ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Joey+Rory ジョーイ+ローリー The Life of a Song

2009-03-22 | カントリー(女性)
 Joey+Rory = 真のカントリー・ミュージック

 ラウドなギター・サウンドがほとんど当たり前のように鳴り響く現代のメインストリーム・カントリー・シーン。その中にあって、まるで小さな宝石のごとく、滋味に溢れた清らかなカントリーの生音がパッケージされた、夫婦デュオJoey+Roryのデビューアルバムです。ジャケットではとても素朴で牧歌的なファッションに身を包んでいる2人。夫で、既にヒットソング(Blake Sheltonの"Some Beach"、Clay Walkerの"The Chain of Love"そして Collin Rayeの"Someone You Used to Know"など)を持つソングライターRory Feedの胸当てズボンって、最近日本ではなかなかお目にかかれませんよね。そんな時代遅れとも取られかねないイメージで勘違いされては困るほど、このアルバムには音楽の純粋な豊かさが溢れています。プロデュースは、なるほど!のCarl Jackson。Carlの良心的な音作り(私的には、コンピレイション「The Gram Persons Notebook」や「Livin',Lovin',Losin':Songs of The Louvin Brothers」が思い出)は、定評がありますから。昨年のカントリー・フィールドでクリティックに絶賛されただけでなく、カントリー・アルバム・チャートでも10位まで行っているのです。来月、4月5日に授賞式が開催されるアカデミー・オブ・カントリー・アワードでは、ボーカル・デュオ賞に早くもノミネートされており、この層の薄いジャンルで今後の活躍が期待されています。

      

 多くのの曲は3分そこそこの長さ。親しみやすくシンプルなメロディと、アコースティック・ギターを始めドブロやフィドル、マンドリンらのカントリーならではの楽器達がふんだんにフィーチャーされた、癒しのカントリー・バラードが目白押しです。最近なかなか味わえなかった気持ちの良い音世界を堪能させてくれるのです。ワルツのリズムが豊かで奥ゆかしい"Tonight Cowboy You're Mine"、アコギ1本による生ライブ感に満ちた"Heart of the Wood"、ホンキー・トンク・ギターが響き、優しみに溢れた心和むミディアム"Boots"、昨年ソウル・テイストのアルバムを発表していたRebecca Lynn Howardがしっかりトラディショナルにソングライティング(共作)してるタイトル・ソング"The Life of a Song"。Joey Martin Feedの歌声の質感がなんとも言えず心地良い。カントリー・ボイスなのだけれども、草の根感というよりも、親しみやすい優しさと温かさが適度にブレンドされていて、自然に耳に馴染みます。楽曲的にモダンな作品も、幾つか収録されていますしね。

 その中でも目を(いや、耳を)引くのが、"Sweet Emmylou"。もちろんあのエミルー・ハリスにインスパイアされたオリジナル・バラード曲です~主人公は失恋の心を和ませてくれるエミルーの寂しげなメロディへの愛情を語ります。その彼女がとある男性と再び恋に落ちた時、エミルー作品を遠ざけ楽しい曲を聴くように・・・しかしそれは過ちだった。その彼は他の女性のもとへ去っていってしまうのです。再びエミルーの曲と夜を過ごす彼女~。エミルー・ハリス作品の本質を表現し、リスペクトした佳曲と思います。もう1曲の注目が、レイナード・スキナードのスロー"Free Bird"の大胆なカントリー・バージョン。これは無名時代、とある映画の演奏シーンのオーディションを受けたとき(結果、オーディションには落ちましたが)に課題曲として与えられ、速攻でワルツにアレンジしたものだと、Roryがブックレットのライナーノーツで語っています。このサザン・ロック・バラードを、こんなにしっとりと切なく歌いこなして、新たな生命を与えたJoeyの力量に感服するばかりです。

      

 彼らは既にCMT.comのアンプラグド・ライブにも出演していて、スタジオ録音と遜色ないナイスなパフォーマンスを披露しています。その中で"Sweet Emmylou"を歌う前、Joeyは自身が影響を受けたシンガーとして、ドリー・パートン、エミルー・ハリスパティ・ラブレス、そしてジャッズなどのトラディショナルなシンガーを家族で聴いた事を語っています。そんなレジェンド達から受け継いだものを、ほとんどギミックなど交えずに、彼らなりにストレートに表現した結果が「The Life of a Song」として表現されたのでしょう。正直、滋味に溢れた地味なカントリーです。スゴイ名曲があるわけでもない。でも、今のカントリー・フィールドの状況を鑑みると、カントリー・ミュージックを聴きたくてカントリー・ミュージックを聴いている人間にとっては、これは一筋の光であり、救いなのです。

 CDパッケージの底ケース内側(CDの裏)に印象的な2人の写真が挿入されています。彼ら自身やこのアルバムのイメージを分かりやすく一目で表現されてるもの。これ、フランスの画家フランソワ・ミレーの名画「晩鐘」をベースにしていますね。2人の立つ前景を暗く、一方背景を明るくしたところもキッチリ再現しています。ミレーは貧しく、しかし清く美しく生きる農民への賛歌として絵を描いたと言われていますが、Joey+Roryにとっての音楽も同じなのでしょう。そして彼らの音楽は、農業家だけでなく、毎日コツコツと義務を果たす名もなき労働者や企業人にとっても、夜、あるいは休日、家庭でつかの間の心を癒す際のサプリメントのような役割をはたしてくれるものなのです。それは、「ロック」にも、そして「大人のロック」にも出来る事ではないのです。

      

 カンサス生まれの Rory Feekは1995年にナッシュビルに来ました。伝説のソングライターHarlan Howard の唯一のスタッフライターとして従事した後、クリント・ブラックのBlacktop Musicにも籍を置いた事も。彼がいかに有能なライターかがわかります。 インディアナ州生まれの妻Joey Feekが初めて人前で歌った歌は、ドリー・パートンの"Coat of Many Colors"、6歳の時でした。彼女がナッシュビルに来たのが1998年。そして2000年にはSonyと契約、 Paul Worleyらのプロデュースの下、デビュー・アルバムをレコーディングしました。しかし、なぜかリリースは中止。2004年には再び 「Strong Enough to Cry」をレコーディングしましたが、これもお蔵入り(しかし、2007年にデジタル・フォーマットでリリース)。その後2006年に、Joeyは義理の姉とレストランMarcy Jo's Mealhouseを始めます。彼女は今でも、ロード・ツアーのない時はここで働いているそう。

      
      Marcy Jo's MealhouseでのJoey(左)

 JoeyとRoryの出会いはあらかじめ定められた運命のようでした。Joeyは、Roryがプレイする小さな町での生活やシンプルな暮らしを歌った親しみやすい歌の数々を初めて聴いた時の事を思い返して語っています。「彼の歌はとても心地いいものでした。私がブルーバード・カフェで初めて彼を見た時、彼が語っていたのは私の言葉でした。それらは私が歌いたかったものだったんです」Joeyは、ラジオでかからないようなクラシックなカントリーを両親から聴いて育っていました。そんな彼女がギターを取り出して、ジム・リーブスの"Have I Told You Lately That I Love You"を歌い始めたとき、Roryは感激したといいます。 「この曲は父のお気に入りで、彼のお葬式の時に歌われた曲だったんだ。そのときナッシュビルに来て7年になっていたんだけど、それまで"Have I Told You Lately That I Love You"をプレイしている人を見たことがなかったんだよね」現在彼らは結婚して6年、2人の娘さんをもうけています。

 彼らが一躍時の人になったキッカケが、MTV系列のカントリーTVステイション、CMTのコンテスト番組”Can You Duet”に参加して、ファイナリストになった事でした。そして先に触れたCMTライブの中で彼ら自身も語っていましたが、彼女達を最初のオーディションで勝ち残らせたのがセレブ審査員として参加していた敬愛するナオミ・ジャッドだった事も運命でした。2人はナオミからの言葉を今でも心に刻んでいます「誰がなんと言おうとも、あなた達がやってきた事を変えないことです」こうしてJuddsがその全盛期に育んだアコースティック・カントリーと家庭愛の大切さが、Joey+Roryの中で確固たるものになって受け継がれたのです。

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2 コメント

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イイ! (torldor)
2009-03-22 01:05:11
ああ・・・これはいいですね。
MYSPACEでFREEBIRD聴いて撃沈されました。
BILLBOARDで今も15位ランクイン中ですね。なのにこのグループ知りませんでした。勉強不足すぎる。
いつもよい情報ありがとうございます。
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買います。 (POCKE)
2009-03-22 06:37:30
毎度ながらGOODなアルバムのご紹介
ありがとうございます。
私が音楽に、特にカントリーに求める癒しと
優しさに満ちているアルバムのようですね。
実はこのCDはT・レコードで手に取っていた
のですが、ジャケットを見て古臭そうと勘違い
して棚に戻していたんです。
ご紹介がなければ、出会いなかったでしょう。
改めて、ありがとうございます。

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