そういうことで、予期せぬ私立M高校に合格してしまった息子
こうなれば生来の無計画さが露呈してしまい作戦変更となっちゃうわけで
「単なる腕試し、合格しても入学はしない」という親子の共通認識、合意が崩れ去るのは早かった。
まず一次試験と二次試験を合わせて特別数学クラスの合格者は45人、うち1組の合格者は25人だそうで「その中に僕が入ってるんだよ」と言う息子の説明に貧乏性的「モッタイナイ精神」が刺激された。
そして、その25人中の15人はM校中等部からの繰り上がり採用で、残りの10人が他校からの合格者だと説明する息子の顔は、あの交渉時に使用する得意技「眼力」をMAXで使用しているではないか。
「あちゃー、こいつマジ手のひら返しで説得工作を開始しやがった・・・」
そうは思うが、気になるのはM校の入学資金と授業料、そして有名大学への進学状況だ。
「入学金はだいたい4万だって」速攻で答えて、上目遣いでこちらの表情を伺う息子(4万バーツは約14万円)
そこまで言うなら仕方がないと、少ない情報網にアクセスして進学状況を調べることにした。
塾友バイファーンちゃんは惜しくも英語クラスで2組合格となったが、その伯母ちゃんの情報ではM校の数学ギフテッドクラスは優秀だから行くべきだという意見。
母親の古い友人プンちゃんの息子さんもバンコクで受験であるが、そのプンちゃんのヤワラート華人ネットワーク情報からも「公立Y校よりは私立M校の方が」と言われたらしい。
そしてご存じB先生の調べでは、「Y校の進学クラスで真面目にやっているのは5人だけだという話です、もしできるならばM校へ行かせてあげてください」という衝撃のお言葉をいただけた。
ここに来て、二年半通ったY校とのお別れは決定的となった。
小学校の時から気心のしれた親友ファースト君や初恋のカオホームちゃんともお別れとなるだろう。
すこし潤んだ息子の瞳が別れの予感を噛みしめているようでもある。
オヤジとしては、数か月後に受験が控えているチェンマイ県のトップ2である私立P校と公立S校を希望していたのであるが、考えてみるとM校とてトップチームに限っては同レベルかもしれない。
息子の友人の中でも学業優秀なアンフィル君(理科)とガーン君(数学)の二人ともがM校に合格しているが、「彼らはどうするのだ?」と探らせたところ、やはり予想通りM校の入学金を納めて滑り止めとして使用、S校、P校、或いはバンコクの有名校を受験する方向である事が知れた。
「よし!決まった!」 オヤジも腹を括った
「まずはメ~(お母さん)に相談して、捨て金として入学金をお願いしろ、無視されたらオヤジに言え」←ここ重要w
母親は息子の中学校費用を担当している、オヤジは日本に居る娘の資金でアップアップなので(汁笑)、しかも息子の生活費や塾費用までほぼ全額拠出しているし、ここは息子の「眼力」を活用してもらうことにした。
その晩、喜々とした息子の顔を見て、どうやら母親への説得工作が成功したようだと知れた。
「メ~はOKだって!入学金を払ってくれるよ!」
「そうか? そりゃよかったな」(親父にとってもw)
ステッキを持った財津一郎ばりのステップで喜びを表していた息子は、ピタッと止まって
「だけど、バンコクのトリアムウドムには絶対に行かせないんだって・・」と怪訝そうな顔
「ん? なぜ?」
トリアムウドム校は長らくタイ国で一番の高校、タイ国の東大といわれるチュラロンコン大学に隣接する場所柄、付属高校としての立ち位置もあるだろう。
日本で言えば、なんだろ?? 灘高とか開成高とか、よくわかんないけどそんなもんだ。
普通の田舎モンなら土下座してでも入れて欲しい幕府直轄みたいな学校のはず
なのにダメって意味がわからなかったが、M校入学申込日の前日に「ダメ」の理由が判明した。
その晩、全ての書類を自分で用意した息子は「準備万端だ!」という顔で就寝に付こうとした時
電話のベルが鳴った、母親と明日の段取り確認かな?と思って少し安心した。
程なく「ええ~!!!!」と奇声を上げたかと思うと、顔が青黒く変色する息子
すえた目でスマホ電話をオヤジに差し出し「明日、メ~は行かないんだって…(-_-;)」と報告
「ななな、なに?」
「ハロー?ハロー?」聞きなれたキンキン声が耳に飛び込んでくる。
「明日は、メ~はお仕事でバンコクなの、M校へはパパーが行ってね」ちゅーじゃないですか!
息子人生の分水嶺よりも恋人とのバンコク遊びが大切なのか?と瞬間沸騰しそうなのをグッとコラえた。
恋人っていうか、カモネギっていうか、次のターゲットがお泊りに来ている事は子供らの証言で明らかだった。
「で、お金を出し換えといてね、絶対に後で払うから」ちゅーじゃないですか!
ここでキレたり不許可を出したりすると、後でどんな意地悪が飛び出すのかわかったもんじゃない。
娘の親権移動でゴネられても大変だしと頭を高速回転させて
「ああそうなの?はいはい」と表面上は快く了承するしかない。
「もしバンコクの学校に合格したら入学金は無駄金になるけどね」と振ってみた。
すると、「トリアムウドムは絶対にダメ、プンちゃんが話した、アパートに入れると悪くなるから」という、反対に「マヒドン校ならOKよ」ちゅーじゃないですか!
同じバンコクにある「マヒドン校ならOK」ってなんだよエラそうにと思うが、マヒドン校は国策の超エリート養成学校にして学校側があらゆる費用を援助してくれるらしいが、反対にトリアムウドム校は学費のみならずアパート代など出費が嵩むから嫌がってるのが読み取れた。
つまりケチケチしてるだけ?(;´・ω・)
「お前な~3500万バーツの土地を所有しるんだろ? どんだけケチくせーんだよ」というセリフをグッと飲み込んで、「じゃあ、チェンマイのP校とS校ならいいだろ?」と振ってみたら、待ってましたとばかりに「P校に行かせるならパパーがお金払ってね」とゆーじゃありませんか!
「アタシはATMじゃないから」と言い放って、ここは交渉タイムだと勘違いしている。
またしても愛情と交渉をゴッチャにしてしまおうという算段に目眩がクラクラ
「一日コイツに接すれば一日の憎生じて。三日接すれば三日の憎生ず」と、増田宗太郎ならば評するだろう
「くそ~とことん足元見るなぁ、ダミダコリャ」そう思って話を切り上げた。
「心配するな、明日の書類をもう一度確認しといてくれ」そういうと、息子はショックと安心が複雑に絡み合ったような表情でうなずいた。
雨のM校 いつ晴れるや?
さて、小雨がぱらつく翌日の午後、すっかり当日のスケジュールを失念していたオヤジは息子からの電話にせかされて慌てて車に飛び乗った、よほど慌てていたのか靴を履くのを忘れて便所ぞうりのままだ。
M校の門をくぐると駐車スペースが満車で、まず息子を先に降ろして路駐場所を探した。
雨に当たりながら講堂のある建物に走り込んだ時、ベンチに座って談笑する見慣れた顔が目に入った。
4人のマダムに囲まれて口元に笑みを浮かべた男性がマダムの頭越しにこちらをガン見している。
口は笑っていたが目は笑っていない、それはまさに息子の卒業した小学校の校長後継者にして同窓BBちゃんのお父様のように見えた。
しかしカケスのサミーによるとM校中等部のBBちゃんは不合格だったはず。
目は合ったが何もアクションがないので別人だったかな?と思って二階の講堂へ登った。
息子が入り口で待っていたので「BBちゃんのお父さんに似た人がいるけど…」というと
「あ、BBは二次試験で数学2組に滑りこんだらしいから」そういって二本の指をスリスリ擦り合わせた。
「寄付入学?そいういう噂になってんのか?」そういうと、「10万バーツらしい、M校生の2組には多いいんだって」と言うと突然ガッツポーズをした息子、小声で「倍返し」と呟いた。
カケスのサミーはBBちゃんの親友であるからして信憑性のある話だ。
小学校体育館ほどの広さがある講堂の壁には歴代の校長だろうか写真の額が掛けてあった。
また100年の歴史を物語る古い写真がズラリと並んでいる。
中央にはひと際大きな写真、新しい王女様の御尊顔がドーーン!と飾ってあった。
アテンションプリーズと挨拶したりして、で、まず手前のカウンターで書類検査から
オヤジのパスポートコピー、住所登録証の母親と息子のページのコピーの不備を指摘され、学校のコピー機を拝借
そして入学金を納めるカウンターに並ぶこと8人目、息子から「この封筒に5千バーツ入れて」と大きめの封筒を手渡された。
「なんの封筒なんだ?」と質問するも、困り顔になる息子からは正確な答えが返ってこない。
「ああ、なるほど寄付金ってやつかな?、うちは10万じゃなくて5千でいいのね」そう呟いて財布の中から5枚を抜いた。
列に並んでいると、前の保護者と談笑していた上品そうなダンディー保護者が息子の姿を見て驚いたように息子と話し始めた。
なんだか政治家か医者の風格、親しく笑いながら息子に色々と声掛けしている。
後で聞いた話では、ビデオ塾で一緒になったY校特進クラスに通う子の御父上だそうだ。
彼は私に向かっても丁寧に両手を合わせてワイ(挨拶)、すごくフレンドリーだし動作に品格が溢れている。
それを見た周りの保護者たちからも俄然注目を浴びたりしてオヤジの背筋が伸びてしまうし
皆さん、そうやってにこやかに勝利の栄華を共感し合っているようでもあり?
今更ながら便所ぞうりであることを悔やんだw
水槽の魚のような表情で緊張する息子、生徒の姿は少なく、ほとんど保護者のみが出席してる
「なんだか、ここの人たちレベルが違ってそう…」と思っている矢先、自分の番が来た。
書類一式を手渡すとコンピューターに打ち込んでゆく二人の先生
封筒の中もさらけ出されて少しコッパズカシイ気持ち
VISAカードが面倒だと言われたので入学手付金4万〇千〇百〇十〇バーツという細かい数字の金額を現金で支払った。
これで終わったかと思ったが、二人の先生は言いにくそうな表情で何やら息子に説明している。
途端に顔が赤黒く変色して目が泳ぐ息子。
「何か問題でもあるのか?」と隣で固まる息子に質問すると「お金が足りないらしい」という返事。
「ご、5千じゃなくて、い、い、、一万バーツだって」そういうと情けない顔で下を向いた。
「なーに、10万に比べたら安いもんよ」と気前よく財布を開き、追加の5枚を引きぬくオヤジ
どうせお母さんの支払いだからなとは言わなかった。
よし終わった!と思えば次のカウンターへどうぞ、「2千バーツ払って」と言われるままに
ヨシ終わった!と思えば次のカウンターへどうぞ、「2千バーツ払って」と言われて財布の中はスッカラカン寸前になった。
「やべー、ギリギリセーフだよ、誰だよ全部で4万だと嘘つきやがったのは」
「メ~だよ~、5千だって言ったんだよ~」(´;ω;`)
そういう事で、無事にM校の入学権利をキープ
安心して喜ぶ息子の顔を見ると、いつ戻るかもわからない母親への貸し分は忘れるしかなさそうだ。
めでたし めでたし?