安倍政権の過去の悪行を振り返るシリーズとして、今回は派遣法改悪について書く。
派遣法のことについてはもうあちこちで批判されていて特に付け足すこともないので、ここではそれらをまとめ的に書いておこう。
まず、派遣が固定化されるという懸念がある。
3年間という期限が設けられるわけだが、人を変えれば同じポストをずっと派遣にしておいてもいいということになっていて、全体でみればむしろ派遣労働が固定化され、非正規雇用の境遇から脱け出すことができない労働者が増えるという懸念がある。社会人としてのスタート時点で正社員になれなかった人は、それから3年スパンで延々と派遣のポストを渡り歩くことになる可能性が高い。
そして、正社員にするように働きかけるというルールについても、実効性が疑問視されている。あくまでも派遣元がそのように要請する義務があるというだけであり、企業の側がそれに応じて派遣労働者を正社員にする義務はない。景気がよければ正社員にしてもいいとなるかもしれないが、景気が悪ければ、そんな余裕はないと断るだろう。それでは、派遣という雇用形態の不安定性はまったく解消されない。
そして問題は、単に派遣労働という不安定な雇用形態に追いやられる人が増えるというだけではない。
相対的に収入が低い派遣労働者の増加は、全体的な購買力を低下させ、経済にとってマイナスとなる。GDPの6割は個人消費とされるが、その個人消費が伸び悩むことになるのだ。というか、「派遣労働の増加によって消費が落ち込む」というのは、すでに現実のものになっているという指摘もある。それが日本に慢性的なデフレ基調を定着させ、「好況」とされる時さえそれが実感されない原因になっているとも考えられる。だとすると、派遣法の改悪によってその傾向がさらに進めば、日本の経済は今後いよいよ低迷していく危険がある。
さらに、これは人口問題にもつながってくるおそれがある。派遣労働という状態では結婚・出産したくともなかなかそこに踏み切れないという人も相当数いるだろう。そうすると、少子化傾向にさらに拍車をかけることにもなる。デフレの元凶は少子化・人口減少という指摘もあるわけだが、そういう観点にたてば、派遣労働者の割合が増加することは、少子化を通じてデフレ傾向を推し進めるということにもなりかねない。
つまり、派遣労働の固定化は、「個人消費を低迷させる」「少子化を進める」という点で、二重に経済を地盤沈下させるということになる。
このようにさまざまな問題が指摘されていながら、安保法案の陰で、ろくに議論もしないままに派遣法は改悪されてしまった。
たしかに、目の前の数年ぐらいの単位で考えれば、それは企業にとって有利なことなのかもしれない。それによって、企業の業績はよくなるかもしれない。だが、長期的にみれば派遣労働者の増加は経済全体を縮小させ、やがてそれは企業の業績にもはね返ってくるのである。ここには、あるプレーヤーのある時点での最善の行動が、必ずしも全体にとって最大の利益ではなく、しかも長期的には自分の利益も逓減させることになる――というゲーム理論的な状況がある。ゲーム理論的な最適解というのは、しばしばいまの一時点だけからみると不利益・非合理的にみえるものなのだ。短期的な利益のことに目を奪われがちな企業の行動ではそうした最適解にはたどりつけないから、公的な機関がそれをルール化する必要がある――と私は考える。
最近厚生労働省が発表した調査によれば、非正社員ははじめて4割の大台に乗ったということだが、この傾向にどこかで歯止めをかけなければ、日本の経済は縮小していく一方だろう。それを防ぐためには、短期的には企業に不利であっても、派遣労働をタイトに制限していくことこそが必要だったのではないか。
目先の企業の利益だけを優先して、長い目で見れば社会全体を停滞させる、あるいは社会全体に大きなリスクを負わせる――そういう視野のせまい政策が、安倍政権には非常に多いように思われる。原発再稼働もそうだし、アベノミクスそのものもそうだといえるかもしれない。まさに、「洪水はわがなきあとにきたれ」というやつで、そのツケは、将来世代の国民が払わされることになるのだ。
派遣法のことについてはもうあちこちで批判されていて特に付け足すこともないので、ここではそれらをまとめ的に書いておこう。
まず、派遣が固定化されるという懸念がある。
3年間という期限が設けられるわけだが、人を変えれば同じポストをずっと派遣にしておいてもいいということになっていて、全体でみればむしろ派遣労働が固定化され、非正規雇用の境遇から脱け出すことができない労働者が増えるという懸念がある。社会人としてのスタート時点で正社員になれなかった人は、それから3年スパンで延々と派遣のポストを渡り歩くことになる可能性が高い。
そして、正社員にするように働きかけるというルールについても、実効性が疑問視されている。あくまでも派遣元がそのように要請する義務があるというだけであり、企業の側がそれに応じて派遣労働者を正社員にする義務はない。景気がよければ正社員にしてもいいとなるかもしれないが、景気が悪ければ、そんな余裕はないと断るだろう。それでは、派遣という雇用形態の不安定性はまったく解消されない。
そして問題は、単に派遣労働という不安定な雇用形態に追いやられる人が増えるというだけではない。
相対的に収入が低い派遣労働者の増加は、全体的な購買力を低下させ、経済にとってマイナスとなる。GDPの6割は個人消費とされるが、その個人消費が伸び悩むことになるのだ。というか、「派遣労働の増加によって消費が落ち込む」というのは、すでに現実のものになっているという指摘もある。それが日本に慢性的なデフレ基調を定着させ、「好況」とされる時さえそれが実感されない原因になっているとも考えられる。だとすると、派遣法の改悪によってその傾向がさらに進めば、日本の経済は今後いよいよ低迷していく危険がある。
さらに、これは人口問題にもつながってくるおそれがある。派遣労働という状態では結婚・出産したくともなかなかそこに踏み切れないという人も相当数いるだろう。そうすると、少子化傾向にさらに拍車をかけることにもなる。デフレの元凶は少子化・人口減少という指摘もあるわけだが、そういう観点にたてば、派遣労働者の割合が増加することは、少子化を通じてデフレ傾向を推し進めるということにもなりかねない。
つまり、派遣労働の固定化は、「個人消費を低迷させる」「少子化を進める」という点で、二重に経済を地盤沈下させるということになる。
このようにさまざまな問題が指摘されていながら、安保法案の陰で、ろくに議論もしないままに派遣法は改悪されてしまった。
たしかに、目の前の数年ぐらいの単位で考えれば、それは企業にとって有利なことなのかもしれない。それによって、企業の業績はよくなるかもしれない。だが、長期的にみれば派遣労働者の増加は経済全体を縮小させ、やがてそれは企業の業績にもはね返ってくるのである。ここには、あるプレーヤーのある時点での最善の行動が、必ずしも全体にとって最大の利益ではなく、しかも長期的には自分の利益も逓減させることになる――というゲーム理論的な状況がある。ゲーム理論的な最適解というのは、しばしばいまの一時点だけからみると不利益・非合理的にみえるものなのだ。短期的な利益のことに目を奪われがちな企業の行動ではそうした最適解にはたどりつけないから、公的な機関がそれをルール化する必要がある――と私は考える。
最近厚生労働省が発表した調査によれば、非正社員ははじめて4割の大台に乗ったということだが、この傾向にどこかで歯止めをかけなければ、日本の経済は縮小していく一方だろう。それを防ぐためには、短期的には企業に不利であっても、派遣労働をタイトに制限していくことこそが必要だったのではないか。
目先の企業の利益だけを優先して、長い目で見れば社会全体を停滞させる、あるいは社会全体に大きなリスクを負わせる――そういう視野のせまい政策が、安倍政権には非常に多いように思われる。原発再稼働もそうだし、アベノミクスそのものもそうだといえるかもしれない。まさに、「洪水はわがなきあとにきたれ」というやつで、そのツケは、将来世代の国民が払わされることになるのだ。