesn't the Good Outweigh the Bad"は、ブルース・ギターがフィーチャーされた豪快なブギウギ・チューンです。この手をやらせたら、今でも俺が一番なんだぜってとこ。Travis自身の名曲"Here's a Quarter"を思い出させるのが、素晴らしい"The Pressure Is On"。曲はHank Williams Jr.のカバーですが、ワイルドなアコギのストロークに始まるその曲の音場は、ダウンホームな真のカントリー・サウンド。このアルバムのハイライトの一つになっています。

 

 一方、バラードの方は、実にメロウで彼らしいスケールの大きい佳曲が、先のロッキン・ナンバーとほぼ交互にアレンジされています。お気に入りは感動的な"Something Stronger Than Me"。ストリングスをたっぷりフィーチャーしていても、Travisのエモーショナルなボーカルと骨のあるリズム・セクションのおかげで、けして甘くはなりません。ラストは、ロック・ギタリストKenny Wayne Shepherdのブルース・ロック曲"Somehow, Someday, Someway"。Kennyもギターで参加しており、Travisのボーカルと張り合っております。この素晴らしいコンテンポラリーなカントリー・アルバムのエンディングとして、はまり役です。

 1963年、ジョージア州はMarietta生まれ。子供の頃に音楽で生きていこうと決心しましたが、両親は当然反対。一応は堅気の仕事に着きますが、22歳までに2度も離婚し、仕事も転々とするなどうまくいきません。そしてエアコンの会社で働いていたとき、その副社長が昔ギタリストを目指していた事のある人で、夢を捨てないよう励まされた事をキッカケに、フルタイムでの音楽活動を開始しました。1982年にデモ・テープをレコーディングしたスタジオのオーナー、Warner Brothersの幹部でもあるDanny Davenportの目に留まり、しばらくはDannyとデモ・レコーディングを続けると共に、ホンキー・トンクでのステージを重ね、Travis独自のホンキー・トンク・カントリーとサザン・ロックをブレンドしたサウンドを築き上げていったのです。そして1989年、遂にそのWarner Brothersと契約、ヒット・アルバム「Country Club」で衝撃のデビューを果たしました。当初カントリー業界は、Travisのサウンドがあまりにロック寄りな事に懐疑的だったのですが、そんな声はその人気とCD・セールスの成功でかき消されていったのです。

 

なお、"How Long"が現在ヒット中の大ベテランEagles(イーグルス)ですが、その再結成の最初は1994年。キッカケは、なんとこのTravisに起因しています。1993年に当時のカントリー・スター達が一同に会してEaglesの名曲をカバーした素晴らしい企画アルバム「Common Thread」にTravisも参加。そして彼による"Take It Easy"がシングル・カットされた際のビデオにEaglesのメンバーがそろって出演した事が、「Hell Freezes Over」での再結成に繋がったのでした。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿