真夜中の2分前

時事評論ブログ
「真夜中の5分前」→「3分前」→「2分前」に

「民進カチマス」、敗れる。

2016-11-24 17:50:33 | 政治・経済
 民進党の野球好き議員37人でつくった野球チーム「民進カチマス」が、23日、都内で初の試合を行った。

 相手は、女子中学生のチーム。
 結果は、1対8で敗れたそうだ。

 朝日新聞電子版の記事によれば、キャプテンの前原誠司・前代表は代打で出場し、デッドボールで出塁。マネージャーの山尾志桜里・前政調会長も代打で出場して「全員野球」を演出したということである。

 どうでもいいニュースだ。

 しかし、当ブログでは野党の活動を紹介するということもやっている。その一環として、今回はこのどうでもいいニュースについて書くことにする。

 いまの民進党は、政策がどうこういう以前に、とにかくこういうしょうもないことでもいいから話題づくりをして、まずその存在を知ってもらうというところからはじめなければだめだ。
 民進党は、旧民主と旧維新が合流してできたわけだが、党名を変更するにあたって「それによって知名度が下がってしまうのではないか」と危惧する声も出ていた。
 参院選の結果をみると、その危惧はかなりの程度まで現実のものになっているようにもみえる。
 民進党が旧民主党と連続しているということを知らずに、「民進党ってなに? どこから出てきたの?」と思っている有権者も実は結構いるのではないか。

 だとしたら、まず民進党という党の存在を広く知ってもらう必要がある。
 さらぬだに影が薄いのだから、とにかく目を引くようなことをしてメディアに露出しなければならない。
 そういう意味では、野球というのはいい目のつけどころだったと思う。試合には大差で負けてるわけだが、へたに勝ってしまうよりはイメージ的にもそのほうがよかったろう。女子中学生に負けたんかい、と思うところではあるが、相手は都大会の優勝チームだそうで、いい年したおっさんばかりのチームでは負けるのも無理はない。内部対立の絶えない民進党で「全員野球」ができたのなら、それでよしとするべきだろう。

 私は民進党支持者ではないが、ともかくも、安倍政権の暴走を抑えるためには、最大野党である民進党にしっかりしてもらわなければ困る。
 そういうわけで、ほんのわずかでも民進党の知名度アップに協力するために、本稿では民進カチマスの件をとりあげた。

黒田日銀の“敗北宣言”――日銀の敗北は安倍政権の敗北だ

2016-11-04 23:45:13 | 政治・経済
 日銀が、11月1日の金融政策決定会合において、物価上昇率2%の目標達成の時期をまたしても先送りした。
 じつに五度目の先延ばしだ。
 目標達成の時期は2018年ごろとされ、これによって黒田総裁のいまの任期中の目標達成を事実上断念したことになる。

 この件に関する朝日新聞の論説記事では、これを黒田日銀の事実上の「敗北宣言」としている。
 当初2年で達成するとしていた目標を延々先送りし続け、自分の任期中には達成できそうにもないという事態に陥ったのだから、敗北宣言に等しいというわけだ。
 その見方に、私も同意する。
 2年でやりますといってはじめたことを5年かかってもできず、しかも自分の任期中には不可能だというのだから、これを失敗といわずに何を失敗というのかという話だ。

 当ブログでは、「人為的にインフレを起こすことは不可能である」という小幡績氏の論を紹介し、リフレ政策の根本的な誤謬を問題視してきた。
 黒田総裁は「日銀はデフレバスター」などといっていたが、これはまったくばかげた話である。中央銀行の仕事はインフレを抑制することであって、インフレを起こすことではない。インフレは経済成長の結果「望ましくない副作用」として起きる現象であって、人為的にインフレを起こしてそれで景気をよくすることなどできない――それが、今回の先送りではっきりしたということだ。

 そして、黒田総裁の敗北は、安倍総理の敗北でもある。
 なぜなら、「中央銀行の独立性を損なう」との懸念の声を押し切って、安倍総理が日銀に圧力をかけて“異次元”の金融緩和を行わせたのは周知の事実だからだ。
 思い出してほしいのだが、安倍政権発足直後に政府と日銀は2%の物価上昇を目指すという共同声明を発表していた。つまり、異次元緩和政策は政府と日銀が二人三脚で進めてきたものであり、安倍政権と黒田日銀とは一蓮托生なのである。ならば当然、日銀の失敗は安倍政権の失敗でもあるといわなければならない。「日銀が勝手にやってることだから政府とは関係ない」などという言い逃れは通用しないのだ。

 さらに、これは単に「異次元緩和をやってみたけど物価は上がりませんでした」というだけですむ話ではない。
 これまで大規模な緩和を続けてきたことが、日本の金融・財政にさまざまなゆがみを生じさせてしまっているのだ。
 まずひとつは、財政規律の問題がある。
 日銀が数百兆円ぶんもの国債を保有している現状を「事実上の日銀による財政ファイナンス」と指摘する声もあり、そうなってくると、「通貨の信認が損なわれる」という当ブログで再三とりあげてきたリスクが顕在化するおそれもある。
 また、今年になって導入されたマイナス金利も、経済のゆがみをさらに大きくしている。
 銀行の経営が苦しくなるというのは当初から指摘されていたことだが、それは副作用ですまないレベルに達しているようだ。メガバンクはともかく、地銀はマイナス金利によってかなり苦しくなっているといわれる。のみならず、長短の金利差が消失するという想定外の事態が生じたことから日銀はマイナス金利導入からわずか半年ほどで軌道修正を余儀なくされた。結局、マイナス金利も「失敗」という評価が定着しつつあるのが実態ではないか。

 私には、ここ数年の金融緩和が、かつての太平洋戦争にかさなってみえる。
 まず政府が、そもそも成算のない政策に踏み切る。最初のほうはしばらくうまくいっていたために、国民はなんだかうまくいっているような気にさせられている。そして緩和を遂行する側は、本当はもう破綻状態になっているのに、大本営発表よろしく、自分の間違いを絶対に認めようとせず万事うまくいってるかのように装う――その先に待っているのは、破滅的な事態ではないのか。

 ひょっとすると、上の段落を読んで「これは朝日の記事のパクリじゃないか」と思った人がいるかもしれない。
 しかし、これはパクリではない。私が上の部分を書いたのは11月1日の深夜ごろのことだが、たまたま同時に、朝日新聞でもほぼ同じ趣旨のことを書いた記事があったのだ。
 ネタがかぶってしまったのだからこの部分はいっそ削ってもよかったのだが、あえて載せることにした。というのも、このネタかぶりはすなわち、「日銀のいまのやり方は戦前の日本と一緒だ」という見方が決して特異なものではない証拠といえるからだ。私だけがそう思ったわけではなく、朝日の記者だけがそう思ったわけでもない。要は、ほんのちょっとでも経済と歴史を勉強した人間からみれば、両者はそっくりに見えるということなのだ。だから、同じ見立てが出てくることになる。

 当ブログでは、安倍政権の外交・安全保障政策を批判してきたが、ひょっとすると今ほんとうに危険なのは経済のほうかもしれない。
 今年に入ってから、さまざまな経済指標が悪化しつつある。今年通年の数字は来年にならなければ出てこないからまだ多くの人に気づかれずにいるのだが、企業の大幅な減益といった形ですでに数字として表れていることもある。当ブログで何度か言及してきた消費者物価指数の下落も、最新の数字で7ヶ月連続となっている。通年での物価上昇率も、今年のぶんはマイナスになる可能性が現実味を帯びてきた。アベノミクスという砂上の楼閣が、いよいよ崩壊し始めているのではないか。

アベノミクスは“道半ば”どころか逆戻りしつつある

2016-07-10 00:42:05 | 政治・経済
【今年に入ってから、消費者物価指数は一度もプラスになっていない。ゼロとマイナスだけである。実質賃金のプラスは、それによってもたらされたにすぎない。日本経済は、またデフレに陥りつつあるのかもしれない。だとしたら、“アベノミクス”とはいったい何だったのだろうか】

 5月の実質賃金が発表された。
 0.2%増。4ヶ月連続のプラスである。
 しかしこれは、まったく喜べるものではない。というのも、給与総額が下がっているからだ。

 以前このブログで、「実質賃金のプラスは安倍総理が成果として誇れることではない」ということを書いたが、今回の数字で、それがさらにはっきりした。

 これまでは、まがりなりにも給与総額は上がっていた。
 しかし今回は、給与総額も下がっている。給料が下がっているにもかかわらず、物価がそれ以上に下がったために実質賃金がプラスになったのだ。

 これでもう、「実質賃金のプラス」が安倍総理の手柄ではないということは誰の目にもあきらかだろう。

 考えてみてほしい。
 安倍政権発足の直後から「デフレからの脱却」を目指し、“異次元の金融緩和”や大規模な財政出動が繰り返されてきた。それを3年間延々やり続けての今のこの状況なのである。
 以前も書いたが、結局2%の物価上昇は達成されず、それどころか今年に入ってからは一度もプラスになっていない。逆に物価は下落しはじめ、給料が下がったにもかかわらず実質賃金をプラスにしてしまうレベルだ。“道半ば”どころか、アベノミクスはもう反転しつつあるのが現状ではないか。

 経済のさまざまな指標にも、それがあわられてきている。

 たとえば為替は、このところ急激に円高が進んで、100円を割る場面も出てきた。
 株価も今年に入ってから大きく下落し、半年あまりで4000円ほど下がっている。
 また、これは以前も書いたが、今年4月の日銀調査によると「一年後の景況感」が、3四半期連続で悪化し3年3ヶ月ぶりの低水準となった。
 そして、これとは別に商店主やタクシー運転手といった“景気ウォッチャー”による「街角の景況感」というものがあるのだが、この「街角の景況感」も、6月の調査では、同じく3年3ヶ月ぶりの低水準となっている。
 この「3年3ヶ月前」というのは2012年の終わりごろで、ちょうど安倍政権発足の直前にあたる。企業の景況感も、一般市民の景況感も、安倍政権発足直前のところまで戻っているのだ。

 このように、さまざまな数字が、アベノミクスを開始する前の状況にむかって逆戻りしつつある。まるで、ふくらませた風船がどんどんしぼんでいっているようだ。“異次元の金融緩和”という無茶なことを三年間続けて、結局はまた元に戻っただけ――だとしたら、アベノミクスとはいったい何だったのだろうか。

つまるところ、アベノミクスは成功なのか失敗なのか

2016-07-06 19:11:55 | 政治・経済
【デフレからの脱却=物価上昇を目指してきてその目標が果たせていないのだから、アベノミクスは総合的には失敗である。実質賃金のプラスも、その失敗の結果としてそうなっているにすぎない】


 いよいよ、アベノミクスに対する評価に関する議論が盛んになってきている。
 安倍総理は、しきりにその成果を強調している。
 まあ、当然といえば当然ではあるが、しかしこれには、「そんなに経済がよくなってるならなんで消費税増税を延期したんだ」というツッコミが入っている。

 以前も一度書いたが、経済指標というのはたくさん存在している。
 だから、いいところだけ集めてくればうまくいっているようにも見えるし、悪いところだけ集めてくれば失敗しているようにも見える。
 安倍総理はいい数字だけを集めて紹介しているわけだが、反対に悪い数字だけを集めてくればこんなふうにもなる、という例を以下に紹介しよう。

・実質賃金は5年連続でマイナス。
・格付け会社フィッチが、財政再建の見通しが立たないとして、日本国債を「弱含み」と評価。
・2年連続で個人消費減。これは戦後初。
・企業物価も2年連続でマイナス。15年度は、09年度以来の下げ幅。
・今年4月の内閣府の世論調査で、景気が悪化していると答えた人がおよそ3割。すべての選択肢のなかで最大の下落幅。
・同じく今年4月の日銀調査の「一年後の景況感」が、3四半期連続で悪化し、3年3ヶ月ぶりの低水準。
・生活保護受給が過去最高水準。
・非正規雇用が4割超え。
・大企業の景況感は今年に入ってから2四半期連続でマイナス。


 悪い数字だけ集めてくれば、こんな感じである。
 こうして悪い数字だけ集めてみればわかるように、安倍政権がやっているのは、いい数字だけを集めてくるというイメージ戦略にすぎない。

 さらに、テレビの討論番組などではそれほど突っ込んだ議論はできないということも安倍政権はたくみに利用している。
 時間的な制約もあるし、無数にある経済指標のなかの一つの数字をふっと出されても、よほどの経済の専門家でもないかぎり、その場で的確な批判を加えるのは難しい。このことを利用して、一面的な数字、必ずしもいいデータとはいえないような数字を紹介して、なにかうまくいっているかのようなイメージを作る――いわば「言い逃げ」をしているようにみえる。
 そこで今回は、そういう議論のある数字のいくつかを検証してみたい。

■実質賃金が上がっている?
 実質賃金については、直近の3 ヶ月ではプラスになっていると安倍総理はいっている。
 たしかにそのとおりだ。
しかしこれは注意が必要だろう。実質賃金というのは相対的なものであり、その数字だけをみても、いいこととも悪いことともいえないのだ。

 当ブログで以前一度書いたが、実質賃金は物価上昇と深いつながりがある。
 同じ賃金でも物価が上昇すれば実質賃金は下がるし、物価がマイナス、もしくはあまり伸びなければ、賃金がほとんど変わらなくても実質賃金は上昇する。
 つまり、実質賃金の上昇は、物価上昇の伸びが抑制されることでも起きる。そして、いま起きているのはそっちのほうではないかという指摘があるのだ。

 統計の数字をみると、今年に入ってから物価上昇率は横ばい、ないしはマイナスという状況が続いている。
 これは、急激な円高や原油安によるものだ。
 円高は輸入品の価格を下げるし、そこに世界的な原油安が重なってガソリンなどの値段もかなり下がった。物価上昇が鈍化、下落したことによって賃金の伸びがそれを追い越して実質賃金が上昇したとみるのが妥当である。

 もしそうだとすると、これは安倍政権にとって誇れることではない。
 なぜなら、安倍政権は一貫してデフレからの脱却=物価上昇を目指してきたのであり、物価の伸びが抑制されているということはそれが失敗したということにほかならないからだ。実質賃金の上昇は、アベノミクスにとっては“失敗”なのである。

 かといって、もちろん実質賃金がマイナスになればいいというわけではない。
 問題なのは、物価上昇率だ。
 あくまでもアベノミクスの理論にしたがえば、という前提での話だが、アベノミクスが成功したといえるのは「物価上昇率が2%ほどにもなっているので、賃金も伸びていはいるものの、物価に追いつかず実質賃金のマイナスが続いている」という状況になったときだ。
 では実態はどうかというと……
 昨年の物価上昇率はたったの0.5%ほど。
 目標としている2%にはほど遠い数字だ。
 にもかかわらず、賃金の伸びはそれよりも低く、結果としてはその0.5%を追い越すことができず、実質賃金がマイナスになったのである。
 そして、今年に入ってからは、消費者物価指数は一度もプラスになっていない。その間、実質賃金のほうはプラスになってきた。この関係を考えれば、物価上昇の鈍化・下落が実質賃金を押し上げているのはあきらかである。
 つまり、安倍総理が「実質賃金がプラスになっている」と喧伝するのは、「アベノミクスはこんなにも失敗してます」とふれてまわっているに等しいのだ。

 ついでに物価上昇率の目標値のことをもう少し書いておくと、「2%」という目標は、もう4度も先送りされている。
 当初2年で達成するとしていた目標は、最新の先送りでは「17年度中」に達成とされた。2年でやるといっていたのに、いつの間にか5年かかることになっている。しかも、それでもなお達成できるかどうかはかなり疑問で、日銀の審議委員のなかからも「目標達成は18年度でも不可能」という声が出てきているのが実態だ。

 つまり、先ほど述べたような「物価上昇率が2%ほどにもなっているので、賃金も伸びていはいるものの、物価に追いつかず実質賃金のマイナスが続いている」という状況とはまったくかけ離れた現実が目の前にある。
 いまの日本経済がそうなっていないのはあきらかだし、アベノミクスを始めてからこれまでにそうなったこともないし、おそらくいまの財政・金融策を続けていってもそうなることはあるまい。いま「ヘリコプター・マネー」なる政策(と呼ぶのもためらわれる代物だが)がかなり真剣に検討されているらしいが、ヘリコプターでカネをばらまくようにして世の中に大量のカネを供給するというばかげたことを考えなければならないぐらい、アベノミクスはどうしようもなく失敗して手詰まり状態に陥っているのだ。


■家計支出は減少し続けている
 いっぽうで、家計支出は減少が続いている。2月はプラスになっているが、これはうるう年で一日多かったことが大きく、そのぶんを差し引けば実質的にはマイナスとされている。
 問題はここだ。
 安倍総理の主張する「経済の好循環」とは、

 「景気がよくなる」→「賃金が上がる」→「消費が増える」→「景気がさらによくなる」

 というものである。
 しかし、実質賃金があがっても家計支出は増えていない。消費者が守りに入っていて、支出をしぼっているからだ。つまり、好循環など起きていないのである。
 いま実際に起きているのは、

 「消費が増えない」→「景気は足踏み」→「企業はやむなく値下げ」

 という、アベノミクスのいわゆる「好循環」とはまったく逆の「悪循環」だ。
 そして、先述したように、実質賃金のプラスもこの「悪循環」の一環としておきていることなのである。それを安倍総理がみずからの手柄であるかのように吹聴するのは、無節操というよりほかない。


■税収が増えた?
 また、よくアベノミクスの成果としていわれる税収増にしても、東日本大震災などで落ち込んでいた税収がもとに戻ったということと、消費税増税で増えたぶんがほとんどであり、アベノミクスのおかげではないという指摘もなされている。

 そのいっぽうで財政支出は膨らみ続け、日本の財政状況は好転の兆しがみえない。
 消費税増税を再び延期したことで、財政再建はさらに遠のいたと海外からはみられている。たとえばウォールストリートジャーナルは、再延期の判断を「役に立たない一時的救済」と切って捨てている。

 特に今回の延期は致命的だ。
 「次は必ずやります」とあれだけ断言しておいての二度目の延期だから、もうオオカミ少年状態で、30ヵ月後に本当にやるのかと疑われてもやむをえない。できるかどうかはっきりしないことを軽々しく断言するリスクを理解していないというもの、安倍総理の大きな問題点だろう。


■有効求人倍率が24年ぶりの高水準?
 これについては、たしかにそのとおりだろう。
 人口減や団塊世代の退職による求職者数自体の減少を考慮すべきという声もあるが、求人数自体も過去最高の水準になっているから、雇用状況が改善しているのは数字の上ではたしかである。
 しかし、この数字にも注釈が必要だ。
 実は年単位でみると、有効求人倍率は6年連続で上昇している。
 つまり、旧民主党政権時代から上昇が続いているのである。そのことを考えれば、本当にこれを現政権の手柄といえるかどうかは疑問だろう。
 グラフにしてみればよくわかるが、有効求人倍率は、リーマンショックで大きく落ち込んだあとに6年間ほとんど同じ傾きで一直線に上昇し続けている。現政権になってから急上昇しているというようなこともない。上昇のトレンドがずっとあって、現政権になってからもそれが続いているだけ――ともみえる。
 さらに、非正規雇用が4割を超えたという事実も見過ごせない。
 一般的に正規雇用より賃金が低い非正規雇用の増加は、あきらかにデフレの方向をむいている。ここでも、「好循環」とは反対のことが起きているのである。


■格差の拡大
 また、全体の平均をとると見落とされてしまうのだが、格差の拡大という問題もある。
 賃金が全体で増えていても、一部の人が上がっていて、その他大勢が上がっていなかったとしたら、それは「好循環」には結びつかない。おそらくは、個人消費の伸び悩みの背景にはこの格差の問題もあるだろう。
 アベノミクスのもとで格差が拡大していくメカニズムについては、以前このブログでも紹介した。円安が進めば、製品を海外に輸出する企業は利益が出やすくなるが、そのいっぽうで、一般消費者は輸入品の価格が上昇することによって負担が大きくなる。こうして、企業は空前の利益を上げるが一般人は生活が苦しくなり、格差が拡大していく。輸入の数量自体が増えていない状態でこうなると、実質的には、一般家計のお金が企業の側に吸い上げられているだけということにもなってしまう。


■総合的にみてアベノミクスは失敗
 以上のことを総合的に考えて、私の結論は「アベノミクスは全体としては失敗」である。
 アベノミクスのよって立つ理論は、インフレ期待の醸成、物価上昇、デフレからの脱却ということであり、その根幹である物価上昇が達成できていない以上、ほかの数値が多少よくなっていようと失敗といわざるをえない。
 また、当ブログでかつて指摘したとおり、アベノミクスには「通貨の信認を損なう」という大きなリスクがひそんでいる。いまのやり方をずっと続けていくことに、リスクがないわけではないのだ。
 そして、いまのやり方を続けていっても、ほとんど効果は期待できない。“異次元の金融緩和”を延々やり続け、マイナス金利を導入しても、物価はいっこう上昇する気配をみせていないのだから、それはあきらかだろう。アベノミクスは、もう潮時とみるべきだ。

安倍総理の判断は正しかった?

2016-06-26 21:38:05 | 政治・経済
【イギリスのEU離脱は、経済にも大きな影響を与えている。このことで「安倍総理の判断は正しかった」という声があるが、これはまったく見当はずれである。安倍総理がいっていたのは「途上国のリスク」であって、今回の事態はイギリスという「先進国」から発した。むしろ、年金の運用に大幅な損失が出るのではないかということのほうが問題だ】


 イギリスのEU離脱という決定を受けて、世界経済に大きな混乱が生じ、日本にもその影響が及んでいる。円高が急激に進み、株価も下落した。
 そのこと自体は安倍政権のせいではないだろうが、しかし、前回も当ブログで書いた年金運用のことを考えると、事態は深刻かもしれない。
 安倍政権のもとで、年金を株で運用する割合が引き上げられているが、株価の下落が続けば年金の積立金に膨大な損失が出るのではないかと危惧されている。

 今回の件で、「世界経済のリスクを考えて消費税増税を延期した安倍総理の判断は正しかった」というふうにいう人がいるが、その見方はまったく的外れだということを共産党の志位委員長が指摘している。
 消費増税延期の際に安倍総理がその根拠としていたのは「途上国のリスク」であり、今回の件はイギリスという「先進国」から発したものだ。この点からしても、安倍総理は事態をまったく見誤っているのである。

 また今回の件は、為替だのみの安倍政権の経済政策がいかに脆弱なものであるかということも示している。
 そもそも円安はあくまでも付随的なものであって、それ自体がアベノミクスの目標であったわけではない。円安誘導がはじめから目的だとしたら、それはちょっと問題があるということになる。
 しかし実際には、アベノミクスの“成果”というのはその円安で企業の業績がアップしているということでしかない。そして、企業はそれで潤うが、逆に一般市民は円安による輸入価格の上昇で生活が苦しくなる。こうして、企業は儲かり庶民は生活苦に陥り格差が拡大していっている――という指摘もある。それが、アベノミクスというものの実態ではないか。

 安倍総理はそれでも「道半ば」「これからエンジンをふかしていく」といい続けているが、しかしでは具体的に何をするのかということは口にしない。
 これは、いおうにもいえないからだ。
 日銀はマイナス金利という禁じ手まで導入しており、すでに弾切れ状態で新しくできることはなにもなくなっているのである。だから、具体的な政策についてはなにもいえない。 
 「エンジンをふかす」といっても、これまでやってきた金融緩和や財政出動を繰り返すぐらいしかもう方策がなく、その効果も息切れ状態で、同じことを続けていっても効果はほとんど期待できない。これ以上アベノミクスなるものを続けても、もう袋小路にむかって突き進むだけであり、その先に待っているのは破滅的なクラッシュでしかない。