日銀が、11月1日の金融政策決定会合において、物価上昇率2%の目標達成の時期をまたしても先送りした。
じつに五度目の先延ばしだ。
目標達成の時期は2018年ごろとされ、これによって黒田総裁のいまの任期中の目標達成を事実上断念したことになる。
この件に関する朝日新聞の論説記事では、これを黒田日銀の事実上の「敗北宣言」としている。
当初2年で達成するとしていた目標を延々先送りし続け、自分の任期中には達成できそうにもないという事態に陥ったのだから、敗北宣言に等しいというわけだ。
その見方に、私も同意する。
2年でやりますといってはじめたことを5年かかってもできず、しかも自分の任期中には不可能だというのだから、これを失敗といわずに何を失敗というのかという話だ。
当ブログでは、「人為的にインフレを起こすことは不可能である」という小幡績氏の論を紹介し、リフレ政策の根本的な誤謬を問題視してきた。
黒田総裁は「日銀はデフレバスター」などといっていたが、これはまったくばかげた話である。中央銀行の仕事はインフレを抑制することであって、インフレを起こすことではない。インフレは経済成長の結果「望ましくない副作用」として起きる現象であって、人為的にインフレを起こしてそれで景気をよくすることなどできない――それが、今回の先送りではっきりしたということだ。
そして、黒田総裁の敗北は、安倍総理の敗北でもある。
なぜなら、「中央銀行の独立性を損なう」との懸念の声を押し切って、安倍総理が日銀に圧力をかけて“異次元”の金融緩和を行わせたのは周知の事実だからだ。
思い出してほしいのだが、安倍政権発足直後に政府と日銀は2%の物価上昇を目指すという共同声明を発表していた。つまり、異次元緩和政策は政府と日銀が二人三脚で進めてきたものであり、安倍政権と黒田日銀とは一蓮托生なのである。ならば当然、日銀の失敗は安倍政権の失敗でもあるといわなければならない。「日銀が勝手にやってることだから政府とは関係ない」などという言い逃れは通用しないのだ。
さらに、これは単に「異次元緩和をやってみたけど物価は上がりませんでした」というだけですむ話ではない。
これまで大規模な緩和を続けてきたことが、日本の金融・財政にさまざまなゆがみを生じさせてしまっているのだ。
まずひとつは、財政規律の問題がある。
日銀が数百兆円ぶんもの国債を保有している現状を「事実上の日銀による財政ファイナンス」と指摘する声もあり、そうなってくると、「通貨の信認が損なわれる」という当ブログで再三とりあげてきたリスクが顕在化するおそれもある。
また、今年になって導入されたマイナス金利も、経済のゆがみをさらに大きくしている。
銀行の経営が苦しくなるというのは当初から指摘されていたことだが、それは副作用ですまないレベルに達しているようだ。メガバンクはともかく、地銀はマイナス金利によってかなり苦しくなっているといわれる。のみならず、長短の金利差が消失するという想定外の事態が生じたことから日銀はマイナス金利導入からわずか半年ほどで軌道修正を余儀なくされた。結局、マイナス金利も「失敗」という評価が定着しつつあるのが実態ではないか。
私には、ここ数年の金融緩和が、かつての太平洋戦争にかさなってみえる。
まず政府が、そもそも成算のない政策に踏み切る。最初のほうはしばらくうまくいっていたために、国民はなんだかうまくいっているような気にさせられている。そして緩和を遂行する側は、本当はもう破綻状態になっているのに、大本営発表よろしく、自分の間違いを絶対に認めようとせず万事うまくいってるかのように装う――その先に待っているのは、破滅的な事態ではないのか。
ひょっとすると、上の段落を読んで「これは朝日の記事のパクリじゃないか」と思った人がいるかもしれない。
しかし、これはパクリではない。私が上の部分を書いたのは11月1日の深夜ごろのことだが、たまたま同時に、朝日新聞でもほぼ同じ趣旨のことを書いた記事があったのだ。
ネタがかぶってしまったのだからこの部分はいっそ削ってもよかったのだが、あえて載せることにした。というのも、このネタかぶりはすなわち、「日銀のいまのやり方は戦前の日本と一緒だ」という見方が決して特異なものではない証拠といえるからだ。私だけがそう思ったわけではなく、朝日の記者だけがそう思ったわけでもない。要は、ほんのちょっとでも経済と歴史を勉強した人間からみれば、両者はそっくりに見えるということなのだ。だから、同じ見立てが出てくることになる。
当ブログでは、安倍政権の外交・安全保障政策を批判してきたが、ひょっとすると今ほんとうに危険なのは経済のほうかもしれない。
今年に入ってから、さまざまな経済指標が悪化しつつある。今年通年の数字は来年にならなければ出てこないからまだ多くの人に気づかれずにいるのだが、企業の大幅な減益といった形ですでに数字として表れていることもある。当ブログで何度か言及してきた消費者物価指数の下落も、最新の数字で7ヶ月連続となっている。通年での物価上昇率も、今年のぶんはマイナスになる可能性が現実味を帯びてきた。アベノミクスという砂上の楼閣が、いよいよ崩壊し始めているのではないか。
じつに五度目の先延ばしだ。
目標達成の時期は2018年ごろとされ、これによって黒田総裁のいまの任期中の目標達成を事実上断念したことになる。
この件に関する朝日新聞の論説記事では、これを黒田日銀の事実上の「敗北宣言」としている。
当初2年で達成するとしていた目標を延々先送りし続け、自分の任期中には達成できそうにもないという事態に陥ったのだから、敗北宣言に等しいというわけだ。
その見方に、私も同意する。
2年でやりますといってはじめたことを5年かかってもできず、しかも自分の任期中には不可能だというのだから、これを失敗といわずに何を失敗というのかという話だ。
当ブログでは、「人為的にインフレを起こすことは不可能である」という小幡績氏の論を紹介し、リフレ政策の根本的な誤謬を問題視してきた。
黒田総裁は「日銀はデフレバスター」などといっていたが、これはまったくばかげた話である。中央銀行の仕事はインフレを抑制することであって、インフレを起こすことではない。インフレは経済成長の結果「望ましくない副作用」として起きる現象であって、人為的にインフレを起こしてそれで景気をよくすることなどできない――それが、今回の先送りではっきりしたということだ。
そして、黒田総裁の敗北は、安倍総理の敗北でもある。
なぜなら、「中央銀行の独立性を損なう」との懸念の声を押し切って、安倍総理が日銀に圧力をかけて“異次元”の金融緩和を行わせたのは周知の事実だからだ。
思い出してほしいのだが、安倍政権発足直後に政府と日銀は2%の物価上昇を目指すという共同声明を発表していた。つまり、異次元緩和政策は政府と日銀が二人三脚で進めてきたものであり、安倍政権と黒田日銀とは一蓮托生なのである。ならば当然、日銀の失敗は安倍政権の失敗でもあるといわなければならない。「日銀が勝手にやってることだから政府とは関係ない」などという言い逃れは通用しないのだ。
さらに、これは単に「異次元緩和をやってみたけど物価は上がりませんでした」というだけですむ話ではない。
これまで大規模な緩和を続けてきたことが、日本の金融・財政にさまざまなゆがみを生じさせてしまっているのだ。
まずひとつは、財政規律の問題がある。
日銀が数百兆円ぶんもの国債を保有している現状を「事実上の日銀による財政ファイナンス」と指摘する声もあり、そうなってくると、「通貨の信認が損なわれる」という当ブログで再三とりあげてきたリスクが顕在化するおそれもある。
また、今年になって導入されたマイナス金利も、経済のゆがみをさらに大きくしている。
銀行の経営が苦しくなるというのは当初から指摘されていたことだが、それは副作用ですまないレベルに達しているようだ。メガバンクはともかく、地銀はマイナス金利によってかなり苦しくなっているといわれる。のみならず、長短の金利差が消失するという想定外の事態が生じたことから日銀はマイナス金利導入からわずか半年ほどで軌道修正を余儀なくされた。結局、マイナス金利も「失敗」という評価が定着しつつあるのが実態ではないか。
私には、ここ数年の金融緩和が、かつての太平洋戦争にかさなってみえる。
まず政府が、そもそも成算のない政策に踏み切る。最初のほうはしばらくうまくいっていたために、国民はなんだかうまくいっているような気にさせられている。そして緩和を遂行する側は、本当はもう破綻状態になっているのに、大本営発表よろしく、自分の間違いを絶対に認めようとせず万事うまくいってるかのように装う――その先に待っているのは、破滅的な事態ではないのか。
ひょっとすると、上の段落を読んで「これは朝日の記事のパクリじゃないか」と思った人がいるかもしれない。
しかし、これはパクリではない。私が上の部分を書いたのは11月1日の深夜ごろのことだが、たまたま同時に、朝日新聞でもほぼ同じ趣旨のことを書いた記事があったのだ。
ネタがかぶってしまったのだからこの部分はいっそ削ってもよかったのだが、あえて載せることにした。というのも、このネタかぶりはすなわち、「日銀のいまのやり方は戦前の日本と一緒だ」という見方が決して特異なものではない証拠といえるからだ。私だけがそう思ったわけではなく、朝日の記者だけがそう思ったわけでもない。要は、ほんのちょっとでも経済と歴史を勉強した人間からみれば、両者はそっくりに見えるということなのだ。だから、同じ見立てが出てくることになる。
当ブログでは、安倍政権の外交・安全保障政策を批判してきたが、ひょっとすると今ほんとうに危険なのは経済のほうかもしれない。
今年に入ってから、さまざまな経済指標が悪化しつつある。今年通年の数字は来年にならなければ出てこないからまだ多くの人に気づかれずにいるのだが、企業の大幅な減益といった形ですでに数字として表れていることもある。当ブログで何度か言及してきた消費者物価指数の下落も、最新の数字で7ヶ月連続となっている。通年での物価上昇率も、今年のぶんはマイナスになる可能性が現実味を帯びてきた。アベノミクスという砂上の楼閣が、いよいよ崩壊し始めているのではないか。